41日目
41日目?
「あー……やはり、か」
「え、何その反応……」
彩人と想いを通わせたことを春生に話すと、深いため息を吐かれた。
一週間前に私が気絶してしまってから会えていなかったため、春生が話したいと連絡をくれたのだ。
折角なので、マンションから少し離れたカフェで話すことになったのだが……。
「昔から薄々気づいてたんだ、あのロリコン野郎……とうとうか、とうとう有朱に手を……!」
彩人との話をしてから、春生はいつになく不機嫌だ。部活帰りだったため持っていた竹刀を、ケース越しに握りしめている。今にも振り出しそうで心配だ。
「その、昔からって……?」
軋む竹刀を横目に、パフェのブラウニーを口に運ぶ。
「アイツ明らかお前のこと好きすぎだったろう。どこに行くにもついてくる、うちで遊んでいても必ずアイツが迎えに来る、それに……」
間髪入れず喋り続ける春生に相槌を打ちつつ、パフェのアイスを削っていく。一方春生は、目の前の氷が溶けきったアイスティーを放ったままだ。
「……彩人は昔から面倒見がよかったんだね」
「そんな流暢な話ではないぞ? お前に依存しているレベルだったが……」
それは私の方ではないだろうか。
「2人で暮らすと聞いて正直心配だった……だが、良かった」
急に春生の口調が穏やかになった。スプーンを置いて顔を上げると、春生が珍しく微笑んでいる。切れ長の目は相変わらず鋭いが、いつもより緩んでいる気がした。
「アイツと一緒だと、お前がとても元気に見える。良い方向に回復しているみたいだ……その、時々起こる頭痛はまだ看過できないが」
「うん、彩人と一緒で幸せだよ。そうだね……頭痛は、最近また多くなってきてるけど」
最後の1口をゆっくりと口に運び、飲み込んだ。喉から胸へ、冷たい感触が下りていく。
「……有朱、あれ……」
春生の目が後ろの席を真っ直ぐに見ている。視線を追って身体ごと振り返ると、いくつかの席が目に入った。1人用の席で雑誌を読む若い女の人と、2人用の席で談笑する若いカップル。それからその後ろで新聞を広げてカウンター席にいる黒コートの男の人。
「え、何?」
もう一度前に向き直ると、春生は首を横に振った。
「いや、気のせいだろう……何でもない。そろそろ出よう」
この時は特に気にも留めなかった。
カフェを出ると、空には鉛色の雲が広がっていた。ずっと晴れが続いていたのに。
「降りそうだ……送っていこう」
春生は傘立てから深緑色の傘を抜き取った。
「ありがとう、いつも」
並んで歩いていると、目の前をツバメが横切った。アスファルトのすぐ上を器用に飛んでいる。やはり、これから雨が降ってくるのだろうか。
「花屋だ」
「あれ、ほんとだ」
春生が店先に立ち止まったことにより、私も自然と足を止めた。
武術を愛する彼女だが、花も好むという意外な一面もある。小さい頃はよく花屋さんごっこをしていた。
「見ていく?」
「ああ、良いだろうか」
少し照れている春生を見ると、心が和む。
「もちろん」
確か、大体春生がお花屋さん役で私がお客さん役だった。小さな店内を見渡すと、私でも名前が分かる花が沢山ある。
バラは他の花より少し値が張るようだ。春生が好きなのは……。
「あった、小さなヒマワリ」
「ヘリオプシス、だ。何度言っても忘れるんだな」
「だって、難しい名前なんだもの……」
花にはあまり興味がなかった。そのせいか、何度聞いてもこの花の名前を忘れてしまう。
「あ……」
白い花弁、鮮やかな緑の葉っぱを持つその花は、最近その名を思い出したものだった。××××が、深さのある黒いプランターに密集してささっていた。
あのパンダ柄のウサギを死に至らしめた、美しい花。
こんなにも普通に売っているのか。
凛と咲いていた××××を数本、買って帰ることにした。
「珍しいこともあるものだな、有朱が花を買うとは……そういえば、××××は少し前にも買ってなかったか?」
言われてみればそうだった。
「そうだね、気に入ったのかも」
そうだ、帰ったら以前のように花瓶にさそう。さして、さして?




