求める・・・
暗く鬱蒼としたリンゴの森の手前。新しく見つけた路地裏で安息できたのも僅かのこと、直ぐに別の寝床を探さなくてはならなくなってしまった。
リンデの街から歩いて半刻の距離。食うものもない現状、常人以下の体力のあたしではここまで来るので精一杯だった。しばらくはここで森暮らしをすることになるだろう。あたしの姿をフードの人物が忘れるまでの辛抱だ。
このリンゴの森を人物が通るのも旅人程度の者である。ましてや、獣の出るこの森で暮らそうというもの好きはそうはいない。リンデの街とハルトの街を繋ぐ街道を外れれば、人と出会うことはぐんと減る事だろう。
また森の近くにある村から反対に位置するこの場所であるからして、村人に会うことは万に一つとない。
売り物になる物を持つあたしは人との関わりを極力避けて暮らさねばならないことを、今回の経験から再確認することができた。試しにリンデの街で同類のいる地帯からある程度離れて暮らしてみたが国が乱れ浮浪者が増えている昨今、直ぐに住処を求めて新たな同胞がやってくる。せっかく人気がない所を見つけても直ぐにそこも溜まり場になってしまうのだ。現に、先日のフードの人物がその新たな入居者二号である。
新たな住処を求めてこのリンゴの森へ来たが、数年前はこんな暗い気配を放つ森ではなかった。人が手入れをしなくなると、あっという間に姿を変えてしまうのだろう。森に入り四半刻ほどだろうか、この森に来て過去に使われていたであろう掘立小屋を見つけた。人が住まなくなったこの家屋は屋根や壁面の木が朽ち果てているが柱はしっかりしているのだろう、むき出した一部の柱を触ってもが芯を持った木材が微動だにすることなく直立している。住む場所が無いあたしにとって雨がしのげる、風が防げるというだけでなんと素晴らしいことか。
中は隙間風が入る程度だろうか、屋根の隙間から橙色の木漏れ日が漏れているが問題ない。ほこりが僅かにつもり、天井に蜘蛛の巣があるが、一か月以上身体を洗っていないあたしよりも綺麗なことは間違いない。
春から夏へ移り変わるこの季節。壁に空いた隙間をしばらくは気にしなくても大丈夫だろう。
もうすぐ夕方から夜へと世界が変わる。今日はもう疲れた。寝よう・・・。
お腹が減った・・・、食べ物を明日は探さなくては・・・。
あぁ・・・、疲れた・・・。