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MOBA〜決着〜

敵のクリスタルが見えた。その中に捕らわれた知寿の姿が見える。

その奥のスタート地点では復活を待っている敵プレイヤーがいた。


俺はその中にいる金城の姿を捉える。


片手の爪を噛みながら、ひたすらパネルに向かって何かを入力していた。


俺は現実世界で乾いた唇を舐めた。


復活時間を終えた『蛇腹剣』が飛び出してくる。

だが、蜂巣が冷静に鎖を放って動きを止めた。そこに3人の火力が集中する。わずか数秒で『蛇腹剣』の体力が消し飛んだ。


「あと、15秒!!」


後輩が金城の復活時間をカウントダウンしてくれる。一人だけレベルが先行していたのもあり、奴の復活にかかる時間も伸びている。俺達はクリスタルを守る監視塔へと殴り掛かった。

強化された【ミニオン】の光弾と共に『ミニガン』の弾丸と『フラスコ』の爆弾が監視塔を破壊していく。


「あと10秒!」


監視塔の1本が折れた。


「エィアアアアアアアァアアァアア」


デュエルソードを振り続ける。既に俺の頭の中からは戦術も戦略も吹き飛んでいた。

目の前に知寿がいる。それだけが俺の身体を動かし続けていた。


最後の監視塔が破壊され、敵の青いクリスタルが剥き出しになった。

クリスタルの中に目を閉じた知寿の肢体が封じ込められている。


「知寿!!知寿!!!」


声が聞こえていないのか俺の声に知寿は反応を示さない。


「迎えに来たぞ!知寿!!みんなで、助けにきた!」


俺はそのクリスタルにデュエルソードを叩きつけた。クリスタルに小さなヒビが入る。クリスタルの上空に示された耐久ゲージがわずかに減少した。


「復活まであと5秒!!」

「タケ!無理よ!!間に合わない!」


わかっている。わかっているが、身体がこのクリスタルを破壊することをやめてくれない。

知寿が目の前にいるのだ。ずっと求め続けた存在が手の届く範囲にいるのだ。

俺は目を血走らせて、デュエルソードを振り上げた。


「タケ!!」


その俺の横っ面に拳が突き刺さった。フレンドリーファイアの無いゲームでもアバター同士の干渉はできる。


「・・・あ・・・」

「役目を果たせやぁ!」

「・・・・・・」


俺は後ろを振り返った。


「後輩!蜂巣!!」


彼らの準備は既にできていた。


俺はクリスタルを横目に走り出した。

金城の復活まであと何秒だ。俺は敵の復活地点を見据えた。

そこでは今まさに金城がスタート地点から飛び出してくるところだった。


「しぃいいいねぇええええええええ!!」


届かない。そう判断した時には俺はもうスキルを使っていた。


【スライド】


わずかな光の残滓を残し、金城の真正面まで飛ぶ。

だが、その時にはもうすでに奴のUltが発動していた。


【死への誘い】


本来3秒の詠唱時間が必要なはずのそのスキルが無詠唱で放たれる。

俺の上空から1秒と立たず薄緑色の光が降り注いだ。


「・・・はは・・・はははは!勝った!勝ったぞ!!僕が勝ったんだ」


金城の高笑いが聞こえる。


「ったく、またチートかよ」


その笑顔が凍り付いた。アナウンスは流れない。誰も倒れてはいない。

猿たちはUlt【ミストキャッスル】の中に隠れていた。


そして俺は・・・


「馬鹿な!バカなバカな!こんなこと!こんなことあって許されるものか!」

「黙れ・・・知寿の自由・・・返してもらうぞ」


敵のスキルを防御できるようになる蜂巣のスキル【チェーンロック】。それを纏ったデュエルソードを俺は頭上に構えていた。俺のスキル【受け流し(パリィ)】の効果は防御を成功させた場合にダメージの大部分を軽減し、相手を怯ませることだ。2つのスキルのコンボを決めた俺はほとんど無傷のまま金城の前に立っていた。


例え全範囲一撃死の魔法だとしても、それがゲームの中のスキルである限り防ぐ手段は必ずある。


俺はデュエルソードを振り上げた。金城の絶望した目がそれを追いかける。


「チェストォォォォォォオオオオオ!!」


振り下ろした剣が金城の肩口に突き刺さった。もう金城には逃げる気力も残されていないようだった。

ただ、現実を認めきれないような視線が俺をねめつけていた。


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】


「次は・・・どいつだぁああ!」


俺はスタート地点をにらみつける。

金城のチームの連中が怯えたように足を引いた。


その時、背後から何かが砕けたような音が鳴り響いた。


「タケ!」


猿の声に振り返る。そこでは今まさに蜂巣と後輩が砕けたクリスタルの中から知寿を引っ張り出したところだった。


「知寿!しっかりして!」


ぐったりした知寿を蜂巣が電脳世界の床に横たわらせた。

俺は現実世界で叫ぶ。


「熊鷹さん!!」

「もう開始してる!」


知寿の身体が電子の光を帯び、その輪郭が少しずつ崩れていく。

これで、全てが元に戻る。


誰もが安堵した瞬間だった。


「僕の知寿を連れていくなあぁあああああああ!!」


復活時間すらチートで弄り倒した金城がスタート地点の壁を強引に突破してきた。

彼は既にスキルを冷静に放つこともできず、衝動のままに最も近くにいたタケルに『髑髏の杖』で殴り掛かった。


「やっぱり・・・な・・・」


『髑髏の杖』が受け止められる。

タケルは振り返ることもせず、デュエルソードの剣腹でその殴打を防いでいた。

タケルはその場で腰を捻って振り返る。


背後から頭部への不意打ち。それは俺の中に染みついた『敗北』のイメージの通りだった。

俺の悪夢の中で何遍となく繰り返された光景だった。


それに勝利するビジョンを俺はずっと研究し続けていた。今、頭の中で構築したイメージ通りに身体が動く。俺はデュエルソードを横殴りに振った。


刃が金城の首に突き刺さる。確かな手応えを残して、俺は剣を振り切った。


金城の身体が電子の粒子となって消え去った。


「・・・最悪の悪夢だったぞ・・・ストーカー野郎」


これでもう首を絞められる悪夢にうなされることもないだろう。


俺は残心の構えを取り、周囲を警戒する。

周りを見ると既に"Garden of Heros"のゲーム舞台が崩壊を初めていた。

プロテクトを壊したことで熊鷹さんがハッキングをしかけてサーバーの乗っ取りを初めているのだ。もうこの世界に俺達が残る理由はない。


「タケ!知寿のログアウトを確認したで!俺らも出るぞ!!」

「ああ!!」


俺の前で仲間達も電子の光となって消えていく。

俺もまたログアウト処理を行い、電子の光となって消えた。

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