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12 全軍突撃のラッパが鳴った

「全軍突撃!」


 元第十四軍管区の面影も無くなった、岩と砂だらけの荒れ地に、ダーザッハ騎兵の馬匹の音が木霊する。

 竜騎兵の突撃に、歩兵が続く。

 岩陰から土炎が上がる。

 粗末なわらで覆われた家々の立ち並ぶ集落を前にして、空堀を馬の跳躍力で軽々と越えると、各々手榴弾を投擲した。

 空堀の内には石斧で武装した男たちが待ち構えていたが、馬の突進力の前にもろくもはじけ飛ぶ。

 家々から火の手が上がると、野太い声が、軍団員の耳朶を打った。


「総員発砲許可ー!」


 乾いた音が垂れ続けに鳴り響く。

 熊のいななきが断続的に起こり、男たちの慌て、うろたえた声がそれに重なった。


「敵の銃か!? なにが起きた!?」


 先頭に立ち、敵中にいた第十三軍管区長は自らが下した突破の命令も忘れ、血を流し暴れる馬を御しつつ背後を振り返る。

 彼の部下たちは皆、崩れ落ち、血を流しては倒れ、燃えさかる家々の間に沈むように横たわっている者がほとんどであった。

 彼は躊躇した。


 ──その一瞬が落ち度。


 彼は、膝を銃撃されて馬から落馬し、わっと出てきた黒衣の男たちに取り押さえられたのである。


「被疑者を確保、首領格と思われる被疑者を確保!」

「おとなしくしろ!」

「痛い目に遭いたいか!」


 第十三軍管区長は黒衣の男たちにもみくちゃにされて、痛む左膝をかばいつつも、彼らに囚われたのである。




 ◇




 幕の内弁当を広げた大志は在邪馬台国県県立事務所でSATから上がってきた報告を聞く。

 彼らが、武装勢力を尋問したのである。

 幸い、言葉の壁は無かった。不思議なこともあるものである。

 捉えた被疑者は、どうやら皆、軍人のようで、彼らの中では、軍管区長と言う身分が最高の位を持つ指導者の一人のようだった。


「ダーザッハ連邦?」

「公国と王国が連邦を組み、会議が政務を司る国のようです」

「会議?」

「かつて地球上に存在しましたソビエト連邦やユーゴスラビア連邦のような国を思い浮かべ下さい」

「俺、ソ連もユーゴもよく知らないんだけど」

「国と国とが合体して、その上に上位の法律が存在する国の集まりのことです。アメリカだと州、ソビエト連邦やユーゴスラビアだと共和国や自治区がその単位となっていました。邦や共和国の集まりと考えていただいても構いません。邦や共和国は連邦政府の指導を受ける形で存在が許されていました」

「元首は王様じゃ無いのか?」

「書記長だそうです。会議の書記長閣下です」

「書記長ねえ」


 報告もそこそこに、大志はお弁当をなおした。




 ◇




 大志は連邦との友好について思案していた。

 彼らはいきなり軍事行動を起こして来るような連中である。

 こちらから使者を送って、様子を窺うのも一計だが、誰が出向こう……とても自分で行く気にはならなかったが、大衆のためを思うと、この国務大臣に任命された身。まずは、時間給の事務的レベルでの接触が通例だろうが、大志は悩んだ。

 一人、敵かもしれない国に行くことは怖い。


 ──だが。

 それでもなお、大志は自らダーザッハ連邦へ使者として出向くことを望んだのである。




 ◇




 ダーザッハ連邦、王宮に設えられた書記長の執務室。

 火急を告げる使者と言うことで、仕方なく通してみたビルギッタである。


「同志ビルギッタ、なにやら妙な姿をした、『日本国』という聞いたこともない国の代表を名乗る者が謁見を申し出ているのですが、いかがしましょうか」

「……どこの蛮族だ」

「それが、『自分は旧第十四軍管区から来た』と」

「そのくらいの些事程度、貴様らの手で何とかしろ! いちいち私の手を煩わせるな! 脳無ししかおらんのか!」

「はっ……しかし、本当に宜しいのでしょうか?」

「結論は言ったッ! 二度も言わせるつもりかッ!」

「し、失礼を。……承知しました、同志ビルギッタ!」

「宜しい、行けッ!」

「はっ!」


 事務官は姿勢を正して部屋を退出する。


「使えん! 全く使えん! 忙しいのはわかっているだろうに! ……役立たずどもめッ!」




 ◇




 スーツ姿の大志は白壁に粗末な木製の机と椅子が設えてある、会議室のような場所に通された。

 壁に掛けられている使い古された黒板や、花の枯れた花瓶などを見ると、実用一点張り、と言うよりも、あまり歓迎されていないのかもしれないと思った。

 部屋に通されてから、三十分ほど経過し、鼻提灯など作っていたころ、部屋の入り口の扉が開いて、書類を持った制服の事務官らしき男が一人、入って来た。


「お待たせしました。何せ、多忙でして」


 大志は音を立てて椅子を直すと、背筋を伸ばして事務官に向き直る。


「日本国を代表しまして、国務大臣の大和大志です。こちらは日本国外務省外局の大西。ダーザッハ連邦さんの窓口はこちらとお伺いしました」

「ほう、大臣……しかし、はて? ニッポンコク……どちらですかな?」

「天変地異が起こり、こちらの邪馬台国県と、そちらのダーザッハ連邦と陸続きになったようですので、ご挨拶にとうかがいました。不幸な行き違いがあったようですが、そちらのご説明も致したいと思っております」

「不幸な行き違い? なんのことですかな、辺境の蛮族のことには詳しいつもりでいましたが、ニッポンコクとはいったい……? 陸続きとは?」

「実は当方、そちらダーザッハ連邦産の第十三軍管区長様の身柄を預かっております。ほとほと取扱の待遇に困っておりまして」

「なんですと!?」

「あなた方の軍属を名乗る、暴漢を幾人も預かっているのです。これで、国交が内となりますと、幾分困ったことになりまして」

「我が方の兵士を何人も拘束しているとおっしゃるか!」

「お聞き覚えの悪いことをおっしゃる。不当に拘束しているのでは無く、我が国の国民の生命や財産に対して危害を加えらしたので、仕方なく身柄を預からせていただいているのです。被害者は私ども。加害者はあくまでも貴国、と言うことになります」

「この蛮族が! 下手に出て負ったら減らず口を!」

「蛮族……」

「今すぐ我が同志たちを解放し、我らが赤旗の下に跪き、心からの謝罪をするが良い!」


 会談は物別れに終わった。

 国交樹立の難しさを、改めて思い知る結果となり、国務大臣としての初めての外交は失敗に終わったのである。

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