6 カギ渡されてた
こんな時にあおい先輩だったら、と恋しく思ったとき、重そうな金属ドアが開いて、中から警察の人とスーツを着た人たちと一緒に、あおい先輩が出てきた。
「!」
思わず迎えに行ってしまった。立夏さんごと。つい手を掴んで立ち上がってしまったら、なんと一緒に立ってくれた。そのまま歩き出したら、一緒についてきてくれた。
優しすぎる。
やっぱり好き。わたしなんかじゃとても言えないけど。
ふと気付いて、血の気が引いた。あおい先輩の頭に包帯が巻かれていた。すらりとした首筋に、血を拭き取ったような跡。
先輩はわたしの視線に気付いたようで、指先で包帯を気軽にトントン叩いた。
「ああ、フォークよ。多分ね。背後からだったしね、分かんない。指摘されてさっき気付いた。もう血は止まってるんだけどね。診断書いるみたいで、事情聴取はいったん中断、これから病院。あたしも被害者って扱いになるらしいよ。頭部だから…んー何か違う罪状になるかもなんだって。
なぎちゃん、カバン置いてきちゃったよね?
取りにいってあげたいんだけど、現場保存?とかであの家、今入っちゃダメなんだって。
親御さんに連絡できそ? …そか。じゃあ今日はウチに泊まって。
あと、ケイと知り合いなんだって? じゃあ分かると思うけど安全。安心。こんなナリだけど中身は可憐な癒しキャラ。
はい、鍵。
ケイ、ごめんだけど、もうちょい助けて。あんたも今日はウチに泊まって。なぎちゃんの傍にいてあげて。あと、フクさまのお世話よろしく」
あおい先輩は昔のままだった。集中して聞いているうちにバーッと話し終えて去っていった。エネルギッシュ。かっこいい。
鍵を渡された立夏さんは、わたしを見下ろして「黒猫。2歳。雄」と言った。きっと「フクさま」のことかなって思ったので「そうなんだ」と答えた。
「猫ちゃん。いいね。会えるの楽しみ」
ふっと静かに笑ってくれた。その笑顔をみたら、気が緩んで顔がほころんだ。
ふたりでニコニコしていたら、警察の人のひとりが心配そうに声をかけてきた。
「君たちは…今は成人しているってことでいいんだよね? 身分証明書を拝見した限りそうだよね?
これから色々聞かせてもらいたいんだが、あー…高木さん? 君、確か、数年前に万引き犯を現行犯逮捕した子だよね? あの時の担当、僕だったけど覚えている?」
わたしは固まった。確かにあの後、警察の人がきてくれた。助けてくれた。けど、まったく覚えてない。
頭はまた真っ白になった。でも、早く答えねば。待たせたら、
「…、え、あ、はい、…わ、わたしがやりました…?」
何とか絞り出したら、警察の人はおおげさにため息をついた。
「…だから。君ね。ダメだって。あの時も言ったはずだけど。我々相手に、紛らわしい言動はしないように。危ない真似もダメ。
勝算もなく万引き犯に真っ向から立ち向かうわ、こんな調べりゃ分かる安易な詐欺にひっかかるわ…当時こどもなのを加味しても、もう少し、こう…なんとかならんかったかなぁ?!
頑張る方向性とか、誰かに相談するとか。真面目なのは良い事だが、もう君らはおとなだからね。悪い人いっぱいいるからね。成長してね、頼むから。
かといって、さっきのお嬢さんのように理論武装されてもそれはそれでやっか…、話は早いが、こっちにも主導権ってもんが…、いやもう。本当に。個性豊かだなぁ、どうなってんだ、最近の若い者はさぁ」
わたしは恥ずかしさをこらえて反省した。あおい先輩みたいになりたくて頑張っていたけど、やっぱり上手くやれていなかったのが分かった。哀しい。
ふと見たら、立夏さんも隣でしょんぼりしていた。
立夏さんはちゃんとしてる人なのに、お叱りに巻き込んでしまった。どうしよう。
それからもう少しだけお叱りが続いたけど、他の警察の人がなだめてくれた。
若いスーツの人が、わたしたちにこっそり耳打ちしてくれた。
「うるさかったね。ごめんね。見た目がああだけど、誤解しないで。こども巻き込む犯罪が特に大嫌いな人ってだけ。あれで、君らを心配してるんだよ。警察はね、悪いことしてない人には怖くしないよ。だから大丈夫。
安心していいよ、ありのままを喋ればいいからね」、と。
どうやらスーツの人も警察の人みたいで、わたしたちは別々の部屋に案内された。




