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Angel Wing

Angel Wing~夜が明ける

作者: 雪延 弥央

あれから、自然界に戻ったレイユとサリーはヘルムの森を通ってヨキスナへ帰ろうとしていた。自然界は人間界と同様に年数を刻んでいる。自然界は日が沈みかけていて、木々の枝に遮られ、薄暗くなり夕焼け空のオレンジ色も見えなかった。

 レイユは何か考え事をしているらしく、歩きながら一点を見つめていた。その少し後ろから、手を後ろで組んで歩いているサリーがいた。レイユを呼んでも返事がなかったのでレイユの所まで走って行った。

「レイユ。レイユったら!!」

「ん?サリーか。どうした?」

「どうしたって、こっちが聞きたいわよ。仕事、どうして降りたの?」

「気になることがあってさ。それに、この仕事好きでやっているわけじゃないし」

「私だって好きでやっているわけじゃないわよ。今ナルティノは進歩してるけど、ヨキスナは昔の風習が残っている所が多いから、こういう仕事しかないのよ。お金を稼ぐには。それにあの時、セレナーデがいなければティナを助けたかった。また会えたら、謝りたいなって。刺せって言ったのはセレナーデだし、血は好きだけど、でも、ユングの事はやり過ぎじゃない?」

「壊れかけているものは傷つく前に消えた方がいいのさ。少しぐらい悪役になってもね」

「それで、気になることって?」

「オレの額の傷って常人には見えないんだよな」

「そう言ってたわね。それが何?」

「あいつ、この傷見えたんだよ。それに大丈夫か?なんて聞いてくるしさ」

「ティナの事でしょ、あいつって。それで気になって変身まで解いて、仕事降りたわけ」

「そういうことだ。あのじいさんに聞きたいしな。で、なんでサリーまでついてきてるんだ?」

「私だって、ヨキスナは故郷よ。帰っちゃ悪い?」

「別にいいんじゃないか。それで」

 と言うと、レイユはさっさと歩いて行った。

 後ろからはサリーが少し笑みを浮かべながら歩いていた。



 ヨキスナでは内戦が絶えず起こり、多くは他民族の争いであった。そして、この村に二日前から内戦が繰り返されていた。

「レイユ、起きなさい」

 目を擦りながら起きたのは十六歳であるレイユである。まだ暗くて、暗さに慣れるのに少し時間がかかった。そして外からは家に近づいてくるような足音がした。下手くそな忍び方だなと呑気に思ったレイユだが、母から聞いた言葉でそんな余裕はなくなった。

「レイユ。今足音が聞こえるでしょ。内戦も三日目。たぶんこの村も危ないわ。だからこの短剣を持って東にある丘に走って行きなさい。あなたの運命が待っています。」

「運命を変えることはできないのですか?今は母さんたちと残りたい」

「これはあなたの道を開くものです。さあ、行きなさい!」

「でも!」

 母さんに口に指を当てられた。もう何も言ってはいけない印。

 服は内戦のために常に着ている。短刀を母さんから渡された。

「裏口から出なさい。見つからないようにね」

 と言うと母さんはレイユを裏口から出るように背中を押した。振り返ると父さんはレイユの顔を見て大丈夫だと言うように眼で合図を送り、足音の気配を探っていた。

 レイユは裏口から出た後、すぐさま走った。見つからないようにしたわけではない。近くまで来ていた。もうあんなのは見たくない。母さんの言われたとおりに丘を目指した。その時、涙が出てきた。少しずつ頬を濡らす涙。自分は何もできないんだ。父さんと母さんが逃がしてくれた。お前だけは生きろと。何も言ってなかったがレイユにはそれが分かった。心が苦しかった。涙はまだ止まらなかった。母さんがくれた短刀。運命が待っていると言っていた。この短刀が形見になるんだろうなと思っていた。短刀を握りしめ、丘の頂上まで着いた時には心臓の鼓動が激しく打ち、息も荒れていた。丘の頂上には一本の木があった。疲れたので木に凭れかかると村がよく見えた。赤く燃え上がる炎。見たくはなかった。涙を拭いて、体を抱えていると、何か声が聞こえた。強く吹く風のせいもあったし、何も考えたくはなかった。そして、それはもう一度聞こえた。

「強くなりたいか、レイユよ」

 聞いたことがない声。低い声でレイユにしゃべりかけてきた。

「姿を現したらどうだ」

「ならば、わしがどこにいるか分かるか?」

「オレが凭れかかっている木の後ろだろ。短く言えばオレの後ろだってことだ」

「よく分かったな」

 と言うと、出てきたのは白髪の白ひげを生やした爺さんだった。

「シャドニー・シーカーという者じゃ。強くなりたいか、レイユよ」

「強くなりたい。そして、守る力が欲しい」

「ならば、契約するのじゃ。だがその勇気があればの話だがのう」

「契約?」

「短剣を持っておるな。それで、自分の額を切る。それだけじゃ。だが、血は出るし、意識がなくなって死ぬこともあるだろうが。それは自分で決めることじゃ」

「なぜ、オレを?」

「お前はまだ目覚めていない。わしと血がつなっがている者で力を受け継ぐ者を決めなくてはならん。意志の強い者を選ぶ。それが今わしのすることじゃ」

「それじゃあ、オレとあんた、血が繋がっているのか?」

「少しな。自分の額を切るというのも勇気がいるものじゃ」

「あんたもしたわけだ」

 シャドニーの額には少しだけだが傷があった。

「もう治りかけているじゃろ。わしの出番は終わったってことだ。傷は常人には見えない。それだけは言っておく。額を切っても受け継ぐことができない者もいる。その中に死んだ奴もな。どうする?」

「オレは強くなる」

「そうか。だが、ただ切るだけじゃ本当に死ぬぞ。契約する意思を心に表わせば自然に言葉が浮かんでくる。その通りにすればうまくいくじゃろ」

 言われた通りにすると自然に言葉が浮かんできた。

「我は力を受け継ぐ者。契約により力を欲する者なり。我はすべてを受け入れ、自分の力とし目覚めるためにここにいる。時は満ちた。今ここに我はいる。今こそ、我に力を与えたまえ!!」

 そして、短剣を鞘から抜き、躊躇いもなくレイユは額を切った。傷口から血がにじみ出てきて、しばらくすると、顔にまで流れてくるほどだった。視界も見えにくくなってきて、意識も消え始めていた。レイユは倒れる最後まで、言い続けた。

 ――――強くなる。守りたいものを守りたい。

 そして、意識が消えた後、前へ倒れこみ、そのまま深い眠りに入った。



 守りたいものを守れなかった。今のままよりも強くなって、守りたいものを守りたい。だから――

 気がつくと、仰向けに寝ていた。目に見えるのは、青い空と緑の葉。あれから、ずっと同じ場所にいたようだ。さわやかな風の匂いの中に微かに燃えた後の煙の臭いがした。もう、終わったのだと分かった。起き上がると、村の家は焼かれ、黒々とした村が広がっていた。もう、何も残ってはいないと思われる風景だった。そして、レイユの両親も。額の傷を左手で探ってみると、その場所はすぐに分かった。血も止まっていて、流れていった血も拭き取られているようだった。それに、短剣も鞘に戻されていて、右手に握られていた。血が拭き取られているという疑問を考えようとして、ふと右側を見た。横には女の子がいた。若そうに見えるが大人っぽく自分よりは年上だと思った。ずっと焼けた村を見ていた。だが、レイユはこの女の子を見たことがなかった。

「あんた、誰だ?」

 女の子もレイユの方を向いて、言った。

「サリーっていうの。よろしくね。レイユ君」

「なんで、オレの名前を知っているんだ?」

「あなたは私の甥で、シャドニーが私のおじいちゃんなの。あなたは私を知らないと思うけど、何回か会ったことがあるし。それに、シャドニーから言われていることがあるの」

「言われていること?」

「もうすぐすれば分かるわ」


 一筋の光が目の前を横切ったと思うと、一瞬にして周りの風景の高さが低くなっていた。よく見ると体全体が毛で覆われていた。白い毛だった。

「もしかして、白虎か」

「そう。それがさっきの答えよ。感想は?」

「なんか変な感じだ。でもどうやって元の姿に戻るんだ?」

「そこで私の出番ってわけ」

 と言うと、白虎の顔に手をかざして、呪文を唱えた。

「古より選ばれし者、元に戻れ!!」

 そして白虎は元のレイユの姿へと戻った。

「それであんたがいたわけだ。覚醒するから」

「そういうこと。でも、いずれは自分でコントロールすることが出来るようになるわ。そうなると、私は必要なくなるわね」

「ずっと一緒にいればいいじゃん。あんた、いい奴だし」

「でも私、あなたより二歳上だからね」

「承知しました。ところで、これだけで強くなったってわけじゃないんだろ?」

「ご察しの通りよ。はい、これ」

 サリーは今まで下に置いていた剣を取って、レイユに投げて渡した。

「それは、シャドニーからよ。その剣で鍛錬をせよ、だそうよ」

「だろうと思った」

「これからどうするの?」

「帰る場所も今のところ無いしな。旅でもして、シャドニーが言ってた鍛錬をしますか。サリー、あんたも来るんだろ?」

「そういうことになるわね」

 そして、二人は旅に出るのである。

 この後、セレナーデと会い、殺しの仕事をするようになったのは言うまでもない。



 太陽が全てを照らし出し、爽やかな風が吹いている今日。丘から見る村は七年前とすっかり変っていた。一つ変わっていないとすれば、シャドニーの家ぐらいだろうか。二手に分かれている道の角にあたる場所がシャドニーの家だ。村に戻ろうとしている時、サリーがシャドニーンの家がどこにあるか話していた。

 多くの木々が村全体に植えられ、鳥のさえずりが聞こえる。そして、二人はあの丘の上で村を眺めていた。

「どう?久しぶりに帰ってきた故郷は」

「どう、たって。サリーはときどき帰ってんだろ?」

「一応ね。レイユは帰りたくなかったんじゃない?」

「別にそうでもないよ」

 レイユは少し戸惑っていた

「行くぞ」

 サリーに声をかけて、シャドニーの家へと向かった。

 レンガ造りの二階建ての家。それがシャドニーの家だ。サリーは古風でかっこいいと言っていたが、レイユはあまり好きではなかった。昔の自分の家を思い出すからだ。戸を叩いたのはサリーだ。少し間が空いてから、どうぞというじいさんの声が聞こえて、サリーは戸を開けた。二人が奥に進んでいくとリビングがあり、ソファーにシャドニーが座っていた。

「来ると思っていたよ。二人ともここに座れ」

 サリーから奥に座り、レイユが隣に座った。

「で、用事はなんじゃ」

「聞くこと分かってんだろ?」

「まあいいじゃないか。話してみたらどうじゃ」

 レイユはしぶしぶ話し出した。

「ティナ・ローレンスっていう子、知ってるか?」

「ティナ・ローレンスか」

 シャドニーはそう言うと少し悩んでいたが、答えは早かった。

「ナルティノの国王の娘じゃろ。聞いたことがある。噂では精霊の森から帰る所を何者かに襲われて、死にかけたと聞いたが、元気に戻ってきたと聞いたが誰がそんなことしたんじゃろな」

 シャドニーの言い方を聞くと何もかもお見通しらしい。その襲ったという者が目の前にいることに。

「ま、それはおいといて。その子がどうした?」

「じいさん。額の傷は常人には見えないって言ってたよな」

「言ったな。見えてはいけないものではないがな。それがなんじゃ」

「そのティナ・ローレンスって子が傷、見えてたんだよ。それに驚きもしないし、心配までしてくるし」

「それは、変わった子じゃの」

「じいさん、何か言い忘れていることはないか?」

「言い忘れている……。聞きたいか?二百年前の事を」

「二百年前の事?」

 サリーが言葉を聞いて、食いついてきた。サリーも知らないようだ。

「そう。二百年前の事聞きたいか、レイユ」

「もちろん」

「二百年前の事。今はまだ平和と言ってよいが、あの頃も、お前が覚醒した七年前と同様、内戦、そして戦争の真っただ中だった。他民族の他、同民族での争いが絶えなかった。ノルム・キヌヨも例外ではない」

「ノルム・キヌヨ?」

 聞いたことがない国名だったので、レイユは問いかけた。

「ノルム・キヌヨか。昔はそうだったが、今はヨキスナ、ナルティノじゃ」

「どういうことだ?」

「昔は一つの国だった。だが、長くは続かなかった。特別この国は、村や町が多く、同民族の争いがあり、多くの犠牲が出た。そこで考えたのが、国を二つに分けること。提案したのが、ノルム・キヌヨの国王だった。普通ならば『統一』という言葉が出るかもしれないが、この状況では『分散』というのが良いだろうということになった。この提案に反対する者はいなかった。皆疲れていたんじゃよ。そこで、国名を決める時に、ヌルム・キヌヨに続く国名を考え、また戻すという案が出た。そこで、ヨキスナ、ナルティノと決まったわけじゃ」

「なるほどね。ノルム・キヌヨ、そして、ヨキスナ。次にナルティノ。そして、またノルム・キヌヨってわけね」

「これを知っている者は数少なくなっている。お前たちが知るいい機会だと思ってな」

「で、それが、どう繋がってんのさ」

「続きを聞けば分かる。わしらの民族はヨキスナの土地で暮らすことになった。だが、一部ナルティノに住むという者が出てきた。わしら民族が覚醒することはほかの民族は知らぬし、知られていても困る。だが、言っても信じる者はいないだろうから、それでもいいだろうということで別れた」

「その分かれた者の中にティナに続く者がいたってことね」

「そうだろうな。二百年も経てば、血を受け継ぐ者もいないだろうと思っていたが、その子に現れたとはな」

「じゃあ、私たちとティナはどこかで繋がっているのね」

「驚かないのか」

「驚くって程じゃないだろ。疑問も解決したし、それでいいじゃねぇの」

「気楽な奴じゃ」

「それがレイユのとりえでもあるし」

「じいさん」

「なんじゃ、改まって」

「墓あるのか」

「誰のじゃ?」

「両親の」

 少し沈黙が続いた。すると、サリーがくすっと笑った。

「あるわけないじゃろ。生きとるよ」

「は?生きてるって」

「勝手に殺しちゃダメじゃん!」

 サリーはまだ笑っていた。

「もしかして、サリー知ってたのか?」

「もちろんよ。黙っててって言われてたから言えなかったの」

「オレだけかよ。知らなかったの」

「あの二人は強い。殺されるわけないじゃろ。会ってきたらどうじゃ」

「ほら、行ってきなよ」

 と、サリーはレイユの背中を押しながら、玄関まで行った。

「家の場所。前とあまり変わらないから大丈夫よね」

「あぁ」

「二人とも待ってるだろう。そろそろ来るだろうと言ってあるからの」

 そして、レイユは家に向かった。

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