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07 無職の意味

 外務省の外交官が●●県の宇宙船落着地点で、宇宙船に向かい拡声器を持って呼びかける。


 ピーーーー! ガガガ……。

 機嫌の悪い音を立てる拡声器のボリュームを調節し、彼はなんとか話し出す。


「えー、こちら外務省タルガリア担当官を拝命しました榎本です。タルガリアのオールセアさん、呼びかけが聞こえておられましたらお返事願えませんでしょうか」

「オールセアさんにおかれましては、日本語が通じるものとして日本語で呼びかけを行っております。失礼の段、お詫び申し上げます」

「オールセアさん、我が国日本国はタルガリアを歓迎します。日本国へようこそ!」


 榎本は脇を振り向く。

 自衛官の制服を着た男が榎本の脇を肘でつついた。


「……本当に聞こえているのか?」

「続けろ、続けないか君!」


 榎本は拡声器を握り直し、再び声を張り上げる。


「タルガリアのオールセアさん、我が日本国と致しましてはタルガリアを最恵国待遇で歓待し、友誼を結びたく存じます。聞こえておられました歯お返事願います」


 榎本の視線がまたも泳いだ。


「……ダメじゃないのか?」

「良いから続けろ、続けなさい君──」


「タルガリアの──」

『大和大志。この者とのみ、タルガリアは対話の席に着く』


 榎本が脇の自衛官を見る。


「おお、反応ありだ!」

「しかしここでも……」

「そうとも。宇宙人も大和大志を寄こせと言っている」

「大和大志を確保するしかないな」


「タルガリアのオールセアさん、このたびは私ども日本国とお話を交わしていただきありがとうございました」


 榎本は、挨拶をして立ち去った。




 ◇




 大志はハローワークに行ってみた。

 これだと思う、事務職を選び、カウンターへと持って行く。


「この仕事を紹介して欲しいのですが」

「あ! あなた大和大志さん!? どうしてまたこんなところに!」


 が。ここでも彼は有名人だった。


「いえ、無職なので仕事を……」

「いけませんよ、大和さんならもっとふさわしい仕事があるはず。誰か政治家の方にお話を持ちかけられてみてはいかがでしょうか」「どういうことです?」

「大和さんは政治家以外ありませんって!」

「そんな、俺はただの会社員で充分……」

「いえいえ、どうか私たち国民のためにがんばってくださいよ。応援していますから!」




 ハローワークを出ると、携帯端末が鳴った。着信である。知らない番号に出ると、相手は一方的にわめき立ててくる。


『突然のお電話失礼します。大和大志様のお電話で間違いないでしょうか。こちら、東洋テレビの熱海という物で、ニュース番組のプロデューサーをしている者ですが。今度、大和さんに出演していただき、宇宙人とのファーストコンタクトのあらましを語っていただきたいのです! お願いします、是非うちの番組に出演してください!』

「ニュース番組ですか?」

『そうです、特集を組みます! 是非出演をお願いします!』


 断る理由はない。

 大志は二つ返事で承諾した。




 ◇




「一言お願いします!」

「大和大志さん! 当選無効になりましたが、ご感想をお聞かせください!」

「宇宙人とお話された感想はいかがでしたか!?」

「大和さん、大和大志さん!」


 場末のアパートが、大和大志の住処であった。

 集うマスコミ、報道陣をかき分けて、やっとの事で家に入り、部屋に落ち着く。


 大志はまた、ため息をついた。

 大志は豆腐にネギと摺り下ろしたショウガを添えると、その上から醤油を垂らす。

 そしてそれを摘まみに一杯、焼酎を引っかけ始めた。


「どこへ行っても有名人だと声をかけられる。とはいえ、真っ当な仕事をしようにもハローワークでさえあのざまだ」


 グラスをあおる。

 火酒が喉を焼いて行く。


「俺は政治家に向いているのか。向いているんなら、どうして当選無効なんだ、こん畜生! 公職選挙法違反!? 俺は違反なんてしていないって!」


 どうにもならない鬱憤を、酒でごまかそうとするも怒りは晴れない。


「テレビ、テレビか……俺のテレビ出演で政治家への道が開けるかな」


 ため息一つ。バカなことを考えないで、真っ当な仕事を探さないと。

 大志は携帯端末で転職情報サイトを閲覧し始めた。


 ──そんなときである。


 ドアベルが鳴る。

 警察が頼んで家の警備をしてもらっていたが、それを押し除けてまでマスコミが押しかけてきたのだろうか。

 大志は立ち上がり、覗き窓から来訪者を確認する。

 パリっとしたスーツ姿の男だ。

 どこかで見た顔。それも、ごく最近に。

 大志はドアチェーンを外し、鍵を開けると首を出した。

 途端にフラッシュがたかれ、警察官の向こうからマイクが何本も突き出されるのが見えた。


「大和さん! お話を!」

「宇宙人の印象をお願いします!」

「大和さん、大和さん!」


 大志の目にいる前のスーツの男は、そんな騒ぎにも動ぜずマイペースに話を進めた。


「大和大志さん。お困りのようですね。この間はどうも。村山です」

「ああ、確か内閣──」

「宜しければ、お話は中でお願いしたいのですが」

「ああ、これは失礼。むさ苦しいところですが、どうぞ」


 大志は村山を部屋の中へと招き入れる。

 フローリングの四畳半。私物の少ない部屋だった。

 余計な物は一切無い部屋だ。


「どうぞ」


 大志は村山を座布団に座るよう促し、自分は床の上に腰を下ろす。

 酒は避け、ちゃぶ台の向かいに座る。


「では改めまして。内閣情報調査室の村山です」

「ああ、内閣情報調査室の!」

「単刀直入にお話しします。大和さん、内閣はあなたを国務大臣として入閣させたいと希望しています」

「国務大臣!?」

「タルガリアの宇宙人、そして邪馬台国の台与さんはあなたを窓口にして物事を進めたいと考えているようです。我々役人がなにを言っても『大和大志を通せ』の一点張り。政府としてもほとほと困っておりまして」

「それで、俺ですか」

「はい、大和さんには対タルガリア全権大使、兼邪馬台国県担当国務大臣をお受けいただきたい」

「全権大使! それに、邪馬台国担当大臣!?」

「そうです。ここは日本のため、国民のさらなる幸福のため、大和さんにおかれましては何卒、この話をお受けいただきたい」

「……俺、政治家になれるんですか」

「そうです。国務大臣として、内閣が必要としています」


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