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02 ワームホール

「おうわ! なんだこれ!」


 大志は宙に足をばたつかせた。

 空高く舞い上がったまま、大志の体はいつまでたっても地上に向けて落下しないのだ。


「大和大志、なにをしている。貴公のバイタルは安定している。特別に健康状態を心配するような事態には陥ってはいないはずだ」

「俺は空を飛んで……って、君も空に浮いて!」

「違うぞ、大和大志。この連絡艇ロマクルト号の外部の景色を内部に投影しているだ」

「日本語が上手な外国人の方で助かった」

「タルガリア人のオールセアだ。大和大志、私は貴公を探していた」


 オールセアは右手を差し出す。

 大志はそれを握り返しつつ、その目を覗き込む。


「俺を?」

「ああ。台与の希望で、卑弥呼の末である貴公に用がある」

「卑弥呼って……誰?」




 ◇




 大志はオールセアの駆る小型飛行体に搭乗し、ワームホールをくぐった。

 すぐに視界が開ける。

 地上では、人らしきものが動いている。

 豆粒はぶつかっては離れ、ぶつかっては離れを繰り返しているようにも見える。


「なんだあれ?」

「大和大志、邪馬台国は今、外敵から攻撃を受けているようなのだ」

「それで?」

「それでとはなんだ! 大和大志は日本人だろう! 自分たちの同胞を救わなくてどうするのだ! 自らが信念を持ち事に当たらずしてどうする!」

「そんなこと言われたって……邪馬台国なんて馬鹿なことを言われても、にわかに信じられるか!」

「なにを迷っているのだ! ほら、また一人、邪馬台国の兵が倒れたぞ」


 見れば、また新たに人が動かなくなっていた。

 そしてまた一つ。もう一つ。

 オールセアと名乗る彼女の言葉が正しいのであれば、ここで行われているのは戦争であるはずだ。

 だが、大志が焦ってどうなるものでもないはずなのだ。

 しかし、今、目の前で人がなすすべもなく死んでいる!

 胃から、こみ上げ逆流する酸っぱいものがある。

 だが、それでもなお、大志はやらなければならないと思った。


「貴公に彼らは救って欲しいと声を上げて来たのだぞ!?」

「俺になにが出来るというんだ。俺はどうしたらいい?」

「簡単なことだ大和大志。私に要請して欲しい。ただ、邪馬台国を救え、と」

「うーん、よくわからないが……オールセア、邪馬台国を救ってくれないか」

「了解した。契約者情報を一部更新する。契約者を卑弥呼から大和大志に変更。契約者本人からの要請と正式に認定する。本日ただ今より、我々タルガリア人は日本人契約者大和大志の要請により台与の政策を補佐することとなる」




 ◇




 岩山の上に、群れる集団がある。


「同志ゲルベルト、様子がおかしいです!」

「あ?」

「我々の基地が無くなっています。代わりに妙な連中が」

「留守を取られたって言うのか?」

「違います、上手く言えませんが、地形すら変わっています。なにかが変です。目の前にあるはずの山もありません」

「確かに。そろそろ俺たちのねぐらが見えても良さそうな頃なのにな」

「この先を少し偵察してきたのですが、村がありました。石斧を持った妙な連中がうろついています」

「石斧? どこの蛮族だ。まあ良い、さっさと済ませるぞ。蹂躙戦だ」


 ゲルベルトは叫ぶ。


「我々のねぐらを奪った蛮族がいる! 我らの戦闘技術の素晴らしさを未開の蛮族どもの頭に叩き込んでやれ!」

「「「「応!」」」


 と、ゲルベルトは馬の腹を蹴り、一気に村に向かって馬を走らせた。

 彼に続いて槍を持った騎馬と、ライフル銃を装備した歩兵が続く。

 土炎が舞う。


 ゲルベルトは空堀を飛び越え、間抜けな顔をした蛮族の胸を槍で突く。


「敵襲だー!」


 蛮族がわめくが気にしない。

 石斧を振るう集団の最も厚いところをゲルベルトの手榴弾が粉砕し、彼は蛮族を血祭りに上げた。

 彼に追いついた兵士たちが、一塊になり、敵襲の報にわらぶきの建屋から出てきた蛮族たち目掛けて銃弾の雨を降らせる。

 怯える蛮族をよそに、兵士たちはロングソードを抜いて突撃した。

 兵士たち振るう鉄の武器は、蛮族の持つ木や石の武器を圧倒する。


「敵は強い、四つ足の化け物を従えている! 女王様を守れ!」

「台与様をお守りしろ!」


 などという蛮族の指揮官の声は、浮足立つ蛮族の悲鳴で掻き消される。

 ゲルベルトが叫んだ蛮族の胸を、槍でまた一人と突いたそのときであった。

 彼の頭の直ぐ上を大きな影が覆う。


「ぎゃぁああ!」


 熱風が吹き荒れ、恐ろしい声を聞いた。

 見れば、部下の数人が火だるまになって転がっている。


 ブォオオオオオオオ!


 くぐもった音とともに、火炎が上空の奇妙な姿をした竜の口から吐き出されるのを見た。

 竜のブレス。

 かないっこない。

 勝てる可能性など微塵もない。


 勝てないとわかったゲルベルトの判断は速かった。

 蛮族はいつでも圧倒できる。今はこの銀色の竜から逃げるだけだ。


「同志諸君! 転進せよ、退け、退け!」


 言う間にも、部下たちが焼き殺されてゆく。

 ゲルベルトは舌打ちすると、馬首をやって来た方角に向ける。

 馬の腹を蹴るなり、彼を囲む蛮族どもの頭を飛び越え、一目散に逃げ出した。


「竜の相手なんてできるか! 竜の姿を見たら逃げろ、赤本にも書いてある!」


「同志ゲルベルト! 蛮族は竜を飼っていると思いますか!?」

「そんな部族の話など聞いたこともない。今頃奴らが竜の腹の中だ」

「でしょうね、竜が去った頃、また村を襲いますか?」

「当然だ」


 一団は、土煙と共に現れ、土煙と共に去って行った。

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