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01 極光の候補者

 眼も眩むような閃光がほとばしった。

 とある家庭の居間である。

 続く地鳴りのような大きな音を耳した一家をよそに、子供が母親を呼ぶ。


「お母さん、テレビが壊れた」

「えー? 本当に壊れたの?」

「うん、どのチャンネルもね、同じ番組をやってるの」

「あら、本当ね……ちょっと、お父さん! そんなところに寝てないで、ちょっとテレビを見てよ!」

「朝からなんだよ、さっきの音は凄かったし、こっちは夜勤明けなんだぞ、貴重な休みなんだ。寝かしてくれよ」

「そんなこと知らないわよ。テレビが壊れたらしいの」

「……テレビが?」


大和大志(やまとたいし)。今、日本国は危機に瀕している。貴公の力が必要だ。力を貸してくれ!』


 画面を見れば、空中に浮かんだ男がいた。

 『やまと たいし』とデカデカと名前を書いてある衆議院選挙者候補のたすきを掛けた四十がらみの男である。

 そして、そんな彼と対となるように女がいた。

 男と語らう女は体の線を際立たせるレザースーツの上に前掛けを羽織り、腰紐で止めている。

 目も覚めるような美女だ。

 金髪の女の声は張りがあり、耳に心地よい。


『大和大志。我らタルガリア人は、卑弥呼(ひみこ)の末である貴公とだけ付き合うつもりだ』


「おかしいな。リモコンが壊れてるのかな?」

「本体のスイッチは横でしょ、お父さん」

「なんだよ、お前の方が機械に詳しいじゃないか」


台与(いよ)があちらの惑星で困っている。大和大志、どうか貴公の力で邪馬台(やまたい)国、ひいては日本国を救ってくれ。これよりワームホールをこの時空に固定する。大和大志。貴公のことは私、オールセアが逐次補佐するので、一緒に日本を救うぞ!』


『日本を救うのには異論は無い。宇宙人め! だけど、お前たちの好き勝手にはさせないぞ!』


 画像が一瞬だけ乱れた。

 しかし、テレビは依然として同じビデオを流し続けている。それはチャンネルをどう弄っても同じだった。


「いま、一瞬だけ違う映像になったな?」


大和大志(やまとたいし)。今、日本国は危機に瀕している。貴公の力が必要だ。力を貸してくれ!』


「でもお父さん、また同じ映像が流れてきたわよ?」

「テレビ局の方でわざとやっているんじゃないか?」


『大和大志。我らタルガリア人は、卑弥呼(ひみこ)の末である貴公とだけ付き合うつもりだ』


「こんな宣伝を?」

「ニュースだよ、選挙特番。この人、衆議院の候補者だろ?」


『同志台与(いよ)があちらの惑星で困っている。大和大志、どうか貴公の力で邪馬台(やまたい)国、ひいては日本国を救ってくれ』


「バカ言わないでよお父さん。ヤマトタイシ? こんな人、私知らないわ」

「お母さん、外を見て! 煙が出てる!」


『これよりワームホールをこの時空に固定する。大和大志。貴公のことは私、オールセアが逐次補佐するので、一緒に日本を救うぞ!』


「なによあの巨大なものは!」

「宇宙船だ……!」

「うわ、ビルに突き刺さってる!」


『日本を救うのには異論は無い。宇宙人め! だけど、お前たちの好き勝手にはさせないぞ!』


「あの形……まさか、このテレビの!」

「見てお父さん、お母さん、画面のあそこ!」

「どこよ」

「下の方! ここ!」


 小さな指が画面の隅を指す。


「選挙カーが大破して……まさか、この人助かったんだ!」

「じゃあ、この人が話しているのは本物の……本物の宇宙人!」

「この映像は宇宙人が流してるんだ!」


 ──この日、テレビ、ラジオはタルガリア人を名乗る宇宙人に電波ジャックされた。

 そしてネットは、宇宙人と会話をしていた、この大和大志という無名の選挙候補者と、幾何学的な形をした宇宙からの巨大な飛来物に関する動画と話題で沸騰していたのである。




 ◇




『●●県第六選挙区は、事前電話調査での一位、民政党推薦 田辺俊彦氏。二位、自友党推薦 音貝明氏。そして三位、社会共産党推薦 待原朋宏氏。他三名の立候補者によって争われています』


 テレビで顔写真どころか、名前すら紹介してもらえない。

 泡沫候補。そう言われても仕方が無い。

 大和大志、四十五歳、独身、元会社員。

 衆議院議員に立候補した候補者である。


 大志は氷河期で苦しんでいる友人たちをたくさん見て来た。

 大志は常日頃、彼らのことを思い、自分のことのように心を痛めていた。

 自分が動いたところでなんになる、そういった思いもあった。

 だが、それでもなお、大志は彼らを見捨てることが出来なかった。


 ──彼らを救わねばならない!


 思い立てば行動は早かった。

 気づけば大志は貯金をはたいて衆議院選挙に立候補していたのである。


 駅前広場で大志は今、レンタルした選挙カーの上に載って演説をしていた。

 選挙戦、大志は手弁当で選挙を展開している。無謀だった。無謀の極みだった。

 ポスターを貼るのも自前、こうして選挙戦終盤の金曜日、朝一番から駅前で街頭演説をしても誰も立ち止まってはくれず、そそくさと足を進める者多し。


「この日本を改革したい、この大和大志を、どうか国政に送り出して下さ──!」


 大志の声に日本国民は足を止めない。

 だがしかし、大志が声を一層張り上げた瞬間、とんでも無いものが足を止めたのである。


 ズドォオオオオオオオオオオオ!


 轟音とともに地が揺れた。千切れ飛ぶ電線、めくれ上がる路面、膨れ上がる土砂。

 選挙カーごと吹き飛ばされ、大志は宙に浮いたのである。


 繰り返すが大和大志、四十五歳。

 思えば儚き一生だった。

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