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MOBA~フリーバトル~

『捨て鉢』の説教がようやく終わり、俺達は改めてゲームのマッチングを開始していた。

前回のイベントの達成報酬である新スキンを試してみる気でいた。


前回のイベントのテーマは『和風』だ。

手に入れた『デュエルソード』のスキンは渡世人をイメージしたものだった。

なんで和風なスキンを実装するにあたり、『デュエルソード』を運営が選んだのかはよくわからない。

多分、「果し合いは決闘みたいなものだろう」という程度の考えだろう。


他には『槍弓』と『飛空剣』の和風スキンが追加されている。

ちなみに、和風が似合う『日本刀』『種子島』『陰陽術』は既に和風スキンが実装済みだ。


俺達はスキンの出来栄えを見るために、部屋の中でアバターの服装を変更してみる。


「おぉ・・・案外様になっとるやん」

「そうか?」


長い袴に気崩した着物、脇に刺した鞘はいい具合に汚れていた。髪型は変更できないが、顔に化粧として傷跡をいれることができる。右目にある刀傷がなかなかに厨二心をくすぐられた。


「私も、どうかな?」

「まぁまぁね。でも、なんかコスプレみたい」


『チーター』の衣装は巫女服だった。『捨て鉢』の評価はいまいちだったが、俺からすれば『最高』の一言に尽きる。ショートヘアの巫女さんは普通いないので希少価値も高い。これには運営に「グッジョブ」とメールを送りたいぐらいだった。


「『チーター』先輩、めちゃ似合ってますね」

「せやな、というか巫女服はええな」

「まったくだ。堅苦しさと清楚さが同居している中で、柔らかく微笑む姿がこうぐっとくる」


男3人の評価は同じだったようだ。

ちなみに、男が『槍弓』を装備すると宮司の恰好になるらしい。


「さて、マッチングするで」


グループリーダーである猿がマッチングを開始する。

30秒程で対戦相手がみつかった。平日の夕方、俺達みたいな学生が大量にいるらしい。


「おっ、おもろいのとマッチングしたな」

「え?なんだ?誰かいるのか?」


対戦相手の情報を見るが、特に有名人がいるとは思えない。

俺が首を傾げていると『捨て鉢』が呆れたように説明してくれた。


「あなたのクラスの金城でしょ。ほら、プロのスカウトが来たって噂の」

「ああ・・・そういや、ヒーローネーム公開してんだっけ?で、どれだ?」


あんまり興味がなかったのもあって、俺はまったく知らなかった。

しかも相手のチームのヒーローネームは全員似たようなアルファベットの羅列だ。

パッと見では区別ができない。


「『髑髏の杖』のプレイヤーやな」

「ああ、こいつか・・・」


ヒーローネームは『altsummer012』だ。

覚えるのも面倒なヒーローネームだった。VCで何と呼ばれているのかは少し気になる。


「上手いんだろうな。プロ一歩手前か」

「まぁ、腕前を拝見させてもらいましょうや」


1人だけ上手い奴がいたとしても必ず勝てるわけではないゲームだが、1人で試合をぶっ壊す程に成長できるのもこのゲームだ。

しかも、相手はこちらと同じく5人のフレンドチーム。見ず知らずの人間が集まっているチームより連携は上手いだろう。

少々骨が折れそうな試合になりそうだった。

だが、それぐらいでなければ面白くない。勝ったり負けたりするから、ゲームは面白いのだ。


俺はデュエルソードを構え、スキルをセットする。

今回持ち込むヒーロースキルは短距離を瞬間移動する【スライド】と森の中のモンスターに大ダメージを与える【ハント】の二つだ。


「『チーター』一週間ぶりだろ?腕落ちてないだろうな?」

「どうだろ。でも、やっぱり身体動かすのっていいね」


『チーター』は槍弓を構えて、空撃ちをする。スキンの効果で弓を放った時の弦の音が琴の音色になっていた。

『チーター』はさっきまで説教をされていた相手に向かって手を合わせた。


「『捨て鉢』フォローよろしくお願いします」

「あまりにfeedしたら見捨てるからね」

「わかってるって」


『feed』とは本来は『養育する』という動詞『fed』の過去形だ。このゲーム内では意味が転じて『キルを取られまくって相手を育てる』という意味で使われる。

5対5のゲームで一人でもそういうプレイヤーが出ると、そのまま敗北に直結しやすい。

『チーター』はこのゲームを始めた時は何もないところですっ転んで、feedばかりしていた。

あの時は笑って許せたが、今はどうだろうか。

俺はヘッドセットを持ち上げて、現実世界の千代を見やる。

その気配を察したのか千代もまたヘッドセットを持ち上げて俺を見てきた。


目元はまだ泣き腫らした痕が残っていたが、もう泣いてはいない。

気分は持ち直したようだった。

俺はヘッドセットを再び身につけた。


「それじゃあ、いつものように行きましょう。勝負をかけるのは『首ったけ』が育つ中盤から終盤。序盤は守りに徹して無理は禁物。みんな、いい?」


『チーター』がそう言うと「了解」と方々から声がかかる。

うちのチームは大器晩成型の武器持ちが多い。序盤は味方を守りやすい『捨て鉢』と『後輩』がチームを支え、後半に俺と『チーター』『猿』の3人で相手をかき乱すのがうちのチームの基本戦略である。

そして、攻め時を見極めるのはいつも『チーター』だ。


彼女がうちのチームのゲームリーダーだ。


「それじゃあ、行きましょうか」


ロードが終わり、いつものように石壁が開く。

目の前に広がる城壁と森のマップに全員で飛び出していった。


俺はいつものコースをめぐる。敵の前線を警戒するルートを通りつつ、森のモンスターである【レイス】が出現する位置へと移動するコースだ。

だが、俺の足は敵陣との境目である川で止まった。


「やべっ!」


川に敵チームが5人集合していた。彼らは徒党を組み、こちらの森に侵入する動きをしている。最序盤からこちらの陣地に5人全員で飛び込み、散っている敵を見つけ次第襲い掛かるつもりなのだろう。


俺は咄嗟に引き返そうと、踵を返した。


だが、こっちから見えたということは相手からも見えたということ。


敵の視線が背中に突き刺さる。逃げながら振り返ると、見事に5人全員が追ってきていた。

5対1で勝てるわけがない。俺は森の中を逃げ回りながら、他のメンバーに呼びかけた。


「みんな!深い位置で待機しろ!」


みんなはすぐに危険を察して、森の深くへと移動していった。

こちらも5人集めて集団戦を挑んでもいいかもしれないが、こちらの構成は序盤が弱い。

それに、森のあちこちに散っている仲間を今更集めたところで、各個撃破されたら目も当てられない。


俺はなんとか逃げ切ったが、敵は別の狙いを定めたようだった。


「・・・『松明』置いといたけど、居座る気ね」


『捨て鉢』がそう言った。

視界の右隅に浮かぶマップには敵が5人。俺達の森で【レイス】の出現を待っていた。

本来であれば俺が手に入れるはずの経験値と資金を奪い取る算段なのだろう。


だったら・・・


「『猿』手伝え」

「まかしとき」


俺は『猿』と合流し、川へと降り立つ。

向かう先は敵の森だった。敵の位置は5人全員分把握できている。敵陣地はがら空きのはずだ。

向こうがこっちのモンスターを奪う気なら、こっちも相手のモンスターを奪ってやる。


俺は敵陣地に出現した【レイス】を見つけ、切りかかった。

『猿』の今日の武器は『投げナイフ』こいつが一番得意とする武器だった。

『猿』は距離を保って『投げナイフ』を【レイス】に向けて次々と投げる。


マップ上では敵が5人がかりで【レイス】を素早く片付け、解散している。


敵がこちら側まで来るのも時間の問題だ。


俺は目の前の幽鬼を睨みつけた。まだ、体力はかなり残っている。ここで手間取って敵陣に居残るのは自殺行為だ。


俺はヒーロースキル【ハント】を使用した。それと同時に俺の左手に赤く燃え盛る炎が宿る。


「しゃらあぁぁああああああああ!」


その掌を【レイス】に押し付け、肉を抉り取るように爪を立てた。

そして、そのまま力任せに引き裂いた。残っていた【レイス】の体力が消し飛ぶ。


「ギャァァアアアアア!」


【レイス】の断末魔が響き渡った。聞きなれたレベルアップの効果音を聞きながら、スキルを取得。


「よし、撤収!」


敵のモンスターを狩り終えたら長居は無用である。俺と『猿』は慌てて森を離脱した。帰り際に敵の森の主要な交通路に『松明』を置いて、視界を確保しておくことも忘れない。


自陣側の森に戻ってきて、一安心する。


とりあえず、モンスターの交換には成功した。そう簡単に相手に出遅れる展開など作ってたまるか。

俺は『猿』と別れて、自陣の森の中の探索を始める。森の中に潜むモンスターを探し出し、切り伏せていく。


敵は試合の序盤から仕掛けてきた。


俺は現実世界で乾いた唇を舐める。

面白い試合になりそうだ。

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