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第4話「王都の裏旋律、消えた記憶」

王都の夜は、昼間よりもずっと冷たい。

街灯に照らされた石畳が、私の足音を反響させる。白井美音――音織りの徒弟として、今日も王都の影に触れる夜が始まった。


「美音、準備はいいか?」

ルーカスが低い声で呼ぶ。彼の目は、昨夜よりさらに硬く、警戒に満ちていた。


「ええ、でも……民間人の記憶操作は、もうやりたくない」

私の声は小さかった。昨日の作業で、音がいかに人の記憶や感情に影響を与えるかを身をもって知った。


「理解している。しかし、王都には“整えるべき記憶”がある。君の音が、秩序を守る鍵になるんだ」

ルーカスはそう言って、私をある建物の前に導く。扉の奥は、普段は立ち入れない王都の秘密の保管室。中には王家や重臣たちの記録、そして……改竄された記憶の痕跡が保管されているという。


扉を開けると、光の糸が宙を漂い、過去の出来事を形作っていた。悲しみ、怒り、恐怖……人々の記憶が複雑に絡み合い、まるで生きた彫刻のようだ。


「これが……王都の裏旋律?」

息を飲む私に、ルーカスは頷く。

「過去を消すことで秩序を保つ者たちがいる。音織りの力は、彼らにとって最大の武器だ」


胸がざわつく。音で人を救うために生まれたはずの私の技術が、政治の道具にされる――そんな現実を目の当たりにした。


「でも……それは、救済じゃない」

私は糸に触れ、低く震える旋律を奏でる。光の波が揺れ、記憶の一部が解ける。だが、完全には消せない。残された痕跡が、誰かの痛みを物語る。


その瞬間、扉の向こうから声がした。

「――音織りの少女か。なるほど、これが新しい徒弟か」

影から現れたのは、王都の重臣の一人、黒衣の男。目つきは冷たく、笑みもない。

「君の技術があれば、過去を美しく“整理”することも可能だ」


私は指先を震わせながら糸を握る。

「整理……?それは人の記憶を消すことです」

男は軽く笑い、私を嘲るように見た。

「そうとも言える。だが、秩序のためには必要な犠牲だ」


ルーカスが私の背後で低く呟く。

「美音、君の音は、人を癒すだけのものじゃない。使い方次第で、王都全体を動かす刃になる」


胸の奥で、恐怖と怒りが交錯する。音で救いたい――でも、真実を守りたい。

私の指先に光の波が集まり、微かに振動する。

「……でも、私は……」

言葉が止まる。選択の重さが、音の糸を通して私の心を縛った。


夜風が吹き、王都の影を揺らす。

街の記憶が、王族の秘密が、私の手の中で微かに震える。

私はまだ答えを出せない。けれど、音を紡ぐ手は止まらない。

明日も、私は旋律で王都の裏を覗き、真実と救済の狭間で揺れることになるのだから。

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