11話
「あいつらったらよ、オークの糞尿で喋れなくなってやんの!」
「だーはっははっはーーー」
豪華屋敷に大笑いが響き渡る。
帰還した配下のレッドシューズは真っ先に南野 緑田の自室へと向かい今回の報告、というよりもむしろ、イジリまくって大笑いするために来ていた
「しかも案の定俺を攻撃してきやがってよ、ゴブリンの糞尿の罠をおかわりしてやがるんだよあいつら、ホント馬鹿だぜ。あんなクセエもんが大好物なんていかれてるぜ」
「「だーはははははははは!!!」」
散々馬鹿にして大笑いして、一息つくとレッドシューズは、袋から大きな宝玉が付いた真っ白な剣を取り出した
「アニキ、これがあいつの聖剣だ」
「ほう」
テンスター国最高ランクの国宝にして勇者の証である聖剣。受け取った南野が鞘から引き抜くが、聖剣はくすんだ鼠色の鈍ら以下にしか見えないものだった
「なんだそれ、本物か?」
「サロナ、持ってみろ」
南野から手渡された美しき家政婦サロナが持った途端、聖剣は圧倒的な輝きを帯びた。
その輝きは勇者チャンが持っていた時よりもはるかに光り輝いている。強力な魔力を帯び、持っているだけだというのに圧倒的な力が伝わってくる。本気で振るえばどれほどの威力になるのか想像もつかないほどだ
「え!?」
「急に光りやがった、これが聖剣か」
息を呑む。それほどに力のある剣だった。
「聖剣は勇者にしか使えないと言われているが実際は違う、一定の剣技の素質と攻撃に特化した特殊スキルを所持している者であればだれでも使えるんだ」
「ホエー、そんなら俺は無理そうだな」
「僕もやはり無理だったな」
南野とレッドシューズは特殊スキル所持者ではあるが共に実戦においては全く才能がない。
そんな淀んだ空気を和まそうとサロナが何か言おうとするが言葉が出てこない
「無理に励まそうとしなくていいよサロメ」
「はーサロメちゃんは格好いいなあー」
そんなサロメを見て2人は露骨にうらやましいそうな顔をした。
サロナは自ら望んで家政婦として働いているがその戦闘能力は戦闘専門の配下に引けを取ることはない。南野もレッドシューズも本心では戦闘に特化した能力が欲しいと思っているのだ
冗談のような雰囲気を出してはいるが冗談に思っていない。それを慌てるサロメの様子を見ることで紛らわしていた。
「あ、あの、、その・・・」
サロメは2人のノリについていけず、自分が空気を読めない行動をしたような気になった
「勇者フルボッコ作戦第二弾の発動はいつにするんスか?」
「そうとう痛めつけたし、聖剣も頂いたから向こうの出方次第では見逃してやってもいいな」
「南野様のお慈悲は海よりも深いですね」
サロメが南野をキラキラとした目で見ているがレッドシューズにはとても慈悲深いとは思えなかった。普通に考えればトラウマになっているだろう。自分が勇者の立場だったらと思うとゾッとする。
人に知られたくない秘密など誰にでもあるのだ。全世界に自分の醜聞を、それも、真実をばらまかれたら、とても生きていく自信がない。
作戦の中には当然、勇者の命を奪うものもある。しかし元来南野は殺しが好きではない、だからレッドシューズは、できれば勇者にはもうあきらめてもらいたいと思っていた
「ところでその聖剣はどうするんですか?アニキ」
「それなんだが、そろそろツナグの誕生日が近いからあいつにやろうかと思う」
「おーいいっすねーそれ、あいつ喜びますよ。武器マニアだし」
「料理人ですけどね」
ツナグは比較的昔から南野に使えていて、特殊スキルも持っている。しかし実戦よりも美味い料理を大量に作るほうが好きなのだ。
自分の作った料理を食べた仲間が、「腹がいっぱい過ぎてもう食えない」「まだまだ食いたいのに」という悔しそうな顔を見るのが大好きで、武器を眺めるのも大好きなやつだから、聖剣を手に入れたらきっと大喜びするだろう
「勇者はこれからどうするんスかねえ」
「手掛かりも無くなったことだし黒龍討伐にでも行くんじゃないか?」
「えっ本当にいるんスか黒龍って」
「死んだとの噂もありましたが最近姿が目撃されています」
二人とも噂でしか知らない怪物中の怪物。
「伝説の黒龍討伐の功績をもって今回の騒動を全てチャラにするつもりだろう」
「ほえーそうなんスか」
うまくいくもんかねえ、聖剣もないのに。
「だがそう上手くはいかない。勇者パーティーは惨敗するだろう」
バタン!!
2人が驚くのと同時、突然部屋のドアが開いて、むしろ蹴破られた
「リョクタ!!風呂の時間だぞ!背中を流しに来た」
茶色のツンツンヘアーの少女が突入してきた。彼女の頭には毛に覆われた耳があり、尻尾がニョニョニョロと動いている
「リフア!!ドアを蹴飛ばしてはいけません!」
突然開いたドアのせいで2倍驚いたサロナが注意する
「だって遅いんだもん!いいからリョクタ早くいくぞ!今日は私が背中を流す日なんだ!」
南野 緑田は配下に非常に慕われていて、入浴の際に背中を流すのは順番制になっているのだ
「今日はリフアか、お前痛いんだよな。もっと優しくこすれ」
「何言ってんだ!汚れはしっかり落としてピッカピカになるほうがいいにきまってるだろ!ほら!さっさといくぞ」
獣人少女に引っ張られるようにして部屋を出ていった緑田。
こんな姿を罠に嵌められている勇者が見たらますます怒り狂ってしまう光景であった
勇者チャン VS 黒龍は
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