2話
「チャン様、チャン様、一大事です」
眠りについて間もないというのに勇者チャンは肩を揺さぶられた
「ん、な、なんだ、一体・・」
昨夜も店を貸し切りにしての酒池肉林状態で、明け方まで大騒ぎしていて、ついさっき寝始めたばかりだ
「チャン様!街は大騒ぎです」
さすがの勇者と言えども寝不足と二日酔いで頭がガンガンする
「どうしたんだ一体」
最近雇った家政婦が慌てた表情をしている。最近辞めさせたばかりの家政婦の代わりに、国から派遣してもらった最高ランクの女だ
「街にビラが溢れかえっています!チャン様の事を書かれた記事です!」
体を起こして訳が分からないままにそのビラを受け取る。なんだこの安っぽいビラは。ドギツイ程に原色で塗られていて気分が悪い
<勇者チャン 皮かぶり!短小!早漏!の三重殺>
<勇者チャン 2日前の深夜泥酔状態で脱糞お漏らし>
<勇者チャン マザコン!なにかあるとすぐお母さんに相談していた>
<勇者チャン 3日前家政婦に上から目線でアプローチするも即フラれ仕返しにクビにする>
<勇者チャン 国王をネタに「無能で禿でデブで能無しで口臭いー」という歌を作る>
<勇者チャン 王妃と王女にオークの金玉というあだ名をつける>
「な、、、、、、なな、、なんだこれは」
大きく印字された衝撃的な見出しの後に小さな字で、それについての詳細な記事が書かれている。そして一番問題なのは記事に身に覚えがありすぎるという事だ
三重殺については普通だと自分に言い聞かせてはいるものの、勇者となった今でも一番のコンプレックスだ。
お母さんを大切にすることは良い事だし、自信がなくなった時とか物事を判断しなければいけない時にはすごくいいアドバイスをくれる。ご飯も美味しいし部屋の掃除だってしてくれる、洋服もお母さんに任せておけば心配ない
二日前、急に腹が痛くなりトイレに行こうとしたが、泥酔していて我慢できずに漏らしてしまった。そして証拠を隠滅するためにパンツを川に投げ捨てた記憶がある。
家政婦の女はこの俺が誘ってやったのにあっさり断りやがって、腹が立ったからクビにした。
国王が無能で禿でデブの能無しで口が臭いのは誰でも知ってる事実だ。
王妃と王女は性格が最悪で細かいことをいちいち偉そうに注意してくるムカつく奴らだし、べったりと化粧を塗りたくったサルみたいな顔だから、オークの金玉というあだ名をつけた。キャバクラで大うけした最高傑作のあだ名
「これだけではありません。種類の違うビラが街中にバラまかれています」
「街中に?しかも他の記事もあるのか!?」
寝巻のままで外に飛び出すとそこには、街を埋め尽くすほどに大量のビラが撒かれていて、人々はそれを手に取って読んでいる
「あ!出てきたぞ!勇者チャンだ!!」
「ギャハハハハハ三重殺のお出ましだ!」
「みんな見ろよ脱糞勇者だ!!」
「勇者チャン!あなたは最低です!」
こちらを一目見るなり住人が大騒ぎした。
おそらくこいつらは記事を読んで、俺の顔を見ようとわざわざ家に来たのだ、暇人がクソうっとおしい。この馬鹿の大騒ぎを見て近くの奴らが集まってくる気配がしたので、慌てて扉を閉め家に戻る
「だれが一体こんなことを!」
怒りに震える勇者チャンは拳を握りしめた。誰だこんなことをしたのは絶対に許してはおけない
(なんで知ってるんだ)
それが一番の疑問だ
でっちあげの内容ならともなく、すべて身に覚えがある。一体、何故知っているのかというところだ。しかも、これらは違う日に違う場所で起こっていることで、全ての時に同じ場にいないと知らないはずだ
「国王に犯人を処刑するように伝えろ!」
人類の頂点に位置する自分は貴族と同等の身分を国から与えられている。こんなことをするのは重罪だ、今すぐに報いを受けさせなければならない
「国王様からはこの記事について説明するように通達が来ています。王妃様と王女様からもです」
「クソ!血筋だけで王になった無能の豚が偉そうに!!」
激高のあまり本心が口から出たことにすら気づいていない
あの無能は自分の事を悪く言ってるのが気に入らないのだろう。実際只の事実であるのにだ。それに今はあいつのご機嫌を取ってる暇はない、今すぐにビラを処分し犯人を見つけ出しこの手で痛めつけることが重要だ
「国王は放っておいていい、俺の部隊に犯人を捜させろ」
勇者チャンは自身の専属部隊を招集した。なんとしてでも犯人を突き止め誰に喧嘩を売ったのかを身をもってわからせる、その決意だった