MOBA~有利と不利~
守護樹の下でLHを取るだけの時間が続く。時折、俺をその下から追い出そうと金城のスキルが飛んでくるが、そう易々と当たってやるつもりはない。
「11・・・12・・・13・・・」
【死霊の腕】が発動する。金城の前方直線状の地面から骸骨の腕が俺をとらえようと手を伸ばす。
俺はそれを右に回避。その先に【陵墓】による墓石がないのは知っている。さらに【魂の抱擁】が発動するであろうことは予想済み。俺の左右に飛び出した骸骨を【突進Lv.1】を使って素早く回避する。
『髑髏の杖』のスキルのクールタイムは完全に頭に叩き込んでいる。
俺は金城がスキルを使ったタイミングから頭の中でカウントを開始する。
普段はここまで相手のスキルを把握するなんてことはしない。疲れる。
だが、今回は俺の久々の1対1だ。それに負ければ後がない。やれることは全てやっておいた。
そのおかげで不利な状況下でも十分に食いついていける。
俺はパネルを表示して俺と金城が稼いだ資金の差を確かめる。
およそ、150Gと言ったところだ。開始3分でこの資金差はやはり不利には違いない。
この数字を維持できればいいのだが簡単にはいかないだろう。
『髑髏の杖』で1番厄介なのは【死霊の腕】だ。地面から俺を掴もうとしてくる腕に捕まると、数秒間その場に足止めをされてしまう。次に辛いのが【陵墓】による行動制限だ。強制的に逃走を強いられる『フィアー』のプレッシャーはかなり重い。
俺は【陵墓】による墓石の場所を常に頭に叩き込む。墓石は時間経過で消えてくれるのでそれのカウントも忘れない。
頭の中では常にタイムカウントが行われ、相手のスキル状況を把握し続ける。
再び飛んできた【死霊の腕】を避ける。それは俺の脇を通り過ぎて青い【ミニオン】の体力を削っていく。当然、自軍【ミニオン】は素早く処理される形になり、敵【ミニオン】がこちらの守護樹に殺到してくる。
それは俺の狙いでもあった。有利不利がはっきりしている以上、前に出て逃走路を徒に伸ばすのは自殺行為だ。
守護樹の下で戦えば、万が一に敵のスキルに当たっても素早やく自陣の奥へと逃げ込める。
だが、このまま一方的に押し込まれていては金城との資金差は開くばかりだ。
さて・・・そろそろかな。
「お前ら、敵の5人目見たか?」
VCで他の面子に呼びかける。
「見てない」
「見てないです」
蜂巣と後輩がそう答えた。不気味だ。人数有利であることは相手もわかっているだろう。なのに、森の中に引っ込んでいる5人目はまだ姿を現さない。
引っ張り出してみるか。
俺はLv.4になった頃を見計らう。
金城の【死霊の腕】を潜り抜ける。墓石は手前にはない。相手の足止めスキルは今はない。
俺は【突進 Lv.2】を発動した。
守護樹の下から飛び出し、一気に金城に肉薄する。
「エィヤァァアアアアアアアアアア」
振り下ろしたデュエルソードの硬直時間を【受け流し(パリィ)Lv.1】を発動して解除する。金城の攻撃がないので防御の意味はないが、自由になった剣を振り上げることはできる。
俺はその一撃に【処刑Lv.1】も乗せ、金城の首筋から袈裟切りにデュエルソードを振り下ろした。
真剣であればこれだけで全部終わるんだけどな。
胸に渦巻く殺意をこらえる。直後、左右に巨大な骸骨の腕が生えてきた。回避は不可能だと感じ、俺は甘んじてその攻撃を受ける。
金城は後方に逃げながら、杖を振って緑色の光を飛ばしてくる。
一発はさっき発動した【受け流し(パリィ)Lv.1】で弾き飛ばす。跳ね返った通常攻撃は金城の【髑髏の杖】を跳ね上げて隙を生んでくれる。だが、次の剣を振り下ろそうにも、金城は既にデュエルソードの間合いからは逃げきっていた。俺も素直に後退した。
逃げている間に数発の通常攻撃をもらう。遠距離攻撃持ちはずるい。
「11・・・12・・・13・・・はい、お疲れ」
俺は後退する俺を足止めしようと飛んできた【死霊の腕】をくぐり抜ける。
【突進】でもう一度攻撃をしかけようかと思ったが、【陵墓】が俺と金城の中間地点に置かれた。これでは迂闊に飛び込めない。
俺の体力は残り6割。対して金城は7割前後。序盤は弱っちいデュエルソードではこのぐらいが限界だった。
俺は守護樹の手前で【ミニオン】が戦うように敵の進軍を調整する。
「さて・・・来たかな・・・」
俺は森の中に敵の5人目が現れたのを見つけた。そろそろだと察して『松明』を配置していたのが功を奏していた。敵には見えない『松明』の光だ。敵の5人目は自分が発見されていることすら気づいていないだろう。
「ふん・・・金城以外は大したことなさそうだな」
俺は現実世界でそう呟いた。
俺の体力がやや削れた状況。守護樹からは離れ、すぐに逃げられない位置。横から奇襲をしかけるならもってこいだろう。
「12・・・13・・・さて・・・と」
俺は少し逃げるような仕草を見せた。
「・・・そこだぁ!」
【死霊の腕】が来る。俺はその攻撃を見事に浴びた。足が絡み取られ、動きが封じられる。ほぼ同時に両脇から【魂の抱擁】が出現。連続でスキルを浴び、体力が3割前後まで削られた。
「くそっ!!」
俺は悪態をつきながら、一歩引く。守護樹の下まで逃げ込まなければならない。
だが、敵がそれを許すはずもない。森に待機していた5人目が飛び込んできた。やつの持っている武器は『蛇腹剣』だ。奴は俺の後方の壁に伸ばした剣先を突き立て、それを手繰るようにして俺の目前へと飛び込んできた。
俺は接近する5人目の様子を冷静に観察する。
その目は真っすぐに俺だけを見ていた。顔はやや興奮しているが、その目は冷静さを失っていない。
相手の体力は満タンだ。この体力なら守護樹からの強烈な攻撃も5~6発は耐えられる。その間に俺を倒せると踏んだのだろう。
実際、そうだろう。『蛇腹剣』の攻撃力なら確実に俺を削り切れる。
だが、それは俺が無抵抗の場合の話だ。
俺は『蛇腹剣』を手繰って迫ってくる敵をかわすために後ろに下がった。
この位置では金城の遠距離攻撃も届かない。
だが、『蛇腹剣』と言うだけあってその射程距離は俺より長い。
『蛇腹剣』がムチのようにしなり、俺に攻撃をしかけてくる。俺はそれを防御しつつさらに後退。
敵の5人目は守護樹の攻撃を受けてでも突撃してきた。
「いただきぃ!!」
『蛇腹剣』のスキルが発動する。【脛切り Lv.1】は周囲に攻撃を放ち、受けた相手の機動力を奪うスキルだ。俺の踏み出した足が急激に重くなり、守護樹の下からそれ以上逃げることができない。既に俺の体力は1割まで削られていた。
『蛇腹剣』を持った男が俺に迫る。頭上から剣が振り下ろされた。
俺は気合を入れてその『蛇腹剣』に剣を合わせる。
「オラァ!」
【受け流し(パリィ)Lv.1】が発動した。
デュエルソードが敵の『蛇腹剣』を高く跳ね上げた。
敵の動きが止まる。俺は無防備な敵の身体に【処刑】の乗ったデュエルソードを叩きつけた。
だが、これで終わらせるつもりはない。
「このぉおおお!!」
相手からすれば俺の体力はあと一撃で消し飛びそうなのだ。今更後には引いてこない。
俺の頭上に再び『蛇腹剣』が迫った。
【スライド】
『蛇腹剣』が空を切る。俺はその場から消え、相手の後方へと回り込んでいた。
そして、背後から【突進Lv.2】を叩き込む。目標は味方守護樹。
俺の肩から突撃を受け、敵は守護樹へと叩きつけれた。その間にも守護樹からの攻撃はやむことはない。
みるみるうちに体力が削られていく。
「あぁ、くそっ!せめててめぇを!!」
今から守護樹の攻撃範囲外に逃げ切ることはできない。ならばと、敵は俺にトドメを刺さんと『蛇腹剣』を振り上げた。
「残念でしたね」
【ヒール】
体力を回復するヒーロースキルを発動した。
敵の斬撃を一発浴びても俺の体力はわずかに残った。
【ファースト・キル】
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
俺は守護樹の下からさらに後退。
金城の攻撃の届かない位置に逃げ込む。
だが、この位置なら俺の姿は見えているだろう。
俺はスタート地点へのワープを起動しながら、金城へと視線を投げた。
「べぇ」
舌を出して、Vサインを見せる。
最初に【死霊の腕】を受けた時から俺はこの展開を狙っていたのだ。相手の武器、自身の体力、スキルの状態。生き残れると判断し、そして俺は勝った。
「ダメなチームだな・・・お前のとこに知寿がいるのがもったいねぇや」
金城が奥歯をかみしめた音が聞こえてきそうだった。
金城がプロ候補だというなら、そこにあえて付き合ってやる必要はない。
他のところで有利を広げて、どうにもならない状況にしてやる。
俺が5人目を倒したことで、上流と下流でも仲間が仕掛けていた。
横から奇襲される心配のない状況であれば敵陣に押し掛けるのは基本だ。
「せめて、知寿に参加してもらえば良かったんじゃねぇのか・・・あいつに『槍弓』使わせたら、猿なんて楽勝だぞ。なぁ、どうしたよ?『お前の知寿』がいるんだろ?なぁ?そいつはお前と一緒にゲームもしてくれねぇのか?」
「だまれぇええ!!」
金城は守護樹の攻撃範囲に足を踏み入れてまで俺を攻撃してきた。
だが、俺のワープの方が早い。
俺は敵のスキルが迫るさまを眺めながらスタート地点へと戻ってきた。
石壁の中に戻り、俺の体力が素早く回復していく。
「はぁ・・・煽るのも楽じゃないな・・・」
俺は買い物をしながらそう呟いた。
こんなこと、普通の試合なら明らかなマナー違反だ。
「タケ先輩、なかなかいい煽り文句だったですね。誰から教えてもらったんです?」
後輩がVCでそう言ってきた。
上流では『フラスコ』で後輩が確実に有利を広げていた。対面は『鉄鎧』というタンク武器だ。遠距離攻撃で確実に相手の体力を削っているのだ。それでいて、しっかり【ミニオン】をコントロールして守りも固めているあたり、流石と言っていい。
普段はうちのチームの中流を任せているだけはある。
うちのチームでほぼMVPを掻っ攫っていくのがうちの後輩君だ。対面に立たれた相手はお気の毒だ。
「蜂巣の指導だよ。まだまだ弾はあるぜ・・・あの腐れストーカーを挑発し続けてやる」
「さすがっすね・・・って、うわっと!!」
VCに驚いたような声が混じった。
マップを見る。金城が上流に出現していた。
「馬鹿な・・・」
いくらなんでも早すぎる。
【テレポート】を使ったんだろうか?
俺はパネルを呼び出した。そこには全プレイヤーがどのヒーロースキルを使っているかを表示することができる。
金城が持ち込んでいるのは【スライド】と【バリア】の2つが表示されていた。【テレポート】は持っていないはずだった。
俺は買い物を済ませ、中流へと戻るために走り出した。その間にも後輩の様子を確認する。
後輩は【スライド】を使ってなんとか逃げだしていた。守護樹の下へと逃げ込み、そのまま自陣へと向かう。
その後方に光弾が追従していた。
【マーク】のヒーロースキルだ。光弾が当たった相手のすぐそばに移動するスキル。
光弾が後輩に命中する。その直後、すぐそばに金城が現れていた。
「こぉの!」
後輩は【ケミカルフォッグ】を使って金城と自分を吹き飛ばした。二人の距離が開く。
だが、この程度の間合いでは『髑髏の杖』相手には無意味だ。
金城の放った【死霊の腕】に後輩が捕まった。そこからスキルを叩き込まれて、後輩の体力が消し飛んだ。
【味方ヒーローが倒されました】
そして、守護樹の攻撃を受けていた金城は【ヒール】を使って体力を回復し、悠々と自陣に戻っていった。
「なろぉ・・・」
俺は奥歯をかみしめる。奴はヒーロースキルを通常より多く持ち込んでいる。
チートを使ってやがる。
そのことは別にいい。ここは相手のサーバー内だし、俺も可能なら使いたいぐらいだ。
俺が気に食わなかったのはそのチートの内容だった。
チートにも色々ある。
所持金を無限にしたり、自身のダメージをゼロにしたり、スキルを使い放題にしたり。
だが、金城はヒーロースキルなんていう補助スキルの持ち込み上限を増やしただけだ。それは自分のゲーム技術そのものに絶対の自信があるという意味だ。
『まともにやれば間違いなく勝てる。それだけのチートをする技術が俺にはあるんだぞ。お前らなんか本気を出せばゲームにすらならないんだから感謝しろよ』
そんな傲慢さが声になって聞こえてきそうだった。
「タケ、ちょっといい?」
蜂巣の声がVCを通じて聞こえてきた。
「なんだ?」
「金城、本当にチートをあれだけで済ますと思う?」
俺は対面のいなくなった中流で【ミニオン】を片付けながら考える。
「まぁ、んなわけねぇよな・・・」
チートを使える男が負けられない試合で保険を残しておかないわけがない。
それぐらいの頭は回るはずだ。
それが、なんなのか?
「気を付けてね」
「ああ、わかってるよ」
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
猿と蜂巣のコンビネーションは随分と冴えているようだった。




