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MOBA〜金城 快斗〜

試合が始まって5分程経過した頃に敵はまた動いてきた。


「先輩方!俺の対面が消えました!」


『後輩君』の声がVCに響いた。『後輩』の対面は『髑髏の杖』を持った金城だったはずだ。

確かにマップからは奴の姿は消えている。


俺は金城のことを思い出す。本名は金城 快斗。

俺は元々あいつが苦手だった。

なぜか、と聞かれると答えに困るのだが、何故か虫が好かないのだ。

ああいうクラスの中心的な立ち位置の相手と仲良くなるのは得意だった。でも、どうにも金城には近づく気にはなれなかった。

その上この間の栞作成のこともあり、苦手意識が決定的になっている。

現実世界ではこの一年で出来るだけ近づかないようにしたい。


だが、電脳世界では話が違う。


フレンド登録もしてないので近づいて顔を拝む必要はない。

憂さ晴らしのためにぶった切っても文句は出ない。

ここは一つ、プロ候補とやらの実力を教えてもらいたいものだ。


俺はゴブリンにトドメを刺しながらマップを見る。金城が寄るとしたらどこだろう。

金城が最初に戦っていたのは中流ミドルレーンだった。

行くとしたら上流トップ下流ボットだろう。俺の位置は把握されてないと思うので、こちらの森に入り込んでくる可能性は低い。


上流トップは『猿』が引き気味に守っていることもあり、敵味方共に体力が十分にある。そこに人数有利を作っても意味は薄い。

対して、下流ボットはその逆だった。『チーター』の調子がいいのか、それとも敵が弱すぎるのか、『チーター』が押しに押して突出していた。

横から襲撃をかけるには格好の獲物だ。


まぁ、それがわかっているからこそ、俺はもう『チーター』の近くに寄っているのだが。


「先輩、俺も寄ってます!」


『後輩』も既に下流ボットへ移動を開始している。

敵が消えたら5秒以内にはフォローに動く。基本を忠実に守る『後輩君』である。


「『チーター』」

「わかってる。そろそろ下がるよ。お金も溜まったし・・って、えっ!!」


VCに驚きの声が混じる。

「どうした?」と聞くまでもない。下流ボットに既に金城が現れていたのだ。


「ちょっ、えっ!?いくらなんでも早すぎるでしょ!」


マップから金城が消えてからものの10秒程度しか経ってない。

金城の後を追いかけたはずの『後輩』はまだ道のりの1/3程度しか進んでいなかった。

【テレポート】でも使ったのかと思ったが、金城はそのヒーロースキルを持ち込んでいない。


俺は急いで駆け寄ろうと動き出したが、間に合うだろうか。


『チーター』は慌てて後退する。現実世界でも「早く早く!」と千代が呟いていた。

ゲーム中は独り言が多くなるタイプらしい。

そういえば、千代と隣り合ってゲームをする機会は久しぶりのような気がする。


電脳世界で金城の持つ『髑髏の杖』のスキルが発動する。【死霊の腕Lv.1】だ。

金城の前方直線上に地中から次々と骸骨の手が伸びる。

それに合わせて『チーター』は【紫電Lv.2】を槍に持ち替えて発動。

棒高跳びの要領で短い距離を飛び越え、着地点に電撃を放つスキル。彼女は攻撃の為ではなく、金城のスキルを回避する為にそれを使った。

『チーター』は絶妙のタイミングで金城のスキルを回避する。


だが、着地点には罠が待っていた。


『チーター』が元々対面していた相手、『スナイパーライフル』のスキル【トラップLv.1】が敷かれていた。


「くっ・・・」


その罠に見事に嵌り、動きを封じられる『チーター』

『チーター』がスキルを発動したのを見てから【トラップ】を設置する動き、見事な反応速度だった。

敵ながら感心する。

『捨て鉢』が棍棒を振りかざしてなんとか敵を引き剥がそうとしているが、これはもう無理だ。


『チーター』の持つ、『槍弓』は遠距離武器らしく体力、防御力のステータスが低く設定されている。


チーターは金城と『スナイパーライフル』の集中攻撃にあい、呆気なく倒されていた。


【ファースト・キル】

【味方ヒーローが倒されました】


「あぁ・・・もう・・・」


現実世界で千代が陰鬱な声で呟いた。

だが、VC上では「みんな、ごめん!」と明るく謝っている。

現実世界と電脳世界のステレオを聞くのはなかなか面白い。ゲーム内ではいつも明るくチームを引っ張ってるこいつの内心が透けて見えるようで、俺はほくそ笑んだ。


「あっ・・・・」


千代が現実とVCで同時に声をあげた。何かに気がついたようだった。

そして、ほぼ同時に俺は現実世界で脇腹を突っつかれた。


どうやら、隣に俺がいたことを思い出したらしい。


「どうかしたか?」


俺はわざわざVCでそう言ってやった。


「なんでもない」


『チーター』の恥じらうような声を聞きながら、俺はもう一度マップを見た。

金城は中流ミドルへ戻ろうとしている。

だが、1キル取られたまま引き下がるわけにはいかない。


「『後輩』いいか?」

「はい、待機してます」


俺は草むらに身を隠した。場所は金城の帰り道からは少し離れた敵陣の森の中だ。

普通、このタイミングで待ち伏せするなら川の中の草むらで行うのが定石だ。だからこそ、あえて俺は別の場所に陣取った。


金城が近づいてくる。

『やはり』というか、『当たり前』というか金城は草むらを警戒していた。

草むらの中に待ち伏せがいないか、【骸骨の腕】を草むらの中に放って探索している。


金城なら必ずそれをやってくれると思っていた。

安全を確認した直後の気の緩み、相手を足止めできるスキルがクールタイムにはいった直後。


まさに狙い目だった。


俺は草むらから飛び出し、【突進チャージLv.1】で一気に間合いを詰めた。


「キェエエエエエエイ!」


現実ではあり得ない加速感。電脳世界の身体が風を切る。目標は金城の身体。

だが、肩がぶち当たる直前、金城の姿がかき消えた。

俺の体は青い光の残滓の中に滑り込む。


短距離を瞬間移動するヒーロースキル、【スライド】のエフェクトだ。


いい判断だ。


俺はすぐに辺りを見渡すが金城が【スライド】で逃げた先が見当たらない。

おそらく、近くの草むらに飛び込んで姿を隠したのだろう。


だが、こちらには二の太刀が存在する。

金城が逃げると予想した草むらの中には『後輩』のフラスコが投擲されていた。

【ケミカルフォッグLv.1】フラスコの投擲地点に爆発性の霧を発生させ、数秒後に爆破。爆発を浴びた相手を吹き飛ばすスキルだ。


『後輩』が投げ込んだのは俺の飛び出してきた草むら。

爆破の衝撃で金城が吹き飛ばされてきた。


今度こそ、逃がさない。


「おかえり、クビもらうぞ!」


処刑エクセキューションLv.2】の一撃が金城の身体に突き刺さった。

だが、手応えがイマイチ。相手の攻撃を数回防ぐヒーロースキル【シールド】が発動している。

足元に『後輩』のスキル【ポイズンフォッグLV.3】が展開され、継続ダメージで金城を削る。

2人のスキルを全てぶち込んで一気に片付けるつもりだったが、金城の体力は僅かに残った。


この序盤は振り下ろした剣の硬直時間が非常にもどかしかった。


逃げに徹しようとする金城は草むらに再び飛び込んで姿を隠す。追いかけようとした俺の目の前に墓石が現れた。奴のスキル【陵墓 Lv.1】だ。このままではただの墓石であるが、数秒後にはそこから骸骨兵が現れて攻撃してくる。

攻撃自体も割と痛いのだが、何より厄介なのが骸骨兵の攻撃に当たると『フィアー』という状態異常に陥ってしまうことだ。その状態異常の間は骸骨兵から逃げるような動作を強制的に取らされる。


俺がこれ以上金城を深追いすれば、背後から骸骨兵の攻撃を受ける形になる。

そうなれば『フィアー』を受けて森の奥へ奥へと誘い込まれてしまう。さすがにその危険はおかせない。

森の中には別のプレイヤーが待ち構えているかもしれないのだ。


「さすがに、プロ候補だ。逃げ方が上手い」


人間は勝っている時より負けている時にこそ真の実力が現れるという。

そういう意味では金城の逃げ方は完璧だった。


俺が1人であれば、最初の【スライド】で確実に逃げ切っていただろうし、『後輩』が近くにいることも予想していたような手際の良さだ。


しかも、最後っ屁とばかりに森の中から【魂の抱擁Lv.3】が飛んできた。

巨大な骸骨の腕が地面から現れ、左右からサンドイッチにしてくる。

俺は後方に飛んで回避したが、もしあのまま突っ込んでいたらと思うとゾッとする。

金城の体力はほとんど残っていなかったが、それでも返り討ちにあっていたかもしれないという考えが頭をよぎった。


「あの人、やっぱり上手いですね」

「だな・・・」


2対1で不意打ちしてこの結果だ。

しかも下手すれば、もう1キルを相手に献上することになっていた。

『後輩』はあれを相手に中流ミドルレーンでしばらく戦わなければならない。


俺は労いの意味を込めて『後輩』の肩を叩き、自陣森へと戻っていく。


俺は不意に遭遇した狼の群れを蹴散らしながら、ふと思う。


そういや、最初に凄まじい速度で下流ボットに現れたのはなんだったんだろう。


だが、その時の俺はそのことを深く考えなかった。

せいぜい、『後輩」の報告が遅れたのかなと思った程度に考えていた。



狼と相対しながら状況を確認。


「またかよ・・・」


『チーター』が復帰そうそうに3対2の状況を強いられていた。今度は敵の森に潜んでいたプレイヤーが参戦している。俺は「すぐ行く」とだけVCで伝えて、狼の群れから逃げ出す。

そして。下流ボットレーンへと寄っていった。


なぜか、今日は下流ボットレーンが大人気だ。


俺はスキルのクールタイムを確認しつつ、加勢に入っていった。


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