03 最大望遠
「宇宙船っだってよ、宇宙船!」
駅前はとんでもないことになっていた。
崩れたビルと、路面がめくれ上がり、地面がむき出しになった駅前ロータリー。
何十台ものパトカーと、機動隊の警備車と指揮車。
警察による規制線が張られており、機動隊が盾を構えて幾何学上の形状の宇宙船と、そこから伸びる直径二百メートルほどの穴を取り囲んでいる。
その周囲は報道陣と、物珍しさに詰めかけた見物人でごった返していた。
上空には報道のヘリが何基も飛んでおり、カメラを地上に向けている。
『最大望遠でお送りしております。見えますでしょうか、画面奥に建物らしき、わらぶき屋根が続いております。一体この先はどうなっているのでしょう……! 現在、警察の封鎖が続いております宇宙船とおぼしき飛来物の落着現場からの中継でした!』
◇
オールセアは滑走路を使うことなく、小型飛行体を垂直に村の広場へ着陸させた。
村から女性、いや、高校生ぐらいの女の子が進み出る。
「救い主様、タルガリアの人と共に現れていただき感謝致します! 窮地を救っていただきありがとうございました!」
眩しい笑顔。
黒髪、トビ色の目の少女は大志に向けて笑顔を振りまく。
白と赤。その娘の姿は巫女服に似ている、と言った言い回しが一番近い。
「台与。あなたの願った救い主、大和大志をここに連れてきました。これでこの邪馬台国の安全と発展は約束されたも同然です!」
「大和大志様! 先ほどはありがとうございました! どうか私たちを、なんとかお救い下さい! あなた様だけが頼りです!」
「俺はなにもしてない。それに二人とも。俺のことは大和でいい」
「いいえ、あなたがいなければ、私たち邪馬台国の民は彼らの襲撃に耐えきれたかどうか……四方を囲む山が消えて以来、最近の敵の武器は凄いんです! 私たちの石斧では敵いません……」
「彼らには西洋人の特徴があるように思う。邪馬台国の時代には、西洋人との交流は少なかったはずだけど」
「セイヨウ、とはいかなるものでしょうか」
「ああ、困ったな……」
大志が後頭部を指で掻く。
オールセアが説明する。
「理由は判然としないのだが、邪馬台国は時空を超えて、この星に転移したのだ。遠謀なる大宇宙には時々こういったことが起こりうる」
「この……星?」
「そうだ。台与や大和が存在していた地球とは別の惑星だ」
話が大きすぎて困るが、大志はすでに宇宙人と会話している。
今さら驚くこともなかった。
「別の宇宙ということか? ワームホールの先、という話だったっけ?」
「ワクセイとは? 海の向こうのようなものでしょうか」
大志と台与が別々に聞く。
「話が早くて助かる。台与、それに大和。貴公らの常識は、この地球型惑星において通用しない」
「なんだって?」
「そんな! 元には戻れないのですか!」
「慌てるな。二つの惑星は結ばれてしまった。もはや、分離は不可能だ。エントロピーは増大する方向にしか進まないのだからな。台与、困っていたのではないか? 女王である貴公は鬼道を用いて、我らタルガリア人に助力を請うたのではなかったか?」
「そうです」
「我らタルガリア人はこの問題を地球人である貴公らに解決してもらうために、契約者であった卑弥呼の末である大和、貴公を呼んだのだ」
「どうしてそれが俺なんだ」
「大和、貴公は我らタルガリア人に選ばれたのだ。我らタルガリア人と契約する邪馬台国の救い主、契約者として」
「大和様、救い主様、どうかこの邪馬台国をお救い下さい! 先ほどの連中はまたきっと攻めてきます。どうかそのお力をお貸しください……!」
台与は深く深く頭を大志に下げた。
「私に出来ることがあれば何なりと申しつけて欲しい。なるべく貴公の要望に沿った形で貢献するつもりだ」
オールセアが大志を見る。
「日本人の問題だ。日本人に出来ることをまずはやってみようと思う」
◇
大志の前に、駅前に引かれた黄色い規制線と、居並ぶ機動隊の列が見える。
『生還者です! また一人生還者が現れました! ええと、これは……! 宇宙船らしき飛来物の落着時、この場所で選挙演説をされていた衆議院議員候補、大和大志さんです! 事件発生より十二時間以上が経過し、生存が疑問視されていました! よくぞご無事で! 生きてらっしゃいました!!』
大志はマスコミの餌食になることなく、すぐに機動隊に囲まれて、背後の警官隊へと身柄を引き渡される。
「ご苦労だったね、衆議院議員候補さん。大丈夫だったかい? 次々に出てこられた他の事故の犠牲者の方々は、奇跡的に怪我もなかったようだけど」
「ええ。俺は大丈夫です。それより、助けて欲しい人たちがいます」
「まだ事故の犠牲者がこの先に!? 君が最後じゃないのかね!?」
「これを見て頂けますでしょうか」
大志は携帯端末で撮影した動画を警官に見せた。
無残に剣や槍で殺された邪馬台国の兵士、(防人と呼ぶらしい)を写した動画である。
「これはこの先の集落の映像……事故による傷ではなさそうだ。それに彼らのこの服装……」
「ドラマやSFX、コンピューターグラフィックスではありません。実際の映像です。刃物を持った犯人がこの先に潜んでいます」
「だとすると、事件じゃないか! この動画、コピーを貰っても良いかい?」
「構いません。お役立てください。それよりも、一刻も早く彼らに救いの手を! こうしている間にも、次の犠牲者が出ている可能性があるんです!」
「凶悪犯があの先にいると言うのか! 警官隊……じゃ無理だな、機動隊でも対処できるかどうか……上に掛け合ってみよう」
「ありがとうございます!」