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17 有能なるは、我が連邦

 赤旗の翻る、王宮。


「もう一度言って見ろ。どうして定数が集まらないッ!」


 書記長ビルギッタは吠える。事務官はしどろもどろになりながら弁解する。


「教育施設に回した人間の後釜が見つからないのです」

「な、ん、だ、と?」


 ビルギッタは視線も強く睨みつける。


「ひっ!?」

「この無能がッ! 貴様のような無能こそ教育施設で再教育を受けるべきだ! 衛兵ッ!」

「はッ!」


 扉の前に控えていた衛兵が事務官の両脇を抱え込んだ。


「連れてゆけ!」

「ど、同志ビルギッタ、どうか、どうかお許しを、私に再起のチャンスを!」


 事務官はなんとか声を絞り出す。


「なにもせずに再起できるような人間ならば初めから失敗などしない! おとなしく再教育を受けて来い!」

「同志ビルギッタ、同志ビルギッター!」

「やかましい、早くつまみ出せ!」


 ビルギッタは再度吠えた。


「はッ!」


 衛兵は無慈悲に事務官を摘まみだす。

 ビルギッタは大攻勢計画の再考を検討せざるを得なくなった。

 歯噛みしながらも、彼女はこの現状を甘受せねばならない時が近づくのを知るのだった。




 ◇




 風吹きすさぶ第十四軍管区、現日本国邪馬台国県。

 連邦大元帥たる書記長ビルギッタは居並ぶ竜騎兵に檄を飛ばしていた。


「勇敢なる同志諸君、諸君らは幸運である!」

「なぜならば、この私に指揮されるからだ。時を読め、地の利を見よ。諸君らの偉大なる尖兵が持ち帰った情報をもとに、かの悍ましき汚泥がはびこる集落の清掃を今から行うのだ!」


 ビルギッタは遠くに見える集落を指差す。

 数多き味方は竜騎兵が三百、擲弾兵が七百である。


「擲弾兵、蹂躙せよ! 前進! 祖国は諸君らと共にある!」


 歩兵が地を這って湧き上がる。

 散兵はそれぞれ散って集落を目指した。


「竜騎兵は手榴弾を準備せよ! 敵の正面を抜くぞ! 擲弾兵にぶつかるな? 練度は充分なはずだ、諸君ならやれる! 駆け抜けろ!」


 竜騎兵は書記長ビルギッタの号令の下、擲弾兵を次々に追い抜いては集落の防護柵へ向けて手榴弾を投擲する。

 上がる爆音と火の手。

 燃え行く先に、いち早く滑り込んだ擲弾兵の姿があった。


「爆発物不法所持、器物破損、住居不法侵入確認! 武器使用許可、各自の判断で撃て!」


 遠くでそんな声がした。

 そして、近くでもわかる音が散発的に響いた。擦るような銃の発砲音だ。


「変だな」


 黒煙と炎に、後方のビルギッタは目を凝らす。


「……は?」

「貴様の目は節穴かッ! 見ろ!!」


 軍官にビルギッタは双眼鏡を押し付ける。

 軍官は見た。砕けた壁の前後で無数の擲弾兵が倒れている。


「わか軍の同胞がッ! 蛮族ごときにッ! 馬引けぃ!」


 ビルギッタは制服の裾を翻すと、事務官が連れて来た栗毛の馬に跨る。


「い、いけません同志ビルギッタ! 危険です!」

「突撃の合図だ! 私が嚆矢を務める! 早く合図を出せ!」


 続く銃声は、擲弾兵の多くをなぎ倒しつつある。

 擲弾兵の放つ銃の弾は敵には当たらないのに、敵の弾は恐ろしいほどの命中精度で的確に味方の兵士を射抜いてくるのだ。

 同胞の物量で押してはいたものの、後陣から見れば一目瞭然、やがて来るであろう劣勢は明らかであった。

 数で優っている今のうちに押し潰すが良策と見た。

 ビルギッタは叫ぶ。


「急げッ!」

「はっ!」


 ラッパの音と共に味方全体に士気が蘇る。

 さらなる突撃力を持って、ビルギッタ書記長を守るように竜騎兵三百が駆けた。

 集落の腹を食い破る竜騎兵。

 石斧を持った蛮族が立ちふさがるも、馬の突進の前には手が出せるものではなかった。


 蹴飛ばして踏みつぶして後ろ脚で蹴る。

 多数の手榴弾が藁の屋根を吹き飛ばす。

 鉄の象に守られた黒服の一団が銃を揃え構えては黒鉄が光る。


「発砲許可、ヨシ!」


 ビルギッタの周囲を囲っていた近衛が倒れる。

 ビルギッタは器用に馬を操れば、見事な手綱さばきで転倒を免れた。


「突撃だッ! 怯むなァ!」


 敵の至近距離で再びの銃声と共に味方が倒れる。

 ビルギッタは黒服の頭を蹴飛ばしていた。


「届いたぞッ! 蹂躙せよッ!!」

「第一班がやられました、至急応援願います!」


 途端に踏みつぶされる手の平と、なにかが砕ける感触。

 赤毛の書記長は喜色満面に、同法の勝利を確信したのである。


 ──ところが。


「各自個別に対処せよ、発砲許可!」


 横合いから新たな硝煙が上がる。

 それはビルギッタの馬を射抜き、頬をも掠めた。

 馬のいななきと共に崩れ落ちるビルギッタ。


「バカなッ!」


 土炎が上がり、敵の声を聞いた。


「首謀者は確保せよ!」


 黒服がウンカのように倒れもがくビルギッタに押し寄せた。


「なにをする貴様ら、私は、私を誰だと思っているッ!」


 瞬間、至近距離で手榴弾が爆発した。

 まともに受けた黒服の影から顔を覗かせるビルギッタに同胞の手が差し伸べられる。


「同志閣下!」

「貴様の貢献、忘れぬ!」


 ビルギッタは彼の手を取ると、彼を馬から引きずり降ろして代わりに馬に跨っては腹を蹴る。

 馬は跳ね上がって戦場を飛び出した。


 背後で新たな銃声と同志の声がする。


「同志ビルギッタ! 連邦を頼みます!」


 ビルギッタは火の手の上がる邑を叫びながら駆け出でる。


「撤退だッ!」


 その声は怒りで震え、その怒りは自分自身へと向けられていた。

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