レベル∞ ──不幸に幸運を添えて
第二の魔王を“事故”で撃破した俺。
その日の夜――王都の中央広場は、大規模な宴会で盛り上がっていた。
「魔王を倒した英雄、カミヤ・カズトに乾杯ー!」
「ちょ、いや、事故だからな!?」
「いいの、結果が全てよ」
リリスの冷たい言葉が刺さる。
周囲は酒、料理、音楽、ダンス――まさにお祭り騒ぎ。
「平和って、こういうのだよなぁ」
思わず感慨にふけったが、次の瞬間、運−∞が暴走。
バランスを崩した冒険者がぶつかり、テーブルが倒れ、料理と酒がぶちまけられる。
「うわ、冷たっ!?」
俺はずぶ濡れ、服が透け、ミルとエリスが赤面、クラリスが近づき、シオンは爆笑。
ラッキースケベ宴会モード、全力発動。
「いや、宴会でも事故るのかよ!!!」
「あなたがいる限り平穏は無理よ」
ミルの尻尾が揺れ、エリスが焦り、クラリスが距離を詰め、シオンがニヤニヤ。
さらに、周囲のモブ女子たちまで寄ってくる。
「カミヤ・カズト様、英雄様〜♡」
「きゃー、ぶつかっちゃった♡」
「いやいやいや、ちょっと待て!!!」
その隙にレオンも巻き込まれ、再びモブ女子に連れ去られる。
「またかよおおおお!!!」
宴会は混乱、ハーレムとカオスとラッキースケベが止まらない。
「これが、俺の日常か……」
宴会の混乱が収まりきらない中、空に突然、神々しい光が差し込んだ。
「……え、今度は何?」
「また厄介事よ」
リリスが冷静に呟く。
次の瞬間、空間が割れ、凛とした気配の人物が降りてきた。
銀髪、白い衣、冷たい青い瞳、正装のような整った装い。
「お前、カミヤ・カズトか」
声が低く響く。
「だ、誰?」
「神界秩序管理局・監察官、リュミエル・ゼーレ」
超おかたい名前と態度。
「おかたい……」
「秩序と規律を守るため、私は存在する」
リュミエルは真顔のまま続ける。
「だが、お前は、すべてを……」
ギリギリギリ……
拳を握り締め、悔しそうに言った。
「お前が、全部、台無しにする!!!」
「いや、照れるわ」
「なんで照れるんだよ!!!」
リリスのツッコミと同時に、周囲の女子たちがキャーキャー騒ぐ。
「カズト様素敵〜♡」
「さすが英雄♡」
またもや運−∞とハーレム体質が暴走。
「ほら、まただ!!これが問題だ!!」
リュミエルの叫びが広がる。
「世界の秩序も、規律も、理論も、全部お前が崩壊させてる!!!」
「いや、俺のせいじゃなくて体質だからな!!!」
だが、リュミエルの顔が微妙に赤い。
「お前の……その、無自覚の混沌……逆に興味深い」
「え、なに、もしかして俺またハーレムフラグ立てた?」
「ふざけんなぁぁぁぁ!!!」
リリスとレオンの叫びを背に、また新たなカオスが加わったのだった。
魔王も倒し、宴も終わり、カオスとラッキースケベまみれの地獄の一日がようやく終わった夜。
俺は宿屋のベッドに倒れ込んでいた。
「ふぅ……今日も色々と終わってたな……」
リリス、ミル、エリス、クラリス、シオン、レオン、そしておかたい神様リュミエルまで巻き込んで、世界は完全にカオス。
「せめて、夢の中くらい平和であってくれ……」
そう願いながら目を閉じた。
◇ ◇ ◇
気がつくと、俺は真っ白な空間に立っていた。
「……またこのパターンかよ」
「よう、久しぶり」
目の前に現れたのは、例の適当すぎる神様。
ジャージ姿、寝癖全開、相変わらずニート風。
「お前、また出てきたのかよ」
「まぁ、今日は大事な話だから」
珍しく真面目な顔をする神様。
「お前に、ちゃんと伝えてなかった。今回のお前の役目……いや、真の目的」
緊張が走る。
まさかの真実。ついに、俺の転生理由が明かされるのか――
「世界を、やさしい世界に変えてくれ」
「……え?」
「やさしい、やさしい世界を頼んだ」
「絶対ミスっただけだろお前!!!」
思わず全力でツッコむ。
神様は、目を逸らしながら口笛を吹いた。
「いやいやいや、ミスったんだよな?最初に“運−∞”とか“ハーレム体質”とかバグステ出したのお前だよな?」
「細かいことは気にすんな」
「気にするわ!!!」
「まぁ、結果的にカオスな優しい世界になってんだろ?」
「優しいの基準どうなってんだよ!!!」
そんな不毛なやり取りを続けながら、神様は肩をすくめた。
「とにかく、頼んだぞ、やさしい世界」
そのまま、俺の意識は戻っていった。
◇ ◇ ◇
目が覚めると、横にはリリス、ミル、エリス、クラリス、シオンが寝息を立てていた。
「やさしい世界、ねぇ……」
朝――王都の空に、亀裂が走った。
「……嘘だろ」
空が割れ、巨大な光と闇が交錯し、無数の“別の世界”が重なり合っていく。
都市、森、砂漠、近未来、過去の文明、宇宙規模の景色までが、混沌と共に押し寄せてくる。
「これは……」
リリスが青ざめ、レオンも顔をしかめる。
そして、空間に巨大なホログラムのような映像が浮かび、神界秩序管理局のリュミエルの声が響いた。
『警告、全次元融合異常発生。このままでは、数多く存在する異世界すべてが、消滅する』
「おいおい、冗談だろ……」
『原因、カミヤ・カズトの“体質進化”および、存在そのもの』
「いや、マジかよ俺!!!」
ミルとエリスは泣きそうな顔、クラリスは静かに見つめ、シオンはニヤニヤしながらも目が真剣。
リュミエルは言い放つ。
『最後の選択をしろ。お前の存在を消すか、すべての世界が消えるか』
「そんな、選べるわけ……」
自分の手を見る。
【超次元ハーレム体質】【運命的ラッキースケベ体質】【カオス生成体質】
すべてが進化しすぎたせいで、世界の法則が崩壊寸前。
「ふざけんな、やさしい世界作るために転生させられたんじゃねぇのかよ」
でも、現実は皮肉すぎた。
「俺を消せば、世界は助かる……?」
リリスが目を伏せ、ミルとエリスが涙を浮かべる。
クラリスは震えながらも声を絞り出す。
「あなたがいない世界なんて、意味がない」
「そうよ、そんなの、優しくなんて……」
シオンの声も、レオンの叫びも、全てが響く。
「選べ……カミヤ・カズト」
リュミエルの最後通告。
目の前に浮かぶ、決断のウィンドウ。
【① 自分の存在を消し、世界を守る】
【② このまま、全ての異世界ごと消滅】
最悪の二択が、そこにあった。
「……マジかよ」
決断の瞬間が、迫る――。
浮かび上がる決断ウィンドウ。
【① 自分の存在を消し、世界を守る】
【② このまま、全ての異世界ごと消滅】
「ふざけんなよ、なんだよこれ……」
俺は、頭を抱えた。
目の前の仲間たち。
リリス、ミル、エリス、クラリス、シオン、レオン。
そして、知り合った多くの人たち。
ドタバタな日常。
ラッキースケベ事故の連鎖、ハーレム体質の暴走、運−∞による不幸と奇跡。
最初から最後まで、大変なことばかりだった。
……でも、思い出す。
笑って、怒って、騒いで、転んで、ぶつかって、
一度は逃げ出した。
現実から、カオスから、全部が嫌になって――
だけど。
「俺、また……戻ってきたんだよな」
あの時、涙を流して、ここに戻ってきた。
理由は、今ならわかる。
皆の顔を見る。
必死に、今にも泣き出しそうな顔をしたリリス。
不安げに尻尾を揺らすミル、泣きそうなエリス、じっと見つめるクラリス、無理に笑うシオン、複雑な顔のレオン。
胸が、締め付けられる。
「なぁ、聞いてくれ」
ゆっくりと、口を開く。
「俺さ、最初はマジで嫌だったんだよ、この異世界。運−∞だの、ハーレム体質だの、ラッキースケベだの、めちゃくちゃでさ」
笑いながら言葉を続ける。
「でも、気づいたら――俺、皆が好きだったんだ」
喉が詰まりそうになったけど、はっきり言った。
「この世界が、好きだったんだ」
涙が、勝手にこぼれる。
「ありがとな、皆」
震える手で、選択肢に触れる。
【① 自分の存在を消し、世界を守る】
決定
「カズトっ!!」
リリスが叫び、ミルとエリスが手を伸ばし、クラリスも、シオンも、レオンも。
光が俺を包む。
「……これで、皆の世界が守れるなら」
最後に、微笑んだ。
「やさしい世界、ちゃんと作るからさ――」
そして、俺の姿は、消えた。
眩い光が空を満たし、異世界融合の歪みが、静かに収束していく。
カズトの姿は――どこにもなかった。
「……終わったのね」
リリスが、小さく呟く。
整えたはずの表情が、崩れそうになる。
「バカよ……一人で勝手に決めて……」
誰よりも冷静だった彼女の肩が、震えていた。
ミルは尻尾を力なく垂らし、泣きじゃくる。
「うわああああんっ……カズトさん……かえってきてよおおお……」
エリスも、目を真っ赤にして、何度も地面を叩く。
「どうして……そんなの、優しい世界じゃないよ……!」
クラリスは、じっと空を見上げたまま、氷の瞳に涙を浮かべた。
「あなた、運命って……そういう意味だったの……?」
シオンは、いつものようにからかう言葉を吐き出せず、唇を噛みしめていた。
「ほんっと、どうしようもない奴だったのに……いなくなるなんて……」
そして、レオン。
「……全部台無しにするお前がいないと、世界、こんなに……静かで寂しいんだな」
全員の視線が、かつてカズトが立っていた場所を見つめる。
風が吹き抜けた。
異世界は、平和を取り戻した。
だが、そこにいたはずの、ドタバタと混沌とラッキースケベと――
優しさに満ちた、あの男の姿だけは、もう、なかった。
それでも。
「ありがとう、カズト」
リリスが、かすれる声で呟いた。
静かに、涙が頬を伝う。
消えた英雄に、消えた仲間に、誰もが、心からの“ありがとう”を。
そして、彼の残した日常を、胸に刻んで――
異世界は、少しずつ、また歩き出す。
消えゆく意識の中、俺はただ、ぼんやりと空を見ていた。
ああ、これが“終わり”か。
だんだんと、記憶が薄れていく。
仲間たちとの喧嘩、笑い、泣き顔、全てが走馬灯のように蘇り――
そして、消えていく。
「……寂しいな」
その時、不意に聞き覚えのある、適当すぎる声が響いた。
「お前さ、本当にバカだな」
ジャージ姿の、寝癖神様がそこにいた。
「結局、お前が一番、皆のこと大事にしちまった」
視界がぼやけ、もう顔すら見えない。
でも、最後に――
俺は、少しだけ笑った気がする。
「そりゃ、バカだしな……」
全てが、消えるはずだった。
だが。
その瞬間――俺の“運−∞”が暴走した。
【ラッキースケベ体質】は、“幸運”に“不幸”の代償をつける。
ならば、【自分を消し去る】という最悪の不幸に――
“幸運”という代償が、つくはずだ。
ゴォォォォォ……!!!
崩れかけた世界の法則が、ねじれ、反転する。
「おいおい、またかよ……」
神様の呆れ声が響く中、消えかけた俺の存在が、捻じ曲がる。
不幸と幸運が、無理やり釣り合い、
消えたはずの“俺”に、代償として“奇跡”が生まれる。
「あーあ、マジで最後まで台無しなヤツだな」
神様が、どこか楽しそうに笑った。
視界が真っ白に染まる。
もう一度、世界が――
やさしく、そしてめちゃくちゃに、始まる。
視界が真っ白になり、全てが消えたはずだった。
でも――
「わ、きゃっ!?///」
聞き覚えのある悲鳴が響く。
ゴツンッ!!と鈍い音。
柔らかい感触と、どう考えてもアウトな位置に手が滑り込んでいる現実。
「え……?」
目を開けた俺の視界いっぱいに広がったのは、ミルの耳とエリスの太もも、クラリスの胸元、シオンの顔面接近、リリスの冷たい視線。
「うわ、また事故……」
だが次の瞬間、誰もが凍りついた。
「カ、カズト……?」
「ウソ……生きてる……?」
「運命、逆らえなかったのね……」
「また、帰ってきたんだね」
リリスの目に、涙が浮かぶ。
「なんで……消えたんじゃ……」
「ラッキースケベだよ」
「意味わかんねぇ!!!」
全員のツッコミが飛ぶ中、俺はゆっくりと起き上がった。
「自分を消すっていう最悪の不幸に、ラッキースケベの“幸運”が代償でついてきた」
「意味不明だけど……あなたらしいわ」
「ほんっと、どうしようもないな……」
レオンがため息をつき、皆が次第に笑顔になる。
空は晴れ渡り、異世界は崩壊せず、世界は――
「やさしい世界、ちゃんと作ったからな」
苦笑いしながら、俺は誓った。
もちろん、ラッキースケベも、運−∞も、ハーレム体質も、全部健在。
つまり、地獄の日常はこれからも続く。
「さっき、好きって言ったよね?」
静かな声が耳に届いた。
振り返れば、リリスが、いつもの冷たい目じゃなく、ほんの少しだけ、照れたような、でも真剣な顔で、俺を見つめていた。
「え、な、何の話……」
恥ずかしさをごまかすように、思わず視線をそらす。
だが、気づけば周囲の仲間たち――
ミル、エリス、クラリス、シオン――全員が、同じように真剣な眼差しを俺に向けていた。
「え、いやいや、マジで、そんな空気……」
逃げ場はなかった。
確かに言った。
自分の存在を消す決断の時、最後に、心からの気持ちを。
「皆が好きだった。この世界が好きだった」って。
「ふふ、今さらごまかせないよ?」
ミルが笑い、エリスが小さく頷き、クラリスがじっと見つめ、シオンが口元を歪める。
リリスは、ゆっくりと近づきながら言った。
「逃がさないからね」
その瞬間、運−∞の能力が、勝手に発動した。
ドガンッ!!!
後方の壁が崩れ、バケツの水が俺にぶちまけられる。
服が透け、転倒、全員を巻き込み――
大規模ラッキースケベ事故、発動。
「きゃっ!?///」
「や、やだ……また……///」
「んっ、もう、しょうがない人……」
「運命は裏切れないのね」
地面に倒れ込んだ俺の上で、仲間たちが赤面しながら重なる。
「ちょ、おま……またこのパターンかよ!!!」
「これが、あなたの日常よ」
リリスが、顔を赤くしながら、でも逃さないように俺の腕を掴んだ。
世界は平和を取り戻した。
だが、不幸とカオスとラッキースケベとハーレムは、永遠に終わらない。
「──俺たちの異世界生活は、これからだ」
【異世界無理ゲー生活・完】