16 つるはしとスコップ
「異様な衣服を着ているが、どう見ても普通の人間……貴様がここの首魁か」
「わたしはただの人間です、ダーザッハ連邦、ビルギッタ評議会書記長閣下。お会いできて光栄です」
「単刀直入に言おう。ここは我らの土地だ。即刻出て行け」
「それはできません。なぜなら、ここは我らニッポンコクの領土だからです」
「なんだと? 寝言を言うのもいい加減にしろ!」
「ここ、邪馬台国県の民はニッポン国民。彼らの生命と財産を私は守る義務があります。そしてこの土地は彼ら邪馬台国県民の財産です」
「この土地はダーザッハ連邦第十四軍管区だッ!」
「聞けば、その第十四軍管区とやらは山深き土地だったとか。この土地の周囲には山など、どこにも見当たりませんが」
「そ、それは!」
「我らが嘘をついているとでもおっしゃられますか? 書記長閣下」
「そんなことは言っていないッ! ある日突然、山が消えうせたと聞いているッ!」
「ならば、祖の消えた夜魔こそ閣下の仰られる第十四軍管区なのではありませんか? 閣下さえ宜しければ、私どももその捜索にお力をお貸しすることもやぶさかではありませんが、いかがでしょうか」
「──」
「どうなされましたか?」
「……そんなバカなことがあるかッ! 忽然と山が一晩で消え去るなど、誰が信じる!」
「現にこのような事態に陥っております。私どもとて最初は信じることが出来ませんでした。ですが、現にこうしてわがニッポンコクと貴国、ダーザッハ連邦は陸続きになり、貴国の第十四軍管区とやらは行方知れずとなっている。これが私どもの導きだした結論です」
「貴様らはそのようなばかげた話を信じると?」
「誠に遺憾ながら、当方としてはそう、承知しております。貴国の見解を追お聞かせください」
「私の意見を聞いているのか?」
「もちろんです、ビルギッタ書記長閣下」
ビルギッタはヤマトを見つめ、言ってのける。
「口惜しいことだが、第十四軍管区はいずこかへと消失した。そして、その座標に貴国、日本国がある。だが、私はこの状況を認めぬ。我が国の領内に、他国の土地があるなどあってはならんことだッ! ダーザッハ連邦は貴国、日本国に宣戦を布告する!!」
「ちょっと待っていただきたい、ビルギッタ書記長閣下。我が日本国としては、貴国ダーザッハ連邦と友誼を結びたいのです。平和条約を締結したいと考えております。また、貴国出身の人物を、多数留めおいて頂かせております。彼らを受け入れて欲しいのです。受け入れを認めてください」
「我がダーザッハ帝国は一敗地にまみれた弱兵など必要ない! 捕虜は処分でも何でも好きにするが良い! 我らを甘く見るな、日本国の蛮人よ。我らは蛮族などに負けはせぬ! 我らダーザッハ連邦の底力を思い知らせてやる!!」
「ちょ、書記長閣下、決断されるのはまだ早いのでは! もう少し話し合ってからでも遅くはありません、妥協点を見出し合いましょう!」
「我らに益があるとは思えぬが、良いだろう。聞こうではないかヤマトタイシ。提案があるのだろう? まさか無策とは言うまいな?」
「私たち日本国の、邪馬台国県において通商を致しませんか? お互いの文化を知れば、きっと欲しいもの、興味があるものが見つかると思うのです」
「お互いの文化をだと? 我々が蛮族の習俗を知ってなんになる」
「私たち日本国は文明国です」
「文明国の民は藁で造った家などには住まぬものだ」
「邪馬台国県の建造物は全て国の重要文化財保護指定を受けておりまして。歴史的建造物なのです。一般的な日本国の家屋とは違います」
「ならば木と紙でできた家にでも住んでいるのか。バカバカしい」
「書記長閣下のお国の家は、なんでも石作りとお聞きしました。機構が違うせいもあるでしょうが、我が国の家々とはだいぶ趣きが違うようです」
「ヤマトタイシ、貴様は先ほどから私を愚弄しているのか!?」
「いいえ、我々はお互いを知らなすぎます。まずはお互いを知るところから始めませんか?」
「蛮賊と話すことなどないッ!」
「……そうですか。非常に残念です。ですが、今後どのような事態になろうとも、我々日本国の話し合いの窓口は常に開いていると覚えておいていただけると嬉しいです」
「寝言を言うな!これが最初で最後の会談だッ!」
ビルギッタはどこまでもバカにしてくる日本国の対応に、我慢がならなかった。
赤い旗のもとに、蹂躙してやろう。
物量で押し潰してやろうと、ビルギッタは心に誓うのであった。
◇
外交二連敗。
上手く行かないものだと、大志は痛感する。
だが、それでもなお、大志は日本国邪馬台国県のために身を捧げようと思い、台与や邪馬台国県の住民の顔の一人一人を思い出し、決意を新たにしたのである。
◇
ワームホールをくぐって、次々と車両が送り込まれてきた。
そして、バスから降りる多数の警察官たち。
「そちらは静岡県警からですか」
「うちは佐賀県警です」
「全国から警察官を集めてどうしようとしているのです?」
「サミット並みの警備態勢を敷くとかなんとか」
「しかし、ここはどこなんですか」
「吉野ケ里遺跡……に似ています」
警察官らは周囲に広がる邪馬台国県の家々や建造物を見渡しながら、口々に勝手なことを言っていたのである。
そんな彼らの一人一人にスコップが渡される。
「え? 塹壕掘り?」
タコ壺を掘るように言われ、目を白黒させる警官たち。
だが、上の命令には逆らえない。
疑問に思いつつも、暫く彼らは穴掘りに精を出すのであった。
◇
邪馬台国県においても、上下水道の設置は急務と言えた。
インフラを早期に構築せねば、疫病の原因となる。
「絶対なにかがあると思っていたが、こういうことだったのか。しかしまぁ、古代王国……そんなこと信じられるか? ボスは信じるかね?」
男はつるはしを片手に、親方の目を気にしつつ、穴を広げる。
小型のクレーンが塩ビ管を降ろして来る。
男はブツブツとつぶやきながら、同僚に気味悪がられつつ、下水管の埋め込み工事に精を出しているのであった。




