ほしい・・・
ふと思いついたお話。
「それ・・・ちょうだい?」
清掃をされていない路地裏で黒く汚れたフードを深く被った人物が目下の人物に物をねだった。
通りを一本外れた路地裏。レンガで建てられた家屋は長い年月故か最初は綺麗な赤茶だったのだろうが今では赤黒い。そんなまるで血液が固まったような色のレンガで建てられた家屋に挟まれて、周りには元がなんと記されていたのかもうわからない紙の切れ端が張り付いている。
「・・・それ・・・ちょうだい?」
またも地面に横たわる人物へと声を掛けた。その二言目によって、やっと彼女は自分に対して声を掛けているのだと気づいた。身を起こした彼女は、今だ立ち尽くす人物に向けて億劫そうに口を開けた。
「・・・それ、あたしに言ってるの?ばかじゃないの・・・。」
そう告げる彼女はいつから水浴びをしていないのだろう。ばさばさになった赤茶の髪は手入れをされず、ごみが絡まってしまっている。
コートの人物へ侮蔑の混じった視線を向け、苛立ち交じりに返答する。なんでこんな奴に対して無駄な時間を割かなければならないのか。それが彼女の思いであった。こんなところにいる彼女である、特に何かをしているわけではない。強いて言えば寝ている、それだけである。だが、そもそも誰かに時間を割くということ自体を今の彼女は嫌っている。
「そのキラキラ綺麗・・・キラキラちょうだい?」
コートの人物は彼女の言葉など意に介さず自分の耳を示してそう言った。キラキラ・・・、彼女の伸びきった髪に隠されたその奥には、赤い輝きをもつ宝石の耳飾りが付けられていた。
彼女は僅かに目を見開くがそれは僅かのこと。彼女の動揺は一瞬のうちに隠された。嘘を語るその手のプロでない限り見抜くことは出来ないだろう。
横になっているときに見えてしまっていたのだろう。僅かに見えたその輝きを見て、同類であろう浮浪者が狙ってきたのだ。
「何言ってんだか。・・・あんた、あたしに物乞するより表にでてしな。」
表ならもしかしたら食い物をおとしてくれるだろうさ。緩慢な動きで身を起こし表のメインストリートへ足を運んだ彼女は吐き捨てるようにそう告げた。何のことかと話を逸らしたが、どうせ相手は信じていないだろう。今日の夜にでも仲間を連れて物乞いに来ることはこっちにいれば、自然と知ることだ。そうなれば、物を盗られてはい終わりなんて優しい者どもでもあるまい。
あたしは次の寝床を探しによろよろと彷徨い歩く。
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