MOBA〜異変〜
「もぉーっ!何で私ばっかりぃ!」
現実世界と電脳世界で千代が同時に叫んだ。
俺もまた両方の世界で笑い声をあげる。
試合は中盤。今日は『チーター』が大人気であった。うちのチームで1人だけやられまくっていた。だが、彼女が「feed」しているかというとそうでもない。
『チーター』を餌にして敵チームを引き寄せ、1人を犠牲に2人か3人を倒す。それが出来ずとも1人は確実に道連れにしているせいか『チーター』以外の他のメンツは順調に育っていた。
「ああ、もう!もうもうもう!」
現実世界では相当におかんむりであった。意味もなく俺の腕を軽くパンチしてくる。復活時間を持て余してヘッドセットを外すのは千代の自由だが、こっちは戦闘中なので勘弁して欲しかった。
現実世界で殴られたのか、電脳世界で攻撃を受けたのか一瞬わからなくなる。
「『捨て鉢』お願い!見捨てないで」
「はいはい。見捨てないからさっさと【守護天使の羽】でも買いなさい」
【守護天使の羽】を買うと、やられても数秒後に復活することができるアイテムだ。1回使うと5分は再使用出来ないが、脆いステータスの武器持ちは買う人が多い。
『捨て鉢』はそう言いながらも、『チーター』に寄っていた敵に突っ込んだ。敵の中央で【アースクェイクLv.5】を放って敵を打ち上げる。
「キェエエアアアアアア!」
その後方から俺が突っ込み、場をかき乱す。
「イエェエエエエエエエエ!」
俺を前にして今更逃げようと背を向けているが、もう遅い。
逃げ遅れた1人を対象に俺は切りかかる。上段から振り下ろし、すぐさま2の太刀を振り上げる。ほとんど硬直時間は無かったが俺にはまだ違和感があった。相手は元から体力が減っていたのもあり、2度の剣戟で体力が底をついた。そいつを斬り伏せて次の背中に向かう。
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
俺は【突進Lv.2】で間合いを詰め、敵プレイヤーに肩から激突した。右肩から背中にかけて鈍い衝撃を感じる。現実世界で千代が一際強く殴ったのだ。
『この野郎』と思いながらも俺はプレーを続行。
【処刑Lv.5】を発動。紅く光る刀身を敵の背中に叩き込んだ。
2つのスキルで敵の体力の5割が消し飛ぶ。そして既に間合いは詰めた。
俺は更に斬りかかろうと剣を振り上げる。だが、振り下ろしたデュエルソードは空を切った。【スライド】を発動した光の残滓が辺りに残る。敵プレイヤーが逃げた先はおそらく森の中。視界はないがこの位置からなら逃げる方向は決まっている。俺はその場から【スライド】を使用。同じく森の中に飛び込んだ。
「ミィィィィッケ!」
敵プレイヤーの背中が薄暗い森の中に見えていた。
だが、逃しはしない。
「コロッセオォォォォォ!」
【闘技場Lv.2】
森の中に現れた闘技場。囲まれた敵プレイヤーの背中が間近だった。
「さぁぁ、殺し合おうぜぇぇぇ!」
俺はその背中に切りかかる。人生最高の瞬間とでも言いたげに大笑いしながらその背中を何度も斬りつけた。
だが、内心で俺は唇を尖らせていた。
なんか敵プレイヤーのノリが悪い。
こういう場面なら雄叫びを上げて飛びかかってくるとか、許しをこう姿を見せるとか、そういうロールプレイをしてもいいもんだ。実際、よほど相手の気分が悪いとかじゃない限り、こういう1対1ではお互い叫びまくるのが常だった。現実世界では普通出来ないことをしたがる人は多い。
だが、今日の対戦相手は終始無感動というか、作業している感じがやけに強かった。別に他人のプレイスタイルにケチをつけたい訳ではないのだが、こちらとしては一人芝居をしているようで妙にやりにくい。
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
闘技場が崩れ去り、周囲が見慣れた森の姿に変わる。
またしても金城には逃げられてしまったが、敵を2人倒せたことで資金がたっぷりと貰えた。
こっちの被害は『チーター』だけなのでまずまずの戦果だった。
「『首ったけ』守護樹折りにいくよ」
「はいよ」
俺は『捨て鉢』と共に敵の守護樹に向かう。
動かない守護樹を相手に足を止めて剣で切りつける。いつも道場でやっていることだ。
それをやると、今の攻撃速度と現実との差が明確にわかる。
やはり、まだ違和感があった。
俺と『捨て鉢』で守護樹を叩き折り、森を焼き払う。
【敵チームの守護樹が燃え尽きました】
相手の城壁が目前に迫っていたが、深追いはやめておいた。
マップで他の面子の様子を確認すると、全体的に押し気味だ。ここで無理をする必要はない。
俺は『捨て鉢』と一緒にスタート地点にワープするが、どうもお互いの表情は浮かなかった。
「こんなもんなのか?プロ候補ってのは?」
「ちょっと・・・ねぇ・・・」
金城がプロ候補という片鱗は度々見かけた。実際スキル回しも上手い。
だが、ちょっとお粗末な展開が多すぎる。
金城はしょっちゅう下流レーンに顔を出しては『チーター』をキルしていく。だが、そのせいで本来金城が守るはずの中流レーンがボロボロになっている。
そして、下流で有利が作れているかというとそうでもない。結局、俺や『後輩』がフォローに寄ってるから差し引きとしては俺たちが勝っている。
『チーター』と敵チームという構図では間違いなく『チーター』が負けているが、全体を通して見れば俺達の有利はほとんど確実なものになっていた。
金城のチームが下流から流れを作っていく戦略で戦おうとしているという考えは理解できる。
だが、それ以外の場所で負けまくったらまるで意味がない。
金城個人の能力の高さはあるのだろうが、ここまでゲームメイクが下手くそでプロ候補になれるものなのだろうか。
俺はそこに違和感を感じていた。
「なぁ、『チーター』」
俺は復活時間を持て余してスタート地点で胡座をかいている『チーター』に声をかけた。
巫女服を着てここまで姿勢を乱す人はいないだろう。これまた珍しいものを見れた。
「なに?」
『チーター』はやられまくっているせいか随分と不機嫌そうだった。
「お前、金城とフレンドになってたりしないよな?」
「え?」
『チーター』は意表をつかれたかのように、ポカンとした顔をした。
「してないけど・・・」
『チーター』は一応確認のために自分のフレンドリストを開いた。
「うん、してない。してないけどそれがどうかしたの?」
「いや、金城がお前のことをわかってて集中攻撃してんじゃねぇかな・・・って、思ってさ」
そう考えると、金城の動きもわからなくはないのだ。
好きな子に自分の腕前を見せる為にスキル回しを披露する。その結果、『チーター』が倒されてしまうが、実力を見せつけるには効果的だ。
「ないと思う・・・私、ヒーローネーム公開したことないし。クラスでも知ってるの『捨て鉢』だけだもん」
俺は視線をそのまま『捨て鉢』へと向けたが、彼女も「話すわけないじゃない」と首を横に振るばかりだ。
やはり、ただの偶然だろうか。
俺は買い物をする。買うのはもちろん攻撃速度増加アイテム。
俺は一度マップを確認した。『猿』も『後輩』もそれぞれの場所で有利を広げていっている。試合中盤だというのに次の集団戦に勝てば勝利まで見えそうな段階だった。
『チーター』の復活時間も終わり、一緒にスタート地点から出る。
「さて、どうする?『チーター』」
「【ゴーレム】戦争かな。そこに誘い出して一気に叩く」
『チーター』はいつもと同じ調子でそう言った。苛ついていても頭の冷静さは失わない奴なのだ。
試合中盤では敵に城壁で守りを固められると、突破はなかなか難しくなる。
そんな時に役立つのが森の大型モンスター【ゴーレム】だ。
【ドラゴン】と対になるモンスターで、資金と経験値をチーム全体に供給してくれる点は一緒だが、与えてくれる『バフ』が大きく異なる。
【ドラゴン】の効果は味方の攻撃力アップだったり、移動速度上昇だったり、守護樹に対するダメージアップだったり基本的に各プレイヤーが恩恵を得られるものが多い。
それに対して【ゴーレム】が強化するのは【ミニオン】だ。【ゴーレム】を倒すと、動く松明程度の認識しかされていない二頭身の兵士が屈強なモンスターへと変貌する。
その火力は城壁すら容易に打ちこわし、その耐久力は守護樹の攻撃ですら受け止めてしまう。相手が守りに入った時にこそ、力を発揮するのが【ゴーレム】なのだ。
『チーター』はVCで仲間達に呼びかけ、森の【ゴーレム】への集合を促す。
だが、敵チームも黙って取らせるつもりはないだろう。焼け野原になった森から敵チームがぞろぞろとこっちに向かってきていた。
【ゴーレム】がいるのは川の上流と中流の間だ。
そこにはマヤ文明の遺跡跡のようなデザインがされていた。森の中に埋もれたように小さなピラミッドが佇んでいる。ところどころがひび割れ、蔦に巻きつかれ、今にも崩れかかった姿は長い時が過ぎ去ったかのような哀愁を呼び起こす。そのピラミッドの中央に遺跡んk同化するような姿で【ゴーレム】がいるのだ。
イメージとしては『太古のオーパーツにより得られた不思議パワーでヒーローを強化』らしい。
ツッコミどころ満載だが、これは公式サイトに載っている説明だ。遊びゴコロが暴発した結果らしい。
俺たちはそのピラミッドの周囲に松明を配置し、敵の出現に備える。
【ゴーレム】は強敵だ。生半可なレベルなら5人がかりでも返り討ちにあう。そうでなくても、【ゴーレム】と戦っている間に横から敵チームに挟撃されたら壊滅の危険が伴う。
俺たちは慎重を重ねる。
だが・・・
「おいっ!金城が下流におるで!」
『猿』がVCでそう叫んだ。マップを確認すると金城がここからかなり離れた位置に映っている。
ということは、この付近にいる敵チームは最大4人。しかも、魔法攻撃の要である金城がいない。
あまりに不用意すぎる行動だった。
「【ゴーレム】開始!」
『チーター』の合図とともに俺達は【ゴーレム】とのバトルを開始する。
ピラミッドの中から起動した【ゴーレム】はその単眼で俺たちを見下ろし、レーザーを放ってきた。
ロボットアニメを彷彿させる効果音、そして爆炎。ゴーレムの腕が飛び、ミサイルが放たれる。
男の子の夢の塊を詰め込んだゴーレムだった。
だが、残念なことに今は愛でている余裕はない。
俺たちは【ゴーレム】に全力で攻撃をぶつける。だが、誰一人としてスキルを発動するものはいなかった。
この【ゴーレム】をうちのチームが取得できればゲームはほとんど詰みになるのだ。
相手は間違いなく妨害にくる。
そして、【ゴーレム】の体力が半分ほどになった時、ついに敵が動いた。
遺跡の裏側から『スナイパーライフル』の弾丸が放たれた。
それを皮切りに周囲から次々と敵チームが姿を見せる。だが、やはり金城はそこにはいない。
俺達はすぐさま【ゴーレム】を中断。
反転し、敵を迎えうつ姿勢を取った。
「『猿』スナイパーをお願い!」
「任しとき!」
『猿』の武器『投げナイフ』の強みはその機動力だ。
『猿』はロープ付きのナイフを投げ、それを手繰って壁を瞬時に越えていく。
ピラミッドの裏側にいた『スナイパーライフル』を捉えるのにそう時間はかからない。
ならば、と俺達は目前の相手に集中した。
敵チームの切り込み隊『長槍』持ちが全力で突っ込んできていた。槍の切っ先を先陣にして矢の如く俺達の後方に抜ける。
「もう!いい加減にしてよ!」
狙いはやっぱり『チーター』だった。本当になんでここまで狙われているのだろうか。
弱い駒から落としていくのは戦いの基本ではあるし、一人だけ育ってないから仕方ないとも言える。
『チーター』は『槍弓』を槍として持ち替える。そして、槍を一気に振り上げた。
【烈風Lv2】
竜巻状の風が敵プレイヤーを弾き飛ばす。そこに更に2人が突っ込んでくる。なかには【スライド】まで使って『チーター』の前に飛び込んでくるのもいるぐらいだ。
『チーター』は全てのスキルを使い切り、なんとかその場を脱出する。
そして、『チーター』に攻撃が集中した分、俺や『後輩』が完全にフリーだった。
敵プレイヤーは俺達に背中をガラ空きにしてくれている。
その無防備な身体に俺は容赦なくデュエルソードを振り下ろした。
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
『猿』も『スナイパーライフル』を無事に片付け、こちらに合流する。
残る敵はあと2人。『チーター』はわずかな体力でからくも逃げ切っている。
このまま行ける。
そう確信した時だった。
俺達の頭上に光が輝いた。それは俺達を祝福する様子はまるでない。冷たい水底に差し込んでくるかのような暗い光だ。薄緑色のそれは死後の世界はこんな光に照らされるのではないかと思わせるような色彩をしていた。
そして、その光に導かれるように天より無数の骸骨の腕が舞い降りてくる。
【死への誘い】
『髑髏の杖』を語る上で欠かすことのできないUltだった。
3秒というこのゲームにしては長い詠唱時間の後、フィールド全範囲に攻撃が降り注ぐ。
遠く離れた位置にいようとも関係なく、なおかつその攻撃から逃げる術は原則として存在しない。
俺達に骸骨の手が伸びる。そして、頭上スレスレまでその骸骨が来た時、一際強い光が降り注いだ。
骸骨のカタカタという笑い声と共に衝撃が走る。
【味方ヒーローが倒されました】
「なんでよー!もぉーーー!」
そして、体力が枯渇していた『チーター』が吹き飛んだ。
もうこの試合では様式美であった。現実世界で隣から八つ当たりが飛んでくる。
俺達は『後輩』のUlt【ミストキャッスル】に逃げ込んでダメージを回避していた。「必ず殺されない技」という評価通り、【死への誘い】を避けられる例外のうちの一つであった。
ダメージを負って前線から下がっていた『チーター』はそこに入れずにやられてしまったというわけだ。
全く強くなれていない『チーター』はスタート地点に戻されたが、しっかり育っている俺達は無傷だ。さらに人数有利まである。俺達は敵チームの残党を確実に処理いていった。
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
【味方チームが敵ヒーローを倒しました】
そして、そのままの流れで【ゴーレム】の討伐にも成功する。
【味方チームがゴーレムを討伐しました】
強化され一回り強化された【ミニオン】を引き連れて城壁に向かう。
敵チームはいまだ復活しておらず、スタート地点の石壁の中だ。金城は負けを悟ったのか、意味もなく下流レーンの守護樹を焼こうとしていた。
俺達は無人の監視塔をへし折り、城壁を破壊し、一気に敵のクリスタルまで肉薄していた。
その頃には敵も復活してきていたが、破れかぶれの突撃に過ぎない。
俺達は前からやってくる相手に順々に火力を集中して潰していく。
そして、最後の一撃がクリスタルを叩き割った。
【Victory】




