MOBA〜中盤戦〜
『首ったけ』は再び森のモンスターを狩りつつ、マップで様子を伺う時間を過ごしていた。
時折、敵味方のプレイヤーが集まって小規模な集団戦が起きたが、大きな犠牲は出ることなく、決定的な差には繋がらない。しばらく、お互いレベルを上げ、資金を貯める時間が続く。
そして、そろそろレベルが6に達するプレイヤーが出てきた。それはUltという必殺技が使用できるレベルである。Ultはどれも強力で一発で戦局をひっくり返す力を秘めている。
それに、お互い装備も整いはじめ、一撃一撃が重くなってくるのもこの辺りだ。
その時、VCから『チーター』の声が聞こえてきた。
「『首ったけ』レベルはどう?」
「ちょうど、レベル6だ」
俺は森の中で再び対峙することになった幽鬼を切り捨てて、Ultを習得する。
少し特別な効果音がなった。
「それじゃあ、そろそろ仕掛けるよ。目標は敵守護樹!」
「了解だ」
「『猿』『後輩君』『捨て鉢』フォローよろしく」
チームメイトから各々返事が返ってくる。
こういう時に真っ先に仕掛けるのはいつも『チーター』だ。
彼女は人一倍、資金のやりくりが上手い。取れる経験値を落とさず、奪える資金は確実に取っていく。
それに、彼女はあれから敵プレイヤーを3回程立て続けにキルしてた。絶好調である。
そのせいか、今回はいつにも増して装備が整うのが早いようだ。
ただ、残念なことに彼女の扱う槍弓にはUltがない。自分から一気呵成に攻め込むには少し心許ないのだ。だから、『チーター』は他の仲間が近くにいることを確認してから仕掛ける。
俺は森の中を走り、川へと降り立った。
相手の視界に入らないルートを抜け、相手の森に侵入する。
横目で『チーター』の様子を伺うと、【ミニオン】の処理をやや遅めにして敵の注目を集めてくれていた。俺は森の中を進み、相手の背後を伺う。おそらく敵の視界には入ってないはずだ。
だが、念には念をいれておこう。
俺はアイテムボックスを開いた。アイテム欄の中にある『松明』のアイコンに触れる。次の瞬間には手元に赤い炎を灯した松明が現れていた。
「よっと」
それを地面に突き立てた途端、煌々とした炎が一気に輝きを増した。その明かりに照らされて森の中の視界が一気に開ける。自分達チームにしか見えない炎で周囲を明るくする『松明』のアイテムである。
それにより、周囲に敵影がないことも確認する。
どうやら、大丈夫そうだ。
「・・・すぅ・・・」
『チーター』の息遣いがVCを通じて流れ込んでくる。
「・・・行くよ」
「いつでもどうぞ」
『チーター』は開戦の合図のように真上に矢を放った。それと同時に俺も森から飛び出す。
【彗星Lv.1】
放たれた矢は放物線を描いて落下してくる。その先についてるのは着地と同時に爆発する火薬だ。
火薬のついた矢を見て、敵プレイヤーは慌てて回避を試みる。だが、その動きは完璧に予想されていた。彼女の放った矢は見事に2人の逃げた先に落下した。
「今日はついてたかい?なんちゃって」
そんな声がVCから聞こえてきた。
『チーター』の指先から【紫電Lv.4】が放たれ、動けない敵プレイヤーに追加ダメージが入る。
そこに、俺が【突進】で飛び込んだ。
敵の武器は『ボウガン』と『太陽の石盤』だ。『石盤』持ちは体力防御力共に優れるが、攻撃力が低いタンクキャラ。脅威は薄いと感じ、俺はボウガン使いに狙いを絞った。
「エィィィラアアアアアアアアアア!」
あいも変わらず奇声をあげて、【処刑Lv.3】を叩き込む。それで俺の攻撃は終わらない。
「ケェェェェエエエエチャアアアアア!」
振り下ろし、振り上げて、振り下ろす。
アイテムが揃ってきた中盤。俺の攻撃速度は目に見えて早くなってきていた。それは常人が見れば硬直時間など殆ど分からない程だ。
その間にも『チーター』の援護射撃が続いており、みるみるうちにボウガン使いの体力が削れていった。
「・・・ああ・・・またかよ・・・」
そんな絶望的な言葉を残して敵プレイヤーは消えていった。
ご愁傷様であるが、こっちは資金も手に入ってご満悦だ。
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
だが、敵プレイヤーはまだ残っている。石盤持ちは石盤を盾にして後退していく。
「先輩方!テレポートでそっち一人飛んでいきました!」
VCに切羽詰まったような声が響いた。
そして、その姿は俺からも確認できていた。
敵の世界樹に強い光が差し込んでいる。その光こそが敵が【テレポート】で飛んでくる証だ。
それはプレイヤーが持ち込める7つのスキルの中で【ヒーロースキル】と呼ばれているものだ。前も説明したが、プレイヤーが1試合に持ち込めるスキルは7つ。うち、5つは武器に付属するスキルだ。そして、残りの2つが【ヒーロースキル】と呼ばれるものだ。
ヒーロースキルはプレイヤーが誰しもが持てるスキルで10種類程の選択肢がある。そこから2種を選んで試合に挑む。
その中で【テレポート】は味方の守護樹、【ミニオン】、『松明』の位置にワープするスキルだ。
それを用いて、遠くにいる敵のプレイヤーが応援に駆けつけたのだろう。飛んでくる光は2つ。
石盤持ちを含めて3人のプレイヤーが集結しようとしていた。対してこちらは、『チーター』『捨て鉢』と俺の3人。だが、『捨て鉢』は攻撃を受けすぎて体力がほとんど底をついていた。
実質、3対2だった。
だが、慌てる必要はない。そのスキルを持ってるのはお前らだけではないのだ
「『猿』!森に『松明』がある!加勢しにこい」
「すまん、今クールタイム中や。使えん!」
使えねぇのはてめぇだ。
後で絶対にはっ倒してやる。
「本当に肝心な時に使えませんね」
VCで『捨て鉢』がののしる。そうだ、もっと言ってやれ。
「ああっ・・・もっと言って!俺を興奮させて!」
「情けないですね。大方、ろくでもないタイミングで使ったのでしょう。もう少し、粘る努力とか、フィールド全体を把握することをしたらどうです?まぁ、『猿』じゃ無理でしょうけど」
「は、はい・・・以後頑張りますから、見捨てんとって~」
『捨て鉢』の毒舌が今は耳に心地よかった。
毒を食らった張本人はなぜか嬉しそうな声をあげていたが、それはこの際どうでも良いい。
「先輩方!俺が寄ります!」
近くにいた『後輩』がこちらに向かって動こうとしていた。だが、もう遅い。
敵は続々と参戦してきていた。
「『首ったけ』下がって!」
「そうしたいのは山々だが・・・」
俺は『チーター』の援護射撃を受けながら後退する。
だが、『チーター』の矢は『石盤』に阻まれて敵プレイヤーには届かない。
相手の武器構成を考えても、これ以上接近されたらまずい。
『チーター』はスキルを纏った矢をつがえた。【烈風Lv.2】だ。
槍としてスキルを使えば、近距離の相手を上に打ち上げるスキルになる。だが、矢として使えばそれは一時的に弓の攻撃速度が上がる効果になる。
彼女は槍による打ち上げを狙って前に出るのは自殺行為と判断し、矢で削れるだけ敵を削るつもりなのだろう。
だが・・・
「よぉ、さっきぶり」
「本当にさっきぶりだな、パイプ野郎」
川から鉄パイプを持ったプレイヤーまで現れた。これで4対3だ。
鉄パイプ野郎に向けて『チーター』は【烈風Lv.2】を放つ。自動装填される矢を放ち、目にも留まらぬ乱打が叩き込まれるが、相手の体力はほとんど最大。一気に削りきれるものではない。
「無駄無駄ぁ!」
鉄パイプ野郎は彼女の攻撃を無視して突っ込んできた。奴には【飛びつきかち割り】がある。削りきられる前に俺を倒せると踏んだのだろう。
そして、予想通り鉄パイプ野郎は俺を目掛けてハイジャンプと共に飛びかかってきた。
「それこそ、無駄だろ!」
冷静にタイミングを合わせて【受け流しLv.1】を決める。
だが、攻撃は防げても奴の武器は弾けなかった。
「やべ」
「もう遅いぜぇ!!」
敵の鉄パイプが溶鉱炉に突っ込んだ直後のように赤熱していた。鉄パイプのUlt【真っ赤っか】だ。ふざけたスキル名だが、能力上昇に怯み無効という、必殺技に相応しい能力だった。
更に【掛け崩し】で俺の武器は弾かれ、身体が動かなくなる。
「『首ったけ』、今助ける!!」
目の端で『チーター』が反転してくるのが見えた。低い体力ながら『捨て鉢』も加勢しようとしてくれてる。
だが、【掛け崩し】の効果で俺はスキルを使えない。使えたところで俺のスキルは全てCT中だ。Ultは使えるが、この状況を打開出来るものではない。
しかも、ここを打開出来たとしても、鉄パイプ野郎に後ろには体力満タンの敵プレイヤーが3人迫ってきている。
「来るな!逃げろ!」
俺にはなんとか状況を打破しようとしている2人にそう声をかけることしか出来なかった。
「取ったぁぁぁ!」
鉄パイプが迫る。
やられる。
そう確信した時だった。
【ミストキャッスルLV.1】
突如、周囲が白い霧に包まれた。相手の鉄パイプがまるで霞を切ったかのように俺の身体を通過していく。
「あぁ!くっそぉぉ!」
鉄パイプ野郎の声が至近距離で聞こえた。
相手は完全に俺を見失ったかのように視線を慌ただしく左右に向けている。
俺は安堵の溜息を吐き出した。
「助かったぞ、『後輩』」
「いえ、間に合ってよかったです」
鉄パイプ野郎は完全に五里霧中であろうが、この霧は味方チームには影響を及ぼさない。
薄らとベールがかかったような世界の向こうに白いローブとマントをきた童顔の男子が立っていた。彼はその手に丸底フラスコのようなものを持っており、そこからは常に白い煙が出ていた。『フラスコ』という武器を装備した霧魔法使い。彼もチームメイトだ。『黒ハット』というヒーローネームを持っているのだが、みんなは『後輩』とか『後輩君』とか呼んでいる。実際、彼は学校の後輩であるので本人は特に気にしていないらしい。
彼が使ったのは、Ult【ミストキャッスル】だ。一定範囲にいる味方をあらゆる攻撃から守り、姿を見えなくする。必殺技ではあるが、「必ず殺させない技」という意味での必殺技である。
「先輩、下がりますか?」
「いや、どうせだ。返り討ちにしてやろう」
俺は不敵に笑って霧の中に潜む。『後輩』が来たからこれで4対4だ。形勢は逆転しつつあった。ここで差を広げておきたい。
「そうだよね!そうこなくっちゃ」
『チーター』もすぐに霧の中に飛び込んできた。
「あぁ、もう・・・もう少し安パイで動きましょうよ先輩方!『首ったけ』先輩も『捨て鉢』先輩も体力ヤバいんですから!」
「何言ってんだ。お前にUlt使わせて、戦果無しってわけにはいかないだろ」
「そうそう、せっかくのチャンスは広げていかないとね。『後輩君』フォローしてね!」
「むしろ撤退のフォローに来たつもりだったんですが・・・『捨て鉢』先輩は・・・」
下がってください、と言おうとした『後輩』の横を素通りし、『捨て鉢』は森の中へと入っていった。
一時的に身を隠して横から奇襲を仕掛けるつもりなのだろう。
「はぁ・・・もう!わかりましたよ!!」
誰も撤退してくれないので、『後輩』も霧の中に身を隠して攻撃に参加することにしたらしい。
相手は霧の境界から少し距離を置き、こちらの様子を伺っている。
相手の構成は『太陽の石盤』を持ったタンク、『鉄パイプ』のアタッカー、『闇魔法の杖』を持ったメイジ、そして『斧』を持ったファイターだ。
この中で鉄パイプ野郎はUltを使ったばかりで、体力も半分程だ。もはや大きな脅威ではない。
だが、『捨て鉢』がいないことで人数差ができた上に相手にはタンクがいる。『石板』持ちに『チーター』の矢を受け止められると少しやっかいだ。
なら、狙うとしたら・・・
俺たちはミストキャッスルの効果がきれるギリギリまで粘り、スキルのCTの時間を稼ぐ。
そして、霧が晴れる
【スライド】
瞬く間も無く、俺は敵のど真ん中に瞬間移動した。
短い距離の空間を『跳ぶ』ヒーロースキル【スライド】だ。
「あっ!」
「しまっ・・・」
慌ててスキルを発動しようとする敵の面々。だが、全てが手遅れだった。
俺は軽くジャンプをして目標としていた敵プレイヤーの足元に剣を突き立てた。
「コロッセォォォオオオオオオ!」
俺の叫びと共にUlt【決闘場】が発動する。
俺がデュエルソードを突き立てた位置から大地が盛り上がり、1人を除く敵プレイヤーを俺の付近から排除した。盛り上がった土は石壁となり観客席になった。そして、古代ローマの闘技場が出現した。
ここに閉じ込められた二人は一定時間外に出ることはできない。外からの援護射撃も届かない二人っきりの世界、まさに決闘場だ。
対戦相手は俺が指名した敵プレイヤー、『闇魔法使い』だった。
「トォォォオオリャアアアアアア!」
二人だけの超近距離戦闘。1対1と言うには、あまりにも有利不利がはっきりしていた。
一気に接近して、頭上に振り上げた剣を袈裟斬りに振り下ろす。
そのまま、足を止めて剣を振り下ろし続ける。碌に防具など積まない魔法使いの体力など、ものの数秒で削りきってしまう。
1人を指定して近接戦を強要し、周囲の敵を外に弾き飛ばすスキル。それがUlt【決闘場】である。
正々堂々の決闘のように使われることは一切なく、弱った相手を閉じ込めて逃げ道を塞いだり、今回みたく格闘戦が弱いプレイヤーを叩き潰す為に使われる。
強い者が弱い者を一方的に嬲るスキル。
まさにローマが生み出した娯楽、【決闘場】である。
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
一定時間が経過するか、閉じ込められたプレイヤーのどちらかが倒れると【決闘場】は自動的に崩壊していく。崩れ去る石壁の向こうでは敵が俺を中心に前後に分断されていた。
『石板』と『鉄パイプ』が奥に、『斧』が手前にいた
それを火力に特化している『チーター』と『後輩』が順に落としていく。
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
『斧』は倒した。これで、2対3だ。数的有利は既に覆った。
残っているのは『鉄パイプ』と『石盤』だ。彼らは不利を悟って、守護樹の下に逃げ込んだ。
「『首ったけ』それ以上前に出ないで!」
「おっと・・・しかし、嫌なところに逃げられたな・・・」
これ以上近くに寄れば、守護樹から強烈な攻撃が飛んでくる。それを受け止めながら戦うのはさすがに危険だった。
敵の防御を突破するにはもう一手必要だった。
「そろそろ、行きますよ」
VCから聞こえてきたのは『捨て鉢』の声。
最後の一手がやってきた。
「『捨て鉢』体力はどう?」
『チーター』がそう聞くと、VCの向こう側でニヒルに笑う息遣いが聞こえてきた。
「十分よ」
頼もしい台詞だった。彼女は棍棒を振りかざしながら森から現れた。その姿はまさに女山賊だ。
彼女の体力はほとんど回復していなかったが、躊躇うことなく守護樹の下に飛び込んだ。
当然、守護樹からの攻撃は『捨て鉢』に向かうが、我がチームのタンクは格が違った。
『捨て鉢』のUlt【ガーディアンLV.1】が発動し、ダメージを大幅に軽減する。『捨て鉢』が受けるダメージは微々たるものになった。そして、彼女は敵の足元で【アースクェイクLV.3】を放つ。敵が浮き上がり、逃げることさえままならなくなる。
俺たちは既に行動を開始していた。俺は『捨て鉢』と共に敵に殴りかかり、『チーター』と『後輩』は後方から攻撃を叩き込む。
4人からの総攻撃を受けて、敵2人はあっけなく倒されることとなった。
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
美味しいことにトドメを刺したのは、両方共俺だったらしい。
これで、合計5キル。レベルも順調に上がり、資金も十分に集まった。
しかも、敵はほぼ壊滅状態。
「守護樹を叩き折れぇ!」
『チーター』の号令と共に4人が守護樹に殺到する。
4人で攻撃を仕掛け、守護樹が炎のエフェクトに包まれていく。
そして、守護樹の体力が残り1/4まで削れた時だった。
【ファースト・ブレイク】
【敵チームの守護樹が燃え尽きました】
「はっ?」
目の前の守護樹はまだ残っている。
バグだろうか?そう思って改めてマップを確認する。
「対面の守護樹は燃やしといたで。今からそっち行こか?」
『猿』は俺達がピンチに陥っている間も、しっかりと自分の仕事をしてくれていたらしい。誰も周りにいないのをいいことに一人で【ミニオン】を進め、一人で守護樹を焼き切ったようだ。
でも、なぜだろうか。なぜか無性に殺意が湧いたのだった。
チームメイトもその不条理をどこかで抱えていたらしく、行き場の無い怒りをぶつけるかのように目の前の守護樹に再び攻撃を仕掛けたのだった。
【敵チームの守護樹が燃え尽きました】




