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抗う者たち

 人々が宇宙に進出して幾世紀の時が過ぎ、その生活の本拠が完全に宇宙に移った時代。生活が安定すれば、人々はその余す力を戦いに振り向けるのは、歴史の必然であった。

 何十回と繰り返された戦争。その最も新しいものが一応の終結を見て半年。

 戦いが終わってもなお、未だに抗い続ける者たちがいた。



 宇宙の片隅。人類の何百年間にも渡る宇宙での活動で、放棄された構造物の残骸や大小の石ころが集まるデブリ帯の一つに、二隻の艦船が停泊していた。

 一隻は大型の輸送船。おそらくこの宙域に入ってくるだけでも苦労したであろう大型船だ。ぱっと見ただけでも長年使い込まれてきたことがよく分かる船だった。

 もう一隻は、商船とさほど変わらない程の全長を誇る軍艦。だが、そのシルエットは商船よりもスマートだ。艦自体はそれほど古いように見えないが、パッチワークのように後付でさまざまな建材が組み合わされた跡があったり、放置されている小さな損傷跡が多々あったりと、歴戦の風格を漂わせていた。

 その二隻の間を次々とコンテナが流れていく。輸送船から発したコンテナは、二隻の間に張られたガイドワイヤーに沿って、大口を開けるように開かれた軍艦の格納庫に次々と吸い込まれてゆく。

 そして、軍艦の格納庫の中では、乗組員総出で荷解きが行われていた。そこでは作業用の重機や、現代宇宙戦の主力である全高十八メートルの人型兵器、リベルフィギュアの姿もあった。

 ラルフ・シュターデンは、リベルフィギュアに搭乗し、整備班の荷解きの手伝いをしていた。

『シュターデン、次はこのコンテナを頼む』

「了解。これはどこに回せばいい?」

『格納庫の隅っこだ。とりあえず床に置いといてくれ』

「いいのかそんないい加減で……」

LF(リベルフィギュア)用の試作装備なんていきなり回されても、置くとこなんかないんだよ……まだ他にも新型のパーツらしきコンテナがあるからそっちもまとめて頼む』

「りょーかい」

 ラルフは気の抜けた返事とともに機体にコンテナを抱えさせ、持ち上げる。

「しっかし……ここにきていきなり新型武器……か」

 コンテナを見ると、『衛星建造用資材』という偽装コンテナに、『LF用試作装備』という荷解き用の手作りのラベルが貼り付けてある。

「しかも今回は補給船からして豪華だしな……いったい何があったのやら……」

 ラルフは訝しげな顔をしながら、コンテナの整理作業を続ける。


     *


 エーベルト級重巡洋艦七番艦『ザイドリッツ』

 つまり二隻のうち軍艦の側、その艦長室において、二人の男が向かい合っていた。

 長身の中年と、小柄な老人。

 中年は佐官用の軍服に身を包み、腕を組みながらゆったり艦長席に腰掛けていた。対する老人は、一般的な船員服をラフに着崩した格好で軽薄そうな笑みを浮かべている。

久方(ひさかた)ぶりじゃのう。元気にしておったか、アルベルト」

「そっちもご健勝のようで何よりだ、フォルカー爺」

 アルベルトと呼ばれた中年男は、静かに顔を笑みに変え、フォルカーと呼ばれた老人は変わらず軽薄そうな笑みを浮かべている。

「で、早速だが本題を聞かせてもらおうか……何があった?」

「極めて厄介なことじゃな。実に面倒なことが起こった」

「……事実のみ要点をまとめて言ってくれ」

「……そうじゃな、一言で言えば、これ以上の補給の継続は不可能となった、ということじゃ」

 アルベルトはその言葉を聞くと、溜息と共に手を頭に載せる。

 そして思う。ついに来たか、と。

「始めた頃から綱渡りだったからな……いまさら驚きはしないさ」

 半年前。アルベルトたちの祖国であるディーベルト共和国は敵国、ヨーツェン王国に敗北した。

 事実上の最終決戦となったルドラ宇宙要塞防衛戦に敗北し、ディーベルト共和国は崩壊。

 アルベルトたちはその敗北のどさくさから命からがら逃げ出し、残存兵力をまとめ、ここ辺境のデブリ帯に逃げ込んだのだった。

「アレから半年間……よく持ちこたえた方か」

 半年間、フォルカー達補給部隊は、王国の支配下となった地域で隠密活動を続け、アルベルト達へ補給物資を流し続けていた。

アルベルト達は、その補給を受けながらデブリ帯に潜み、王国軍の艦に対し海賊まがいの襲撃を繰り返してきた。

 だが、もはや限界。

 補給がなければ、アルベルト達は立ち行かない。

「こちらの手落ちもあったのかもしれんが……向こうさんが思ったより本気でこちらを探っているようじゃ。今月に入って連絡所を三ヶ所放棄することになった」

「……確かに、潮時だな」

 そこまで来れば、もう間もなく構成員の誰かが捕まって、尋問で情報を根こそぎ引きずりだされ、組織が一網打尽にされるだろう。そうなる前に撤収を指示したフォルカーの判断は的確だと言えた。

「ああ。そこで、どうせバレるのなら大量の物資を引渡してから、と思ってな」

「……なるほど」

 それならば合点が行く、とアルベルトは頷く。

今までは、小型艇やコンテナを単体で流すなどごく小規模の補給が主だった。それは、今回ほどの大型商船の確保は容易ではなく、船籍の偽装や、事故に偽装し行方をくらますにしても不自然な点が残らざるを得ず、必然的にこちらの存在の痕跡を敵に知らせることとなるからだ。

だが、痕跡が残ろうとどうなろうと、逃げ出すのならば同じだ。

「どうせ撤収するなら、タダで逃げはしない、か。大したタマだよ、あんたは」

「どうせお主らも捕まると分かったら最後まで足掻くつもりなのであろう?」

「ああ、確かにそうだ。ここに残ったのは血の気の多い馬鹿ばかりだしな」

「だろうな。そして、そんな自殺願望者のお主らに不幸中の幸いとも言える情報を一つくれてやろう」

「……不幸中の幸い? なんだ、それは」

「王国軍を振り切り、エルレイド連星までたどり着けば、連星共和国はお主らを引き受けてくれると言っておる」

「エルレイドが……」

 エルレイド連星共和国は、ディーベルト共和国と同じ恒星系に属する、エルレイド連星の衛星軌道上にある宇宙ステーション群で構成される共和国だ。 

 普段は、ディーベルト共和国とそれほど交流のある国ではない。 それどころか、大体の国とは交易以上の協力関係を持とうとしない、閉鎖的な国風ですらある。

「二ヶ月ほど前にアハトステーションの難民船団と第六艦隊の残存艦がエルレイドに無事辿りついてな、そやつらが何とか交渉してくれた」

「そうか……」

 そこまで聞いて、アルベルトは、僅かな安堵を覚える。

 少なくとも、目的もない玉砕戦だけは避けられたということ。

 それだけでも、アルベルトには肩の荷が降りたというものだ。

「なら、背筋も凍る大冒険の果てには、夢と希望に溢れた新天地があるわけだ」

「左様。……かなりの長距離航海になるじゃろうな」

「惑星間航行用のブースターはない。戦闘込み、迂回ありで……」

「半年から一年。どんぶり勘定だとおそらくそのくらいじゃろう。今回の補給ではギリギリ一年分の食料は持ってきておる」

「問題は艦が持つかどうか、か。そこはどうにか気合で乗り切るしかないだろうな」

「ああ。まさにそこはお主の手腕次第じゃ……過酷だと思うが、負けるなよ」

「無茶を言ってくれる……いつの間にか歴戦の艦長にでもなった気分だよ」

 そう言ってアルベルトはほんの少し前のことを思い出す。

 つい一年前までは、昇進の事と、家族のことぐらいしか頭になかった新米艦長だったというのに。

 この戦争で国も家族も……すべてを無くした今、アルベルトにあるのは、この艦と乗員たちのこと、そして、憎き敵への復讐心のみ。

「何故こうなってしまったんだろうな、私達は……」


     *


 コンテナの積み込みは滞りなく、一応完了した。

 一応というのは、艦の格納庫に入りきらなかった大型の資材などを未だ外に括りつけてあるからだ。

 今はハッチを閉鎖し、空気の充填された格納庫内で食料や日用品、その他にも艦の乗員の家族、友人などからの私的な手紙、贈り物などの開封作業が進められていた。

 総務部の人間がバタバタと大量の食材や日用品を格納庫との往復で運ぶ中、他の乗員たちは手紙や贈り物に口々に喜びの声を上げ、騒ぎあっていた。

 その喧噪から離れた格納庫の隅に、LFから降りたラルフの姿もあった。

 手にしていたのは、個人用電子端末。

 そのディスプレイに映っているのは、ラルフの妻と双子の子供。

 妻は昔から変わらぬ仏頂面で。

 子供は二人とも無邪気な笑顔で。

 ラルフの記憶よりも、すこしばかり年月の過ぎた姿で、そこに映っていた。

 ……ふとラルフは自分に近づく気配を感じ、顔を上げた。

「隊長」

「ん……ああ、エルナか」

 ラルフの眼前にいたのは、エルナ・ベルツ少尉。

 この艦に四人だけ残った、LFのパイロットの一人だ。

「どうしたんですか、こんな格納庫の隅っこで……お化けみたいでしたよ?」

「ああ……いや、珍しく届け物があってな。ここで見ていた」

 そう言って、ラルフはエルナに小包を見せる。そこには補給部隊の手作りの伝票に、『シュターデン大尉行き、データチップ』と殴り書きで記されていた。

「届けものですか……そういえば隊長がここに参加しているのって珍しいですね? どなたからの届け物なんですか?」

「妻と子供からの、ビデオレターだが」

「うわ、さりげに妻子持ちですか」

「本音が口からダダ漏れだぞ少尉」

「本音ですから」

「軍規もクソもなくなってからお前ホントに図々しくなったな」

「えへへー」

「褒めてねぇよ」

 ラルフはそんなエルナに溜息。

 別にラルフもエルナは嫌いではないし、実戦の中では天才的な資質を発揮し、圧倒的な戦果を上げて帰ってくる優秀なパイロットだと評価している。

 だが、いかんせん、このゲリラ生活になってから階級も年齢もまるで無視したようにクルー全員に、よく言えばフランクに、悪く言えばズケズケと遠慮無くモノを言うようになっていた。

 フレンドリーといえばフレンドリーなのだろうが、その裏返しに問題発言も多い人間でもある。

初めは戸惑ったラルフだが、今ではもう、それが彼女の地なのだ、と半ば諦めの境地に達している。

「でも、隊長みたいな堅物って、女性ウケ悪いと思ってたんですけどねぇ。お見合いでもしました?」

「否定はせんが……」

 ラルフは別に生まれてこの方モテた覚えはない。強いて言うならば、彼女とずっと仲が良かったくらいだ。

「幼馴染だよ。子供の頃からずっと一緒だったやつだ」

「はぁ……まさかそんなご都合展開が」

「ご都合……」

「でも、幼馴染さんと無事結婚できたんですね、すごいです」

「言葉の節々から悪意の欠片を感じるのは気のせいか……?」

「いえ、天然です。気にしないでください」

「なお悪いわ!」

「で、その幼馴染の奥さんは何と?」

「……ああ、『待ってるから生きて帰って来い』と、そんな感じだったな」

 実際はもう少し照れ隠しを含め攻撃的な言葉だったが、ニュアンスは大体そんなものだろうと訳して伝える。

「……帰らないんですか?」

「ん?」

「この戦いに、義務はないはずです。隊長も聞きましたよね? 最初の補給が来たときに、艦長が言った言葉……」

「…………」


    *


 半年前。

 王国軍の追撃を振り切り、命からがらこのデブリ宙域に辿り着き、その後の補給が来た時。

 艦長は、全クルーを集めてこう言った。

『今まで任務ご苦労』

 そして、『希望者のみこの艦に残ることを許可する』と。

「『もはや故国は失われた。ここから先は、私怨全開の復讐劇だ』……だったか、確か」

「はい。そんでもって『王国に復讐したい奴、暴れ足りない奴、命を無駄にしたい奴、付き合いたい奴だけ付いて来い』……と続いたハズです。普段は温厚なクセして、こういう時だけ物騒なんですよね、あの艦長」

 結果、その言葉に従って三分の一の乗員が降り……だが、三分の二の乗員はなおも艦に残った。

 ラルフとエルナは、その三分の二の側である。

「もちろん私は逃げ出す理由がなかったですから、残りました。……身寄りもなかったですし、将来を約束した人も戦争で殺されました」

 彼女が軽く口にしたその言葉に、ラルフは否応なく昔の記憶を呼び覚まされた。

 ――混乱の中、通信から助けを求める声、泣き叫ぶエルナ、眼前で爆散するLF――

 部下だった――そしてエルナの最愛だった男の、死。

「でも隊長は……家族も健在です。なのに、どうしてまだ戦っているんですか?」

 その言葉に、ラルフは少しだけ黙りこむ。

 ……自分がここにいる理由。

 様々に錯綜するそれらの中で、ラルフがただ一つ言葉として伝えられるものがあるなら、やはりそれは――

「……家族のため、だな」

 ラルフは三ヶ月前……無事を伝えた手紙の返信として送られてきたビデオレターを思い出し、そう口にする。

「最初は大した理由もなかった。パイロットがいなくなって、この艦から動かせるLFが減るのは致命的だと思ったし、負けっぱなしってのも気に食わなかった……その程度だ。でも」

「……でも?」

「この前に一度届いたビデオレターで、共和国の現状を聞いたんだ。王国に占領された後の」

「……どう、だったんですか?」

「『最悪だ』ってな。泣き言一つ言わなかったアイツが、唯一そう言ったんだ」

 その時の妻の言葉を、ラルフは今でも思い出せる。

 普段から口が悪く無愛想で、それでも常に不器用な優しさを感じさせる彼女が。紛いもない本気の本音でそう言ったのを。

「そしてこう言われた。『自分達は何としてでも生き抜いてみせる。だからどうか、奴らをぶちのめしてくれ』って」

 言葉少ない彼女からの、しかしラルフにとって十分すぎる言葉。

 つまり、共和国の現状はそれほどのものなのだ

「それが、隊長の……」

「ああ。王国のやつらを俺達の国から追い出す――そして俺は家族のもとに生きて帰る。……これが俺の戦う理由だ」

何があっても変わらない。

 ラルフにとって、ただ一つ明確なこと。

 揺らがない、たった一つ、そして唯一の理由。

「隊長……」

 エルナは、そう言い放ったラルフに対し、ただ一言。

「……なんか、無駄にカッコイイですね」

 その余計な一言に、宙に浮かびながらズッコケたラルフだった。


     *



 それは、唐突に鳴り響いた

 艦内にいた人員には、青天の霹靂。

 そして、耳慣れた音でもあった。

 ――警報。

 そして、耳なじみのオペレーターの艦内放送。

『敵パトロール艦隊の接近を確認。総員、第一戦闘配置。繰り返す。総員第一戦闘配置』

 ラルフは、それらを聞くや否や真っ先に更衣室に飛び込んだ。

自分のロッカーからパイロットスーツを手に取り、手際よく着替え始める。

 ゴム状の特殊素材でできた専用のパイロットスーツは宇宙服よりもはるかに着にくいが、数多くの訓練と実戦を経て、ラルフのそれはもはや職人技とも言える速度だった。

 一分と経たずにパイロットスーツを着終え、専用のヘルメットと生命維持装置を装着。更衣室から飛び出し一路格納庫へ向かう。

 無重力の通路をクルーが慌しく流れてゆく。その姿は初めは軍服姿や作業服だったが、瞬く間に宇宙服に変わってゆく。

 そして、格納庫にたどり着くと、各機体は既にジェネレーターが稼働していることを示す外部インジケーターに灯が入っていた。

 ――リベルフィギュア。通称LF。

宙間戦闘用の、人型戦術機動兵器だ。

 その始まりは宇宙服の延長とも言われており、元となったものは大規模宇宙構造物の整備作業に伴い製造された作業用の重機だったと言われている。

 中の人間との直接接続による運用の圧倒的柔軟性は戦場でもその存在感を示し、戦艦すら撃沈可能なレーザーやプラズマビームなどの武装が実用化されるに至って爆発的に普及した。

 ラルフは広大な空間である格納庫の中、愛機の場所めがけ一気に床を蹴って宙を流れる。

その視線の先にあるのは、青色に塗装された、他の機体とは外見の異なる機体。

 次世代性能実証機『アーバイン』

 ルドラ宇宙要塞防衛戦の際、土壇場で要塞内の研究施設から持ち出された、高性能試作機である。

 メインジェネレーターの出力は量産機のほぼ倍。専用のライフルは(かす)めるだけで敵機を撃破せしめ、一撃で駆逐艦を轟沈させた。機体の反応速度や、パイロットとのリンクのタイムラグもかなり改善されており『もう少し早く量産されていれば』と整備班長がぼやくほど高性能な機体だ。

 整備にあたって消耗品の大半を量産機のものと換装してしまい、現状では、もはやそのスペックの半分も引き出せないが、それでも現行の量産機よりはるかに強力な機体である。

 その機体にたどり着き、担当整備員である整備班長がラルフに気づき、振り向く。

「ラルフ、今回もちゃんと生きて帰ってこいよ」

「当たり前だ」

「機体も壊すなよ! また性能下がるぞ!」

「……善処する」

 班長とそんなやり取りを交わしながら、ラルフはヘルメットのバイザーを下ろしコックピットに滑り込む。

 コックピットの内部は球形。そこに人間を宙に固定するためのハンガーが用意されている。

ラルフはそこに身をすっぽり収め、パイロットスーツ背部とコックピットを直結。アームレストに腕をかけ、手元のボタンを操作し起動シークエンスを開始する。

 最初に、ヘルメットの内側のディスプレイに製造した企業のロゴと共和国軍のロゴが映し出され、

《リベルフィギュア『アーバイン』起動シークエンスを開始》

 そう文字が表示された後、ヘルメットの背部から端子が首筋に突き刺さり、脊髄と機体を直に直結させる。

「ッ――うう」

 この瞬間は何度体験しても慣れない……とパイロットの誰もが口を揃える瞬間。ラルフも同様の意見だが、これのおかげで機体が自分の手足のように動くようになるのだから、文句は言っていられない。

 同時に保護液がコックピット内に注入され、コックピット全体を満たしてゆく。これは、リベルフィギュアが行う三次元機動の際に掛かる強烈なGから中の人間を保護するためのものだ。

《生体リンク確立中》という言葉の横に表示されるパーセンテージが進むにつれ、肉体の感覚が薄れていくのを感じる。

 代わりに、自分の体が一気に拡大されてゆく感覚。

 感覚全てが十倍となり、機体各部に設置されたサブカメラの感覚でさえ、自分の本来の感覚に取り込まれ、なじんでしまう。

《生体リンクを確立。『アーバイン』戦闘待機》

 そして、その言葉が表示されると共に外部の映像と機体情報その他のデータが視界に一度に投影される。

 それは、もはやそれは目で見た現実の映像と大差ない。

 脳の視覚中枢に直接認識出来る電気信号として送り込まれた映像データは、まるで自分がそのまま巨人になったかのような感覚を与える。

「アーバイン。ラルフ・シュターデン大尉。起動シークエンス完了」

『Z4了解。次の指示があるまで待機せよ』

「アーバイン了解。……さて、無難に終わってくれればいいが」

 後半は、通信を切った後の独り言だ。

 だが、……その願いは儚いものだったと、ラルフはすぐに知ることになる。


     *


 出撃準備が完了してしばらくして、艦長の全鑑放送が流れた。

『諸君。いつものように緊急事態が発生した』

 冗談のようで冗談でもない、そんな言葉を大真面目な口調で言う艦長。

『このデブリ宙域において、監視ポッドが敵パトロール艦隊の接近を探知した。敵艦隊は、現在ポイントD-57-4付近を針路025-030、アーク・ディーヴァー方面に向かって航行中だ』

 その言葉を聞き、ラルフはわずかに背筋が冷える。敵艦隊とこちらの距離が、いつもに増してかなり近いのだ。

『デブリの配置から算出した敵艦の予測航路より、敵艦隊が十五分以内にこちらを発見する可能性は89%。これに対し我が艦はLF隊による先制攻撃を仕掛けることに決定した』

 艦長はそこで言葉を切り、一息。

 ラルフは訝しげに次の言葉を待っていると、予想もしない言葉が飛び出した。

『ここまでならばいつも通りだが……今回は少し事情が異なる』

 ……事情が異なる?

 どういうことだ、と思いながらラルフは艦長の次の言葉を待つ。

『我々にとって、このデブリ帯から外に出ることは死を意味するだろう。何故なら、そこには王国軍の大部隊が駐留しているからに他ならないからだ』

「…………」

『だがもはや、我々には一刻の猶予も残されていない。補給部隊は目ざとい王国軍に追い回され、補給の断念を余儀なくされた……これ以上の補給を受けることは困難だ』

 その言葉に、ラルフは己の嫌な予感が現実になったことを知る。

 ……つまり、最後だからこそこんな派手な補給を……

 ただならぬ事態に少なからず動揺を覚えたラルフに、艦長の言葉が更に追い打ちをかける。

『よって――今回の敵を撃破した後、我々はこちらから王国軍に打って出る』

「――っ」

 来た――と、ラルフは身体を震わせた。

 この半年間、いつかは訪れると覚悟していた瞬間が、こんなにも唐突に。

 だが、さらに予想外の言葉は続く。

『だが、玉砕するわけではない。この艦はデブリ宙域を出た後、王国軍の追手を振り切り、エルレイド連星共和国で祖国奪還に備える仲間に合流する』

これからの戦いが、ただの玉砕戦でないことにまず驚きを覚え、

「残存部隊……だと?」

 もはや自分たちが最後だと思っていたが……まだ生き残っていたのか、とラルフは驚きと共に不思議と勇気づけられる感覚を覚えた。

『長い旅になるだろう。……そして、間違いなく犠牲も出るだろう……だが私は諸君らに一言だけ言わせてもらいたい』

 そこで艦長は一息つき、そして、

『野郎共! 花火を上げるぞついて来い!!』

 威勢のいい口調でそう言い放った。


     *


 すべての言葉を言い終え、アルベルトは艦内放送のスイッチを切ると、艦橋の艦長席に静かに背を預けた。

 ブリッジの乗員は、その全員がアルベルトの言葉に感銘を受け、一様に活気づいていたようだった。

 それを見てフォルカーは変わらずに軽薄そうな笑みを浮かべ、

「相変わらず口は達者じゃの、アルベルト」

「爺さんには敵わんさ……さて、これでお別れだな」

「そうじゃな……ま、縁があったらまた会えるじゃろうて」

「ああ。無事に逃げ切れることを祈ってるよ」

「お主らもな……では、さらばじゃ」

 そう言って、フォルカーは艦橋から出て行った。

 この半年間ずっとこの艦を物資面で支え続けてくれた恩人に、アルベルトは眼を閉じてしばし感謝の念を思う。

 そして、号令を放つ。

「これより作戦を開始する! 各部署に通達せよ!」


     *


 艦長の全鑑放送の興奮覚めやらぬ中、オペレーターから、ラルフたちが受けた作戦の説明はこうだ。

 電子戦装備のリベルフィギュアが先行しジャミングを展開。通信を封鎖し、同時に奇襲を仕掛け敵を殲滅する。いつもとさほど変わらない任務だが、今回は敵の規模がそれほどでもないので今回の補給で届いた新型試作装備のテストも行うこと。戦闘開始と同時に艦を動かすので帰還の際はデータリンクを行ない、艦の位置を確認すること、というおまけが付いていた。

『まぁ、特に変わることもなくいつも通りですね。新兵器が楽しさ半分恐さ半分ですが……』

『シンプルイズベスト。何も考えなくていいのは楽でいいッスね』

 部下である二人――量産型LF『ヴィルトヴルデン』一号機のエルナと、二号機のフリッツが、各々に作戦の感想を述べる。

「まぁ、そうだな。とりあえず帰りのことは気をつけておくとして、問題は試作装備か……」

 そう言いながら、ラルフは納入された試作装備の一覧を見る。

 提供元は、共和国時代に軍に武装を納入していた大企業。心配ないと言えば心配ないだろうが、どれも実戦テストがまだというのは非常に不安ではある。

 と言うか、正に自分たちが実戦テストをやらされる羽目になったわけなのだ、ということを思い出してラルフはため息。それから試作装備一覧を見やる。

 ……比較的まともそうなのは、銃剣付きのプラズマライフル、超距離対艦狙撃砲、従来品の後継機である高出力エプラズマライフルか。どれも一長一短だが、適正を考えるならば――

「よし……バヨネットライフルはこちらで引き受ける。エルナは対艦狙撃砲、フリッツ、お前は高出力ライフルだ」

『了解ですたいちょー』

『了解……暴発しないことを祈ってるっスよ……』

 比較的無難そうなものばかりを選んだつもりだが、それでも不安は残る。理論上では正常に動作するはずのものも、実戦に放り込まれれば何かの拍子に停止したり、突然爆発したりなどの事故が起こっても不思議ではない。

 それに威力や弾数など、使い慣れない兵装は基本的に危険でもある。パイロットの感覚に頼ることの多いLF同士の戦闘では、それはある意味致命的な隙を生み出すことにもなりかねない。

「大丈夫かどうかは、整備班か天に祈るしかないだろうな。……まぁなんとかなるだろう」

『そうそう、何とかなりますって。ならなかったら、ならなかった時のことですよー』

 エルナがお気楽そうな感想を漏らすが、実際そうでもある。

 数多くの実戦を乗り越えると、ある意味戦場が運の世界だと知るようになる。操縦技術がどれほど優れているパイロットでも、流れ弾一発で戦死、などはよくある話なのだ。

 だからこそ最善を尽くし、あとは運を天に任せる。

 そして、ラルフ達は、ここまで戦い抜くことのできた自身の実力と運を信じている。

「……なにはともあれ、装備はこれで決定だな。各々装備を整えた者から出撃。くれぐれもスラスターは吹かすなよ。敵の熱源センサに引っかかるぞ」

『『了解!』』


     *


 『ザイドリッツ』上部甲板。格納庫から伸びたフライトデッキを、機体とほぼ同尺の砲を背負った、一機のLFが歩いていた。

 試作狙撃用プラズマキャノンを装備した、エルナの機体である。

『すまねぇなぁ少尉、こちらの手落ちで』

「いえ、仕方が無いですよ。悪いのは、届いたばかりの新装備を使おうなんてこと言い出す艦長です」

 ラルフ、フリッツと出撃し、後はエルナだけ……だったのだが、対艦狙撃砲の調整が上手く行かず、整備班が、今の今まで手間取ったのだ。

 タイムスケジュールとしては、かなりのズレになっている。

 艦長がダミーの熱源を正反対の位置で使うと言っていたので、相手がバカなら見事引っかかっているはずだが、それでも厳しい。

 ……スラスター吹かさずに、このドでかい狙撃砲を抱えて、ウィンチアンカーだけで……

 エルナは必要な工程にかかる時間を計算しながら、ぶっちゃけ無理っぽくね? と背筋が寒くなる。

 狙撃砲の威力がどうあれ、LFが一機居ないというのはかなり大きな戦力差になる。

 ……隊長がいくら強いと言っても、『もしも』はありうる。

『本当にすまねぇ……帰ってきたらいいもん分けてやるから』

「マジですか? ……そんな事言われたら期待しますよ?」

『期待しててくだせぇ』

「おっけ……離れてて。出るよ」

 ……どうする。どうすれば間に合う?

 もはや整備員との上っ面の会話はエルナの意識になく、思考は既にフル回転で、この遅れを取り戻すための計算を始めていた。

「エルナ・ベルツ少尉……ヴィルトヴルデン一号機、発進します」

 ほぼ習慣で口に出た言葉。

 瞬間、エルナは、常識ではありえない速度で甲板を蹴った。



     *



 デブリ帯では、デブリとの衝突を避けるため低速で巡航するのが常識だ。

 だがしかし、エルナは、LFの脚部の反作用で出せる限界速度を出した。

 速度に比例し、瞬時に眼前に迫る巨大な戦艦の残骸。

 だがエルナは機体の手足を振り、一瞬姿勢制御用ガスを吹かすのみでそれをかわした。

 次に細かいデブリが迫ってくる。細かいと言っても、その中には一発で機体が致命傷になるサイズのデブリも存在する。

 だがそれも、速度を落とさないまま手足の振りによる最小限の方向転換ですれ違う。

 彼女のLFは、巨大な砲を背負ったままだというのに、その動きは全くその大きさと重さを感じさせないものだった。

 ……大きくて重いけど……感覚さえ掴めばこっちのもの!!

 エルナの脳髄には既に何度となく接近警報と衝突警報が鳴り響いている。だが、エルナはそれらをすべて無視しながら、計器の示す数字と頭の中の数字、それと身体的直感のみを意識の上に置き、ひたすら突き進む。

 衝突寸前で別のデブリに引っ掛けたウィンチアンカーを巻きとり、着地、コンマのタイムラグすら許さない勢いで即座に蹴り抜き、再加速。

 中型のデブリとすれ違いながら、輸送艦の残骸の隙間を抜け、小型衛星の建材を踏み台に、大破した駆逐艦にアンカーを引っ掛け、着地、跳躍――

 それはまさに、曲芸の如き飛行だった。

 ……間に合え、間に合え、間に合えッ!!

 エルナは最短距離を計算しながら一心に念じ、機体は障害物だらけの宙域を全速力で飛ぶ。

 デブリの間隙を縫って飛ぶエルナの機体は、明らかに常人離れした速度を叩き出しながら、出遅れた時間を瞬く間に取り戻していった。


     *


「間に合った、か……」

 息を切らせたエルナから、狙撃配置についたとの通信が来た後、ラルフはそうポツリと呟いた。

『え? なんスか?』

「いや、エルナはつくづく天才だな……と思っただけだよ」

 ラルフは正直、狙撃砲に関する整備班のゴタゴタを見ながら、最悪彼女抜きの作戦も想定に入れていた。

 だが、彼女の十五分遅れの出発は、結果、予定時刻より十秒遅れまでに縮まるという状態までになっていた。

 もし途中で事故っていたらどうするつもりだ、と一応叱ってはおいたが、彼女がそんなヘマをやらかす姿も思い浮かばないのも事実である。

「まぁいい……彼女の努力を無にすることもない。予定通りに作戦を開始しよう」

 そう呟きながら、ラルフは通信を開き、全機に告げる。

「……全機に通達。作戦開始。繰り返す、作戦開始」

『02了解』『01了解』

『E1了解。通信妨害を開始する』

 E1は、通常戦闘をこなすには役不足となってきた旧式のLFを電子戦装備に改造した特殊任務機体だ。

 戦闘能力は持たないが、代わりにこのような戦闘支援には強力な力を発揮する。

 強力なジャミング波により、通信装備、レーダーなどが使用不能となる。

 ……おそらくこれで敵も電子装備はろくに使用できなくなるはずだ。

 長距離通信による救援要請は封じたはず。レーザー通信も、短距離ならまだしも長距離となれば障害の多いデブリ宙域ではままならない。

 後は、

「……敵の司令部に異常を察知される前に片をつける!」

 ラルフ機とフリッツ機が、熱量を抑えたガス噴射で加速をかけ一気に敵に向かって加速。

 両機はデブリを回避しながら一気に敵艦に対して距離を詰め、

 そして、戦端が開かれる。


     *



 敵艦がメインカメラで視認できる距離まで近づいたところで、視界の隅に映るウィンドウに警告の表示。

 ……来るか!

 瞬間、闇を切り裂く光条が眼前を通過した。

 それは、細かなデブリを巻き込みながら駆け抜け、正確に敵巡洋艦の心臓部に命中する。

 わずか二秒間の照射で、船体の中央部が超高熱量に耐えきれずに赤熱、融解し、内部で誘爆を始める。

 大型戦艦の主砲に匹敵する、大出力のプラズマビーム。

 『ヴィルトヴルデン』一号機、エルナの対艦狙撃砲による長距離狙撃だ。

 ……あの仕様書はこけおどしではなかったということか、とラルフは心の中で呟きながら、自らの目標を見据える。

 誘爆、轟沈してゆく敵巡洋艦の影に、メインカメラが三機のLFの機影を捉えた。

 映像認識でロックを掛け、そちらに向かって機体を振りながら突撃する。

 ……まず――二機!

 残る一機にフリッツがライフルを発砲したことを確認し、試作バヨネットライフルを構え、手近な一機に発砲する。

 一千度を超えるプラズマが銃身内で収束され加速。ビームとして射出される。

 だが、装甲を貫通しきれずに、敵機の表面で収束プラズマが光の飛沫となって霧散した。

「ちっ――打撃が軽い!」

 やはり試作兵器。

 バヨネットライフルなどと銘打って銃剣のような構造にし、カッター機構などが組み込んであるからラルフはもしやと思ってはいたが、やはり出力面が落とされていた。

 ラルフはもう何発か撃ちながら威力を測るが、やはりどうにも通常型プラズマライフルよりも出力が劣るようだった。

 ……なら、銃剣はどうだ!?

 ラルフは、右腕バヨネットライフルの射撃を継続すると共に断続的にスラスターを噴かし敵機に向かって突撃する。『アーバイン』の圧倒的な推力と機動性は、瞬く間に敵機との距離を詰めてゆく。

 敵機は『アーバイン』をプラズマライフルで迎撃するが、その機動の前に、プラズマの弾丸は虚しく空を切る。

なおも高速で接近する『アーバイン』に、プラズマライフルではダメだと悟った敵機は、慌てて近接戦闘用のレーザーガンに持ち変えるが、

「てぇ――ッ」

 敵機を追い込み、意図的に作り出したその隙をラルフは逃がさなかった。

 突撃の勢いのまま、銃身に添えられた銃剣を敵機の胴体部分に叩き込む。

 敵機の腹部に突き刺さった銃剣を引き抜き、そこにバヨネットライフルを三連射。損傷部分からプラズマが敵機の胴体を貫通し、推進剤に誘爆する。

「まず――一機!」

 爆散する敵機を確認し、しかし、ラルフは気を抜かずに機体を振る。瞬間に機体のすぐ側をプラズマが(はし)っていった。

 ……もう一機!

 姿勢制御をかけながら、こちらを狙うもう一機に狙いを定める。

 だが、そこでラルフはアラートに気づいた。

 武器に関する警告アラート。そこにはこう表示されていた。

《銃身損傷。暴発の危険性大》

「……使えねぇ!!」

 とことんまで使えない。どこまで俺の邪魔をする気だ、とラルフは心のなかで毒づきながら、仕方なくバヨネットライフルを下げ、念のために、と左腕に装備してきた通常型ライフルを構える。

 だが、左腕では上手く狙いが定まらない。

 ……ちっ、面倒な!

 判断は一瞬。スラスターを噴かせ、加速し一気に敵に突撃する。

 『アーバイン』の性能は、ラルフの操縦技術と相まって、瞬く間に敵機との距離を詰めた。

そして肉薄した、瞬間。

「これでも――喰らえっ!!」

 ラルフは敵に全力で銃剣を刺突した。

 激突と共に敵の腹部装甲に食い込んだバヨネットライフルを、そのまま敵を突き放すようにを手放す。

そして、至近からバヨネットライフルごと敵機に、左腕の通常型プラズマライフルの連射を叩き込んだ。

 通常型ライフルはその信頼に答え、ラルフの想像通りの威力を発揮した。

 高出力のプラズマビームは、敵LFをズタズタに引き裂き――

 バヨネットライフルごと、敵を宇宙の藻屑とした。



     *



 二機の敵LFを撃墜し、残存敵を掃討しようとしたラルフの目の前で、最後の駆逐艦がエルナの狙撃砲の餌食となり、轟沈した。

 その爆炎が上がると同時に、レーダーが回復。通信が入る。

『敵全滅を確認。E1、ジャミングを解除しました。……作戦は終了です。皆さんお疲れ様でした』

 E1が戦闘の終了を伝え、各機の通信が回復する。

『たいちょー! どうでした!? 私三隻も沈めましたよ三隻! これってちょっとエースパイロットじゃないですかね!?』

「お前はそれまでに何十機と敵機を沈めてるからもうとっくにエースだろうが」

 ……表彰してくれる国はもうないが、という言葉が頭をよぎったが、ラルフは口には出さないでおく。

「まあいい……二人とも、試作装備は何か問題はなかったか?」

『あー……俺のライフルは三発撃った時点で爆発したッス。まあその三発目で敵は墜ちたッスけど』

 死ぬかと思ったッス、とフリッツはいつも通りの調子でそう付け加える。

「エルナは?」

『ギリギリセーフ……ですかね? 一応今は機体と切り離して様子見てるんですが……砲身がもうドロドロに溶けてます』

『隊長はどうだったッスか?』

「あんまりに使えないんで捨てた」

『あははははっ!』

 ラルフのその言葉に、エルナが心底おかしいというように大爆笑。

『そんなに駄目だったんスか、バヨネットライフル』

「ああ、銃剣のくせして敵をぶっ刺したら速攻スクラップになったもんだから仕方なくだな」

『隊長、久々に始末書もんッスかね?』

「バカ言え、今更そんなもん書いたところでなんか意味あんのか」

『あはははっ……じゃあ隊長、一週間の営倉入りなんてどうですか?』

「だからそれに何の意味が」

『貴重な兵器を壊した罰っ!……とか?』

「いや、だからだな」

 馬鹿なやり取りをしながら、ラルフ達は自らの機体を母艦である『ザイドリッツ』へと向ける。

 先の見えない旅路の始まり。

 だが、ラルフはその先を悲観してはいなかった。

 この仲間と共に往くならば――きっと、何があったとしても、後悔はしないだろうから。

2010年夏ごろ作。

テーマは『それぞれの残党軍ライフ』。正規軍よりも台所事情は逼迫しつつ、規律はゆるめの空気でお送りしてみました。

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