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雪乃お姉さんと真島くん

可愛い妹を味方につけてイケメンが追い詰めてきた。

作者: 桐谷 キリ

ご期待にお答えして続編を書かせていただきました!恐らく続きます!いえ絶対に続きます!!


というわけで、オチもないお話(つまり真島くんがただただ頑張るお話)でもよければ、このままお進みください( ̄∇ ̄*)ゞ

 高校卒業を皮切りに恋人を作るという行為も終了させ、夢のキャンパス生活を友情に注いできて、25歳。社会人三年生になった私に、どうやら転機というものが訪れたらしい。



 妹の事件から数日がたてば、いつの間にかお盆休みという素晴らしい休日も終わってしまい、変わらない怒涛のオフィス生活が再び始まった。そんなある日、勤務中に一通のメールが届いていた。

 その時は広告の何かだろうと思って開かずに、仕事に専念するべく目線はずっとパソコン画面だったが、もう一通妹のさくらからのメールが届くと、慌ててそれを開かざるを得なくなった。なんでかって、桜のメールの内容が、「届いているメールすべて読め」という無茶ぶり―――それでも全部読んだけど。だって可愛い―――だったからである

 そうしてメールすべて―――もちろん関係ない広告も読んだ―――読んだことで、桜のメールの意味がようやく分かった。桜からのメールの前に届いていたメールが、桜の言いたいことらしい。

 だがしかし、そのメールの差出人というのが、見たこともないメールアドレスだったのだ。これは広告かもしくは変なアドレスか?と訝しんだのだが、その心配は杞憂に終わった、

 メールの内容はいたって簡潔。最初に、突然のメールに対する謝罪。それからよかったら今度一緒にどこか行こう、という遊びの誘いだった。そして最後に、真島ましまという差出人を示す苗字。


「ん~…」


 お昼休み、社内食堂の一角を陣取り、定食をテーブルに置いて、手を付ける前にメールを表示しているスマホの画面とにらめっこしていた。

 いったいどうしたものだろうか。

 確かに。彼と最後に会ったとき、「(略)メロメロに~」みたいなことは言ったし、彼の見た目や性格への文句は一つもない。むしろ好青年だ。さらにこの誘い方も好感を得られる。


「じゃあなんでそんなに苦い顔してるのよ」


 コト、とコーヒーカップをテーブルに置くと同時に、私の向かいの席に座った女性社員、中里なかざと美子みこの声に顔を上げる。

 彼女とは大学時代に知り合い、そのまま一緒の会社に入社するほど仲の良い関係になった。どうやら彼女には私の考えていることがわかるらしい。


「いやだってさ、やっぱり年齢がねぇ…25歳と17歳が並んで外歩くとか…つらいわ」

「まぁねー…確かに8歳だからね。うわ、結構数字にするとでかいわね」


 彼女の言葉にだよねーと相槌を打ちながらビヨーンとテーブルの上に突っ伏す。

 美子にはすでに私と真島君の話をしてあるので、言わずとも私のこの悩みを理解してくれるのだ。もちろん私と妹のことも話したのだが、彼女曰く、私のシスコン度は半端ないらしい。


「それで?どうせデートのお誘いでも来たんでしょ?」

「うん、しかもどうやら奴は私の可愛い妹を味方につけてるみたい」

「うわぁ、何、真島君意外と策士じゃないの。雪乃の弱いとこついてくるなんて」


 まさにその通りである。桜に「真島君とデートして?」なんてお願い―――さらに目を潤ませて上目遣いに両手で祈るポーズも加えられちゃったり―――でもされたら二つ返事で即座に答えてしまいそうで怖い。

 それを美子も見越して言ってるのだろう。意外とやるな真島君。


「まあ私がちょっと煽っちゃったのもいけないんだけどさー…こう、年下となるとね…勇気いるっていうか」

「―――ん?何か悩み事か小崎こざき


 はぁっとため息をつくと、四人掛けのテーブル席に、同期の立花たちばながやってきた。彼とは仕事関係でもプライベートでも仲良くやっていける、まあ相棒みたいな人だ。彼とは一生付き合えそうな気がする。

 そんな彼も真島君に劣らずの美形。どちらかというと野性っぽいワイルドな風貌だが、冷静沈着で仕事人間みたいな人だ。


「俺が聞いてやろうか?」

「生憎ー、女子のお話は男に話せないんでぇー」

「お前もうその年で「女子」と名乗る気か」

「世の中女同士で何か話してたら女子会って名目になるのよ、知らなかった?」


 こんな軽口は日常茶飯事である。

 どうやら立花はぼっちでここにきたわけではなく、同じく同期で入社した渡辺わたなべ君と一緒に食堂に来たらしい。ちなみにこの渡辺君、草食系な見た目だが、案外肉食で、入社早々に私の親友美子をおとしたとかなんとか。まあ大学時代から美子のことを知っていたようだし、虎視眈々と美子を狙っていたみたい。

 つまり美子と渡辺君は恋人同士である。


「そーだ、この前の海の写真、ラインで送っておくから」

「ありがとう渡辺君」

「じゃあ私たち行くから。どうせなら立花にも相談してみたら?」


 美子は渡辺君と二人になりたいようで、彼が来るとサッと立ち上がってしまった。それでいいのか友よ。

 そして相変わらず空気を読むのが上手な立花は笑顔で食堂を立ち去る二人を見送っている。何がしたいんだろうこいつは。

 二人がいなくなったのを確認すると、「それで?」と促すように小首を傾げ、頬杖をついて私に聞いてきた。その色っぽい姿勢に、一瞬ドキ、と心臓が止まる。無駄に顔が整ってるって怖い。


「それで、何に悩んでるんだよ」

「…別に立花に言うことじゃないし」

「でもお前の親友におすすめされたよ?俺」

「おすすめされたものが結構信用できなさそうだから突っ返そうと思ってるんだけど」

「それは酷い。これでも真剣だ」


 どうやらなんだかんだ聞きたいらしい。どんどん詰めてくる顔の距離を意識してしまうと、こっちが折れるしかないのかとあきらめがついてくる。

 一つため息を落として再び彼と視線を合わせると、彼は私が話す気になったと察したのか満足げに笑った。


「…人には言わないでよ…結構恥ずかしいんだから」

「へぇ?そんな重大な秘密を俺に話してくれるってことは、結構俺いいポジションにいるのかな?」

「無理やり口を割られただけよ」

「その通りだ」


 言わないよ、とちゃんと返したのを確認し、私は先ほどまで美子と話していた内容を彼に伝えようと口を開いた。


「…デートに誘われたの、8歳年下の、高校生に」

「………は?」


 これはあまりにすっ飛ばしすぎただろうか。いやでもこれでも伝わるだろう。確か立花は海で真島君と会っていたはず。

 と、淡い期待を胸に隣に座った立花の顔を見ると、ポカンとしていた。凄い間抜け面だったのでパシャリと写真を撮った私は悪くない。


「なに写真撮ってんだてめ………って、は?え?デート?年下?8歳?こうこう、せい?」

「8歳年下の高校生の男の子に遊びに行きませんかって言われたの」


 はい、と真島君からのメールを見せると、彼は呆然としたままメールの内容を目で追い始めた。そしてしばらく一点を凝視して止まると、ガバッと顔を勢いよくあげた。


「あの海であった高校生のことか!?」

「そう、その子、真島君」

「そいつに?デートに?誘われた?いつぅ?」

「いつって、それは、まだ、決まってないけど」

「………」


 不意に黙り込んだ彼から自分のスマホを奪う。なんだか何か考えているらしい。時折ブツブツと声が聞こえてくる。ちょっと気持ち悪い。

 ただこの仕事一筋だった私に色恋話が来たことが結構な衝撃だったらしく、頭を振ったり目頭を押さえたりしている。失礼な。私にだって春はやってくるのよ。

 そういえば隣にいる立花こそ最近浮いた話を聞かない。やれ営業課の美女だ、やれ事務の美人新入社員だ、なんて多くの女性社員にアプローチされては噂になっていたが、彼自身本気になった女性がいないとか何とかで噂が独り歩きしてるだけらしい。それでも流れてくる噂にはどれも、「立花は女好き」だなんんてニュアンスが含まれているのは、彼の容姿と誰にでも優しいのが原因だろう。


「…おーい、立花ぁー?」

「……小崎、お前、それ行く気なのか?」

「え?ああ…まあ、誘われたし…」

「…そいつのこと、好きなのか?」

「…え?いや、それは…わかんな、いけど…」


 急に真剣なまなざしでこちらを見てくるから、一瞬怯んでしまう。でも彼もそれだけ私のことを考えてくれているという証拠だ。

 自分の気持ちにまだ自信のない私は、彼の真摯な視線から逃げたくて目線をそらしてしまう。だが、彼が私の腕を強く掴んだせいでそれはかなわなかった。


「た、立花…?」

「日時、決まったら教えろ。それから、何かあったら必ず相談しろよ」

「え?あ…うん、」


 彼はそういって席を立って行ってしまった。お昼休みは、残り五分を切っていた。





 帰宅してようやくメールの返信をした。

 お昼休みの後も美子と相談した結果、誘いに乗ってみて考えようという結論に至った。それまでもいろんな話をしたが、真島君が悪い子じゃないのは妹の件を通じてよくわかってるし、メールの内容も誘い方も良かった。

 だから年齢を気にならないくらい彼と楽しめたらいいじゃないか、と美子は提案してくれたのである。


「とりあえず、来週の土曜日なんてどうかな…っと」


 カレンダーとにらめっこして、高校生でも大丈夫そうな土日をチョイスしてみた。真島君は恐らく部活に入ってるだろうから、結構予定を合わせるのは難しそうだなぁと思っていると、自室の扉がコンコンッとノックされた。

 「はーい」と返事すると入ってきたのは、可愛い可愛い桜だった。薄いピンク色のルームウェアがとても似あっている。


「おかえりお姉ちゃん」

「ただいまぁー。桜も学校お疲れさま」

「うん、それより、真島君に返信した?」

「今したとこだけど…」

「はぁ?遅くない!?」

「えええ…遅い?」


 どうやら高校生からすると返信の速度が文句言われるほど遅いらしい。そ、そうなのか…でも私仕事中だったしなぁと思うが、桜の話から察すると、もしかしたら真島君待ってたかもしれない。これはいかん。後で謝っておこう。


「それで?なんて返信したの」

「んー…高校生の休日がよくわからないから、とりあえず来週の土曜日どうって聞いたけど」

「真島君部活入ってるのに?」

「そうなんだよねぇー…たぶん無理だと思うー」

「はぁ…仕方ないなぁ、もう!」


 そう言って可愛い妹は階段を駆け下りていったかと思うと、すぐに駆け上ってきて一枚の紙を私に手渡した。どうやら学校の予定表らしい。「これ見てっ」と強い口調で言い、桜が指さしたところには文化祭という文字が。


「どこか出掛けるなんて無理。だからお姉ちゃん、文化祭来てよ」

「え?文化祭?」

「彼は遊びたいって言っただけなんでしょ?じゃあ文化祭でいいじゃない」

「…な、なるほど」


 確かに文化祭だったら短時間だし、さらに文化祭で盛り上がった感じの中、家とは違う愛しの可愛い桜が見れるかもしれない。これは一眼レフ持ってかなきゃやばいのでは…。

 一気に真島君と遊ぶことを忘れ、桜について考え始めた私に、隣で桜が何かを言った気がしたが、小さい声だったので聞こえなかった。



「とりあえずお姉ちゃん、この日は空けておいてね!私のクラス、絶対に来てよ?」

「もちろんだよ!むしろそれを楽しみに行くからね!」

「まさかお姉ちゃん一人で来る気?」

「え?」

「ぼっちで来るなんて可哀想だと思われるから誰か連れてきなよ」

「だ、誰かって?」

「そりゃ、会社の同僚とか、友達とか、いるでしょ?」










 ―――というわけで。


「それで?俺に白羽の矢が立ったと」


 パンッパンッと青空に白い煙の花火があがる。

 あれから真島君にメールで「君の文化祭に行く」ということを伝え、了承の返信が来たので、会社の誰かと妹の文化祭に行こうと決まった。

 数年前まで通っていた高校の校門には、華やかに飾り付けられた看板がたっており、「文化祭」とでかでかと書いてあった。

 その校門を潜り抜けると、既に出店をしているのか、寄ってってくださーいという呼び込みの声が聞こえた。


「仕方ないでしょー、美子は渡辺君とデート行っちゃったし。我慢して」

「別に俺は嫌じゃねぇよ。むしろ…」

「…?」

「いやなんでもねぇ。ここはどうだ?恋人っぽく手をつないでおくか?」

「桜に勘違いされるからやめて」


 差し出された手をパシンッと払った私は悪くないと思う。

 下駄箱にたどり着くと、宣伝をしているのか個性豊かなクラスTシャツを身にまとった多くの生徒たちが、看板を持って大声て呼び込んでいた。それにつられるように文化祭にやってきたお客さんが移動する。想像以上に混んでいるが、まあ楽しめそうだろう。それより桜を見たい。可愛い桜ちゃんどこにいるの。

 そんなふうにキョロキョロと左右を見渡してると「首が取れるぞ」と立花に言われてしまった。素人は黙っとれ。


「なんだか立花とこうやって文化祭行くなんて、まるで夫婦みたいね」

「……」

「何照れてんのよ」


 とりあえず麗しの桜ちゃんのクラスに行こう。最後までどんな催しをやるのかは教えてくれなかったが、私の予想―――願望ともいう―――だとコスプレ喫茶だと思う。だって桜には可愛い服が似合うもん。

 顔を赤らめる立花の腕を引いて桜の教室まで歩くと、どうやら人気の出し物なのか、結構人が群がっていた。もしかして桜が可愛すぎて?とウキウキしながら覗くと、全ての予想が外れたことがわかった。


「……お、お化け屋敷…」


 むしろ顔を引きつらせるレベルだった。

 絶対私のクラス来てね!と笑顔で言っていた桜を、この時初めて憎いと思ったのは仕方ないと思う。なんていったって私はお化け屋敷とかそういった類が苦手なのだ。


「おいお前こういうの無理なんじゃ…」

「へへへへ、平気よ?平気ぃ、だって桜ちゃんのお願いだもんんんん」

「声が震えてるぞー」


 いつの間に復活したのか、いや立場が逆になったのか、悪戯そうに笑う立花を殴らなかった私を褒めてほしい。ただここは可愛い桜ちゃんのため。お姉ちゃん頑張る、頑張るからっ!!

 と意気込んだところで、「そこの恋人さんたち入るかーい?」と陽気な声が聞こえた。どうやら私たちに言ってるらしい。立花が喜々として「入りまーす」と片手を振って了承していた。ふざけんな。


「さあ行くぞ、呪いの館へ」

「ちょ、ちょちょ、立花っ、立花様っ、まだ心の準備、ああああああっ」

「いってらっしゃーい」


 楽しそうに見送る高校生を、この時ほど恨みがましく思ったことはない。

 そして、この様子を桜と、真島君が見てるなんて思いもよらなかった。









「…あの人、確か海の…」

「はぁ!?お姉ちゃん彼氏いたわけ!?」


 雪乃と立花が桜のクラスの出し物の中に入ったのを、ちょうど作戦会議していた桜と真島が目撃してしまった。二人のクラスはお化け屋敷を催しているので、二人とも不気味な衣装ーーーけして雪乃が予想していたような可愛らしい服装ではないーーーを身にまとっている。傍から見ると不気味なお化けがお化け屋敷を恨めしそうに見ているようにしか見えない。

 しかし、そんなことなど目の前のことに精一杯の2人には気にならない。

 しかもちょうどふたりが見てしまったシーンは、同級生の男子が雪乃と立花を見て「恋人」と言ったところ。そもそも桜は立花の存在を知らなかったし、真島に至っては海の時に軽く警戒されていた相手だ。

 雪乃にその気がなくても、立花は恐らく、いや絶対に雪乃のことが好きだろう。

 当然立花のことを知らなかった桜はしがみつくようにして真島に彼の存在を聞く。それが自分の姉の同僚とわかると、少し納得したような、しかし複雑な表情を隠すことは無かった。


「多分お姉ちゃんはあの人のこと好きじゃない」

「あ、ああ…でも、」

「でもだからといってどうして男の人と一緒に来るのよお姉ちゃん…っ!!」


 だんっ、と心底残念そうに床に拳を叩きつける桜の姿を周りのお客さんが訝しげに見る。だが彼女にはもう人目などどうでも良かった。


「ええ、ええ!確かに私が誰か誘ったら?って言ったわ!でも男連れてこいなんて言ってないわよ!」

「そもそも君が誘えなんて言うから…」

「だってお姉ちゃんあんなに美人で馬鹿なお人好しだからすぐ高校生にナンパされちゃうでしょ!」

「そ、そりゃ確かに、そうだけど…」


 ぶっちゃけ桜自身、真島に協力するという体で姉には幸せになってもらいたいという理由で自分なりに動こうとしていた。そこで、自分の一件から誰よりも誠実そうな真島の恋、つまり姉と結ばれることを望み、彼の協力を試みた。

 しかしこの真島はどんなに叩いても殴り飛ばしてもヘタレだった。顔はイケメンなのに中身は純情、優しすぎるのもまた彼のイケメン度を下げていた。

 もちろん最初の方は彼の顔に惹かれていた自分だけれど、こうやって姉と絡んで応援という形で彼の傍に友人としているが、彼はどう頑張っても見た目以上の中身がないことがわかった。

 いや頭もいいしスポーツ万能だけれど、決して本命にはガツガツといけないヘタレタイプ。姉もこんな男に好かれて大変だな、と桜がため息をついた時、真島が「あ、」と声を上げた。


「え、何?」

「雪乃さん、出てきた」


 慌てて2人で陰に隠れると、ゲッソリとした表情の雪乃と、何か嬉しいことでもあったのか顔を緩ませて笑う立花が戻ってきた。異様に近いふたりの距離に、桜も真島もイラッと眉を寄せる。

 しかしそんなイライラコンビのことなど気付かず、雪乃と立花は(若干1人フラフラだが)会話を弾ませながら廊下を歩いていった。

 よく見れば雪乃がブツブツと喋ってるのに対して笑いながら頭をなでる立花の後ろ姿。ボッとふたりの背後で闘争心が燃えた。


「小崎さん」

「わかってるわ、行くわよ」


 ツカツカツカツカと雪乃と立花に後ろから近づき、桜は立花の、真島は雪乃の腕をグイッと引っ張った。突然のことに、ふたりは目を丸くさせる。


「ま、真島くっ…」

「お久しぶりです、会いたかったですよ、雪乃さん」


 そのまま何かを暴走させたのか、彼は雪乃を抱きしめた。一体何が起こったのか理解出来ない雪乃はポカンと口を半開きにしたまま、彼に体を預けていた。

 と、そこへ雪乃にレスキューが入る。


「ちょっ、おい…!」

「あ、こんにちはぁー雪乃お姉ちゃんの妹の桜でぇーす!よかったらぁ、うちのクラス来てくれませんかぁ?」


 が、しかしそこは誘いのプロ、桜が思い切り遮り、しっかり立花の腕をホールドする。そして得意の上目遣いと甘い声で、一瞬だけでも立花の気がそれれば。


「雪乃さん、来てください」


 あとは真島が勇気を出して雪乃を連れ出すだけ。立花が桜の真意に気づいた時には、雪乃はそこにいなかった。






 突然現れた真島くんに腕を引かれ(そのまえに抱きしめられたけど)、そのまま彼の走る方向へ一緒に走る。どこに向かっているのよくわからないけれど、だんだん人気が少なくなっていることはわかった。

 そういえば今日は彼とデートの目的でここに来たんだった、とようやくここで思い出した私は馬鹿なんだと思う。


「あ、あの、真島くん?」


 思い切って彼の背中に声をかける。しかし彼からの返事はなかった。もしかしてデートすっぽかしたような形になって怒ってるのかしら…と若干焦っていると、彼が不意に走る足を緩め、非常階段と書かれた扉を開けた。

 ギィと音を立てながら古くなった扉を開けた先に、鉄製の階段がある。書いてあったとおり、非常階段なのだろう。完全に私達だけになり、少々身の危険を感じたが、真嶋くんに限って私をどうこうしようとは思わないだろう。


「…なんで、あの、海の人と来たんですか」


 トン、と小さく背中を押され、非常階段がある方へ向けられる。校舎に入れなくなってしまった。

 私の頭よりも何個分も高い位置にある彼の顔を見上げるが、彼の真意はよくわからない。ただ、彼の声が低かったから不機嫌なのだということはわかった。


「た、立花のこと…それは、今日たまたま彼が空いてたからで…」

「でも今日は俺とデートするんでしたよね」


 鋭い切り返しにう、と言葉に詰まる。

 流石にデートよりも桜のクラスを楽しみに来た、とは言えない。でもこの調子だとすべて暴露するまで離してもらえなさそうだ。ここは素直に正直に言うか…と考えたところで、私よりも先に真島くんが口を開いた。


「はぁ…わかってましたよ?俺よりも小崎さんのことが大事だって」

「…え?」


 どうやらバレていたらしい。まぁでもそうよね、他の男と歩いていたなんて普通に考えればただの浮気だ。いや別にどちらとも付き合ってはいないけれど。

 ただ誘ったのに他の人と歩いてるなんていい気しないわよね、と思い、素直にごめんと謝った。すると、彼は何を思ったのか、私の腕を再び引いて、非常階段の一番下の段に座らせた。

 いつの間にか腕を掴んでいた彼の手は、両方とも私の腰に回されている。え、ごめんこれどういうこと?


「ま、真島、くん?」

「ほんとに、ほんとに申し訳ないと思ってるなら…責任、取ってくれますよね?」


 お、おやぁ?私の頭の中にあった草食系な真島くんの姿が見えないのだけど。

 目の前で輝く彼の瞳は、まるで獲物を見つけた猛禽類のように私の瞳を捉えて離さない。こ、これは危ない香りがするのだけど私の気のせい…?


「せ、責任…って?」

「そうですね…とりあえず、3つ」


 ス、と彼の長い指が3本立つ。なんだか嫌な予感がする、と身構えると、彼は満足したようにクツリと笑った。


「俺のお願い、聞いてくれますか?」


 ちょっとお姉ちゃん目の前のイケメンの色気がダダ漏れ過ぎて死にそうなんだけど。

 っていうか誰よこのロールキャベツ風な男子は!私の知ってる真嶋くんはこんな感じじゃない、はず。


「ち、ちなみに、そのお願いって…?」

「そう、ですね…」


 まさかピーとかピーとかイヤラシイことじゃないだろな…とドキドキしながら彼の返事を待つ。そして、口を開いた。






「…一緒にたこ焼き食べる、とかですかね」




 やっぱり真嶋くんは真嶋くんだった。

 私の知ってる乙女ゲームとか乙女たちのための小説だったらここで、「俺にキスしろよ…(キラーン)」って言って顎クイする感じの挿絵やらスチルとかがあるんだけどな!18禁だとエロシーン突入だよ!

 でもまぁ彼らしいといえば彼らしいし、なんだか安心できた。

 思わずポカーンとほうけてしまった私に、彼は失敗した!と言わんばかりに焦り始める。恐らくさっきのお願いは彼の全力な願いだったに違いない。

 あまりに可愛かったので、すぐに笑ってしまった。


「わ、笑わないでください…っ!」

「だって、お願いって…っ!ふふっ、わかった、一緒にたこ焼きでも焼きそばでも食べましょ」


 まさか非常階段に座らされてそんなお願いをされると思わなかったと言うと、真島くんは赤かった顔を更に赤くさせる。

 変わらない彼の通常運転ぶりが妙に愛らしく感じて、仕方ないからサービスでも何でもしてやろうと思い、彼の耳に唇を寄せる。



「お願いならこれくらいしなくちゃ、(いつき)くん」



 次の瞬間、彼の顔が真っ赤になって爆発した。



はいっ、ようやく真島くんのお名前が出てきました!

真島 (いつき)くん17歳!雪乃さんにこの先未来永久にご執心です!


今回も雪乃お姉ちゃんが1歩上にいてもらおうと調整頑張りました。そのためには真島くんには下に(つまりヘタレで)いてもらわなくてはならないという。

まぁ彼も今回頑張りました( ´艸`)


そして今回も出てきました、お姉ちゃん大好き愛くるしい美少女桜ちゃん!

彼女はあの一件のあと、学校でも多少距離を置かれたそうですが女子のお友達ができたとかなんとか。更にお姉ちゃんの幸せのために真島くんに手を貸すというハンデ。

真島くんは強力な味方を手に入れたわけです。


それから再び登場の立花氏。彼も不憫な立ち位置にいるんですはい。

たまには立花ターンを入れたいと思うのですが、主人公が主人公なだけにうっかり立花とくっついたりしたら、我らが愛するヘタレヒーロー真島くんが泣くので出来ないのですこれが。

というわけで今回は桜ちゃんの素晴らしい技とタイミングの良さで立花捕獲。その後文化祭で彼の容姿を客引き用に使ったのではないかと推測されます(でもお化け屋敷だから容姿関係ないのかもしれない)。


さらに初登場(?)の雪乃お姉ちゃんの親友美子さんとその彼氏、渡辺くん。渡辺くんに関しては名前も咄嗟に決めたので下の名前をなんとか出すまいとさっさと退場させました(登場した意味)。

美子さんも渡辺くんも立花の気持ちにバリバリ気づいてます。だから2人きりにさせようと目論んだわけですが、結果立花がショックを受けて終わりました(やっぱり不憫)。


という形で今回終わりましたが、いかかでしたか?作者自身もうちょっと文化祭の描写を入れたかったので、後々付け加えるかも…いや付け加えます。そこで立花ターン入れようかな笑


長くなりましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  くっふー(*´ω`*)  やっぱりお姉さんキャラ良いですね!雪乃さんサイコー(*`ω´)b [一言]  今気付いたんだけど、桜ちゃん絶対今の方がモテるよね。  小悪魔な猫被って素はちょっ…
[一言] ニヨニヨしながら読ませていただきました。 立花さん報われて欲しいです。 ところで前作では社会人三年目のはずなのですが二年生?
[一言] とても読みやすく、面白いです! お姉ちゃんってどんな容姿をしているんですか? 気になります。 是非、続きの更新お願いします。
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