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グラデニア戦記(仮題)  作者: K33Limited
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008 ウーナの騎馬隊1

 州都ペテルクラシコへ続く街道上、ウーナらは州軍の出迎えを受けた。

 開拓使副官は先方の指揮官と何やら話を済ませて、ウーナの下へやって来た。


「いや、一時はどうなる事かと思ったが、何とか州軍に預ける事が出来た。それで、君たちについてだが、今後は賊討伐の軍と行動を共にするようご指示を頂いた」

「賊討伐ですか」

「うむ、今街道の脇に控えている部隊がそうだ。行って挨拶をして来ると良い」


 難民の波が進むにつれ、街道沿いに一千の軍隊が現れた。ポーラノーラの旗を立てた騎馬とかちの混成部隊だ。それとは別に五十名ばかりの女性兵士部隊が北へ移動を始める。北洋神殿に預けた女性たちを迎えに行くのだろう。


「承知しました。ところで、自警団から目ぼしい者を選んだのですが、それはこのまま連れて行っても?」

「まぁ構わんだろう。村では見分もするそうだから、着任したての君たちだけより、寧ろ都合が良い筈だ。こちらは州軍が付くのだし、心配はない」


 ウーナは副官との縁が切れたと、清々した思いで討伐隊に近づいて行った。

 ポーラノーラの軍は最辺境故に規模も最小だったが、装備は都市軍らしく統一感のある、きちんとした物だった。


「ウーナ、ジャム」

「あら、父上」

「お父様」


 しばらく振りの声に、二人は駒脚を速めて鞍を寄せた。

 先月ポーラノーラへ赴任した筈の父が、ペテルクラシコからやって来るとは、二人にしてみれば意外な事だ。

 アルヴァーは使い古した鎧の上から、皆と同じ、白地に青く懸け帯のラインを染めた上張り(コート)を着けて、家での印象とは随分と違って見えた。


「父上が討伐部隊を率いているの?」

「そうだ。二人は当面俺の部下という事になるな」

「お父様と一緒なら安心です」

「そうだろうそうだろう」


 アルヴァーは我が子らしい反応のジャムに嬉しそうに答えた。


「父上は何故ペテルクラシコに? この数ならポーラノーラの兵の半数になるのでは?」

「それはだな――」


 アルヴァーは部隊を動かして、道々、娘たちに事情を語った。

 先に移動を始めていた女性兵士部隊をゆっくりと追い抜いて行く。


「デイバーエンドで反乱? それでノルデンフリアの兵を出すと言うのは良く分からないわね」


 寝耳に水の話に、ウーナは軽く眉を顰めた。


「サイレンの北部は平和だからな。万一の飛び火を避けて、隣接する州からではなく、ノルデンフリアが選ばれたんだろう」

「兵糧の無駄遣いだわ。大将軍不在とは言え、ウィンターゲートには万からの兵がいるのだし、デイバーエンドなんかドレッドキープの軍と挟み撃ちにすれば十分でしょう」

「でもウーナ。ドレッドキープもアグ姉様が中央に出てるから、どっちも代理の指揮官になっちゃう」


 ジャムの意見に、ウーナはそれもそうかと頷いた。それにしても、中央はもう少し、昨今の食糧事情というものを考慮するべきだとは思った。


 開拓村へ戻ると、早速見分が行われた。

 その結果、賊の規模は多く見積もって騎馬と徒それぞれ三百。計六百と推定され、西の山間部に逃走した事が分かった。

 ノルデンフリア州は東の沿岸部に人口集積の要衝が並び、内陸は西へ行くほど峻険な山々に覆われる。人里と言えば小さな村や集落が点在するばかりだ。

 痕跡を追って山間へと分け入れば悪路で道幅は狭く、難所が続いた。


 隘路の行軍中、アルヴァー・クレベルソンは鞍上に悩んでいた。

 上官であるヤコブの言に従えば、遠からず北は帝国と事を構える。

 ヤコブは半ば事成れりと言った口振りであったが、この手の大きな策謀が枝道のない楽な道程になるとは思い難かった。

 サイレン地方は他の地方と比べて中央戦争の影響も少なく、その分中央が力を残している。仮に中核州であるデイバーラントを抑えたとしても、その先は一体どう転ぶのか。

 アルヴァーは娘たちを想った。

 ウーナとジャム。このまま手元に置けば愛する二人は否応なく大きな戦に巻き込まれる。

 時代はそれを許すだろうが、親としては避け得るものなら避けたかった。


「……なら、いっそ遊軍にするか」


 敢えて遠ざける事で守れはしないか。そう考える。せめて緒戦の結果を見るまではそうすべきではないか、と。

 緒戦に先を占い、良しとなればその時こそ手元に置けばいい。


「ヘンネム、来てくれ」


 アルヴァーに呼ばれ、副官が素早く駒を横付けした。


「千騎長殿、何か」

「この任務を終えたら娘に遊軍を持たせようと思う。お前、それに付いて行ってはくれないか」


 そう言われて、ヘンネムは少し後方を来る上官の娘たちを見た。

 行軍中に何やら笑顔で話をしている。

 共に十四歳だと聞かされた時には耳を疑ったものだ。一方の養女がヘムネス人という事実にもまた興味を引かれた。


「承知しました。それで、行け、とは何処へでしょう?」

「今その辺りの考えを纏めている所だ。一旦、ルペラニカ州に入らせるのが良いだろうとは思う。まぁ詳しくは後で話そう」



 アルヴァーの指揮する部隊は開拓村から一日半を経て、二つめの集落に賊を発見した。

 酒盛りをする賊を包囲して、容易く抵抗を打ち砕く。

 賊側に若干名の死者を出したが、残りは大人しく降参した。


「父上、馬が一頭も見当たらないわ」


 集落の一軒を借り上げた帷幕に入るなり、ウーナが告げた。


「そうみたいだな。さっき副官からも報告があった。連中の話だと騎馬の者たちはこの先の放棄された砦にいるようだ」

「なら話は簡単ね。さーっと行ってパーッとやっつけちゃいましょう」


 普段と変わらぬ娘の様子に思わず頬が緩む。それを誤魔化すように姿勢を変えて、アルヴァーは机に肘を着いた。


「いや、ここで迎え撃つ。連中は騎馬でここと砦とを往復して物資を運び込んでいる。だから、その内向こうからやって来る」

「あらまぁ、それこそ手間が掛からなくていいわ」

「それでだが、ウーナ」

「はい」

「今から降った賊を選抜して隊を編成しろ。賊の馬匹は二百ほどだそうだ。それをやるから二百人の騎馬隊を作るんだ」

「ポーラノーラの都市軍には編入しないの? 私、私兵は持てないわ。お金なんてないもの」

「遊軍として扱うから心配はない。手当はこっち持ちだ。二百を率いるお前は百騎長だぞ」


 それは悪くない話だな、とウーナは思った。

 開拓村で自警団を指揮してもせいぜいが百士長で、これは士卒でも担える職責だ。それに比べ百騎長は騎士以上の者に許される地位だった。

 軍に於いては騎馬とかちとでは天と地ほどに差が開く。

 歩兵の指揮は十士長から始まって万士長に至るが、万士長を務める者は準騎士に叙される。

 準騎士は土地の領有も世襲も許されない騎士だ。

 この準騎士が騎兵を指揮すると十騎長止まりなのだから、端的に数字を見ても実に百倍の差がそこに生じるのだ。


「承知しました。千騎長殿のお下知に従い、早速選抜に取り掛かります!」


 大仰に言って帷幕を出たウーナは、足早にジャムの所へと向かった。先刻の打算から、現金な足取りが素直に弾む。

 ウーナは既にジャムとハスミンに指示して、開拓村の自警団員から目ぼしい三十名を引き抜いていた。後は残る百七十を降った賊から選べはいい。


「ジャム、ハスミン! 賊の中から適当に見繕って連れて来て頂戴。若くて元気のある者を中心にねっ」

「あいあい! ピッチピチのを連れて来るよー」


 集落の広場に集められた賊を指してウーナは指示を下した。

 ハスミンは駆け出し、ジャムは事情を聞きに来る。

 ウーナは父アルヴァーの言葉通りに説明して、それからジャムにひとつ釘を刺した。


「ジャム貴女、今度はちゃんとしたのを選んできなさいよ。虫も殺せないような善人は兵としては役に立たないからね? 分かった?」

「んもぅ、分かったってば」


 ジャムは軽く口先を尖らせて、拗ねた素振りでハスミンの後を追った。

 何の話か。それは自警団の選抜をした時の事だ。

 ハスミンは中々の目利きで、連れて来た者は体格、技量、経験、どこかしら見るべき点があった。ところがジャムは、如何にも人の良さそうなのを連れて来るばかりで、半分も採用に至らなかったのだ。

 ウーナはジャムらしいな、と微笑ましさを感じながらも、躊躇なく不採用を言い渡した。その時のジャムのしょぼくれた顔と言ったら。

 ウーナは思い返す度に笑いを漏らし、ジャムはそれが気に食わぬとばかりに拗ねて見せるのだ。


 ウーナは二人が連れて来る者たちの面接に追われた。

 四百人近い群れの中からぞろぞろと蟻の行列が出来上がって行く。

 当然時間はかかった。そうこうする間に父が放った斥候が戻ったらしく、集落の外縁に迎撃の陣形が配されて行った。

 山間の林道から出てきた所を一斉に囲い込む構えだ。そこからも選抜すると考えれば、徒組から多くを選ぶ必要もない。ウーナはそう考えて選考に取り組んだ。


「名前と年齢、以前に何か仕事をしていたならそれも言って頂戴」

「カール・ヴィーバリです。歳は十六、です。前は、えっと、猟師を、してました」

「猟師ね。腕前は?」

「どうかな。そこそこ? いや、まあまあ、かも」


 ひょろっとした少年は締まりのない受け答えをした。

 見た目は猟師に似つかず、このご時世に随分となよなよしい印象だ。


「あの、ハスミンさんが、目が良ければ雇うって」

「あらそう。で、目はいいの?」

「はい、かなり、かな? 夜目も、人よりは、多分」


 夜目と聞いてウーナはジャムのそれを思い浮かべた。ヘムネス人の特徴らしく、ジャムは月のない夜でも良く物を見分ける。子供の頃は、自分には見えないものを見て取る不思議に、いたく感動したものだった。


「そうなのね。カール貴方、馬には乗れる? 病気や大きな怪我をした事はない? そもそも人を的にして矢を放てるのかしら?」

「あ、はい。馬、はい。病気はないです。怪我とかも。人は……村で、撃ちました」


 カールは右手の震えを握った拳に抑え込んだ。

 ウーナはその様子に関心を示した。カールが見た目よりも強い心を持っていると感じたのだ。

 ウーナは選抜に当たっては経験よりも若さを重視した。

 賊に落ちるには境遇という要素が大きい。自立も覚束ない若者なら尚更だ。

 無論、年長者にも境遇はある。だが、厳しい言い方をすれば賊の身を良しとした大人だ。そういう者はどこかで心が負けている。心の負けた者の経験にはとかく錆が浮くものだ。

 対して若さは、乏しい経験を補って余りある吸収力と伸びしろがある。精神面、体格、技能、経験。ウーナはそれらのどこかに軍隊向きの素養がある若者を積極的に採用した。


「次も、やれるのかしら?」

「……敵なら、はい。戦わない人たちは、二度と撃ちたくはない、です」

「そうね。いいわ、採用しましょう。貴方、取り敢えずハスミンの下に付きなさい」


 次の者が来たタイミングで戦闘が始まった。

 また数人の賊が死ぬだろう。馬も何頭かは駄目になるかもしれない。けれどウーナはその事を無視して面接を続けた。

 採用。不採用。戦いの喧騒をバックにテキパキと断を下していく。

 ジャムもハスミンも自警団の時のように結果を見届けている暇はなかった。


「キム・エクレフ、十七歳。石工です。あ、でした、になるのかな」


 ずんぐりとしているが、がっしりと体格の良い少年だ。


「石工なら力持ちよね? ツルハシとか大きなトンカチを使うんでしょう?」

「はい。取り上げられたけど、大槌ハンマーを持って来てました」

「それを使って開拓村の人たちに攻撃を?」

「いえ、一人も。僕は倉を破る方に回されたので」

「なるほど。ちょっと力こぶを作ってみて頂戴」

「え? こ、こうかな?」


 利き腕に力を込めて折り曲げる。

 ウーナは元の太さの五割増しになった腕を見て満足した。


「で、戦える? 馬にも乗って貰うわよ」

「何度か乗った事はあるので。それにロバを世話してたから、馬とも仲良くやれると思う。戦うのは覚悟してます」

「いいでしょう。宜しく頼むわね」


 やがて今し方捕らわれた騎馬組からの選抜が始まった。が、所詮は賊という事だろう。期待とは裏腹に徒組と余り差が見られなかった。

 軍人崩れも確かにいたが、片手や片目が無かったり、歳が行き過ぎていたりで、ジャムとハスミンが前もって弾いていた。


「お前が隊長? まるっきり子供じゃねーか」

「名前、年齢、以前の職。同じ事を二度言わせない」

「お、肝は据わってんな。俺はシクステン・ランツ。シクスでいーよぉ。歳は今年で二十六だったかな。ドレッドキープの辺りで従士をやってた」


 こうした手合いはざらなのでウーナもすっかり慣れてしまった。

 シクスは痩せてはいるがフリア人らしい上背で筋肉も申し分ない。

 板金胴ブレストプレートなど着けて如何にも戦える雰囲気だ。ただ、酒と垢の匂いが強烈に鼻を突いた。


「ドレッドキープ? ドレイファスのお膝元じゃないの」

「いや、俺のご主人様はしがない雇われ騎士だったもんでね」

「そのご主人様はどうしたの? はぐれでもしたの?」

「いや死んだ。余所の騎士と酒場で張り合って、いざ野試合になったら打ち所が悪くてあっさりポックリあの世行きだ。参ったね。で、使えそうな装備を頂いて、そこらをふらついてた。そしたらいつの間にやら賊の仲間入りだよ。何やってんだ俺?」

「それを私に聞いてどうするの」

「ホントそれな。けど腕には自信あるぜ? 向こうに溜まってんのがお仲間になる連中だろ? ひよっこばっかじゃねぇのぉ? 俺に鍛えさせて見なよ。一端のにしてやっからさぁ」

「まぁいいわ。でも条件があるの」

「条件だぁ?」

「今すぐ水場へ行って頭から何から奇麗さっぱり洗ってきなさいっ」


 そうこうして、ウーナが選抜者リストを仕上げた頃には、谷間の寒村に夕闇が迫っていた。

 ウーナはリストの控えを取って、報告と共に父アルヴァーに一部を手渡した。

 副長は二名。ジャムと、今一人は騎兵の心得があるシクスを選び、ハスミンには斥候班のリーダーを任せる事にした。


「了解だ。弾かれた者たちはこちらで引き受ける。どうだ、使えそうか?」

「正直言って、半数はマシなのを選ぶしかない状況だったわ」

「そうか。まぁ初めての部下になるんだ。大事にしてやれ」

「勿論よ」

「それと相談役として一人、ウーナの隊に回そう。後でそっちに行かせる」

「? それは今から別行動をしろという意味?」


 遊軍とは言われたが早々に別行動なのだろうか、とウーナは驚きこそしなかったが訝しんだ。何しろこんな山中である。後ろでは副長に任じられたジャムとシクスが耳をそばだてており、やはり気になっている様子だった。


「そうだ。ウーナは先ずこの先の砦へ行って必要なだけ物資を取る。取ったらそのまま山間伝いにルペールを目指して貰う」


 ルペールは今いるノルデンフリア州と隣合うルペラニカ州の要衝だ。

 距離はおよそ二〇〇キロ。山間を行くとなれば例え馬でも六日から七日はかかるだろう。何しろ道が険しかった。


「ルペールを出たらドレッドキープ。次いでデイバーエンドへ向かってくれ。そこで反乱軍の動静をつぶさに探って貰いたい。幸い賊を編成した部隊だ。向こうの目に止まっても都市軍とは思われないだろう。だからと言って油断はしないようにな」

「勿論よ。任せて頂戴。父上の方はどうするの?」

「こちらはケンタリオ州を通過してデイバーリーチに入る。そこで連合都市軍を編成して、デイバーエンドへ向かう事になるだろう」


 デイバーエンドは中核州デイバーラントの北の要衝だ。数ヶ月前、そこで中央戦争以降、北地では初めてとなる反旗が翻った。

 これまでサイレン地方では散発的な農民の蜂起があるばかりで、まっとうな兵力を率いての造反はミストラ地方やスピナス地方に限られていた。それがついに、という事になる。


 反乱の首謀者はヘンリク・ルンデゴート男爵。

 男爵は大将軍オットー・グリーデマン伯爵を領袖とする派閥の旗持ちであり、別段、中央の注意を引くような人物ではなかった。

 ところが、伯爵が中央の招請に応じると、これを中央の犬と誹謗し、派閥の切り崩しに乗り出したのだ。

 後に帝都に出てバルタン地方の勢力と密談の場を持った折には、あわや衛兵に捕らわれるかの騒ぎにもなっている。


 デイバーエンドは僻地にあって一帯の人口も少なく、配備されている都市軍も五千と少ない。対する男爵の兵は八千とこれを上回っていた。

 主城を奪われたデイバーエンド軍は、川伝いに下ってデイバーリーチの軍と合流。現在、川上に反乱軍、川下に二つの都市軍とか睨み合う格好に収まっている。

 男爵の下には近隣から山賊紛いの集団が集まり始め、農民も呼応して蜂起が相次いでいると言う。

 これに対し中央は、ほぼ火の手が上がっていないノルデンフリア州からの兵力動員を決定。短期決戦を目論み、州軍の半数となる一万五千を戦線に加えるとした。


「デイバーリーチの兵力は大きいが、元々半数を大将軍不在の州都に回している。手元には六千程度だそうだ。これにデイバーエンドの五千を合わせて一万一千。そこに我々が加わって一軍と成し、準備が整い次第デイバーエンドへ進軍する」


 シクスが「でかい戦だな」と口笛を鳴らした。

 二つの州から成る、ざっと二万六千の軍勢が、その後も膨れて一万は下らないかという反乱軍とぶつかる。確かに、北地では十年遡っても聞かない規模だった。


「私の隊はその為の下調べ、と言う事になる訳ね」

「そうだ。要の役割だぞ」


 ウーナは黙って頷いた。

 大兵は動きが鈍い。それが二つの州から成る軍であれば、足並みを揃えるにも時を要する。

 戦端が開かれるのは六月以降だろうか。そう考えて、ウーナは任務に費やす時間は十分にあると判断した。


「それでは父上、いえ、千騎長殿。私は早速支度に取り掛かります。何しろ馬に乗った事がないという者もおりますので」

「そうか。ウーナ」

「はい?」

「何事も気を引き締めてかかれよ。ジャムも、しっかり頼むぞ」

「はい、千騎長殿」


 二人を送り出すアルヴァーの目は、騎士のそれから父親のそれへと変わっていた。


 アルヴァーは表向き、娘を反乱軍の喉元に向かわせる指示を出したが、実際の戦闘は先ずデイバーリーチで起こるのだ。

 中央が配する各都市軍は、兵の二割から三割が現地徴用になる。

 二万六千がデイバーリーチに集えば、その内の約七千がフリア人兵士になった。

 彼らが膨れ上がった軍を内側から突き崩し、その混乱をルンデゴート男爵が集めた万の兵で追い討つ。これが造反計画の第一段階だ。

 大将軍府のあるウィンターランドは州都である以前に地方首都でもある。その喉元にあるデイバーリーチを陥とせば、日和見の諸侯も動き出す。中にはデイバリーチの陥落を条件に既に兵を揃えている者すらいた。


 アルヴァーの下を辞したウーナは、新編の隊員たちの所へ戻り、そこで話に出た相談役であろう騎士と対面した。

 騎士はヘンネム・ハスローと名乗った。歳は三十手前といった辺りだろうか。ウーナが十四歳だから、倍近くになる。

 ヘンネムは準騎士で、父の上官である都督ヤコブ・オスカリウスの従士上がりだそうだった。

 ヤコブは父の友人でもあったので、ウーナもジャムも面識があった。


「父上から話は聞いてるわ。よろしく。ただ、何を相談すべきなのかしら?」


 問えば何でもと答えるので、ウーナはしばし考えて、ならばと騎乗講座を開いて貰う事にした。

 隊には馬に乗れない者、乗った事がない者がざっと三十名はいた。そこに経験の浅い者も加えると、ほぼ半数が講座参加者という有様。これにはさすがのウーナも頭痛を覚えずにはいられなかった。

地図等

https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=75065318

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