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MOBA~序盤戦 その2〜

和風の甲冑に身を包んだ『チーターローション』は小さく笑いながら、VCボイスチャットを聞いていた。


「おい、『猿』!言うのが遅いんだよ!」

「いや~すまんすまん。俺が他のモンスター狩っとるのに夢中になっとったらおらんくなってた。はっはっは」


VCボイスチャットに『首ったけ』と『猿』の声が響き渡る。

本人達には悪いが、今の『猿』からの警告からの、『首ったけ』の悲鳴のタイミングはギャグか何かかのようだった。


「『チーター』、喧嘩になる前に止めてあげて」


隣で棍棒を振るっていた『捨て鉢』が私にそう言った。

私は親指を立てて、「了解」の意味を示して、VCを開いた。


「まぁまぁ、そういう時もあるよ。マップに映ってない相手を警戒できなかった私達も悪いんだし。だから喧嘩しないの」

「ほら、『チーター』もこう言ってくれとるから、怒らんとって」

「おめぇが言うな!おめぇが!!だいたい俺は序盤に出遅れたら、後半役立たずになっちまうんだからな!そこもっぺん理解しろ!」

「へいへい、わかってる、わかってる」

「ほんとにわかってるのか・・・ったく・・・」


マイクを通じて、『首ったけ』のため息が聞こえてきた。

現実世界で肩を落としている姿が透けて見えるようであった。


まぁ、今回は『首ったけ』にとっては勝ちたい試合だろうしな・・・


1人だけイベントの勝利数に達していないのだから、それも当然だ。


私はもう1度VCを開いた。


「侵入された二人はすぐに敵陣に戻ったみたい。森のモンスターは多分狩られてないと思う。『首ったけ』は森のモンスターを引き続きよろしく」

「はいよ・・・」


『首ったけ』は一通り叫んで気持ちが落ち着いたらしい。少し疲れた声で返事をした。

彼は復活の為の待機時間を石壁の中で無為に過ごし、再び陣地から森へと飛び出していった。


「こんちくしょー・・・あの鉄パイプ野郎覚えてろよ」


まだ、VCをオンにしたままなのか、物騒な台詞が聞こえてくる。

『猿』への怒りを敵プレイヤーに転嫁しているかのようだった。


彼が森のモンスターを狩りだしたのを確認し、私は自分のことに集中する。

私がいるのはこの箱庭の右隅の部分だ。私は川を挟んで敵プレイヤー2人と相対していた。


視界の隅に浮いているマップには仲間の視界に入っている敵プレイヤーが表示されていた。今写っている敵プレイヤーは4人。1人は川と森の間を出たり入ったりしている。敵陣の森に隠れられると、視界が通らずに敵プレイヤーがどこにいるかわからなくなる。相手が見えない時のデメリットは先程『首ったけ』が体験した通りだ。


なるべく相手の位置を把握しておくのが、このゲームの勝利への第一歩である。


そこで登場するのが味方側のモンスターである【ミニオン】だ。このモンスターは味方の兵士みたいなもので、それぞれが背中に『松明』を背負っている。彼らは2頭身の兵士みたいな見た目をしており、3本のルートを通って敵の森にテクテク進んでいく。


そのルートは上流トップルート、中流ミドルルート、下流ボットルートの3本だ。

ちなみに私がいるのは下流ボットルートだ。


私は弓を構えた。弦を引くと、電子の結晶が集合し、矢が現れる。指先に弓のしなる緊張感がわずかな振動になって伝わってくる。矢じりの先にいるのは敵の【ミニオン】だ。


私は矢を放った。弦が鳴る。


放たれた矢は【ミニオン】へと命中。残りわずかになっていた敵の体力を削り切った。

経験値とお金が手に入った音を聞きながら、私は弓を再び引き絞った。


次々に矢を放ち、敵【ミニオン】を処理していく。


敵の数が減り、味方【ミニオン】が前進を始めた。彼らは川を渡り、森へと入り込む。すると彼らが背中に背負った松明が敵の森を明るく照らしてくれた。


「いい感じ・・・」


森の中に隠れていた敵プレイヤーの姿をとらえる。

私が相対していたのはボウガンを持ったプレイヤーだ。ロビンフッドのような狩人の服を着ていた。

その隣には古代ローマ人のような服装をして、大きな石板を担いだ敵プレイヤーがいる。


私は彼らめがけて矢を放った。


「ふんっ!!」


甲高い音がした。矢が石板に弾かれたのだ。

あの『石板』は立派な武器で、飛び道具のダメージを一定割合で軽減してくる。


私は構わず、矢を放ち続けた。


敵のプレイヤーは私の攻撃に加え、迫られた【ミニオン】からの攻撃も受けている。

別にここで敵プライヤーを倒しきる必要はないのだ。ある程度ダメージを与えて、プレッシャーをかけておければいい。


「さてと・・・」


私はそう呟いて軽く唇をなめた。

その様子を見ていた『捨て鉢』から声がかかる。


「仕掛ける?」


彼女は棍棒を肩に担いでそう言った。


「うん、相手もいい感じに焦ってるだろうし・・・釣れるといいな」


私は森の中でまだ暗い場所をちらりと見やった。

そして、マップを見て味方の位置を確認する。

ちょうど、『首ったけ』が近くにきていた

私はVCをオンにする。


「私のところの【ミニオン】押し切れそう。敵プレイヤーが怖いから近くにいて」

「了解、そっちに行くよ」


彼はゴブリンを倒して、こっちに向かってきている。途中で森を徘徊しているカタツムリ型モンスターに出会ったみたいだが、それも撃破。順調に経験値と資金を獲得しているようだ。


敵の【ミニオン】が再び前に出てきていたので、狙いをそっちに絞る。


「『捨て鉢』なるべく早く押し込むよ!」

「わかってる。任せて」


『捨て鉢』は前に出て【ミニオン】に派手に殴り掛かった。

当然、前に出れば敵プレイヤーからの攻撃も受けるが彼女はものともしない。


『棍棒』という武器は体力、防御力に優れたタンク系のステータスの武器なのだ。


『捨て鉢』が敵を引き付けている間に私は集中して【ミニオン】に矢を突き立てる。

再び味方が進軍を開始した。敵の森が明るく照らされる。


「行くよ!『捨て鉢』」

「任せて」


私達は危険を承知で敵陣へと躍り込んだ。

川を渡り、相手の森へと足を踏み入れる。


攻め込んでいるのをいいことに、矢を番えて敵プレイヤーへと狙いを定めた。


だが、そんな私達を相手に敵プレイヤーは多少の不利を押してでも前に出てくる動きを見せた。

私の矢が敵に命中すると同時に、私にもボウガンの矢が突き刺さる。


「くっ・・・やっぱり来たか・・・」


相手は強引に私へのダメージを狙いに行く姿勢だ。


この仕掛け方は・・・そろそろかな。


私は矢の先を『ボウガン』持ちのプレイヤーに定めた。


「いただきぃ!」


その時だった。川から大回りしてきた『鉄パイプ』持ちが私達の背後に現れた。

『鉄パイプ』は、さっき『首ったけ』に使ったのと同じ【飛びつきかち割り】で、私達との距離を一気に詰めにかかっていた。


相手は完全に裏をとったと思ったんだろう。


だが、甘い。


「くると思ってたよ」


私は素早くその場で反転。槍弓を素早く持ち替え、槍の切っ先を向けた。


「はぁぁっ!」


気合いの裂帛と共に槍を下から上に大きく振りあげる。空を切った槍が私のの前髪をふわりと浮かせた。

外したかと思われる攻撃。だが、そうではない。

突如、その場に強い風が吹き荒れた。槍の切っ先が通った場所をなぞるように、空気の塊が地上から一気に吹き上がる。突如現れた上昇気流は周囲を全て巻き上げて空中にいた『鉄パイプ』に襲いかかった。


【烈風Lv.1】


空中にいた『鉄パイプ』に逃げ場などない。彼は風の煽りの直撃を浴びた。


「のわっ!!」


吹き上げられ、バランスを崩し、その場に落下する。

その数秒の隙で十分だった。私の視界の先に『首ったけ』が接近してくるのが見えた。

その距離はおよそ7m。『首ったけ』はスキルを発動し、地面を強く蹴った。


突進チャージLv.1】


彼の体が一気に加速する。背中にジェットパックでも背負っているかのような速度だった。

その勢いのままに、彼は自分の肩を起き上がってきた『鉄パイプ』に叩きつけた。

巨大なクッションに突進したかのような重低音が響く。


「ぐほっ!!」


まだ終わらない。『捨て鉢』が振り返り、その棍棒を力強く振り上げた。

そして、彼女は全身全霊をかけるような勢いで地面にその棍棒を叩きつけた。


【アースクェイク LV.2】


棍棒は地面を陥没させ、周囲に亀裂が走った。

もちろん演出であるが、放たれた衝撃は本物だ。

それは、鉄パイプ野郎を再び空中へ打ち上げる程のパワーを持っていた。


「はぁぁぁあああっ!」

「キェリャアアアア!」


度重なるスキルを受けて、身動きが全く取れない『鉄パイプ』を『首ったけ』と二人で切り刻む。

そして、最後に『首ったけ』が【処刑エクセキューションLv.2】を発動した。紅く光るデュエルソードを大上段から真っ直ぐに振り下ろす。


「チェェェェストォォオオオオオ!」


彼の一撃は最後の足掻きで防御体制をとった二本の鉄パイプごと敵プレイヤーを切り裂いた。


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】


「くそっ・・・」


悪態をついたのは元々私が相手をしていた『ボウガン』使いだ。彼はその場から森の奥に逃走しようとしていた。

『鉄パイプ』との挟み撃ちを狙うために突出してきたのだろうが、その相方が何も出来ずに落とされたので慌てて反転したのだろう。


でも、もう手遅れなのだ。


「ごめんね、その体力は・・・」


私は冷静に槍弓を弓として持ち変える

敵プレイヤーがいまさら森の中に逃げても【ミニオン】の篝火がその背中を明るく照らしていた。


「既にデッドラインなの」


【彗星Lv.1】


私はほぼ真上に向けて矢を放った。矢は重力に従い、落下を始め。敵プレイヤーが逃げようとしていた先にピタリと落下した。そして、起こる軽い爆発。矢の先に括り付けられた火薬が爆発したのだ。その衝撃波がほんの一瞬ボウガン使いの足を止めた。

その背中目掛けて私はもう一本矢をつがえ、そして放った。


【紫電Lv.2】


雷を帯びた矢は、敵プレイヤーに命中すると同時に周囲に紫の雷光を迸らせた。


「うわああああ!」


スキルによる継続ダメージがボウガン使いの最後の体力を削りとった。


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】


合計2キル。もう1人の『石板』持ちが近くにいたはずだが、不利を悟って逃げ帰ったのだろう。


「ふぅ・・・」


なんとか局地的な勝利をものにし、私は一息ついた。


敵プレイヤーにトドメを刺したプレイヤーに経験値とお金が入る。また、倒すのに貢献したプレイヤーにもアシストとして経験値と資金が振り分けられた。


「『チーター』ナイスだ」


突然、後ろから髪の毛をわしゃわしゃと掻き回された。


「わっ、わわっ!」


『首ったけ』が大きな手で私の頭をかき混ぜていた。

お互いアバターの身体なので、触覚以外の手の暖かさなんかは全く感じられない。だが、そんなことは重要じゃなかった。『首ったけ』がねぎらってくれる。その気持ちは確かに伝わってくる。


私は少し照れてしまう。現実世界でも少し頰が熱くなっていた。


「あの相手の飛びつきをよく綺麗に撃ち落としたな。お陰でこの序盤で借りを返せた」

「あの程度なら軽い軽い、次も任せてよ」

「ああ、頼む」


私はそう言ってのけたが、内心では割と冷や冷やだった。高速で飛びかかってくる相手をスキルで迎撃するのは容易なことではない。相手を真正面から捉える胆力とタイミングを冷静に測る判断力が必要不可欠である。


ただ、今回の相手は攻撃衝動に任せて不用意に飛び込んできてくれたから迎撃は比較的楽だった。

これが冷静にタイミングをずらすような相手だと、そう簡単にはスキルに当たってくれない。

それこそ、『首ったけ』なんかは当たり前のように私のタイミングをずらしてくる。


「よし、『首ったけ』『捨て鉢』、一気に押し込むよ」


二人から「了解」との返事をもらい。3人がかりで相手の【ミニオン】を片付ける。森の奥へと進んでいくと、森の中に巨大な樹が現れた。近寄る敵プレイヤーや【ミニオン】を攻撃してくる守護樹である。


守護樹は私達の【ミニオン】に、ゆっくりではあるが、強力な攻撃を浴びせてくる。プレイヤーがこれを浴びようものなら、ものの数発で体力が消し飛んでしまう。私達3人は敵の守護樹の攻撃が【ミニオン】に向かってるのを確認して守護樹へと攻撃をしかけた。


だが、守護樹の体力を1/3程削ったあたりでチーム内のVCボイスチャットが声をあげた。


「先輩方!俺の相手してた奴が消えました。多分、そっちに向かってます!」


潮時だろう。そろそろ、最初に倒した2人も復活して前線に参加する頃合いだ。

私達3人はその場に【ミニオン】を残して引き上げる。

川を渡り、自陣の森に帰ってくる。周囲の安全を確認した私達は3人でスタート地点にワープする。


そこにはお店が開かれていた。


ここで稼いだ資金を使ってアイテムを買うのだ。ただ、アイテムと言っても新しい武器に持ち替える訳ではない。攻撃力や攻撃速度、魔力なんかをあげるステータスアップのアイテムを購入するだけだ。アイテムは見た目を変化させることはなく、自分のステータスパネルにアイコンとして表示されるにとどまる。

何せ場合によってはどう見ても胸部用の防具を2個も3個も買ったり、剣を3本も装備することになるのだ。一々、見た目に反映させていたらキリがない。

アイテムの所持限度は7つ。どういったアイテムを買い揃えていくのかも、このゲームの醍醐味の一つだ。


私は攻撃力とクリティカルを上げるアイテムを購入した。巨大な剣のアイコンがアイテム欄の1つに収まる。あとは移動速度を上げるブーツや【ミニオン】が背負っていたのと同じ『松明』を購入しておく。


『首ったけ』は攻撃速度アタックスピードを上げるものとジャングル内のモンスターに対する攻撃力を底上げするアイテムを購入していた。

『捨て鉢』はステータスをあげる前に『松明』を常に補充するアイテムを買っていた。


レベルを上げ、アイテムを買い、相手の守護樹を攻撃しながら相手の森の奥にある陣地を目指す。

これこそが、"Garden of Heros"を代表とするMOBA のゲーム展開の流れだ


アイテムを整えた俺たちは再び森の中へと駆け出していった。


まだまだ試合は始まったばかりだ。

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