13話
「テンスター国から撤退する」
南野 緑田は天頂会議の場で宣言した。
この場は緑田と配下のトップが集う会議であり、総勢100人ほどが参加している。性別も年齢も種族すらも様々だが、ただ一点、南野を君主とするその忠誠心だけは同じだ
ザワザワザワ
「マジかよ緑田!」
配下たちがざわめく中、獣人少女のリフアが声を上げた。彼女は考え無しではあるが的確に皆の言いたいこと、疑問をはっきりと発言するので、他の配下から妙に重宝がられている
ちなみに昨日は風呂場で、南野の背中を力いっぱい擦りすぎて怒られているが、ちっとも反省していない
配下の中にはテンスター国で生まれ育った者たちも多く、家族や友人もこの国に住んでいる。南野の意見に反する気持ちは少しもないが、困惑するのも当然だ
「今、勇者パーティーが黒龍討伐に向かった。奴らは惨敗する、それは確実だ。生きて帰ってきたとしてもただでは済まないだろう」
ザワザワザワザワ・・・・・・・・・・・・・
それは黒龍が勇者パーティーよりもはるかに強いということを意味する言葉。
「さらに、勇者を失い、聖剣を失ったテンスター国は軍事の中枢を失い、徐々に衰退していくことは明らかだ。だから撤退する。」
「よく分かんないけどテンスター国はダメってことだな」
「そうだ」
ざっくりとしたリフアの発言ではあるが、全員が意図は理解できた
「それともう一つ言っておく、黒龍には手を出すな。そして黒龍は最近「チームスキル飯」とかいう3人組のチームを組んでいるからその仲間にも手を出すな。人化で人間の姿をしている時もあるから注意するように」
「そんなに強いのか?黒龍って、一回戦ってみたいな」
同じ意見のものもその場には多くいた。
勇者。戦闘に特化した者たちにとって脅威とは言えないほどの力の持ち主。だが一応は勇者である。どうやら黒龍はそれよりもはるかに強いらしい。
力を試してみたい。そう思うものも多かった。
「それは禁止する。奴は化物だが知性は高い、放っておけば問題ないはずだ」
「禁止かよ、よっぽどやばいんだな黒龍って」
「強い。現在、世界最強ランクだ。絶対に手を出すな。わざわざそんな馬鹿な真似をする必要はない」
気持ちを切り替える。南野のその言葉に逆らおうとする者はいなかった。
「そんじゃあこの国を出たらどこに行くんスか?」
レッドシューズが脱線した話を戻すためにあえて発言した
「ライジング国だ。ライジング国国王は史上最高の王と言われる有能な王が統括する国だ。今後ますます発展するだろう」
「へー、その王様そんなにスゲェのか」
「それだけじゃ無い。そんな王を慕って複数の異世界転移者、こちらでいうところの落とし子がライジング国に集まってきている」
「「「!!!!!!!!!!!」」」
場に緊張が走った
落とし子。
それは世界の変革者とも言われる。
落とし子の力は果てしなく大きい、かつて世界の三分の一の人間を殺したと言われる魔王を討伐したのも落とし子なのだ。しかもそれが複数というのは前代未聞だ
世間では伝説の域を出ない存在ではあるが、配下たちは身をもって知っているのだ、落とし子の力を。
なにせ自分たちの君主がその落とし子なのだ。その力は傍にいる自分たちが一番よく分かっていた。たとえ戦闘型でないにしても、その力は強力極まりない。
そしてライジング国という国は近年急速に発展していて、奴隷制度の廃止や獣人に対する差別の撤廃にも力を注いでいる世界から注目されている国だ。だから、元々奴隷であったものや、獣人の配下は好感を持っている
「そいつらは俺と同郷の者だ。王と落とし子の人間性を調査したが、それほど問題のある奴はいなかった。だからライジング国に行く」
「それほど?それほどってなんだよ」
南野が言い淀んだ。
「同郷の悪口は言いたくない。だから、気になる奴は自分で確かめてくれ」
南野の持っている情報によれば、落とし子の一人はニートで食っちゃ寝生活しているオークに似た男。
それは生きるのですら厳しいこの世界では、元の世界以上に反感を買う可能性があるので言いたくなかった。そしてそれを的確についてくるリフアの勘の鋭さに冷や汗をかいた
「出立はいつですか?」
美しき家政婦サロメが声を上げた。出席者の机には、彼女が入れた紅茶の良い香りが漂っている。
「準備ができたものから随時だ。もちろん残りたい奴は残ってもかまわない」
南野の言葉に衝撃こそ受けたものの迷う素振りを見せたものは皆無であった。
彼らは全て南野が才能を見出し世界中から集めたものたちで、現在はそれぞれがこの世界で有数の特出した能力を有してはいるが最初は何もなかったのだ。
だからこそ彼らの忠誠心は絶対的な物がある。
それに南野の「全面開示」を使って得た情報が外れたことはただの一度もない。彼についていく事がこの厳しい世界を生き抜いていく最良の道であると確信しているのだ
「私達の身は常に君主と共にあります」
全員が総意を示すように力強くうなずき出国の準備に取り掛かった
〇●〇●〇●〇●〇●
「テンスター国から撤退する」
勇者チャンは自身を頂点とするパーティーのメンバーである大魔導士ソロ、大賢者ウケイ、バトルマスタープンの前で宣言した
「マジかよチャン!」
バトルマスターのプンが驚き声を上げた
「コリグレン国から我らを自国へスカウトしたいと話が来ている。このクソな国を見限ってそちらに行く」
「待て!いきなり何を言ってんだ。お前と国王の関係がぶっ壊れたからっつって、国を出ることはねえだろ」
大賢者ウケイはテンスター国で生まれ育った。勇者チャンの今回の騒動と自分とは無関係だ、自分はこの国で王のように振舞うんだ。俺の人生を勝手に決めるな。そう思っていた
「年に5億Gだ」
「「は?」」
「ウケイ、プン。お前たちにはそれだけの金を払うと言っている」
「マジかよ」
「5億」
2人が現在テンスター国からもらっている金は年に3千万G程度。桁違いの金に驚いた
「コリグレン国はお前らの事をそれだけ評価してるんだ。さらにそれぞれ豪邸と大貴族と同等の身分を用意する条件になってる。もちろんこの国に残るというなら止めはしない、どうする」
2人の愛国心が試させる時である
「行くに決まってるぜ!」
「俺もだ」
思った通りの素早い反応にチャンは苦笑いを浮かべた
勇者パーティーといえどもその権力も年収も大貴族に比べれば大したものではなく、彼らがそれを不満に思っていることは分かっていた。
そして、テンスター国に対する忠誠心が無いことも知っていた。コリグレン国はテンスター国に比べれば発展していないが、それを差し引いて考えてもこの条件は魅力的で、すぐに飛びついてくるだろうと思っていた
「情報屋の事はどうするつもりだ、まさかこのまま逃がすつもりじゃないだろうな」
浮かれる二人を後目に、大魔導士ソロが言った。彼は以前にこの話を聞いていて快諾していたので、驚くことは無かったし、今はむしろ情報屋に対する恨みを晴らすことが一番重要な事なのだ
「当たり前だ、あいつには生まれたことを後悔させてやる。だからコリグレン国に行くんだ」
「どういう事だ?」
勇者チャンの目には情報屋に対する強烈な憎しみが宿っている。それを見たソロはあれほど酷い目にあったにもかかわらず、心が折れていないチャンを頼もしく思った
「テンスター国には黒龍討伐の支度金1億Gと国宝のマジックアイテムを預かった。これを懸賞金にする」
「なるほど!」
「マジックアイテムを売り払い、情報屋に懸賞金を賭ける。おれの金も合わせれば奴の首には5億の値が付くってわけだ。そうすれば世界中の冒険者、傭兵、暗殺者が奴の敵になる。あいつの命はそれで終わりってことだ」
「6億だ。おれも1億出す」
勇者と大魔導士の顔には残虐な笑みが浮かんでいる
「速攻で出国の準備をして黒龍を殺しに行くぞ」
全員が総意を示すように頷いた
果たして勇者一行は無事黒龍を討伐することができるのだろうか?
それとも南野 緑田の言う通り惨敗してしまうのか
それはまた別の話
勇者チャンと黒龍の決闘については、
< 驕り高ぶったチート所持者に正義の鉄槌を下す!「チームスキル飯」 VS 勇者チャン >
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