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第1話「戦場の夜、眠れぬ旋律」

最初に私が直したのは、眠れない兵士の“戦場の夜”だった。


──痛みが体を縛り、叫びたくても声が出ない夜。

現代ではただの音響エンジニアだった私が、ここでは“音で記憶を編む”音織りの徒弟になっていた。目の前には無数の楽器、奇妙な糸のような光の波。触れれば、記憶の痛みを物理として感じられる。


「初めての調律にしては、悪くないね」

低く穏やかな声に振り向くと、ルーカス――王子付の補佐官が立っていた。整った銀色の髪と静かな瞳。職人としての私を見守る目が、少しだけ緊張を和らげてくれる。


机の上に置かれたのは、小さな木箱と数本の糸。糸に触れると、戦場で受けた兵士の記憶が細い光線のように浮かび上がる。戦場の音、硝煙、仲間の悲鳴。痛みと恐怖が混ざり、息を詰まらせる。


「思い切って、音を通して記憶を整えてごらん」

ルーカスの声に従い、指先で糸を弾く。すると低い旋律が生まれ、光の波が兵士の胸に絡みつく。悲鳴がかすかに和らぎ、目を閉じた兵士の額から薄暗い影が解けていく。


初めて、自分の音が“人を救う”瞬間を見た。胸の奥が熱くなる。


でも、その隣でルーカスの瞳は何かを探るように光っていた。

「これは……救済か、それとも操作か?」


私の指は次の旋律を求めて、自然と動いていた。

音は記憶を癒す道具か、あるいは武器か──。

私はまだ答えを知らない。


けれど確かなのは、私がここで“音を紡ぐ少女”として生きるということ。そして、王都の記憶を、私の旋律で少しずつ形作っていくことだった。


──次の夜、また別の糸が待っている。

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