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ウサギ部屋   作者: 水経
15/19

41日目

41日目?


「あー……やはり、か」

「え、何その反応……」

 彩人と想いを通わせたことを春生に話すと、深いため息を吐かれた。

 一週間前に私が気絶してしまってから会えていなかったため、春生が話したいと連絡をくれたのだ。

 折角なので、マンションから少し離れたカフェで話すことになったのだが……。

「昔から薄々気づいてたんだ、あのロリコン野郎……とうとうか、とうとう有朱に手を……!」

 彩人との話をしてから、春生はいつになく不機嫌だ。部活帰りだったため持っていた竹刀を、ケース越しに握りしめている。今にも振り出しそうで心配だ。

「その、昔からって……?」

 軋む竹刀を横目に、パフェのブラウニーを口に運ぶ。

「アイツ明らかお前のこと好きすぎだったろう。どこに行くにもついてくる、うちで遊んでいても必ずアイツが迎えに来る、それに……」

 間髪入れず喋り続ける春生に相槌を打ちつつ、パフェのアイスを削っていく。一方春生は、目の前の氷が溶けきったアイスティーを放ったままだ。

「……彩人は昔から面倒見がよかったんだね」

「そんな流暢な話ではないぞ? お前に依存しているレベルだったが……」

 それは私の方ではないだろうか。

「2人で暮らすと聞いて正直心配だった……だが、良かった」

 急に春生の口調が穏やかになった。スプーンを置いて顔を上げると、春生が珍しく微笑んでいる。切れ長の目は相変わらず鋭いが、いつもより緩んでいる気がした。

「アイツと一緒だと、お前がとても元気に見える。良い方向に回復しているみたいだ……その、時々起こる頭痛はまだ看過できないが」

「うん、彩人と一緒で幸せだよ。そうだね……頭痛は、最近また多くなってきてるけど」

 最後の1口をゆっくりと口に運び、飲み込んだ。喉から胸へ、冷たい感触が下りていく。

「……有朱、あれ……」

 春生の目が後ろの席を真っ直ぐに見ている。視線を追って身体ごと振り返ると、いくつかの席が目に入った。1人用の席で雑誌を読む若い女の人と、2人用の席で談笑する若いカップル。それからその後ろで新聞を広げてカウンター席にいる黒コートの男の人。

「え、何?」

 もう一度前に向き直ると、春生は首を横に振った。

「いや、気のせいだろう……何でもない。そろそろ出よう」

 この時は特に気にも留めなかった。

 カフェを出ると、空には鉛色の雲が広がっていた。ずっと晴れが続いていたのに。

「降りそうだ……送っていこう」

 春生は傘立てから深緑色の傘を抜き取った。

「ありがとう、いつも」

 並んで歩いていると、目の前をツバメが横切った。アスファルトのすぐ上を器用に飛んでいる。やはり、これから雨が降ってくるのだろうか。

「花屋だ」

「あれ、ほんとだ」

 春生が店先に立ち止まったことにより、私も自然と足を止めた。

 武術を愛する彼女だが、花も好むという意外な一面もある。小さい頃はよく花屋さんごっこをしていた。

「見ていく?」

「ああ、良いだろうか」

 少し照れている春生を見ると、心が和む。

「もちろん」

 確か、大体春生がお花屋さん役で私がお客さん役だった。小さな店内を見渡すと、私でも名前が分かる花が沢山ある。

 バラは他の花より少し値が張るようだ。春生が好きなのは……。

「あった、小さなヒマワリ」

「ヘリオプシス、だ。何度言っても忘れるんだな」

「だって、難しい名前なんだもの……」

 花にはあまり興味がなかった。そのせいか、何度聞いてもこの花の名前を忘れてしまう。

「あ……」

 白い花弁、鮮やかな緑の葉っぱを持つその花は、最近その名を思い出したものだった。××××が、深さのある黒いプランターに密集してささっていた。

 あのパンダ柄のウサギを死に至らしめた、美しい花。

 こんなにも普通に売っているのか。

 凛と咲いていた××××を数本、買って帰ることにした。

「珍しいこともあるものだな、有朱が花を買うとは……そういえば、××××は少し前にも買ってなかったか?」

 言われてみればそうだった。

「そうだね、気に入ったのかも」

 そうだ、帰ったら以前のように花瓶にさそう。さして、さして?


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