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11 我らは強行偵察部隊

「我らが敬愛する偉大なる同志、ビルギッタ書記長閣下より我ら第十三軍管区の諸君に指令が下った! 我ら竜騎兵部隊は謎の蛮族がはびこる第十四軍管区へ進撃し、これを解放する!」

「解放に先駆けて少数の偵察隊を送る! 志願者は前に出よ!」

「は!」


 数騎の騎馬が動いた。ライフル銃を持ち、サーベルを下げ、手榴弾を持った軽装鎧の騎馬である。


「ジーモント、貴様もか」

「民衆の幸福のため、私の思想と忠誠をお役立てください!」

「良いだろうジーモント、貴様に二名つける。先行して敵情を偵察し、本体である我々に連絡せよ!」

「は!」


 ◇


 ダーザッハ連邦の第十四軍管区とは、人跡未踏の山地であり、その麓に基地がある。

 ある、はずなのだが……。


「なにもない」


 山すらない。

 所々に岩山の見える、だだっ広い荒野が広がるだけであった。

 ただ、遠く地平線の先に、とがった屋根状の人工物が見える。


「あれは?」


 双眼鏡を覗くと、そこには確かに建物があった。


 人影が見える。

 白衣と黒衣の人影が見えた。


「……あれが噂の蛮族か」

「突然なにが起こったというのです。第十四軍管区のこの変わり果てた姿はいったい……?」

「わからない。もう少し近づいて詳しい様子をうかがおうにも、俺たちの姿も向こうから丸見えだ」

「あちらの岩山を楯にすると、もう少し近づけませんか?」

「採用しよう」




 ◇




 おそらく木で出来た棒状の農機具を持った女が田畑で作業をしている。

そして、それを守るように、黒い棒状の何かを持った二人組の黒衣の男と、石斧を腰に下げた男が辺りを周回しているようだった。

 ジーモントは聞き慣れぬ音にはたと気づく。

 それは何やら上の方から聞こえてくるようで……。


 ──空中に奇妙な形の蜘蛛がいた。いや、蟹だろうか。

 ブーン、と甲高い音を立てながら、それはカザニあおられつつも空中の一点に制止している。

 ジーモントは気のせいか、そいつの輝く目と眼と眼が合ったような気がした。


 黒衣の男が、四角い箱に何かを真剣にしゃべている。

 なにを言っているのかは聞こえてこないが、かなり長いこと怒鳴り散らしていたと思う。

 そして、そんな男を眺めることにも飽きてきた頃、ジーモントは違和感に気づいた。


 ──気配。

 退路を塞がれている。


 ──直感である。

 ジーモントは銃口から弾を込めると、手元に銃を手繰り寄せた。


 途端、白い煙が四方八方から飛んでは広がり、濃密な霧と化す。


「なんだこれは!? いったいなにが!」


「被疑者は男が三人だ。確保しろ! 銃刀法違反容疑で逮捕ー!!」


 そんな中、ジーモントの銃が虚空に火を噴いた。


「発砲罪を追加だ! 逮捕しろ!」


 無数の黒服たちが飛びかかってくる。


「なにをするッ!?」


 ジーモントは呻いたが、人の波に呑まれて身動きが取れなくなったところで捕まってしまったのである。




 ◇




「被疑者は爆発物を所持しておりましたッ!」


 爆発物とは穏やかでない。先日の戦闘で敵、武装勢力が爆発物らしきものを使った可能性を邪馬台国の人間から聞かされていた大志も、その事実に改めて驚いた。


「バクハツブツとはなんですか?」


 台与はつぶやく。


「危険な武器で、危険物です。取り扱いに大変な注意を要します」




 ◇




「遅いな、ジーモント、なにをしている」


 第十三軍管区長は自ら歩哨に立ち、忙しなく靴のかかとを鳴らしながら部下の帰りを思う。


「貸せ」


 彼は待ちきれず、部下から双眼鏡を奪う。

 見た。

 異形の集落のそば。


「黒山が集って……人か? あれは、馬! ジーモントが捕まった? あいつがしくじるとは……!」


 馬の前足が跳ね上がっていた。


「敵はただの蛮族では無いのか?」


 疑問。

 だが、彼の問いに答えるものはいなかった。




 ◇




 いぶかしんだ第十三軍管区長は、増援を頼むことにした。

 与えられた戦力で撃滅できないとなれば、書記長閣下の怒りを買うこと請け合いであったが、作戦の失敗よりはましである。


 だが、中央へ使いに出した伝令からは、


『現戦力にて撃滅せよ』


 との指令を受けるのであった。


 第十三軍管区長は、もう一度部隊を分けて偵察を試みようとする。

 彼は、部下へ指令を下した。


「なんとしてでも敵戦力を突き止めよ」


 こうして、彼の部下がまた三騎駆けてゆき、そして同じく戻らなかった。

 ここに来てまたしても、彼は中央にお伺いを立てることにする。

 出過ぎても収容所送り、足らなくとも収容所送りなのだから。


『強行偵察を命ずる』


 彼は、その命令書の文字を穴が空くほど見つめると、命令ならば仕方がナイトばかりに、彼は覚悟を決めるのであった。

 そして彼は、残った全将兵に対し、完全武装を命じ、謎の集落に向けて一撃離脱の突撃を命じたのである。


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