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英傑たちの師匠

作者: 虚言兵器

 これも連載ネタ。勇者だけの師匠ではなく世界中に広まっている有名勢の師匠は全員一人、とかだとおもしろいよね! ってことで作っただけ。

 この世界には英雄がいる。


 魔王を倒し、平和をもたらした勇者。


 神に祈りを捧げ、魔神から民を守った大司祭。


 魔力の存在を明らかにし、魔術に変換。魔法を広めた大魔法師。


 精霊を視認し、力を借りた精霊術師。


 土地を動かし、国土を広げた武人。


 数多くの貴重な魔法石や古代の遺跡、財宝を発見した考古学者。


 魔法石を加工し、より簡単に魔法を使えるようにした科学者。


 世界の全てを修めた賢者。


 他にも、巫女や料理人、海賊や人形師などなど。



 彼らは一般的に言うならば"選ばれた者"だった。世界に広まっている、その名を――





   ――英雄となる者(ヘロイズム)、と。




   ◇   ◇   ◇




「九千九百九十一、九千九百九十二、……」


 激しい水音をたてる滝壺の側で、一人の少年が腕立て伏せをしている。背にはリュックを背負っており、半袖半パンというラフな格好にも関わらず、彼の顔は苦痛に歪んでいる。


「九千九百九十七、九千九百九十八、九千九百九十…きゅ…う、一…ま…ん、っと」


 数え終わると勢いよく立ち上がる。するとどこからか



  ――ピロリーン



 と軽やかな音が聞こえてきた。それを聞いた少年は、身体を震わせながら思いっきり叫んだ。


「よっしゃあ! かんすと(・・・・)したぁあ!!」






 樹が生い茂った森の中の一軒の小屋の扉をぶち破る勢いで入ってきた少年は、ベッドで寝ている青年に大声で呼び掛けた。


「師匠、師匠! オレ、かんすと(・・・・)しましたよ! ねえ師匠ったら! 起きて下さいよ、師匠!」

「~~~~あ゛あ゛!? うっせえんだよこのカスが! 俺はまだ寝てんの! とっとと出てけ!」

「師匠! オレかんすと(・・・・)したんですって!」

「あ゛あ゛? ……ああ、カンストね……っは!? マジで!?」

「はい!」


 師匠と呼ばれた青年は少年の顔を凝視しながら尋ねるが、少年は満面の笑顔で頷いた。


 「(マジかよ。ついこの間までレベル七十台だったろ。まだ三ヶ月も経ってねえぞ。これが英雄となる者(ヘロイズム)かよ)」





  英雄となる者(ヘロイズム)


 この世界において英雄とは、子どもたちのみならず大人も憧れる存在だ。しかし、当然憧れだけで簡単になれるものではない。


 ごく一部の者のみに与えられる称号スキル。それが英雄となる者(ヘロイズム)である。


 最もこの称号は先天的に与えられるが、目覚めさせなければ、ただ経験値が上がりやすいだけの体質と間違えられかねない。この世界の人間は、称号スキルの存在すら知らないのだから。



「もうマジコイツ何なの。何で俺こんな事してんだろ」

「師匠がオレを拾ったからだろ!」

「俺はお前が勝手に着いてきて勝手に師匠呼ばわりしてるだけと記憶してるんだが」

「…………」

「オイ」


 少年は無言で目を反らす。それを見た青年は少年を睨むが、少年は慌てて口を開いた。


「そ、それで師匠。オレかんすと(・・・・)? したんですけど、次は何すれば?」

「あーそうだったな。んじゃ次は卒業試験だ」

「はい! ……はい!? 卒業試験!? マジで!?」

「オイコラ敬語はどこ行った」

「師匠! マジで卒業ですか!?」

「したくないのか?だったら……」

「したいです!」


 どこにそこまで驚く要素があったのか青年は全く分からなかったが、とりあえず話を進めた。しかしこの卒業試験、彼が今まで育て上げた全員が未だに合格クリアしていない。


 そのことを話してそれでもするのかを聞くと


「何言ってんですか! こんな辛い修行なんかとっとと卒業したいに決ま……はい! します!」

「テメエ今何つった」

「何デモアリマセンデス、ハイ。スミマセンデシタ」


 聞き捨てならない答えが返ってきた。そこまで嫌がる修行をしたかと記憶を探るが、全難しくない修行しかしていないだけに、なぜこんなに文句を言われなければいけないのかさっぱり分からない。


「……まあいい。卒業試験を言うぞ」


 勢いよく姿勢を正した少年を見て、青年は複雑な気持ちになる。


「試験は無期限。俺は今からこの小屋を出る。一時間後にお前もここから出て、俺を見つける。見つけて俺から一本取ったら合格。晴れて卒業って、訳だ」

「無理ですよね!?」


 少年は今まで何度も手合わせをしているが、その度に叩きのめされている。不意討ちや奇襲でさえも当てたことがないのだ。そんな自分が一本取るなど不可能だと反論する。


「まあ最後まで聞け。武器はいつも通り指定なし。一回でも俺に当てればいい。かすっても構わない。とにかく俺になにかしらの攻撃を与えられればいいんだ」

「いやそれでも」

「加えて」



 少年は反論しようと口を開きかけたが、それより先に続きを話し始めた。


「加えてお前が俺を見つけられたら、俺は転移陣も無属性魔法も使わないことを約束しよう」

「マジですか!?」




 転移陣。読んで字の如く、行きたい所どこにでも行ける陣の事だ。使用者の魔力量により飛べる距離が違うが、青年であれば大陸の端から端は勿論のこと、それこそ天界や冥界、魔界にまで自由に行けるだろう。


 無属性魔法。全ての人間に適性がある唯一の属性だ。その効果は身体能力向上や治癒など幅広いため、ほとんどの学校で一番初めに教える魔法だ。魔法使いでなくとも使える者は少なくない。



 これらを使用しないということは、眠らせるなり動きを止めるなりすれば確実に勝てるだろう。そう少年は思ったし、今までの自称・・弟子たちもそう思った。


「んじゃやるか?」

「もちろんです!」



 この試験で重要なのは、如何にして師匠を見つけ、気付かれずに動きを止めるか、ということだけだ。それ位ならそう難しくないはず――



  ――と思ったのが間違いだった。



「ああ、但し。一つだけ条件がある」

「何ですか?」


 ふと思い出したように言う青年を見ると、自分の方に腕を伸ばしているのを見て、少年は不思議に思う。


師匠オレに関する一切の情報を弟子おまえの記憶から消させてもらう」

「――え」


 そう彼が言ったのを最後に、少年の意識は途切れた。




   ◇   ◇   ◇




「……よし。『武人』完成っと」


 少年を気絶させた後に、記憶の中の『師匠像』を全て別人のものとすり替える。これでもう自分を見て"師匠"と呼ぶことはない、と青年は安堵する。今まで育てた子どもたちの記憶も弄ってある。

 彼が今まで育て上げた子どもたちにも"英雄となる者(ヘロイズム)"持ちは大勢おり、過去英雄として活躍した者、もしくは現代進行形で活躍している者ばかりだ。"英傑たちの師匠"というレッテルは、青年にとって枷でしかない。



  彼の目的は――この世界に混沌をもたらすこと。



 通称"英傑たちの師匠"である青年、あざな来栖くるす、名を真愛まな。この世界の名はマナ・クルス。この世界に転生してきた"混沌拍子(カオスマイスター)"の称号持ち(スキルホルダー)である。




 本来教師にするはずだったけど「不老不死にすればいいじゃん」ってことで教師じゃなくなった。勇者どころか魔王にも指南した人が同じとかおもしろそうだよね。


 書きたかったなあ……。

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