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MOBA~終盤戦~

守護樹が燃え尽きえると、その周囲の森も同時に燃え尽きる。燃えた敵陣地の視界は開けたものになるため、安全地帯も増える。自分達に有利となるフィールドを広げながら、俺らは敵陣へと進行していく。


敵の守護樹は合計6本、全て【ミニオン】の3本の進行ルート上に生えており、各ルートに2本ずつある。それを焼き払えばいよいよ敵陣地の城門が見えてくるというわけだ。


その後も相手の守護樹を3本焼き払った。こちらも、2本程焼かれたが試合は優勢に展開している。


だが、ここにきて状況が少し変わりつつあった。


俺達は川の下流と中流の中間付近でお互いに攻撃を仕掛けもせずににらみ合っていた。

両者の間には『ドラゴン』の巣がある。そこには外界の些事など興味ない、とでも言いたげに赤い鱗を持った巨大なトカゲが寝そべっていた。


森に生息する大型モンスター『ドラゴン』


奴を討伐したチームに多大な経験値と資金。そして、強力な『バフ』が手に入るのだ。

このゲームを優勢に進めるためにも、絶対に獲得したい。


睨み合いの緊張感、一触即発の空気が場を渦巻くように流れていた。


「『首ったけ』・・・攻めれる?」


隣で弓を構えながら、『チーター』がそう言った。

射程距離内に捉えた瞬間に矢を放つつもりなのだろうが、相手は遠巻きにうろうちょろするばかりで、飛び込んで来る様子はない。


「Ultが今クールタイムなんだよな・・・強引に【突進チャージ】で攻めてもいいけど」

「・・・『首ったけ』もか・・・本当はみんなのUltを待ちたいところだけど・・・」


俺のUltは相手の中央でぶっ放せば敵の分断を確実に狙えるため、こういう集団戦の戦端を開くには絶好の能力がある。だが、それゆえのCTクールタイムの長さだ。このまま残り1分の間、睨み合いが続くとは思えなかった。


「相手のUltが上がるのが先ね・・・こっちから仕掛けるしかなそう」

「そうなるかな・・・」


先の小競り合いで敵味方共にUltを使っている。

後はスキルのCTクールタイムの差がものを言うが、生憎とこちらのチームは皆UltのCTクールタイムが比較的長い。


俺は敵から視線をそらさずに、後方にいる味方に声をかけた。


「『猿』そろそろお前の出番だぞ」

「はいはーい」


お気楽な返事と共に、仮装としか思えない姿が俺の隣に並んだ。


『猿』は肩に巨大な鎌を担いでいた。頭にはカボチャ頭、黒いマントに白い手袋という出で立ちだ。その姿はまさにジャック・オー・ランタンそのものだった。


「ほんじゃあ、行ってきまーす」


『猿』はそう言って、不意に消えた。

いや、正確には影になったのだ。

一時的に姿を消すスキル【シャドーステップ】が発動したのだ。


『猿』の影は川から森へ、そして敵チームのサイドに回り込んだ。


当然、相手にも『猿』が消える瞬間は見えている。だが、移動先まではわからない。

だからこそ効果があった。


相手は予想通り、左右を警戒しだした。

正面と左右の3方向に注意を向ける作業は随分とストレスのはずだ。

それでこそ、正面に隙ができる。


「・・・・・・」


タンク役の『捨て鉢』が一歩前に出た。

背後で『後輩』がフラスコを握りしめる音が聞こえた。

俺は『チーター』と目配せをした。


「ふぅ・・・・」


チーターが息を吐く。

俺はその時を待った。


「GO!」


突進チャージ Lv.3】


ダッシュ距離が伸びたスキルで一気に距離を詰めた。

それは、真正面にいる『斧使い』が右に注意を向けた瞬間だった。


「チェストォオオオオオオオ」


処刑エクセキューションLv.5】を乗せ、デュエルソードを振り下ろした。

見え見えの上段からの袈裟切り。俺の渾身の一撃は相手の斧に阻まれた。


俺は【突進チャージ】の勢いのままに『斧』の脇を通り抜けて、敵集団の後方に抜けた。


敵プレイヤーからの視線が集まる。


全員が俺に攻撃を仕掛けようとした瞬間だった。


「まいどありぃ!」


サイドから鎌を持った『猿』が現れた。

それは、敵の意識が俺に向いた絶妙の瞬間だった。

『猿』は影から現れ敵集団に突進し、鎌を円形に薙ぎ払った。続いて目にも止まらない速度で鎌を縦に振り下ろす。狙いは敵のダメージソース『闇魔法使い』


『鎌』の攻撃はスキル攻撃にほぼ依存している。スキルを一瞬で全て放つバースト力で低耐久の相手を仕留めることに特化している。


相手はそれに対応しようとスキルで『猿』の足止めを図った。


敵のど真ん中で『猿』の動きが止まる。


「あり?」


だが、敵は後方と側面に注意が行き過ぎた。


「はぁああああ!!」


正面ががら空きだった。


棍棒を担いだ『捨て鉢』が迫っていた。

彼女は【アースクェイクLV.5】をぶっ放し、敵チームを打ち上げる。

それと同時に、アイテムの1つ【教会の鐘チャーチ・ベル】を打ち鳴らした。『猿』にかかっていた複数の足止めスキルが解除される。


「おおきに!!」

「世話がやける・・・」


再び突っ込む『猿』に敵はかき回される。


「チェェエエエリャァァァア」


ならばと、俺も再び足を動かした。

走り抜け、すれ違いざまに一太刀入れては次の敵に向かう。

息切れなどない電脳世界。俺は敵の間を縦横無尽に走り回った。


走っては切り下し、走っては切り下す。


上段攻撃ばかりの単調な攻撃は防がれやすいが、そんなことは俺にとっては関係がなかった。


「アァァラァァァァァァアア!」


八双の構えから振り下ろされる全力の一撃は敵の体力を確実に削り取っていく。

何度も敵の攻撃にさらされるが、俺の足は止まらない。次から次へ敵に向かい、剣を振り続ける。


それが俺の戦い方だった。


「これ以上、行かせるか!!」

「うおっと!!」


俺の足を止めたのはこの試合で何度も相対してきた相手、鉄パイプ野郎だった。

奴の【掛け崩し】をくらったらしい。

『らしい』とつくのは、後方から攻撃された為、何をされたのかよくわかってなかったのだ。


後方から軽い衝撃。鉄パイプが直撃したのだろう。さらに、幼稚園児にパンチをくらっているかのような衝撃が続く。だが、それは一発一発が無防備な背中への鉄パイプの殴打であり、こちらの体力は一気に削られていく。


硬直時間が切れ、俺は振り返った。

相手の武器が真っ赤に赤熱している。既に【真っ赤っか】が発動している。

受け流し(パリィ)】は効かない。ならば・・・


俺は正面から『鉄パイプ』の攻撃をガードした。

わずかばかり体力が持ってかれる。目の前にある鉄パイプ野郎の顔。俺だけは絶対に仕留めるという気概が見て取れた。


やってもらおうじゃねぇか!


俺は自分の口に笑顔が浮かぶのを止められなかった。


相手が武器を引くのに合わせて、デュエルソードを上段に構える。

その防御から攻撃への移行は驚く程スムーズで素早い。

鉄パイプ野郎が次の一撃を構える前に、俺は既に振り下ろす準備は完了していた。


「チェェエエエリャァァァア!」


気合の裂帛と共に振り下ろす。

足を止めたまま、剣をたたきつけ、そして振り上げた。

まだ、鉄パイプ野郎は武器を振り下ろしてすらいなかった。


既に装備を整えた俺の攻撃速度アタックスピードは常軌を逸していた。


俺は自分の笑顔が深くなるのを自覚し、再び剣を振り下ろした。


普通、デュエルソードを使うプレイヤーは一定以上の攻撃速度アタックスピード増加アイテムは積まない。理由は簡単。いくら硬直時間が短くなろうと、人間が剣を振る速度には限界があるからだ。


いくら電脳世界だからとはいえ、そこらの素人が剣道家程の速度で剣を振れるようにはならない。

電脳世界の体を動かすには肉体を動かすイメージというものが最も大事だ。素人がどんなに頑張ってイメージしても、最高速度には限界がある。


だが、俺にはそれがない。


「ケエエエリャアアアアア」


速く、速く、ただ速く。


振り上げて、振り下ろす。その速度は現実であれば風を切る音が激しく鳴る程の速度だ。

現実世界で鍛え上げた剣速が、電脳世界の俺の武器だった。


四島示現流。それが俺の通う道場の名前だ。


足を止めてのダメージレースで装備の整った俺に勝てる奴はいない。


【味方チームが敵プレイヤーを倒しました】


既に強さのピークを過ぎた『鉄パイプ』など恐るるに足りなかった。

『理論上DPS最強』を名乗る『デュエルソード』の本領はこの終盤戦にこそあった。


俺はすぐに次の敵に向かう。


現実世界の身体が興奮で熱を持っていた。ともすれば、現実ですら素振りをしたくなるほどの高揚感。全身に血が激しく巡っていた。飛び上がり、駆け出したくなる衝動をなんとか押し込み、俺は電脳世界の身体で暴れまくる。


「クビィィィイイイイイイイ!」


気分は敵の首級をあげんとする薩摩兵だ。

ちなみに俺の一番好きな漫画キャラは、ドリフターズの島津豊久。


次から次に切りかかり、敵の体力をひたすらに削っていく。


【味方チームが敵プレイヤーを倒しました】

【味方チームが敵プレイヤーを倒しました】

【味方チームが敵プレイヤーを倒しました】

【味方プレイヤーが倒されました】

【味方チームが敵プレイヤーを倒しました】


【グランド・エースを獲得しました】


敵を壊滅させた証拠に【エース】の称号が俺の頭上に光り輝く。


「ククッ・・・クククッ・・・」


デュエルソードを肩に担ぎ直し、自然と溢れる笑いをかみ殺す。

非常に良い気分だった。『猿』が1人だけやられているのが、特に最高だ。


「なんでや!なんで俺だけやられるんやー!」

「あなた、スキル全部放ったら数秒役立たずになるんだから仕方ないじゃない。正直、守っても良かったのだけど、囮役にした方が効率良さそうだったから。まぁ、必要経費みたいなもんね。犬死にじゃなかっただけマシでしょ。普段は意味ないところで勝手に野垂れ死ぬこと多いんだから」

「うっ・・・ううっ・・・『捨て鉢』がいじめる」

「あなたは罵られたいのか、そうでないのかハッキリしなさい」


VCは賑やかだった。


「みんな、ドラゴン放棄!敵城壁の破壊に行くよ!」


その中で『チーター』の声が飛び、みんなは敵陣へと走り出した。


守護樹が焼き払われた跡地を通り抜け、城門を目の前にする。そこには、守護樹と同じシステムの最終防衛装置、監視塔が設置されていた。


俺たちはその監視塔に殴りかかる。既に全員の装備が整った終盤。防衛装置すらものの数秒で叩き折った。

そのまま城門も破壊。崩れ去る城壁を背に更に敵陣地を突っ走る。目標は勝利条件である敵クリスタルの破壊のみ。


「押し切れぇ!」

「おおっ!」


誰ともわからぬ叫びがVC内を木霊する。


クリスタルの前には更に二本の監視塔。だが、これも容易く叩き割る。

敵プレイヤーの復活まで残り数秒。

クリスタルの奥にある石の部屋の中には今か今かと待ちわびる敵プレイヤーが見えていた。


クリスタルを叩き割るのが先か、敵が復活するのが先か。


「間に合えぇぇぇえええ!」


4人分の攻撃が敵クリスタルを粉砕した。



【Victory】



試合が終わった瞬間である。


「ふぅーーーー・・・・」


俺は現実世界でヘッドセットを脱ぎ去り、大きく息をついた。

自分の部屋が暑くて仕方がない。

冷房をつけ、玉の汗が浮かんだ額を拭った。


アバターと同じ顔、同じ体格の17歳の学生。

彼こそ『首ったけ』こと、岳垣 タケルであった。

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