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第2話「記憶の旋律、夜の王都」

夜の王都は、音で満ちていた。

足元をかすめる風が、街灯の影を揺らし、どこかで奏でられる旋律が耳に届く。私はその中で、自分の指先を信じていた。音を紡ぐことで、人の心を少しでも楽にできる――それが、私の新しい使命だった。


「今日の訓練はここまでだ」

師匠のユリウスが言った。白髪交じりの髭と穏やかな眼差し、そして少しだけ怖い存在感。彼は音織りの達人で、王都の医療や儀式においてその技を欠かせない人物だ。


「でも、師匠……」

私は手元の糸を見つめた。前夜の戦場の記憶を整えた経験がまだ胸に残っている。あの兵士は眠れただろうか。痛みは消えただろうか。


「覚えておけ、美音。音は人を癒すと同時に、操作にもなる。技術は道具に過ぎない。使う者の意志が、その価値を決めるんだ」


その言葉は、ルーカスが言っていたことと重なった。救済か操作か──。

でも、現実に触れるたびに、答えは遠くなる。


その夜、私は王都の路地を歩いた。音の糸が街を縫うように広がっている。子どもの笑い声、商人の呼び声、馬車の軋む音。すべてが一つの旋律に重なる瞬間、世界はまるで生きているかのようだった。


路地の角で、小さな声が聞こえた。

「……お姉さん、音、直してくれる?」

振り向くと、泣きそうな顔の少年が立っていた。彼の記憶は、戦争の残像で乱れている。恐怖が胸に絡みつき、夢を見ることもできないらしい。


私はそっと糸に手をかける。

音は静かに、しかし確かに彼の記憶に絡みつき、歪んだ夜を整える。闇の中で少しずつ、少年の肩の力が抜けていくのを感じた。

「……ありがとう、お姉さん」


その瞬間、胸が熱くなる。音で人を救える喜び、そしてその代償に目を向けねばならない重さ。私はまだ、両方を抱ききれない。


翌朝、ルーカスが研究室に現れた。

「昨日、また記憶の修復を試したんだね」

「はい……でも、完全に消すわけではなく、痛みを和らげただけです」

彼は小さく頷き、机の上に書類を置いた。

「次の依頼は少し複雑だ。王都の兵士たちではなく、民間人の記憶だ。事件に巻き込まれた者たちの……」


その言葉を聞き、私は背筋が凍る。

私の音が、人々の真実に触れることになる──そして、操作の可能性はさらに増す。


夜、独りで糸を手に取る。光の波が私の手の中で踊る。

「救済と真実……どちらを優先すればいいの?」

答えはまだ出ない。けれど、音を紡ぐ手は止まらなかった。


王都の夜は長く、そして音に満ちている。

明日も、私は旋律で記憶に触れる――選択の重さを抱えながら。

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