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15 消えた山、現れた村

「ここが第十四軍管区か。こんな場所だったか?」

「いいえ。ある日忽然と山が消え、村が現れたそうです」

「ふん、どうでもいい。あそこにいるのは人なのだろう? 人なのであれば、どうとでもなる。赤旗のもとに靡くのが自然なのだから」


 ビルギッタの視線は目の前に遠くかすむ集落を見据えて離さない。


「私一人で行く。いや、同志書記官、お前は同行しろ。言葉を包み隠さず記録し、包み隠さず民衆に伝えるのだ」


 ◇


 ビルギッタの前に、燃え落ちた門がある。

 石斧を持った蛮族が進み出て、ビルギッタたち二人を取り囲む。


「なんだお前たちは! 怪しい奴め」


 蛮族の一人が口を開いては威圧する。


「貴様たちの首領はどこにいる。話がある。ダーザッハ連邦の評議会議長が出向いて来たと伝えろ」

「首領だと? 台与様はお前らなどには、お会いにならん」

「とにかく伝えて来い! お前らごとき下っ端に用はない!」


 押し問答をしていると、蛮族らの背後から、灰色の奇妙な服を着た男が割って出てこようとしている。


「ちょっと通してくれませんか? そうそう、道を開けて下さい」


 ビルギッタは「首領か?」と訝しむ。

 現れた男はひょろっとした頼りなさそうな男。


「これはこれは。初めまして、わたくし、邪馬台国県警の一課長で明石と申す者です。担当の大和にお伝えする前に、よろしければ、わたくしがお話を伺いたく存じます。どうか調査にご協力ください。ダーザッハ連邦の方でらっしゃるということですので、本職がまずはお取次ぎしたいと存じます」

「お前はなにを言っているんだ」

「同志ビルギッタ、この男は首領に合わせる前に、自分が簡単な話を聞くと言っているのです」

「そんなことはわかっているッ!」

「……失礼しました」


「それでは、ご了解は得られたということで……どうぞ、こちらに席をご用意いたしますので、まずはお茶でもどうぞどうぞ」

「ふん!」


 ビルギッタは妙に腰の低いこの男に従って、集落の内部へと進んでいった。




 ◇




 ビルギッタは入った瞬間、快適な空気に驚いた。

 白く明るい部屋の中には鉢があり、植物が植えてある。

 そして、清潔そうな丸いテーブルの傍には素朴な椅子が三つ。

 男がビルギッタらをテーブルに案内すると、変な格好をした女が入ってきて、

 テーブルの上にお茶と菓子らしきものを置き、一礼して去ってゆく。


「さて、ダーザッハ連邦の皆さん、ようこそお越しくださいました」

「貴様はなんなのだ。私を誰だと思っている。首領に会わせろ」

「担当の大和は準備しておりますので今しばらくお待ちください。まだ時間がありますから、ダーザッハ連邦とニッポンコク、親睦を深め合おうではありませんか。あなたはダーザッハ連邦の書記長閣下、でよろしかったですかな?」

「わかっているではないか。私が評議会書記長のビルギッタである。下級官吏の御託に付き合っている暇はない! 私は忙しいのだ! 私がやらねば国は亡ぶ。国が動かぬ。この損失、どうして埋め合わせをしてくれるつもりだ!」

「お忙しい中、こうしてわが邪馬台国県に駆けつけて頂き誠にありがたいのですが、担当官が参りますので、いましばらくのご猶予をいただけますか……」

 男がちらりと腕の文字盤を盗み見ては目を戻す。


「なにが親睦だ。ここは我らの土地だ。蛮族が勝手なことをほざく」

「そう言われますな。お茶でもどうぞ。お茶請けも、きっと気に入ってもらえると思います」

「木っ端役人相手に話すことなど何もない」

「まあまあ、時に、わがニッポンコクは貴国、ダーザッハ連邦と陸続きになったわけですが、お近づきの印に何か贈り物でもと、担当官が申しておりました」

「やかましい。その担当官とやらと話す」

「これは手厳しい。わがニッポンコクは貴国、ダーザッハ連邦との間になにも取り決めが出来ておりません。そこで私ども、特に私は大変な苦慮をしておりまして」

「知らん」

「いやはや……」


 男は言葉に詰まる。男は湯飲みに手を伸ばし「失礼」と喉を潤す。のどが渇いたのだろう。お茶を啜りていた。


「とはいえ、我々も黙って『はい、そうですか』と、あなたを担当官と合わせるわけにはいかないのです。本来ならば、外務官僚が事に当たる案件なのでしょうけれども、一連の事件の管轄は未だに県警が握っておりまして。事の解決における責任の一端は本職の責務であると自認しております」

「貴様には無理だ」

「しかしながら、私も一公務員でして。難しい案件は、上司に丸投げすることにしております」


 男は背後を振り返り、


「君! 邪馬台国県担当国務大臣閣下の準備はまだかね!」

「え? あ、はい」


 顔を出した女性は一礼し、そそくさと奥へ消えて行く。

 男の一声が会津であったのであろう。


 男が視線を逸らした先。

 そこに新たな一人の男が現れた。

 目の前の男より、幾分引き締まった表情をしている。

 体格も良く、上背も少しありそうだ。

 初老の域に達しているであろうその男は、ビルギッタの元に悠々とやって来る。


 ビルギッタに右手を差し出して男、


「邪馬台国県担当国務大臣のヤマトタイシです。ニッポンコク首相より全権大使を拝命しております」


 ビルギッタは、手を差し出すこともなく、


「貴様がヤマトタイシ……」と、不本意にも見上げた。

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