04 文化圏の相違
SAT三十名が規制線の内側に入り、境界を超えた。ワームホールの内側へと侵入したのである。
「竪穴式住居だ!」
「高床式倉庫もあるぞ!」
「詳しいなお前」
「考古学マニアなんですよ、マニア!」
大志はSATを先導して、集落へと向かった。
話を聞かれた警官には休憩しておいてくれ(勝手に動かないでくれ)と釘を刺されていたのだが、無視しての行動である。
大志がSATを邪馬台国に招き入れた。
自分の招いた結果が、どのような結果を伴うのか、大志には座して見守ることが出来なかった。
結果として、この判断は良かった。
なぜならば、石斧をもった防人たちがSATを遠巻きに取り囲んで威嚇し始めたからである。
しかし、防人たちは大志の姿を認めると、神でも崇めるかのように跪いて許しを乞うたのであった。
「救い主様が神の兵を連れてこられた」
などと言う言葉が漏れ聞こえ、大志の耳たぶの下はピクピクと動いた。
大和大志、四十五歳。
選挙戦をほっぽり出して、こんなことをやっている暇があるのだろうか。
ある、と言えよう。
大志には、それでもなお、確かに魂を動かす心のうずきがあったのだ。
◇
岩山の上に、蠢く影がある。
「同志ゲルベルト、例の村ですが、増援が来たようです」
「ほう? 増援ね。数は?」
「ざっと三十」
「ああ、見える見える。あの黒いのだな? どうとでもなる。竜は?」
「確認できません。どこかに行ってしまったのでしょう」
「好都合だ。もう一度行くぞ!」
ゲルベルトは夕日に槍を突き上げ、吠える。
「同志諸君、突撃だ! 今回は蛮族に味方する勢力がある! 赤軍の勇猛さを思い知らせてやる。日没までに村を落とすぞ! 徹底的に教育して差し上げろ!」
「「「応!」」」
「進めー!」
号令を下すと共にゲルベルトは馬の腹を蹴る。
一陣の風となって、岩山を下って行った。
「敵襲だー!」
蛮族の雄叫びがあがる。斧を手にする蛮族どもは密集し、反面、黒い一団はバラバラに散った。
ゲルベルトは見る。
バラバラにばらけた敵は、キラキラと一部が輝く盾と面を覆う兜、そして銃らしき黒い鉄の棒を持っている。
蛮族がどこから救援を読んだかどうか知らないが、もしかすると、行きずりの傭兵団にでも声をかけたのかもしれない。
ゲルベルトは嗤う。
どちらにしても敵ではないと思えた。
黒衣の連中は観たこともない装備なのだ。まともな連中が連中の用心棒を買って出るはずもない。
元より負けるわけがないのだ。
連邦最強クラスの腕前を充分に見せつけるつもりでいた。
「銃撃を開始しろ!」
ゲルベルトの号令とともに、歩兵が整列して銃弾を放っては、ロングソードを構え、突撃してゆく。
多くの蛮族が倒れ、さらに多くの弾が盾で弾かれる。黒衣の敵は散っており、しかも盾を上に構えたため、効果のほどはいまいち不明だが、黒衣の敵も幾人かは負傷したに違いない。
ゲルベルトは突撃の速度を上げる。
ゲルベルトの銃が蛮族の頭を射抜き、騎馬が蛮族の頭を蹴る。石斧を持った蛮族が空堀の底に転がっていく。
蛮族の列を滑るように、ゲルベルトは横へ流れる。
ちらほらと見える黒い姿が背後へと消えて行く。
ゲルベルトの後に遅れて剣を持った歩兵が続いた。
そして歩兵は蛮族どもの側面に回る。
「武器を持っているぞ! 発砲用意!」
黒衣の敵が黒い金属の棒を腰だめに構える。やはりあの棒は銃のようだ。
だが、今さら歩兵の動きは止まらない。
ゲルベルトが指示したとおり、石斧を持った敵の正面を避けて、横っ腹に向けて突っ込んでいく。
「止まれ、止まらんと撃つぞ!!」
黒い姿の一人が怒鳴る。
ガシィ、バキィ!!
蛮族の石斧と味方の剣がぶつかり、火花を散らした。
鉄でできた剣を前に石斧は脆くも壊れ、地に落ちる。
側面にいた蛮族の一人に向けて、味方の剣が振り下ろされた。
同時に聞き慣れぬ、一発のくぐもった銃声が木霊する。
しかし、歩兵はひるむことなく雄叫びと突撃を続けた。
「武器使用許可! 全隊員発砲を許可する!!」
数多の乾いた銃声がそれに続いく。
バタバタと崩れる味方。味方は接敵していない後方の者から順に倒れ伏してゆく。
「バカな!」
てっきり、崩れるのは乱れに乱れた敵の陣だとばかり思っていたのだ。
ところが、次々と地に転がるのは味方の兵ばかり。
あれほどの短い間隔で連射でき、しかも正確に相手の急所を狙える銃など聞いたこともない。
ゲルベルトが棒立ちになっていると、敵の集団が動いた。
「敵を掃討しろーーーーーーー!」
ゲルゲルトは慌てて馬の腹を蹴る。
「主犯格が逃げます!」
「お前が対応しろ! 他の者は被疑者の確保が優先だ! 負傷した被疑者を確保ーーーーー!」
「魔女の婆さんの呪いあれ!」
ゲルベルトは罵声を飛ばすや否や、撤退を指示し、空堀を出る。
一発の乾いた音が轟く。
ゲルベルトは馬を撃たれ、宙に投げ飛ばされる。
背後に風。力は腰。
ゲルべルトは腰を抱きかかえられた。
目をやれば、彼の副官が馬から身を乗り出し、ゲルベルトは腰を掴まれ馬に引きずり上げられる。
再び乾いた音。
頬に灼熱。
ゲルベルトの頬に血の筋が引く。
彼は九死に一生を得、副官と共に騎馬の人となる。
日が落ちた後に数えたところ、ゲルベルトの部下は五人にまで数を減らしていた。
「俺の人望もこれまでか」
「そう言わないで下さい、同志ゲルベルト」
副官が言うも、捕まり、酷い目にあっているに違いない部下や、いずこかへ逃げ去った部下のことを思い、ゲルベルトは涙したのである。