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(仮)王国の軌跡  作者: しると
4/6

4話



 目を覚ますと体中に激痛が走る。


 「くっ……」


 地面の冷たい感触が気分をさらに悪くさせる。


 やっとのことで体を起こし周囲を確認するが、真っ暗闇の空間が広がるばかりで自分がどこにいるかすら分からない。

 最後の記憶ではエレーナと対峙していたはずだ。これは夢なのか? 先程あったことは現実ではなかったのだろうか。心身共に疲れ切った状態では僅かな希望に縋るしかない。だが既に答えは出ている、自分自身の怪我が一番現状を正しく理解することができることを。


 少しばかり時間が経ち、段々と暗闇に目が慣れてきて分かったことだがこの部屋には物が一切ない。そしてまず間違いなく自分の知らない場所であること。そして部屋の内装が現代と大きく違うことからしてここは昔に作られた場所の可能性が高いこと。


 心を落ち着かせるために一度深呼吸をする。


 「ゆっくり動くのが精一杯か……」


 すぐに治るような怪我ではないため回復にもある程度の時間を要する。

 部屋の出口を探すと後ろに扉を見つけた。ノアは地べたを這うようにして扉まで進み、なんとか取手に手をかけるとゆっくりと開けていく。

 扉の先は薄暗く、人一人が通れるだけの幅しかない通路。どれだけの距離があるか判断できず、安全の保証もないがここは進むしかないだろう。

 あの部屋で体力の回復をしてから行動しても良かったが、出血が酷いため最悪の事態を考え行動することにした。


 壁を支えにして立ち上がるとゆっくりと歩き出す。


 「それにしてもこの首飾りのせいなのか?」


 そもそもこの場にいるのは十中八九首飾りのせいだろう。父上から貰ったこの首飾りは見かけが綺麗なだけの装飾品ではないみたいだ。今までこのようにどこかに強制転移したことはない。ひょっとすると、発動条件がありそれが満たされたことでここに飛ばされたと仮定するのがいいだろう。

首飾りに対する疑問が解けないままだが、とりあえずは怪我の治療と信頼のできる従者たちと合流することだ。


 それにしても、弟であるロアとエレーナが手を組んでいたのは意外だった。エレーナはロアが苦手なようで自分から近づくことはなく、ロアから喋りかけられてもあまり会話が続くことはなかったはずだ。側から見てもエレーナがロアを避けていたのは分かりやすかった。


 「それもこれも演技だったのならまだ納得はできなくとも理解はできたんだがな……」


 ここに飛ばされる前の会話でこれまでの気持ちは嘘ではない、と本人から直接聞いている。あの状況で嘘をつく必要性もないためエレーナの本心なのだろう。


 どれだけ歩いたのか分からないがやがて新たな扉が視界に入ってきた。


 「はぁ……はぁ……」

 

 怪我の上に無理に行動したため体力が限界に近い。僅かな希望を抱きながら扉を開けると、通路とは違い完全な真っ暗闇に包まれた部屋だった。

 心が挫けそうになるがなんとか足を一歩踏み出すと、突然明かりが点く。


 「っ!」


 暗闇から急に明るくなったため目を開けるのが辛い。

 僅かの間、ゆっくりと目を開けると見たこともない物が乱雑に置かれていた。見たところ高価な物と見受けられるがこうも扱いが適当だと、自分の考察に自信がなくなりそうになる。


 どんな物か調べるために身近にあった、拳一つ分ほどの大きさの石? を手に取る。一見ただの石のようにしか見えないがこれも価値あるものかもしれない。すると、突然手元から緑色の淡い光が身体を駆け巡った。


 「今のは……」


 緑色の光からは何故だか嫌な感じがなく、むしろ身体が少し楽になったような気もするが、少し吐き気がでてきたため気のせいのようだ。


 「本?」


 下になっていて気付かなくなったがどうやら下に本が置いてある。表紙には"魔道具(レガシー)一覧"と書かれている。


 「あれ……なんでこの文字が読めるんだ……」


 見たこともない文字のはずがなぜか読めてしまう。

 不思議に思いながらも中を開くと表紙の通り様々な魔道具(レガシー)の説明が絵付きで書かれていた。

 数十ページにも及ぶ内容となっており、先程手に取った魔道具(レガシー)の説明も見つけることができた。



 ・回復魔法<ヒール>が使用可能になる。発動の仕方は<ヒール>と唱えるだけ。怪我や軽い病気までの治療が可能。魔力消費は少ないが、使用方法により消費量が増える。この魔法では部位欠損は治療できない。また、失った血は戻らないため注意が必要。


 「回復……魔法。ほんとうにそんな力があるのか?」


 魔法という言葉には物語が書かれた本にも使われているため何も違和感は感じない。

 この満身創痍の状態から脱却できるのであれば回復魔法とやらに頼るしかないのだろう。


 生まれて初めての魔法で緊張するが覚悟を決める。


 「<ヒール>」


 半信半疑のまま説明通りに唱える。すると身体から何かが抜けていくような感覚。回復魔法のはずが、むしろ段々と気分が悪くなってきた。

 けれど、代わりに身体の怪我が徐々に治ってきている。

 自身の身体を見渡し、怪我がある程度まで治っているのを確認すると体力の限界を迎えた俺はいつの間にか意識が落ちていった。



 □


 「うっ……」


 どうやらまた寝てしまっていたみたいだ。

 あんなことがあったばかりだが2度も気絶しまったことで、逆に冷静でいられることができた。


 (怪我が治ってる……)


 そういえば回復魔法とやらを使った際に急に眠くなってしまったのを思い出した。傷を見たところ、完治はしていないがとりあえず動くことに支障はなさそうだ。

 そう判断したノアは早速行動を開始する。


 (それにしてもここは魔道具(レガシー)とやらの保管庫なのか?)


 辺りを見渡しこの光景を見るとそうとしか思えなかった。軽く探索していると奥に続く扉らしきものを発見する。現在位置が分からないため外に出るのが優先だ。


 扉を開けるとまたしても真っ暗な部屋にでる。前の部屋と同様に中に入れば明るくなるだろうと判断したノアは躊躇うことなく前に進む。その際、目元を手で守るのも忘れない。

 すると、先ほどと同じく部屋が明るくなり――――目の前の光景に思わず後ずさってしまう。


 人らしきものが透明の箱の中で眠っているのだ。それも2人。

 あちらの部屋は多数の物で埋め尽くされていたがこちらは逆に物という物が一切ない。問題の箱は部屋の中央に2つ並んでいる。そしてその奥に更に扉が続いている。


 遠くから眺めていては何も分からない。確認するためにそっと近づくと、中に入っているのは2人とも女性だった。1人は女性というより10代半ばほどの少女に見える。

 生きているのか死んでいるのか、胸が上下していないのを見ると後者かもしれないがまだ確証はない。


 「開けるにはどうす――」


 このまま無視する気にはなれず、箱の開け方が分からず適当に触れていると首飾りが再び光り輝く。


 「今度はなんだ!?」


 首飾りが光ったのはほんの数秒。首飾りに気をとられて気付くのが遅れていたがいつの間にか透明の箱は開けられ、今まさに中の女性が目を覚ますところだった。


 「……魔王様」


 「……やっとっすか」


 「君達はいったい……」


 ノアの言葉に2人は箱から出るとその場に跪く。


 「私の名はエルフェン・ロード。いつかこちらに現れる魔王様をお守りするため、長い眠りについていました」


 エルフェンと名乗る女性は浅黒い肌に、赤い髪を後ろで結びどこか生真面目そうな雰囲気を見せている。どことなくクロアの雰囲気に似ているとノアは感じていた。クロアに負けず劣らずとても美しい容姿をしているため人目を惹きつけるのは間違いないだろう。


 「自分はネル・ブレソールっす。待ちくたびれたっすよ魔王様」


 ネルは見た目どおりの年齢であれば10代半ばほどの少女。まだ幼さが残る顔立ちに真っ白な肌、紺色の髪を横で結び身軽な服に身を包んでいる。


 「ネル! 口の利き方に気をつけなさい!」


 「細かいことばかり気にしてると小皺が増えるっすよ」


 やれやれと言わんばかりに手を振るネル。


 「お仕置きが必要みたいですね……ふふっ」


 笑っているが目が笑っていない。どうやら今のやり取りか分かるように2人の相性はあまりよくないのかもしれない。ノアはしばし呆気に取られていたがさっきから気になっていたことを質問する。


 「2人ともちょっと……魔王って誰のことを言ってるのか教えてもらってもいいか?」


 「も、申し訳ありません、お見苦しいところを……」


 途端に態度が軟化するエルフェン。その際なにやらネルの方に視線を飛ばしていたがなんだったのだろうか。


 「魔王様は魔王様ですが……何か気になることでもあれば気軽にお聞き下さい」


 「そもそも俺は魔王が何か分からないんだ。少し前に魔族と呼ばれる種族が王国に居たということは聞いたことがあるが、魔王とはなんだ? 言葉通りなら王国は王がトップであるように魔王もそういうものか?」


 そう――アステリア王国は昔魔族と呼ばれる種族が存在していた時期がある。魔族は人間に比べて寿命が長く老化も遅い。その代わり個体数が少なく当時から人間に対して魔族の数が圧倒的に少なかった。けれど敵対していたわけではなく、同じように生活し同じように仕事をしていた。法国は人族至上主義を掲げているため命の危険があり、帝国はそのようなことはない(裏では何をしているか分からない)がほとんどの魔族が王国から離れる事はなかった。

 そして時代が進み、現在では魔族が絶滅したと判断している人は多い。


 「仰る通りでございます。魔王とは全ての魔族の頂点に君臨するお方です!」


 目を輝かせ興奮する姿に少し引き気味になるノア。


 「そ、そうか……。でも何故俺が魔王になる? 俺は人間の両親から生まれた子供だ」


 法国は王族に魔族の血が流れているなどと態々使者を送ってきたこともあるが、そのような事実はないとノアは思っている。


 「魔王様が今お持ちになっている首飾りが魔王様である証拠です。昔、アステリア王国は魔族の王、魔王様が王として君臨なさっていた時代があります」


 「魔王が……」


 「はい。徐々に減っていく魔族のことを危惧した当時の魔王様はご自分の子供と奥様、護衛として数名ほどとある場所に隠して法国との戦いに望んだのです。その際お子さんに託されたのがその首飾りでございます」


 「…………そして王族にこの首飾りが代々引き継がれ、俺のときに発動したというわけか」


 「そうなります。首飾りの効果は、王族の第一子に引き継がれる”碧い瞳”を持ち魔族の血が流れる者が命の危機に瀕した時、こちらに転移する仕組みになっています。そのためあなた様が魔王様であることは疑いようのない事実でございます」


 再び頭を垂れるエルフェン。 


 「他にもやり方はあったかもしれないっすけど、魔族がいつか滅ぼされるのは運命だったのかもしれないっすね。まぁ、現実は少数だけどこうやって生き残っているっすけどね」


 「ということはやはり君達は魔族なのか……」


 当時の話を聞かされた時点で薄々勘付いていたが、本人の口から明かされたことにより確信する。


 「そうでございます」「そうっすよ」


 「ちなみに自分達が入っていたこの箱っすけど、これも魔道具(レガシー)の一種で老化を防ぎながら長い眠りつくためのものっす。それがその首飾りに反応して開く仕組みっすね。あっ魔道具(レガシー)って何かわかるっすか?」


 ノアは魔道具(レガシー)がどういうものか分からないため首を横に振る。

 隣のエルフェンは頬が引き攣っており噴火寸前だ。そんな状態とは露知らずネルは構わず説明を続ける。


 「簡単に説明するとっすね。魔族が魔法を使って作り出した道具っす。使うには体内に一定の魔力がないと使えないっすね。もちろん魔王様は魔族の血が流れているので使うのに問題ないっすよ!」


 自慢げに胸を張って説明するその姿にノアはなぜか微笑ましく感じた。

 どうして見た目は人と大差ない魔族が滅ぼされなければならないのだろう。ノアには分からなかった。

 

 「ああ、説明してくれてありがとう。先ほどの魔道具(レガシー)が使えたのはそういう理由だったのか……」 


 そして思わず頭を撫でてしまっていた。

 

 「なっ……」


 「ごめん、つい……こう流れで」


 「な、流れってどういうことっす! 自分の方が年上っすよ?」


 ネルの顔が若干赤らみ、抗議を始める。


 「えっ、年上なのか? てっきり15歳くらいかと思ってた」


 「自分はこう見えても80っすよ! 魔族の中では若いかもしれないっすけど……」


  ともかくっす! と距離を詰めてくると、


 「今後はこのようなことはやめていただきたいっす。別に魔王様のことが嫌いってわけではないっすけど……魔族の王である以上威厳ある行動を――」


 ネルが喋っている途中に、ゴンッと鈍い音が鳴り響く。

 音の発生源はネルの頭上から――エルフェンが拳を振り下ろしていたのだ。


 「いったーーーーいっす! いきなり何するんっすか!」


 両手で頭を抑えその場で蹲り、目元には薄っすらと涙を浮かべている。


 「先程からの態度といい口の聞き方といい、魔王様に失礼ですので当然のことをしたまでです」


 「魔王様この人怖いっす……」


 目にも留まらぬ速さでノアの背後に回り込み、服の袖を掴む。


 「魔王様もエルフェンみたいな野蛮な女より自分みたいな美少女が側にいた方が嬉しいっすよね?」


 なにやら話の方向性が変わっているような気がするが、横から見上げるようにして問う仕草にノアはたじろぐ。


 (近い、近すぎる……)


 ノアの見た目は綺麗な金髪に、透き通るような碧い瞳。容姿も髪や瞳にも負けず劣らず整っている。完璧な容姿に従者や婚約者もいるため、一見女性に免疫がありそうだが直接触れる行為はほとんどなかったため仕方のないことかもしれない。


 それにネルの胸元が少し緩んでいるのも原因のひとつに違いないだろう。

 そして相変わらずネルを睨むエルフェンの視線が怖いノア。


 「俺は気にしないし、そもそも魔王になるつもりもないんだが……」


 このままだと場の流れで魔王にされそうだと思ったノアは、やんわりとその気がないことを主張する。


 「国を創り、新しく王になって下さい、などと申し上げるつもりはありません。たとえ魔族の血が薄くとも、私たち魔族にとって絶対であるお方はあなた様お一人です」


 「碧い瞳を持って生まれた第一子の子供の血が薄いってことはありえないっすけどね」

 

 今はとにかく時間が惜しい。驚きの連続で忘れかけていたが一刻も早く王国に向かうべきだ。


 「悪いがその話はまた後にしよう。君たちはこれからどうするんだ? 俺はロア――弟をこのまま放置しておくことはできない。帝国とまで協力をして、何を考えているのか一度聞く必要がある。それに……」


 (エレーナともう一度ゆっくりと話す必要もある)


 「私たちは魔王様のお側に……」


 「ここにいても暇っすからね。久々に"地上"に出たいっす」


 思った通りついてくるようだ。現状がどうなっているか分からないため、少しでも味方がいると助かる。まだ信用できるかと問われればすぐに頷くことはできないが、少なくとも短い間ではあるが一連のやり取りの中で一度も敵意は感じられなかった。


 「今、地上って言ったよな? となるとここは地下に存在している部屋なのか……」


 道理でどの部屋も、通路にも窓はひとつないわけだ。必要なものは全て魔道具(レガシー)とやらで補えるのかもしれない。魔道具(レガシー)はとてつもなく便利な物であることは明白で、地上に持って帰ったときの価値が計り知れないだろう。いや、それ以前に魔道具(レガシー)を巡って争いも起きかねない。


 「ここは王国南部方向に位置する遺跡の地下になります。途中にある森のお陰で用意に立ち入ることはできないかと思われます」


 「それは事実なのか? 深淵の森の先……まさか実在したとは信じられないが、ここに居る以上本当のことなんだろうが……」


 自分の置かれた状況を正しく把握できたノアは、森をどう切り抜けるか考える。

 腕にある程度自身があるノアは、深淵の森は今までに何度か挑戦しようと試みたことがある。けれど、毎回失敗に終わってしまっている。それは魔物に歯が立たない、といった理由からではなくクロアによって止められてしまうからだ。そのため自分の実力でどこまで対応できるか未知数である。

 

 (ノイエは表情にあまり出ないが喜んで付いてくるんだけどな……)


 この場に居ない、2人の信頼できる従者のことを考えていると、


 「どうかされましたか?」


 エルフェンがノアを気にかけた表情で見ている。考え込んだことで心配かけてしまったようだ。

 

 「大丈夫だ。森をどう抜けるか考えていたんだが何か良い案はあるか?」


 隠す必要のことでもないため素直に話す。それに1人より複数で考えた方がいい案も出るに違いない。


 「それなら大丈夫っすよ。自分が認識阻害魔法を使用できるっす」


 認識阻害魔法。初めて聞く言葉に問いかけようとすると、


 「認識阻害魔法は存在感を薄くすることによって周囲から身を隠す魔法のことです」


 先にエルフェンが補足説明をしてくれる。


 「魔法はやはり便利だな……そういえば1つ前の部屋で、魔道具(レガシー)とやらを使ったら、回復魔法を使えるようになったんだが貴重な魔法なのか?」


 ノアの命が助かったのは回復魔法のお陰だ。それに魔族の血が流れていなかったら魔法すら発動できていなかったため、この身体には感謝している。


 「え……魔道具(レガシー)を使用したのですか!? お身体の方に異常はありませんか? 気持ち悪かったり吐き気があるなど……」


 落ち着いた態度から一変、慌ただしくこちらに詰め寄ると身体をぺたぺたと触ってくるエルフェン。何か不味かったのだろうかと、傍らのネルに視線を向ける。


 「魔道具(レガシー)はとても便利な物っすけど、一度使うと体内の魔力をほとんど持っていくっす。なんで普通、魔力がほとんどなくなると気絶するか体調が物凄く悪くなるんっすよ」


 「だから気絶したのか……」


 正確には魔道具(レガシー)の後に回復魔法をかけたことで気絶したのだが、この事実にノアが気付くことはない。

 

 (便利なだけでなくそういった欠点もあるのか……今後もし使う機会があれば気をつけないといけないな)


 「気絶……やはり相当な負担がお身体にかかったみたいです。少し休憩なさってはいかかでしょうか?」


 ノアの呟きに目ざとく反応したエルフェンは余程心配なのか身体を休めるよう提案をしてくる。


 「いや、時間が惜しいからそろそろ出ようと思うんだが……」


 再び助けを求めるようネルに視線を向ける。


 「なんか自分いいように使われてないっすか?」


 「決してそんなことはない……はず」


 はぁ、とため息をつくネル。


 「そこは断言してほしいっす……自分についてきて下さいっす」


 ほら行くっすよと、促してくるのでエルフェンも不承不承ながら付いてきた。


 「あっ、あっちの部屋にある魔道具(レガシー)は持ち出し禁止っす。身に余る力は争いしか生まないっすからね」


 こちらを振り返り、思い出したと言わんばかりに忠告してくる。


 「使い道があるかと思ってこれを持っていたんだがダメか?」


 そう言いながら懐から取り出したのは奇妙な仮面。


 「弟たちの罠で死にかけた俺は王国でどういう扱いになっているのか分からないんだ。だから正体を隠せるものがあれば便利かと思ってな」


 立場が悪くなるよう知らせを出していれば堂々と表を歩くのは厳しい。それならば多少奇異の視線を向けられることになっても、仮面をつけるべきだと思っていた。


 「それは……」


 「また厄介な物を見つけたっすね」


 2人の反応から察するに、何か問題のある代物なのかもしれない。


 「正体を隠すにはうってつけになるっすけど……まず利点っすけどそれをつけると声も変わるっす。魔力の最大量も増えて身体能力も向上するっすけど、欠点が一度着けると長い期間外れなくなるというものっす。自分たちにもその期間がどれくらいなのか分からないっすね」


 なにかの拍子や戦闘の最中に外れないというのもある意味利点になってくる。

 けれど、安易に着けることが躊躇われるのも事実だ。期間が不明な以上、これを着けると誰か分からなくなってしまうためクロアたちに会った時に説明できる時間があるかも分からない。


 「指示を出して下されば私たちがどんなことであれ完璧に遂行してみせます。ですから仮面はお着けにならなくても問題ありません」


 「ありがとう。出来るだけ使わないようにするが、最悪の場合は許してくれ。身体能力向上がどれほどか分からないが各上との相手には重宝しそうだ」


 心配そうに見てくるエルフェンに感謝を告げる。


 「んー、魔王様が決めてもらえればいいっすよ。基本的には魔王様の指示に従うのが自分たちっすからね。だからと言って変な命令はやめて下さいっす」


 最後の一言が余計だが、持ち出すことには異議はないようだ。


 「さっきは禁止って言ってた気がするが……」


 「あれもお願いであって絶対ではないっす。今代の魔王様が争いをお望みでしたらいくつでも持ち出すといいっすよ」


 「ネル! その言い方はなんですか!」


 挑発するような物言いにエルフェンがいい加減本気で怒りかねない。


 「いや、外に持ち出した時のことは俺も考えているからそういくつも持ち出すことはしないさ」


 不毛な争いに発展する前に割り込む。


 「ならいいっす。とっととここから出るっすよ」


 「ああ、行こう」


 魔族との対面に魔道具(レガシー)の価値。己の血筋の運命に、これからの出来事を思うと不安は募るばかりだった。



 


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