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14 刻む時計の針

 ダーザッハ連邦、ビルギッタ書記長の執務室。


「貴様か。なにか」

「ビルギッタ書記長、ニッポンコクなどと言う蛮族の使者は無礼千万、直ちに討滅いたしましょう!」

「任せる」

「は?」

「……貴様に任せると言ったのだッ!」

「は、はっ!」


 事務官は去ろうとしない。


「なにをしている」

「……へ、兵はいか程……」

「全て任せると言ったッ!」

「は、はっ! ロイジウス将軍……第五軍管区長、エーベルト・ロイジウス将軍の兵をお借り致します!」


 ビルギッタは事務官の絶叫を聞いた。

 制服姿の事務官は敬礼すると、足早に部屋をあとにする。


 事務官の消えた室内。


「使えないッ! どいつもこいつも、使えないッ!」


 壁を何度も蹴りつける音。

 後には、ビルギッタの罵声のみが残った。




 ◇




 将軍エーベルトは配下の兵を見回した。

 竜騎兵が50、擲弾兵が150。総数二百の軍団である。

 物見の兵による報告では、腰に石斧を吊るした蛮族が堀を輪のように廻らした集落の内部の各所に散見されるという。

 たかが蛮族、と見て今までのダーザッハ兵は不名誉を続けて来た。

 エーベルトは策を練る。

 ただ、羽虫の鳴らす音のような、いささか大きすぎる音が、エーベルトは気になった。


 竜騎兵25は本隊の裏手へ回る。

 手榴弾が炸裂し、集落の門が崩れ落ちるのを見た蛮族は、一斉に門から逃げ出した。

 勢いづいた竜騎兵25は集落の中に突撃を始める。銃が火を噴き、蛮族が次々と倒れ伏してゆく。


「爆発物所持、器物損壊、不法侵入、破壊活動防止法違反確認! 総員発砲許可!」


 続けざまに乾いた音がした。


 竜騎兵25は馬のいななきと、男たちの悲鳴と怒声の中に沈みつつある。

 土炎が立ち上り、喧騒が辺りに広がった。


 手榴弾が爆発する。

 竜騎兵25が入った方と逆側の門だ。

 門が崩れると、竜騎兵が擲弾兵をともなって押し寄せる。

 四枚羽の巨大な羽虫がエーベルトの前に落下した。


「共犯者らの不法行為を確認、逮捕せよ!」

「なに!?」

「総員各自に手対処せよ! 裏側だ!」


 エーベルトは蛮族の野太い声を聞く。


 一度は怯んだ彼。

 しかしながら、一度はサーベルを抜いたエーベルト。

 彼は突撃の合図を降すとともに、彼自身も集落の中に踏み込んでいった。


 蛮族らの悲鳴が上がる。

 エーベルトも石斧を持った蛮族の額をサーベルで割る。

 だが、その前に、手の甲を銃で撃ち抜かれた。

 エーベルトはサーベルを取り落とし、昂る血潮を押さえつけられる。

 変だった。

 擲弾兵の数も蛮族の数も、目に見えて少ない。

 どうもおかしい。

 いかなる理由か、戦の喧騒がおさまりつつあるようなのだ。


「武器を捨てて投降しろ!」


 黒衣の蛮族の一人がエーベルトに怒鳴る。


 エーベルトは騎馬で逃げようとし、馬首を巡らせる。

 前方に走り去る擲弾兵らの姿が見えた。

 エーベルトは腹に蹴りを一つ入れる。

 馬は一啼き走り出す。


 背後で乾いた音がする。

 馬は後ろ脚から崩れて、エーベルトは地上に叩きつけられた。

 エーベルトはもがき、味方にこの集落の危険性を伝えようと立ち上がろうとする。


「確保―!」


 蛮族の声がして、エーベルトの頭上を黒い影が覆う。

 だが、エーベルトの思いは擲弾兵が受け着いたのである。





 ◇




 ビルギッタの執務室に、彼女の罵声が轟いた。


「この無能共が! 蛮族の駆逐もできんとは、なにをやっておるか! ……同志書記官!」

「はっ!」

「私は蛮族の処理を命じたはずだな?」

「はい、確かに昨日ご命じになられました!」

「しかし、私は作戦失敗の報をこうして聞いている。いかなることか!」

「は、第五軍管区長ロイジウス将軍の敵戦力分析に大きな齟齬があったとの情報を得ております!」

「それは事実か、同志事務官!」

「は、はぁ……」

「貴様ァ!」

「ひっ!?」

「衛兵! 同志事務官を連れていけ! 無能は我が連邦には不要だッ! 害悪など処分するに限るッ!」

「わ、私は……お、お許しを同志ビルギッタ!」

「黙れッ! 顔も見たくない!」

「同志ビルギッタ、このようなことを繰り返していると、いずれあなたにも同じ運命が待っていますぞ!」


 両腕を両脇から固められた事務官は顔を真っ赤にして口から泡を飛ばした。


「中止だッ!」


 ビルギッタの声が即座に轟く。


「は?」

「反逆罪で処刑する。未届け人はお前、とお前、商人は同志書記官と同志次席事務官、お前だ」


 静かに宣告するビルギッタ。

 彼女は腰のホルスターから拳銃を取り出す。


「お、お待ちを……!」


 絡み合うビルギッタと事務官の視線。

 どのくらい時間が過ぎたのだろうか。

 時計の針がゆっくりと時間を刻む音を伝えるころ、ビルギッタが、視線を逸らした。


「見苦しい。そのままこの者を連れていけ。この者には杉の木の皮を齧りつつ、ジャガイモの数を数えている姿こそがふさわしい」


 あまりの言葉に、辺りが静まり返る。

 ビルギッタの目が見開かれた。


「移送だッ!」

「はっ!」


 こうして事務官がまた一人、未開の大地へ送られた。




 ◇




「時に同志書記官……」

「は!」

「かの蛮族、なんと言ったか?」

「記録によりますと、ニッポンコクであります」

「代表者の名は?」

「ヤマト・タイシ、と」

「ヤマト、タイシ……どのような男なのだ? ……男だな?」

「は、男性であります」

「……ニッポンコク……」

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