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MOBA〜逆転の戦略〜

俺は前線から帰還してくる仲間達といれちがいに中流ミッドの守備に入った。

金城を無傷で残してしまったのが面倒だった。敵チームの生き残りが既に【ミニオン】と一緒に殺到しつつあった。


俺は城壁の前でそれを待ちかまえる。この城壁を割られたら、俺達のクリスタルまで一直線だ。


「さて、どうなるかな・・・」


俺はデュエルソードを肩に構えた。


「よう、誘拐犯ども」


俺は城壁を背にして防衛装置である監視塔の攻撃範囲内に仁王立ちする。なるべく自信満々に、なるべく世間をバカにしたような表情を取り繕う。


「金城!あいつの話はもう聞くな!いいな!」


『石盤』を持っている奴が金城にそう声をかけたが、既に金城は条件反射のように俺に攻撃を仕掛けようとしていた。俺は飛んでくる薄緑の光を受けながら一歩下がる。金城の攻撃範囲を見極めながら迫り来る【ミニオン】を倒していく。


「なぁ、金城!知寿のヒーローネームの由来知ってっか?俺達の『DoR』もあいつが名付けたんだけどさに似たような理由で・・・おっと」


『石盤』から放たれた強い光をかわした。

その『石盤』持ちが声をあげた。


「お前、ちょっと黙ってくれないか!」

「はぁっ?チート使ってるようなチーム相手にネットマナーをとやかく言われたかないね!」


『鉄鎧』が監視塔の範囲に入り込んで地面に両腕を叩きつけた。

衝撃波に煽られながら【突進チャージ】で後ろへと逃げる。


「なぁ、金城!お前は知寿の全てを知ってんだろ?そうなんだろ?あいつが1番好きな映画知ってるんだろ?あいつが今一番欲しいもん教えてくれよ!今年の誕生日プレゼントに何を買ってやるんだ?えぇっ!?なんか言ったらいいじゃねぇかよ!」

「ウルセェエエエ!」


俺が前に出たのに合わせて金城の【魂の抱擁】が飛んでくる。


「ああ、くそっ・・・」


骸骨の両手に挟まれ、体力が一気に減る。

一度築かれた有利のせいで金城の火力が冗談じゃすまないものになっていた。それでも俺はその場を離れない。【ミニオン】を切っては下がり、敵に【受け流し(パリィ)】を決めてはまた下がる。


「死ね!死ね死ね死ね死ね!!」


もはや金城には監視塔の攻撃範囲すら見えていない。ひたすらに突っ込んでは俺を倒そうとせまってくる。

試合開始から今の今まで挑発を続けてきたかいがあった。


そして、敵チームはその金城を見捨てることができない。この試合では金城がUltで俺達を倒し続けていたせいで、他の連中のLvがまるであがっていないのだ。敵チームからすればメイン火力である金城を簡単に失うわけにはいかなかった。


城壁に敵チームが殺到し、俺はそれをさばき続ける。

さらに相手は『スナイパーライフル』と『蛇腹剣』まで参戦してきた。

このまま城壁を破壊して、俺達のクリスタルを破壊する気なのだろう。


俺は更に苛烈になってきた攻撃をかわしながら、一人で耐える。

『スナイパーライフル』の射程をなんとか逃れ、『鉄鎧』の突進をかわし、『蛇腹剣』の攻撃に足をとられながらもなんとか防御姿勢を取る。


だが、5人相手の総攻撃だ。次第に避けられない攻撃が増えていく。


俺の体力が2割を切った。


俺は監視塔の後ろに逃げるしかない。相手が多少のダメージを無視して突っ込んでくるだけで負ける。


「おぉい!岳垣!」


俺はその場で足を止めた。金城がこの試合で初めて自分から俺に声をかけてきた。


「あん?」

「お前なんか!もう俺の敵じゃねぇんだ!」


俺への挑発か?それで低体力の俺の足を止めたあたり成功していると言っていい。


「『俺の知寿』はお前なんか見向きもしない!お前なんかが!お前みたいな凡人が!お前みたいな知寿のそばにいるんじゃねぇよ!」

「俺なんか・・・か?」


俺は現実世界で笑った。


「僕は・・・頭も・・・金も・・・見た目だってある!その上、知寿は・・・僕の内面すら見てくれた!彼女だけが僕を、僕の心を誉めてくれたんだ『やさしいね』って!そうだ、そうだろ!知寿は僕だけを誉めてくれたんだ!」

「ああ・・・なるほど・・・なるほどな」

「僕には・・・知寿しかいないんだよ・・・それに!知寿も、僕しかいないんだぁ!!」

「なるほど・・・それが本音か」


俺が突然笑い出したことで現実世界で周囲の人達が騒ぎ出したのを感じる。


「はははははは・・・」


電脳世界でも俺は笑う。笑いながら後退していく。

俺の目の前で城壁が崩れ去り、監視塔が破壊されていく。

俺はスタート地点に入って体力を全快させた。


「僕の知寿だ!僕だけの知寿だ!だから・・・お前なんかいらないんだぁ!!」


金城の声がここまで聞こえる。

敵がクリスタルを守る監視塔へと集まっていた。

だが、金城だけはそれらを無視して俺に向けて怨嗟の視線を投げていた。


「金城!おめぇ!勝ちたくねぇのか!」

「早く殴れバカ!!」


俺はすたすたスタート地点にこもりながら金城に声をかけた。


「なぁ・・・あいつ・・・なんで没入型ゲームが好きか知ってるか?」

「は?」


さっきまでと同じ挑発。違うのは、俺が答えを教えてやる気でいることだった。


「足が動くことはもちろんだがな・・・ってかそれが1番だけどさ」


監視塔の一本が折れた。


「あいつ、自分がわかりやすいハンディキャップ背負ってるだろ。でもさ、このゲームの中じゃまるで関係ない・・・知寿自身の話じゃないぞ・・・周りの話だ・・・」


俺はマップを見る。そして電脳世界で口端を釣り上げた。


「この世界なら、あいつが車椅子生活なんてもんを知ってる人間はいない。みんな対等だ。現実世界で学生だろうと、社会人だろうと、有名人だろうと、著名人であろうと関係ない・・・全てが自分の内面だけの世界・・・だからあいつはこのゲームが好きなんだ・・・わかるか?」


俺はアイテムの購入画面を片手で開く。


「あいつは人から特別視なんかされたくないんだ。俺からも、お前からも、世間からも」


金城の目が大きく見開かれた。


「だから、お前は嫌がられてんだよ。『車椅子に乗った心のキレイな可哀そうな少女』としかあいつを見てないお前にはな」

「うるせぇええええええ!」


思い当たる節でもあったのだろうか。金城の声が一層の金切り声になった。


「もういいお前なんかもういい!このクリスタルを叩き割ればお前は終わりだ!!おわりなんだよおおおお!!」

「さて、どうかな・・・」


俺は電脳世界で足に力をこめた。


そして、待ち望んだ声が天から響く。


【味方チームがゴーレムを討伐しました】


一瞬、世界が静止した。敵の連中の手が止まっていた。

敵が慌ててマップを開くのが見て取れる。奴らは誰も理解していなかったようだ。


どうして誰も疑問に思わなかったのか。


なんで自陣にこれだけ踏み込まれた状況で俺しか護衛にいないのか?他の連中がどこに行ったのか?俺達が最初から上流トップの森だけはずっと死守してきたのはなぜなのか?


全てはこの瞬間の為だった。


俺のマップには猿と蜂巣と後輩の3人が【ゴーレム】と戦っている様子が常に表示されていた。


身体を青い炎が包み込む。【ゴーレム】の『バフ』だ。経験値と資金が舞い込みLvが上昇する。

俺は手に入れた資金で素早く目標のアイテム【デウスエクスマキナ】を購入した。


「ようやく・・・ここまで来た!」


それはこのゲームにおける最高の攻撃速度上昇アイテム。

俺の最速を再現するには心許ないが、これでストレスから解放される。


「・・・なぁ、金城・・・俺もいい加減な・・・言いたかったんだよ!」


俺はスタート地点から飛び出した。


「てめぇごときが!知寿を語ってんじゃねぇえええええ!!」


闘技場コロッセオ】が発動する。


「あいつはな!!」


ローマの闘技場の中で金城と向き合った。俺は地面を蹴り、飛び出す。

放たれる【死霊の腕】を横っ飛びに回避する。この試合で何遍見てきたと思っている。いい加減、身体が慣れていた。


「てめぇが語れる程浅かねぇんだ!!」


肉薄し、足を止め、デュエルソードを振り下ろす。その直後には俺の剣は振り上げられていた。


「なにおぉ!?」

「黙れぇええ!!」


『髑髏の杖』から放たれる攻撃を無視し、俺はデュエルソードを振り続ける。


「お前にあいつが経験してきた苦しさの何割がわかる!あいつが乗り越えてきた壁の何割に共感してやれる!!俺だってな・・・俺だってな・・・わっかんねぇことだらけだよ!あいつは!!」


足を止めてのダメージの交換。しかも【闘技場コロッセオ】内の超至近距離。

この世界では俺が最強だ。


「いまだに凹むポイントわかんねぇし!苦しいのすぐに我慢すっから俺がどこで傷つけてたのかもわかんねぇ!それでいてすぐ拗ねっからまじでメンドクセェ!!そんなあいつをな・・・一言二言で語ってんじゃねぇよ!!」


俺が振り上げたデュエルソードが紅い光を帯びた。


処刑エクセキューションLv.5】

【味方チームが敵ヒーローを倒しました】


金城の憎悪にゆがんだ顔が電子の欠片となって掻き消えた。

そして俺のパッシブスキルが発動する。敵をキルすると体力の1割を回復するスキル。

金城に削られた体力の一部が回復する。


「つぎぃ!!」


俺は【突進チャージLv.5】を発動した。


「エィリャアアアアアアアアアアアアアアア」


狙うは『スナイパーライフル』

俺はデュエルソードを振り下ろし、すぐさま振り上げ、そして振り下ろす。

その俺のがら空きの背中に接近する影があった。

目の端で確認していたマップで『蛇腹剣』が素早く近づいてくるのが見えていた。


俺はデュエルソードを振り上げ、そして背中に背負うようにして止めた。時間にして1秒にも満たない時間。

息を止め、その一瞬に集中する。電脳世界で感じられないはずの殺気を俺は本能の欠片で感じ取った。


【受け流し(パリィ)Lv.1】


背を向けながらデュエルソードを振った。

振り始めた直後に手応えを感じ、後方で鳴った金属音をとらえる。

それは『蛇腹剣』を弾き飛ばした音だった。その勢いのままにデュエルソードを『スナイパーライフル』持ちの無防備な背中に叩きつけた。


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】


「ツゥゥギィイイエエエエエエアアアアアアアア!」


そのまま、後ろを振り返り態勢を崩したままの『蛇腹剣』へと切りかかる。


「イエェエエエエリャアアアアアアアア」


Lv.12【デウスエクスマキナ】完成時。それが『デュエルソード』のパワースパイク。

この時をどれだけ待っていたことか。今すぐに金城の顔面をぶん殴ってやりたい衝動を抑えに抑えて、挑発するために声を荒げないように注意し続けて、ようやくここまで来たんだ。

俺は今まで溜めに溜めた鬱憤を剣に乗せて振り続ける。


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】


「ダァァリャアアアアアアアアアアアア」


俺は『太陽の石板』持ちに襲い掛かる。

そんな俺を見て敵は逃げに走ろうとする。だが、ここは俺達の自陣だ。

深く入り込み過ぎた自分達の愚かさを恨むがいい。


「来るなあぁあああ!」


『石盤』のUlt【コロナ】が放たれる。

俺はそれをものともせずに突っ込んだ。既に俺は【ホワイトケープ】をまとっていた。


【ゴーレム】の討伐から戻った仲間達が参戦し始めていた。


「ケェェエエチャアアアアアアアア」


援護はありがたいが、火力支援は実のところもういらなかった。

俺は『石盤』を盾にするそいつにデュエルソードを振り下ろし続ける。クールタイムが終わった【処刑エクセキューションLv.5】を再び叩き込む。何かが砕ける音と共に『石盤』にヒビが入った。


守る盾を失ったそいつにデュエルソードを突き立てる。電脳世界越しに伝わる感触が俺の脳のアドレナリンを爆発的に増加させていく。


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】


最後の一人。防御特化の『鉄鎧』

その体には既に猿の『ミニガン』の弾丸が次々と突き刺さっていた。


突進チャージLv.5】で一気に接近。俺の一撃が最後の一発となった。


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】

【グランド・エースを獲得しました】


1人で敵5人全てに短時間でトドメを刺すと得られる称号。エースの証が俺の頭上で光輝いた。


「行くぞぉ!」


だが、例え敵を全滅させても勝ったことにはならない。

このゲームはあくまでも敵クリスタルを破壊しなければ勝ちにならないのだ。


【ミニオン】を押し込み、守護樹を焼き、城壁を崩して、監視塔をへし折らなければ前には進めない。

そして【ゴーレム】はその【ミニオン】を強化してくれるのだ。

俺達はこの『バフ』を生かすためにずっと下流ボットの前線を押し込み続けていた。


そして、今まさにその戦略が実を結ぼうとしている。


俺達は下流ボットへと駆け出し、一直線に敵の守護樹を目指す。

強化された【ミニオン】と4人がかりの攻撃で守護樹を一気に燃やしきる。敵の城壁が見えてきていた。

相手チームの復活にはまだ時間がある。


俺達は最初からこの展開を狙っていた。


金城を挑発して前に出させて早めに仕掛けさせたのも、上流トップ下流ボットの守護樹を無駄に死守し続けてきたのも。

全ては相手をおびき出した上で【ゴーレム】に攻撃をしかけ、相手に悟らせずに倒すためだった。


当然、危険な賭けだった。【ゴーレム】を倒している間に自陣クリスタルを破壊される可能性もあった。金城のチートなんて想定外のこともあった。


だが、俺達はその賭けに勝ったのだ。


『理論上DPS最強』の『デュエルソード』と『遠距離武器に中で最高のDPS』の『ミニガン』


俺と猿にかかれば城壁など既に紙切れ同然だった。


【敵城壁を破壊しました】

【敵監視塔を破壊しました】


「押し切れぇえええええ!!」


蜂巣が珍しく声をあげていた。


「ヤァアアアアアアアアアアアアア!」


俺の口からはもはや人の言葉は出ていなかった。猿叫と呼ばれる示現流の気合の裂帛だ。

俺達はようやく敵陣のクリスタルに肉薄しようとしていた。

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