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05 希望の星

 邪馬台国の広場に警視庁の指揮車がやってきて、テントを張るなり無線設備を張り巡らし、仮設の事務所を設置している。

 大志は勝手に動いた件を重く見られたのか、未だに自由な行動を妨げられていた。

 そして警察による事情徴収は先の暴動事件により捕縛した犯人らはもとより、『邪馬台国の女王』を称する台与にまで及んでいたのである。


「ここは日本国の領土内でして、勝手に武装組織を組織したりすることは法律で禁止されています」

「意味がわかりません。ここは邪馬台国、私たちの国です」

「じゃあ、あの兵士……防人でしたっけ、あの石斧はなんですか? 充分に凶器でしょう?」


 刑事の目が台与を覗き込む。


「キョウキとはなんですか。それに防人は国を守るために必要な存在です」

「ええと、邪馬台国の女王……これは自称ですか? 台与さん」

「ジショウとは? とにかく私が女王です」

「じゃあ、この邪馬台国、と言うのは何なんです?」

(くに)邑を統合するクニです」

「襲ってきた彼らはなんですか。傭兵と答えているようですが」

「ヨウヘイ……? 知りません」

「傭兵と言うよりも、馬賊の類でしょうか」

「だからなんの話でしょうかッ!」

「ですから台与さん、警察の事情徴収に協力してください」

「私は救い主、大和に全て任せると言いましたッ!」

「大和、って言うのは衆議院議員候補、大和大志さんの事ですか?」

「シューギインコウホ、などと言うのは知りませんッ! 大和は大和です!」

「ああもう、困ったな。誰か大和候補を呼んできてくれ」

「大和、大和、もう私は嫌です。助けてください! 大和、大和!」


 刑事はさじを投げ、台与は緊張から泣き崩れた。

 石斧を所持した防人たちが騒然とし始め、さすがにまずいと思ったのか、刑事は大声で大志を呼び始め、部下に大志をこの場に連れてくるように促したのである。




 ◇




 大志が呼ばれたのは、仮設テントの一角であった。


「大和大志さん、すみませんがお時間をいただいても宜しいでしょうか。こちらの自治体の方のお話が要領を得ないので、代わりと言ってはなんですが、お話をいただきたく存じまして」

「構いません」

「では、こちらのお嬢さん……台与さんは邪馬台国の女王と名乗っておいでですが、なにが一体どうなっているのか、ご存じではありませんか?」


 刑事の質問に大志は中の一点を見つめ、考えがまとまるなり一気にしゃべった。


「いかなる理由か、時空の歪みの偶然によって時間遡航し、このナポレオン時代めいた文明レベルを持つ地球型惑星に転移した邪馬台国を、宇宙人、タルガリア人のオールセアと言う人物がワームホールを作り出して地球、この日本国●●県へと接続させたらしいのです」

「は?」


「タルガリア人のオールセアさん……って、もしかしてあの宇宙船に乗って来た宇宙人に会われたのですか! というか、あのテレビの映像は本物!?」

「テレビとはなんですか? 俺はテレビに映っていたんでしょうか?」

「大和さんと宇宙人とのやりとりの一切合切が日本全国、テレビやラジオの全電波をジャックして放送されていたのを確認しています」

「そんなことが……」

「とにかく、大和さんは宇宙人とファーストコンタクトされたご本人と言うことで宜しいのでしょうか。この件は一度持ち帰り、上の判断を仰ぐことになります。もしかすると、いえ、非常に高い確率でもう一度大和さんにご足労願うこととなると思います」

「どうして俺が。もう全てを投げ出して泣きたいよ。衆議院選挙なんてもうどうでも良い! この状況をなんとかしてくれ! 氷河期世代の希望の星になるつもりが、邪馬台国の希望の星にされているし!」

「はあ……泣きたいのはこっちです。報告書を作るのは私ですよ!? どこの誰がこんな報告、信じるというんです。邪馬台国が時間遡航した上にナポレオン時代めいた文明レベルを持つ地球型惑星に転移し、ワームホールで繋がり、あまつさえ我が国の国土の中に姿を現すなどと。いえ、邪馬台国は日本の中にあったわけですから、日本の中に現れて当然……んーっ、もうわかりません!」


 大志は顔を両手で覆い、刑事も宙を見上げては自分の顔を手のひらで覆った。




 ◇




 現地での勾留は二日にわたった。


「この場所は吉野ヶ里遺跡を彷彿とさせますね」

「ええ、卑弥呼の里、邪馬台国だそうですので」

「内閣情報調査室の村山です。大和候補、お噂はかねがね」

「大和大志です。私は所詮泡沫候補です。噂になるようなことは何一つしていないつもりなのですが」

「ご謙遜を。今やあなたは宇宙人と単独で渡り合い、いたいけな少女の頼みを聞き命を救った英雄扱いですよ?」

「誰が見ていたのです」

「日本国のほぼ全ての国民がテレビで見ておりました」

「マジで!?」

「……おホン!」

「いや、失敬」

「いえ。あの、大和候補、あなたにご提案があります。この●●県番外地『邪馬台国』の『女王』を名乗る酋長、台与さんと、あの恐るべき宇宙船で星の彼方から飛来した宇宙人のご機嫌を取っていただけませんか」

「なんですかそれは」

「言葉通りの意味です。どうかお願いできませんか。それも当面の間、と言わず半永久的に。なに、給与や年金は相応の額をお支払い致します。一会社員であられたあなたの運命が変わるお話だと思います」

「……」

「女性二人の機嫌を取って、その上に給与までもらえる。楽な仕事だと思います。どうか、お願いできませんか」

「意味がわかりませんが」

「話さずとも賢い大和候補ならば、内閣情報調査室の私がこうして出向いてきたと言うだけでお判りのはず。どうかご一考下さい」


 大志は黙った。

 自分はあの世代を救いたいと思った。自分だけが救われてどうするのだ。

 自分が希望の星になるのは良い。

 だが、人は幻想だけでは生きていけないのだ。

 だから、大志はそれでもなお、あの世代のために戦わなくてはならないと思ったのである。


「……お断りします。俺は、みんなの役に立ちたい。個人の欲望を果たすためだけの取引には応じられません」

「そうですか。ならば、この場は一旦引き上げます。宜しいですね?」

「構わない」

「後悔しますよ?」

「すでに決めたことです。俺一人だけが幸福になるわけにはいかない」

「では、失礼します、大和候補。選挙でのご活躍をお祈り申し上げます」

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