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MOBA〜劣勢〜

金城達のVCは荒れ模様だった。

私はクリスタルの中からその様子に耳をすませていた。


「おい、金城!なんでこんなタイミングで使ったんだよ!俺らにメリットねぇじゃねぇか!」

「うるせぇ・・・黙れ・・・お前らが下手くそだから挽回してやったんゃねぇか!」

「ってか、なんで5対4でここまで押し込まれてんだよ!蛇川もっと仕事しろよ!」

「はぁ?守り固められてるとこにどうやって横から突っ込むんだよ。そんなこと言う前にあのフラスコ野郎を前に引っ張り出せよ」

「じゃあ下流ボットのフォローが出来てんのかよテメェは」


チーム仲はさほどよくないようだ。付け入る隙はまだまだある。


でも・・・


「金城、お前がさっさとフォローしに来いよ。お前もう頭一つ抜けてんだろ」

「僕に指図するな!言われなくてもやってやるよ!」


さっき、4人を同時に倒したことで金城のLvも装備も一気に充実し出していた。

私はクリスタルの中で遠くに見える森を見つめていた。


応援することしか出来ない自分が酷く無力に感じる。

だが、不思議と感情が湧いてこない。


一度は強く覚醒したはずの意識が再び微睡んできていた。なんだか考えることが次第に億劫になっている気がする。私に、何が起こっているのだろうか?



――――――― ※ ――――――― ※ ――――――― ※ ――――――― 



「ああっ・・・クソ・・・」


俺は一気に削れてしまった自分の体力を見て現実世界で悪態をつく。

守護樹の下でなんとか防衛しているものの、一気に火力の上がってしまった金城相手にするのはかなりキツイ。俺の体力はスキル2発で4割も削られてしまった。


金城は俺の行動など歯牙にもかけない勢いで守護樹に攻撃を仕掛けていた。

俺が前に出てきたら、スキルを撃ち込んで撃退できると思っているのだろう。実際そうだろうし、ここで下手にやられて金城の資金を更に増やす結果にすることは避けたかった。


【死への誘い】のクールタイムは約3分。スキルのクールタイムを短くするアイテムを購入しているから実際はもう少し短い。次の攻撃が来る間が勝負であった。


「おい、金城」


俺が声をかけると返事の代わりに【死霊の腕】が放たれた。俺の避けるであろう方向への偏差撃ち。

俺は癖で飛びそうになる身体をなんとか押しとどめ、あえて動かないことで避ける。


頭に血がしっかり登ってる。だが、スキル精度が落ちる様子はない。


「なぁ、『お前の知寿』はさ。好物はなんなんだ?お前、ディナーとか考えてるんだろ?あいつが好きな食い物知ってるか?」


金城は髪を振り乱して俺を見た。視線で人を殺せたらと願っていそうな程の濃密な殺意が電脳世界を介して伝わってくる。俺は現実世界で汗が垂れるのを感じた。


人間ってやつはここまで強い感情を放てるもんなんだな。


俺は内心で腰が引けそうになる自分がいることを自覚した。今の金城は尋常ではない。


【ファースト・ブレイク】

【敵チームの守護樹が燃え尽きました】


下流ボットで猿が敵の守護樹を焼き払った。

今、下流ボットには猿だけしかいない。蜂巣は自陣の森の中にいた。森のモンスターを狩るためではない、狙いはもっと凶悪な存在だ。


「あいつの好物知ってるか?教えてやろうか?なぁ、知りたいだろー」

「ウルセェ!それぐらい知ってんだよぉ!お好み焼きだろぉ!」


【魂の抱擁】を飛んで回避。

逃げた先に【陵墓】の墓石が設置された。この位置に置かれてはろくに【ミニオン】を殴れない。しかし、このタイミングでここに墓石を設置するのは悪手だろう。

俺はあえて発動させて、骸骨兵を呼び起こさせた。骸骨兵の矢を受けて『フィアー』を受ける。

俺は守護樹の下から追い出されるように後退する。


だが、この骸骨兵はあくまで『金城のスキルによる攻撃』なのだ。

『金城が俺を殴った』ことで今まで他に向いていた【ミニオン】と守護樹の攻撃が金城に集中した。

Lvのあがってきた金城はもはや【ミニオン】の攻撃は痛くないだろうが守護樹の攻撃はそういうわけにもいかない。


金城は苛立ちを隠せぬまま、後退していく。

徐々にプレイが雑になっている。心理攻撃は機能しているようだった。


「お好み焼きねぇ・・・」


俺は体力回復アイテムで減った体力を回復しながら金城を牽制する。

こちらの守護樹の耐久力はもはやほとんど残っていない。

守護樹の下での戦闘という有利を生かすなら時間が無い。


「それって、もしかしてあいつの検索履歴から調べたんか?特にここ最近は増えてたんじゃねぇのか?」

「・・・・違う!ぼ、僕が・・・『僕の知寿』は教えてくれるんだ!彼女が好きなもの!彼女が買いたいもの!だから、僕が見てるのを知っててネットを使ってるんだ!」


ふと、ヘッドセットから熊鷹さんの声が入った。


「典型的だな。彼女の行動は全て自分のためにしていることだと思っている。ストーカーが盗聴するのと同じだ。声を聞き、話しかけてもらえていると感じたがる。自分達が両想いだという妄想にとらわれているストーカーにありがちだ」

「最悪な『構ってちゃん』ですね」


俺は現実世界でそう声を出した。

俺は気をとりなおして電脳世界で精神攻撃を仕掛ける。


「・・・でも、残念だったな。それ、あいつの親父さんの好物だから」

「・・・・・・・」


その時の金城の変化は見事だった。目が驚いたように見開かれ、間抜け顔が現れる。


「それな。あいつが親父さんの誕生日に食わせてやりたくて色々調べてたんだよ。去年の今ぐらいも調べまくってたな・・・そういえば、もうそんな時期か」

「・・・・・・・・」

「でだ、あいつが本当に好きな料理はな・・・知りたい?」


金城の顔が歪んだ。


「・・・う・・・」

「う?」

「うるさい・・・・うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!うるさぁぁぁあああああい!」


次の瞬間だった。森の中から鎖が伸びた。蜂巣のスキル【チェーンデスマッチLv.1】だ。

蜂巣は既に下流ボットに拘らずにフィールド全体のサポートを始めていた。

鎖は確実に金城に絡みつき、引き寄せる。強引に守護樹の攻撃範囲内に引きずりこむつもりだった。


俺はその期を逃さず【突進チャージLv.4】で金城に肉薄する。


だが、俺が肩からぶつかった直後には金城は既に動き出していた。

ヒーロースキル【キュア】が発動したのだ。自身にかかっている行動阻害を全て解除するスキルだ。


「っち」


現実世界で舌打ちをする。

蜂巣は森から飛び出し『鎖』で殴りかかろうとする。それを見越したように金城の【死霊の腕】が蜂巣に直撃した。攻撃時の隙を狙われた。


十分冷静じゃねぇか。


「キャアアアアアリャアアアアア!」


俺は構わずに金城に斬りかかる。


【バリア】【ヒール】と次々とヒーロースキルが発動し、十分なダメージを与えられない。

デュエルソードの硬直時間はまだ長い。だが、2対1ならまだ勝機はある。

俺のデュエルソードに鎖が絡みついた。俺の防御能力が格段に上昇する。蜂巣の援護スキル【ロックガードLV.1】だ。

俺達二人を巻き込むように大地から骸骨の両腕が現れた。【魂の抱擁】による攻撃。俺はそれに合わせて【受け流し(パリィ)Lv.1】を発動した。

蜂巣の援護のおかげで、俺の防御能力が向上している。相手のスキルすら俺の剣は弾き返せる仕様になっていた。俺は右側から迫りくる腕に対してデュエルソードを盾のように構えた。


「アリャアァアアアアアアアアアアア」


巨大な掌を受け止め、押し返す。デュエルソードを振り切り、骸骨の腕を押し返した。骸骨の腕がバラバラの骨になり、土塊となって地面に吸い込まれていく。風圧が生じ金城の身体が流れる。俺の体力も残り少ない。仕留めきれるか。


俺は頭の中で体力と金城のスキルのクールタイムを計算する。


勝てる・・・


「タケ!援軍や!!」


猿の台詞がVCから聞こえた。

俺の身体が反射的に後方にとんだ。


間一髪だった。俺がいままでいた場所に雷を帯びた弾丸が突き刺さった。


「・・・あぶね・・・」


俺は『スナイパーライフル』のスキルをかわし、蜂巣と目を合わせた。頷き合い、俺達は後ろに下がった。

相手の下流ボットを担当していた2人組がこっちに参戦していた。


「おれも寄ろか?」


猿は下流ボットで今も【ミニオン】を押し込んでいる。猿は2本目の守護樹に手をかけようとしていた。


「いい!中流ミドルの守護樹は捨てる。お前も下がれ!間違いなく『蛇腹剣』の野郎が寄ってるぞ」

「わかっとる」


猿は【ミニオン】の最後の一匹を倒し、近くの草むらへと逃げ込んだ。味方【ミニオン】が大量に敵陣深くまで押し掛けていく。そうやって下流ボットの前線を上げつつ猿は後退していった。


俺達は中流ミドルの2本目の守護樹を越えて城壁付近まで後退する。

そこでスタート地点にワープして体力を回復する。


【味方チームの守護樹が燃え尽きました】


俺達の守護樹が燃え、森の一部が焼け野原になる。

金城達はそのまま、下流ボットへと移動していく。


「【ドラゴン】だなこりゃ・・・」

「ええ。あっ、映った」


俺はスタート地点で蜂巣と猿と共に買い物をしながらマップを眺める。


蜂巣がドラゴンの巣の周囲に設置していた『松明』に敵のプレイヤーが4人うつっていた。

金城と『スナイパーライフル』『蛇腹剣』『太陽の石板』の4人だ。奴らは俺達の『松明』を探し出して破壊した。森の中が暗闇に包まれる。

ちなみに、敵の5人目である『鉄鎧』は今もうちの後輩君と戦っていた。


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】


流石だ。


そして、しばらくしてアナウンスが流れた。


【敵チームがドラゴンを討伐しました】


またこれで俺達と金城の間の差が広がったわけだ。

そして、3分が経過する。


「金城のUltのクールタイムが終わった・・・お前ら、気を抜くなよ」

「わかっとるわ」

「なんとか挑発して、意味の無いタイミングで打たせて」

「簡単に言ってくれるな・・・」


猿と蜂巣は上流トップに向かう。

敵チームが川の下流ボットに近い位置にあるドラゴンを討伐したのなら、その流れで下流ボットの守護樹を狙いにくるだろう。だが、【ミニオン】を押し込んでいたおかげで下流ボットの前線は敵陣にある。すぐに敵が殺到してくることはない。

猿と蜂巣は今までの戦いで有利を築いている。【ミニオン】の処理速度もあがっているのでさらに有利を広げるために上流トップを攻め込む。


「・・・・・さて・・・」


危険なのは、守護樹での攻防戦をやっているタイミングで【死への誘い】が飛んできて壊滅する事態だ。Lvがあがったことで、やられた時の復活時間は随分と伸びている。ここから先は1デスが重い。


「・・・・・・・」


金城の次の動きを予想する。【テレポート】でフィールド全域に即座に移動できるあいつを相手にするなら、先手を打つしか方法はない。

普通に考えれば、互角状態にある上流トップか負け込んでいる下流ボットに救援に行くのが筋ってもんだが・・・


俺は中流ボットで焼け落ちた森の中に姿を見せた。そしてやってくる【ミニオン】を地道に片付ける。

俺の姿は相手にも見えている。それでいい。それが狙いだった。


「・・・・・・」

「よう、来たな」


散々煽り続けたこともあり、もはや俺の姿だけで金城が釣れる。

俺は中流ミドルで守りを固める仕事をまだ続ける必要があるらしい。


「さぁて、次は何の話がしたいんだ?」


俺はそう言いながらマップを見る。間も無く上流トップで集団戦が起きそうだった。

俺はVCで仲間に呼びかけようと口を開いた。


「・・・お前の顔はもう見る価値がない」

「あん?」


俺はVCをオンにしながら会話を行う。


「お前の・・・言葉なんか・・・聞きたくない!聞く必要もない!聞く価値もない!」

「さっきも似たようなこと言ってたな」


嫌な予感がしていた。

マップ上では上流トップにいる敵が仕掛けてきていた。


「だから・・・俺の前から消えろぉ!きえろよぉおおおおお!」

「来るぞ!」


俺はVCで叫び、一気に金城との間合いを走って詰めた。

3秒の詠唱時間。その間に切り殺す。


「ダァリャアアアアアアア!」


振り上げて降り下ろす。ダメだ。硬直時間が長すぎる。

まだLv.8程度の力じゃ、デュエルソードのスペックが発揮できない。

スキルを使い切った上でも間に合わない。


頭上の薄緑の光が次第に迫ってくる。

そして、【死への誘い】が降り注いだ。


「・・・・・・・・・・なに?」


金城が呟くのが俺の頭上で聞こえた。

アナウンスは一つも聞こえない。


まぁ、そりゃそうだ。


【死への誘い】は発生まで時間がかかる。

そして、上流トップには『フラスコ』を持った後輩君がいるのだ。

Ult【ミストキャッスル】を発動しないわけがない。


「先輩、嫌なタイミングでしたよ。ほとんどUltが無駄打ちになっちゃったじゃないですか」

「・・・挑発するなり長話するなりなんとかしなさい」


簡単に言ってくれる。

俺は電脳空間の地面に倒れながら、動かない身体でVCの話を聞く。


「【守護天使の羽】か!クソクソクソ!」


俺の頭上で金城が地団駄を踏む。実にいい感じだ。


金城が言った通り、俺は【守護天使の羽】というアイテムを買っていた。やられても数秒後に3割程の体力で復活できるアイテムだ。

相手が一撃死のスキルを使うなら当然の対策だ。


金城が俺の頭上で【陵墓】を使って俺の後方に墓石を設置する。

逃げ道を塞いで俺だけでもキルする気なのだろう。


俺の頭上から白い天使の羽が舞い降りる。

眩い光に包まれ、優しい力が俺の身体を直立させてくれた。


「死ねぇぇぇえええ!」


その復活に合わせて、【死霊の腕】が敷き詰められる。

だが、その腕は青い光の残滓をかすめただけだった。


【スライド】で俺は森の中に飛び込んでいた。

そして、間髪いれずに走り出す。

両脇から迫る【魂の抱擁】を回避して森の中を走る。


「あぁ・・・ひっさしぶりだな」


森の中のモンスターである【レイス】が彷徨い出ていた。


「ちょいと、経験値貰うぞ」


金城は俺を追うのを諦めたらしく、中流ミドルを更に押し込みだした。

この体力では資金面で頭一つ抜け出た金城を相手にできない。守護樹の下での防衛もままならないだろう。2本目の守護樹も諦めるしかなさそうだった。それを焼き払われると、次は城壁が剥き出しになってしまう。

ただ、金城の『髑髏の杖』はプレイヤーを倒すのは得意だが、守護樹を破壊するのは苦手なのだ。

少しでも火力の高い金城を中流ミドルに縛り付けておくことができるならそれで御の字だった。


俺は【レイス】を切り捨てる。聞き慣れた断末魔を聞き、経験値と資金を貰う。


「ふぅ・・・」


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】

【敵ヒーローを倒しました】


上流トップではお互い痛みわけになっていた。

こちらは蜂巣が、敵チームでは『蛇腹剣』が倒されている。


「お前ら、中流ミッドのフォロー頼む」

「了解や。タケは下流ボットを押し返してくれ」

「ああ、最初からそのつもりだ」


敵チームの『スナイパーライフル』と『太陽の石盤』が前線を川まで押し返していた。

下流ボットの守護樹は絶対に折らせてはならない。

俺はスキルを確認して、下流ボットへと走り出した。


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