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MOBA~チート~

再び金城と相対する。試合時間はそろそろ5分を過ぎる。俺はまだまだ全力には程遠い状態だ。

お互いにそろそろUltアルティメットスキルを覚えるLv.6に達しようとしていた。

全体の試合自体はほぼ互角と言っていい状況が続いている。


上流トップでは後輩が1度やられたものの、それまでの貯金があって優位を築きつつある。

中流ミドルは正直苦しい状況だ。だが、挽回不可能な敗北には達していない。

下流ボットは4対5という状況を考えればかなり善戦している。何よりも蜂巣のキレがおかしなことになっていた。『鎖』という武器は相手の妨害、味方の援護、遠距離攻撃とできることが多い分、使い手の技術が直結する。今日の蜂巣の仕事ぶりは見事としか言えなかった。


【味方チームが敵ヒーローを倒しました】


下流ボットでは既に勝敗が決しつつあった。


「・・・本気だな」

「当然、ここが私達のアキレス腱なんだから。絶対に負けない」


蜂巣がVC越しにそう言う。猿もしっかり期待に応えきれているようだった。

猿の機関銃が守護樹の耐久力を削っていく。


問題は俺のレーンだった。

さっきから押し込まれ続けているのもあって、自軍の守護樹の耐久がかなり減らされていた。


「タケ、そろそろ仕掛けて頂戴・・・体力はあるでしょ」

「まぁな」


自分と金城とのダメージレースで勝てるかどうかを調べておいた方がいい。

俺のUlt 【闘技場コロッセオ】を使うにあたり、それは重要な情報だった。

金城と二人っきりになったはいいが、1対1で負けましたじゃ笑い話にもならない。


お互いのアイテム状況を確認する。金城は順調に成長しているようだ。

俺は『蛇腹剣』のプレイヤーを倒したが、金城は後輩君を倒したことで俺との資金差はあまり変わっていない。


俺は【ミニオン】の切れ目を狙う。金城も必ず俺に攻撃を仕掛けるタイミングを狙っているはずだ。

だが、さっきから奴はスキルを一つも使っていない。【陵墓】で墓石を設置するぐらいだが、その動きはどうもきな臭い。


近くに味方が寄っているのか?だが、『松明』にはその影は映らない。

チートで姿を消している?その可能性は無きにしも非ずだが、そこまで警戒してられない。

【ミニオン】の処理を遅らせて前線を引くつもりだろうか?その展開が俺は一番苦しい。今下手に前に出れば金城のスキルの総攻撃を受けて洒落にならないダメージを負うことになる。


スキルを使わせて、その隙で攻撃したいが・・・仕方ないか・・・


「・・・なぁ、金城。お前、知寿のどこが好きなんだよ?」


俺はスキルの代わりに言霊を飛ばしてみることにした。

金城の繭がピクリと動いたのが見えた。


「・・・・・・」

「俺は正直言って一般人があいつの何が好きになるのかよくわからん。顔や髪型や体型が好みってのは、まぁわからんでもないが・・・付き合うなら凄まじくメンドクサイぞ、あれ」


【ミニオン】を処理しながら喋る。

聞こえないわけがない。金城は聞きたいに違いないのだ。奴はストーカーだ。独占欲の塊なら、自分が知らない『知寿』の姿なんか許しておけるはずがないのだ。

例えそれが、こんな試合中であっても変わらない。


精神攻撃から入るのは少々心が痛むが、それこそが俺が金城を対面に選んだ理由だった。

後輩君が中流ミドルを担当すれば互角の戦績は得られただろう。だが、4対5という状況で『互角』では困るのだ。


「それでさ・・・お前・・・どんなデートプラン考えてんだ?」

「・・・・・・」

「一応言っておくけどよ。あいつ映画NGだぞ」

「・・・・・・」


金城の目がこっちを向いた。


「想像したことあるか?車椅子相手のデートがどんだけ大変か。映画館に行きたくてもあいつが暗闇の中でトイレに出られるわけがねぇだろ。席だって当然端っこにしか座れねぇ。お家でDVDが正解だけどさ・・・あいつ、どんな映画好きかわかるか?」

「・・・・・・・」

「教えね。知らねえみてぇだから教えね」


『髑髏の杖』を持つ手が怒りで震えていた。

俺は喉の奥で笑う。


「ああ、それとブティックとかやめとけよ、スカート類の試着とかまず無理だからな。上着ならなんとかなるけど、あいつの趣味笑うぞ・・・あと遊園地。観覧車なんか乗り移れねぇから無理だし、絶叫マシンとか場合によっては拒否られるから気をつけろよ。バリアフリーのお化け屋敷があるなら行きたがるかもしれねぇけど?でも、追いかけられるアトラクションとか恐怖心欠片も感じられねぇからな。車椅子ののんびりした速度でしか追ってこねぇからしょうがねぇけど」


それは俺はあることないことを絡めながら話す。なるべく真に迫るように、なるべく昔懐かしむように、あたかも実際に経験したかのように話す。

ちなみに俺は知寿と遊園地にも映画にも行ったことはない。行くまでもなく、知寿が楽しめないことがわかっているからだ。


あいつと一緒に出かけるなら正解は『食事』『カラオケ』、デートなら『水族館・動物園』『展望台』だ。


もちろん俺は教えない。


「・・・・・・」

「なぁ、なぁなぁなぁ。教えてくれよ、おめぇのデートプランってやつをさ。なぁ、『お前の知寿』と、どんなデートコース考えてたんだ?えぇ?俺が評価してやるよ。長いことあいつの私生活を近くで見てきたこの『俺』がお前のデートコースの点数つけてやるって・・・」


突進チャージLv.3】を発動する。


「言ってんだよ」

「っ!!」


金城の反応が遅れた。俺はスキルで接触した直後には横に飛んでいた。

俺がいた場所に向けて【死霊の腕】が放たれる。だが、その場所に既に俺はいない。

回り込み、俺は剣を振り下ろした。硬直時間を経て次の斬撃。まだ火力アイテムは揃っていないが、柔い魔法使い相手なら結構ダメージを望めそうだった。


「なぁ、教えろよ。ほらほらほら!」


左右から【魂の抱擁】が迫る。だが、無視。

俺の体力の減り具合をみながら金城の攻撃を受ける。

俺はすぐにその場を離脱した。スキルを使い果たした金城の通常攻撃を一発受ける。


だが、二発目には【受け流し(パリィ)Lv.1】を合わせた。

動きを確実に封じて安全圏まで離脱する。


「おい、どうしたい?なぁ・・・聞かせてくれよ。お前ご自慢のデートプランってやつをさ」

「いい加減にしろよ・・・」


俺は隣にいた敵【ミニオン】に剣を振り下ろした。

だが、俺は金城から目を離さない。その底冷えする声には覚えがあった。


『・・・・・死ね』


耳の奥に襲撃された日の夜のあの台詞が蘇る。

憎悪を煮詰めて作り上げたような腐臭と、そこから立ち上るガスに引火しているかのような熱量。

殺意が溢れると人はこういう声を出す。


「・・・お前に!!・・・俺の!!・・・知寿の!!何がわかる!」


一言一言毎に息を吸い込み、呼吸すらままならない様子で金城が叫んだ。


煽り耐性がなさすぎる。今まで叱られたこととかないのかよ。


俺は金城から顔を背けて【ミニオン】に切りかかる。


「キサマァァァァ!!きいぃてるのかぁぁぁあ!」


俺は無視するように顔を横に向ける。だが、実のところ決して彼から視線を外してはいなかった。


「僕を・・・僕を・・・バカにするなぁああああああああ!」


さぁ、出せ。出してみせろ。てめぇの切り札をよ。


金城はUlt【死への誘い】を発動した。3秒の詠唱後、フィールドの全域に攻撃が降り注ぐ。

今から突撃しても、3秒では金城の体力を削り切れない。発動を防ぐのは諦め、俺は逃げに徹した。

【死への誘い】によるダメージ程度ではやられてしまう程ではないが、追撃がくると危険だった。


俺は川をあがり、守護樹まで逃げ込む。


そして、【死への誘い】が降り注いだ。


【味方ヒーローが倒されました】

【味方ヒーローが倒されました】

【味方ヒーローが倒されました】

【味方ヒーローが倒されました】


「え・・・」


俺達はチームメイト全員がスタート地点に戻ってきたのを見て、お互い顔を見合わせた。

皆が何をされたのか理解してできていなかった。だが、次第に状況を頭が理解し始める。


「はぁぁっ!なんやこれぇぇええ!!」


猿が真っ先に声を上げた。


「なんでや!俺、体力半分以上あったで!なんやこれ!チートや!チーターや!!」


冗談がまだ出てくるあたり余裕がありそうだった。


しかし・・・


「やっぱり・・・改造してやがったな」


金城のUltで体力に余裕のあった猿や蜂巣まで綺麗さっぱり吹き飛んだ。

Ult【死への誘い】は全範囲一撃死の糞スキルに改造されているようだった。確かに切り札としてはこれ以上のものはない。どんな不利な状況でも、どんな劣勢でも確実にひっくり返せる。


「しかも、このスキルね。厄介極まりないわね」

「・・・あの?」


後輩が教師に質問するときのように手をあげた。


「なんだい後輩君」

「これってやばくないですか?もし、Ultのクールタイムまでいじられてたら、俺達が復活すると同時にまたあれが飛んできますよ!」


後輩の疑問はもっともだったが、それには猿が答えた。


「いや、それはない」


猿はひとしきり叫んで気が済んだのか、既に買い物をはじめていた。

ちなみに猿は現実世界でも叫んでいた。ヘッドセット越しに熊鷹さんが「どうした!?」と慌てている様子が伺える。


「なんでです?」

「チーターどもの考えることは大概一緒や。『ゲームにストレスなく勝ちたい』」


猿は素早く買い物を終え、『ミニガン』の上に腰かけた。


「わかるか?ああいう輩は自分達が簡単に勝てる試合しかしとうない。裏を返すと、自分達が破ったルール以外は守った上で試合すんねん。試合開始と同時に【Victory】になる改造とか、自分の攻撃範囲が無限になって相手のクリスタルを直接破壊できる改造とかはまずせぇへん。それやと試合そのものが成り立たん。『勝利』って感じがせえへんやろ」

「・・・なるほど・・・」

「特にこういうチーム戦では顕著や。自己顕示欲の高いアホ程、自分1人が大活躍する試合にしたい。金城の奴も一緒や。ほんまにチートだけで勝つつもりなら、試合開始からあのUltを連発しとる。それに、ヒーロースキル持ち込み無限なんて地味な真似はせぇへん」


俺達の中でオンラインゲーム歴が最も長い猿だからこそこういった事情にも詳しい。

猿は『まるで気に食わない』とでも言いたげな表情だった。


「というか、金城がストレスに感じ取ったんはほんまはヒーロースキルの選択制やったんやろ。このUltのチートは最後の最後まで隠しときたかった切り札やったと思うで。マップ全体、一撃必殺。味方を助けつつ、自分が大活躍するにはベストなタイミングで打ちたかったはずや。せやのに、なんでこんな中途半端なタイミングで打ったんや?」

「そうね。私達はちょうど相手を追い返していたタイミングだし、後輩君も買い物のためにスタート地点に戻ってきたところだった・・・今、打っても有利らしい有利は築けないのはわかりきっていた」


そういえば、俺はさっきVC切ってたんだ。本当は金城を煽る時の文言は蜂巣監修であったので、全部VCで流すように忠告されていた。普段、森のモンスターを蹴散らす時に叫びまくっているのでVCをオフにする癖がどうにも抜けていなかった。


「ああ、それなら俺が挑発した」

「あら、どれ使ったの?」

「デートプラン」

「なるほど・・・それで頭にきて咄嗟に打ったと」

「ああ、そうだろうな」


金城一人は俺達4人分のキルを得て一気に資金を稼いだんだろうが、それ以外の敵の4人はアシストすらもらえていない。俺と金城の資金差は一気にバカにならない額になっているが、他の場所ではあまり差は出ていないだろう。そういう意味ではベストなタイミングだったと言える。


「問題は・・・次からどうするか?だけど・・・」


俺は味方チームが買ったアイテムを確認する。

俺が言うまでもなく、皆は今買い込んでいるアイテムを一時的に無視して『あるアイテム』を買いに走っていた。


「まぁ、そうするよな」


奴がLv.6になった直後に奴の切り札を明らかにできたのはなかなかの功績になりそうだった。


復活時間が迫り、俺達は再び武器を構える。


「それじゃあ【死への誘い】のクールタイムが終わったら俺から合図する」

「任せる。できるだけ被害の無いタイミングで使わせて」


蜂巣にそう言われ、俺はふと彼女に質問した。


「次は何で挑発すればいいかな?」

「デートプランの話をしたんでしょ。金城って家がお金持ちだし高級ディナーとか考えてるはずだから、好物の話でもしてやれば?」

「なるほどな。的確に相手を抉っていくな、お前は」

「あなたの迫真の演技あってのものよ」

「まぁ、あれ相手だと自然とできる・・・やっぱすげぇ腹立ってるんだって実感するよ」


他人事みたいに言い、俺は蜂巣と別れて中流ミドルへと向かう。

空から【死への誘い】は降ってこない。猿の想定はなかなか確信をついているらしい。


「猿が守護樹を焼き切ったら集団戦に移行すんぞ。金城がバカ程リード作りやがったから、もう中流ミッドはもたねぇ。注意しろよ」

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