表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騙されてた  作者:
5/10

5 掴んでた

 たくさん怒鳴り声を聞いているうちに頭がぼーっとなってきて、気づいたら警察署にいた。

 椅子がたくさん並んだロビーにいて、何故か立夏さんと隣り合って座っていた。手を繋いでいた。繋ぐっていうか、掴んでいた。

 片手で大きな手を、もう片手で太い手首を、それはもう懸命にわし掴んでいた。

 (何で?)と我に返り(あれコレ既視感ある)と思って、ハッと気付く。

 これは、万引き犯を逃がすまいと頑張った時の掴み方だった。


 盗った瞬間を目撃して、店員のわたしと目が合い続けているのにシレっと出ていこうとしたから頑張った。

 ちょっと引きずられて、盗られた商品を店内へ投げ入れられて「返したから良いだろが」と怒鳴られたけど「そうじゃなくて!」って頑張った。

 後で殴るフリもされていたと気付いた時は怖くて震えたけど、いっぱいいっぱいだったから、その時は分からなかった。


 今回も、そうかも。分からないけど、わたしから掴んだ気がする。あの時と違って、何の罪もない立夏さんを捕獲してしまった気がする。

 だんだん頭のモヤが薄れて、記憶が蘇ってきて、とうとう確信した。わたしが、やりました。

 セクハラという概念が頭をよぎり、絶望しながらそっと手を離す。手汗が凄い。ごめんなさいが過ぎる。


「ごめんなさい…あの、どうして」

 喉もおかしくなっていたようで、ちょっと咳き込んだ。立夏さんが自分の水筒を渡してくれた。

「良ければ。まだ口つけてなくて…あ、自販機あるな。ちょっと買ってくる。待ってて」

 ぼんやり離れていく背中を眺めていると、急に心細くなってきた。水筒を握ると少し安心する。にぎにぎしながら立夏さんの後ろ姿を見つめ続けた。…きれいだな。


 立夏さんは自販機の前でちょっと小首をかしげて、それからすぐに戻ってきてくれた。

「ジャスミンティーなかった。とりあえず水なら無難かな? どう?」

 ミネラルウォーターを差し出され、お礼を言って受け取る。代金を、とカバンを探ろうとしてハッと気づいた。手ぶら。

「大丈夫、伯父の家にある。ごめんな、皆バタバタで気が回らなかった。

 あー…と、落ち着いた? 良ければ説明しても?」

 力強く頷いてしまった。

 立夏さんも頷いて、優しい口調でゆっくり話してくれた。


 石垣さんが捕まったこと。

 実子のあおい先輩は、犯罪には一切関わっていないけど、参考人として今は事情聴取されていること。

 わたしたちは被害者側として聴取の順番を待っている状態ということ。


「高木さんは、あおちゃんの高校時代の後輩なんだってね。私は従弟なんだ。今日はたまたま…、ええと…とにかく安心して。

 あおちゃんはずっと健康。卒業式は引っ越したから出なかっただけ。出席日数は足りていたし、学校には事情を話してきちんと卒業扱いになっている。

 …急だったし、あおちゃんは誤解されやすいし、ありもしない噂が流れたんだってね?

 高木さんは否定してくれて、だから意地の悪い噂に巻き込まれたって聞いた。そのせいで伯父に騙されたとも。

 これは私も知らなかったけど、伯父には虚言癖があったみたいだ。その場の勢いで言ったデタラメを、言った自分が真に受けて酔ってしまうようで、…つまり、高木さんは伯父に借金なんてない。

 あおちゃんの入院費や高額な治療費というのはデタラメで、というか話そのものが詐欺だった。だましとられたお金は、これから高木さんに戻ってくる。調べるから時間かかるらしいけど。

 幸い、伯父はお金に手を付けていなかったんだ。私からのも併せて「老後のために貯金するつもりだった」って言ってた。

 71歳の老後って意味が分からないけど…どこまでが本当で嘘かも分からないから、私もあおちゃんも考えないことにした。心の安寧のために。

 多分、これから色々忙しくなるかも。ええと…大丈夫?」

「うん、だいじょうぶ…大丈夫」

 立夏さんは「棒読みだけど…」と呟いて、黙り込んだ。

 無表情だけど、空気感が優しくて、心配してくれているのが分かる。


「あの。さっき、被害者って…立夏さんも?」

 空気感が変わった。明らかにしょんぼりした。表情はあんまり変わらず、だけど沈んだ口調で教えてくれた。

「うん…奨学金の返済じゃなかった。さっき、あおちゃんが教えてくれて初めて知った。

 …私の奨学金、給付型なんだって。あおちゃんは伯母や役所の人とか、詳しい人にも色々と相談していて、そのあたり含めてちゃんとしてくれていたんだ。私は気付かなかった。言われるがまま教わるがまま書いてて…手続きの意味を理解していなかったんだ。奨学金のことも、納税のことも…。

 …おれ、真面目にやっててよかった。…もしバイトを最優先してたら…届いた封筒に気付かず払い忘れてたら…成績が、落ちていた、ら…」

 立夏さんはそのまま絶句した。わたしはオロオロした。言葉が見つからない。

 どうしたらいいのか分からず沈黙が落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ