レベル100 ──初任務、そして地獄の幕開け
ギルドの受付嬢から任務を受け取り、俺たちはギルド前に集まっていた。
「今回の依頼は、郊外の《グレイヴ森林》での魔物討伐。……初心者向けとはいえ、あなたのせいで何が起こるか分からないから、気を抜かないでよね」
リリスが冷たい目で釘を刺してくる。
隣でミルとエリスも不安げな顔、そして――
「任務で共に戦うなら、より絆が深まる。覚悟しなさい」
そう言って当然のように同行を申し出た、氷刃姫クラリス。
一目惚れが継続してるらしい。なんなんだこのハーレム体質。
「まぁ、戦力多い方がいいしな……俺は戦えねぇけど」
「正確には、魔法もスキルも使えない、ただの歩く不幸連鎖」
「めっちゃ言うな、リリスさん」
◇ ◇ ◇
《グレイヴ森林》は、木々が鬱蒼と茂る迷いの森だった。
「うわ、雰囲気やべぇなここ」
「大丈夫だよ、私、森得意だから!」
ミルがふさふさの尻尾を揺らして笑う。
だが、ここでも運−∞が発動。
足元の石に引っかかり、俺は盛大に転倒――
「わぷっ!?///」
「またそのパターンかよ……」
見事にミルを巻き込んで、ふわふわの尻尾と耳をむぎゅっと掴む事故発生。
「へ、変態!!」
エリスの平手打ちが飛んでくるも、防御400でノーダメ。
「もう、学習しないのね……」
「いや、してるけど避けらんねぇんだって!」
そんなドタバタの中、前方から魔物が現れる。
「こ、この魔物は《ギルデン・ウルフ》!新人泣かせの強敵よ!」
「どう考えても新人任務の範囲超えてるだろ!」
「あなたのせいよ!」
またか、俺の運−∞。
ギルデン・ウルフは牙をむき、突進してくる。
「ここは私が」
クラリスが氷の剣を構え――その瞬間、不幸連鎖発動。
遠くでリスが木の実を落とし、それが転がり、クラリスの足元へ。
「んっ――きゃっ!」
まさかの氷刃姫、転倒。
倒れた拍子に氷の魔法が暴走、ウルフに当たり、爆発。
「え、ウルフ倒した?」
「ま、また事故連鎖で……」
「さすが私の運命の人……」
クラリスは頬を染め、ミルとエリスはため息。
リリスはもう目を伏せた。
こうして、カオスとラッキースケベと地獄の連続初任務は、無理やり成功に終わった。
が――まだ終わりじゃない。
遠くで雷雲が渦巻き、巨大なドラゴンの影が見えた。
「また、運−∞かよ……!!」
異世界無理ゲー生活、休む暇もなく続くのだった。
グレイヴ森林での初任務が、事故連鎖でなんとか終わった……かと思った、その時だった。
「お、おい、あれ見ろ……」
上空に、巨大な影。
翼を広げ、雷雲をまとった漆黒のドラゴンが、こちらを睨み下ろしていた。
「嘘でしょ!?なんでドラゴンなんて……!!」
リリスが顔を青ざめさせ、ミルとエリスは怯えた表情。
「普通、ドラゴンはこのランク帯の森には来ない……」
「……私の、運−∞だな」
「開き直ってんじゃないわよ!!」
ゴォォォォォ……!!!
ドラゴンが咆哮し、雷が炸裂する。
草木が燃え、地面が揺れる。まさに絶望の演出。
「いやいや、俺、魔法もスキルも使えねぇのに、これどーすんの!?」
「任せて、私が……」
クラリスが氷の剣を構え、前へ――だが。
不幸連鎖、即発動。
木の枝が折れ、鳥の糞がクラリスの顔面に直撃。
「んぐっ!?」
そのまま転倒、またもや俺の上に美少女ダイブ。
当然のラッキースケベポジションで、胸元と太もも、両方を同時キャッチ。
「またそのパターンかよ!!!」
「ちょ、カズトさん!?///」
「う、運−∞、ほんと最悪……///」
リリスはもう怒りを超えて無表情。
その隙に、ドラゴンが雷ブレスを吐く。
落雷が直撃――だが、偶然にも崩れた木々が盾になり、かすり傷。
「いや、これもしかして……」
「事故連鎖で勝てる……パターン?」
俺の疑念は的中した。
倒木が転がり、岩を跳ね、巨大な蜂の巣を落とし、蜂たちがドラゴンに特攻。
蜂の猛攻で、ドラゴンがパニックに。
そこにクラリスの暴走氷魔法が暴発し、氷結。
さらに、俺の転倒が偶然にも、地面の弱点を突いて大地が崩れ、ドラゴンの下半身が埋まる。
「ちょ、マジで勝てるかも――」
最後に、エリスが慌てて放った弓矢が跳ね返り、偶然ドラゴンの目にクリーンヒット。
グワァァァァ!!!
ドラゴンは雄叫びを上げ、ついには倒れ込んだ。
「勝った……のか……?」
「信じられない……全部、事故連鎖で……」
「あなた、どこまで無敵の不幸体質なの……」
クラリスは未だに俺の上に倒れ込んだまま、顔を真っ赤にしている。
こうして、あり得ない方法でドラゴンを撃破し、俺たちは王都に帰還することになった。
ドラゴン討伐(事故)を終え、俺たちは王都の宿屋に戻ってきた。
「ふぅ……ようやく、ゆっくりできる……」
「あなたのせいで疲労倍増なんだけど」
リリスの冷たい視線を浴びながら、カウンターで部屋を取る。
「おい、部屋……って、まさか」
受付嬢が不穏な表情で言った瞬間、俺の運−∞が炸裂。
後方で別客が暴れて、棚が倒れ、宿の予約帳が吹き飛ぶ。
「え、ええっと……」
受付嬢が予約状況を確認するも、データがめちゃくちゃに。
「残ってるの、ファミリールーム1部屋だけ……」
「いや、俺と女3人で同室とか、フラグしかねぇだろこれ!!」
「むしろあなたの体質じゃ、それ以外無理よ」
リリスの冷酷な指摘。ミルとエリスは顔を真っ赤にし、クラリスは目を輝かせている。
◇ ◇ ◇
夜。
1部屋、ベッド2つ、寝具はギリギリの量。
「えっと、これ、どう分ける……?」
「当然、私はあなたの隣」
クラリスが当然のように隣を確保。
「私も、守るためにそばにいないと……」
エリスが言い訳しつつ布団に潜り込む。
「わ、わたしも……お、おやすみ……」
ミルがもじもじと俺の布団に潜り、耳と尻尾が顔に当たる。
「いや、狭い、無理、ラッキースケベ不可避!!」
その時、天井のランプが不穏に揺れ、外の風でカーテンが捲れる。
運−∞、またも暴走。
ランプのヒモが俺の足に絡まり、バランスを崩す。
次の瞬間、ミルの尻尾を掴み、クラリスの胸元に顔面ダイブし、エリスの太ももを膝で押す。
「んっ!?///」
「きゃっ!?///」
「やだぁ……///」
大・大・大事故。
「おいおいおい、これ以上フラグ立てるなよ!!!」
「手遅れよ」
リリスのため息で夜は更けていく。
もちろん、寝ようとしても運−∞は止まらず、次々と不可抗力のハーレム事故が続発。
俺の平穏なんて、どこにもなかった。
翌朝、寝不足と疲労感を抱えつつ、俺たちは再び王都の冒険者ギルドに向かった。
「昨日の宿、地獄だったな……」
「あなたのせいでしょ」
リリスの鋭いツッコミを受けながら、ギルドの扉を開く。
中は、昨日と変わらず騒がしい……いや、むしろ昨日以上にざわついていた。
「なんか、雰囲気ヤバくね?」
「騒ぎが広まったのよ、あなたが“事故だけでドラゴン倒した謎の新人”として」
「いや、言い方ァ!!!」
その時、ギルド内の掲示板前に集まる群衆がざわつき、誰かが叫ぶ。
「例の、討伐証明書の提出ミス!? またカオスな依頼が混ざったってよ!!」
「またかよ、ギルドのシステムどうなってんだ!」
「どうせ誰もやらねぇよ、あんな無理ゲー依頼……」
そこに受付嬢が近づいてきた。
「カミヤ・カズトさん、丁度いいところに」
「嫌な予感しかしねぇんだが」
「昨日のドラゴン討伐を確認したところ、事故判定とはいえ正式依頼扱いに。よって次は、さらなるS級難度の依頼が自動で割り当てられます」
「いや、待て待て待て。おかしいだろそのシステム!!」
「問題ありません。あなたのレベルは∞、該当ランクは自動S級」
「ステータス詐欺のせいで地獄の案件来てんじゃねぇか!!!」
その時、再び運−∞が発動。
背後で転んだ冒険者がビール樽をぶちまけ、俺の服が透ける。
ミルとエリスが赤面、クラリスが近づき、またもや事故的ラッキースケベ。
「ちょ、いや、またかよ!!!」
そのカオスの最中、受付嬢がにっこりと微笑む。
「今回のS級依頼は――“《混沌の迷宮》調査および生還”です。成功率、過去0%。ご武運を」
「ふざけんなあああああああ!!!」
またもや無理ゲー確定。
王都ギルドのカオスは、止まらない。
王都から東へ数キロ。
そこにぽっかりと開いた、黒い穴――《混沌の迷宮》。
「ここが……」
「本当に戻ってこれた人、ゼロよ」
リリスが冷たい目で説明する。
「俺の運−∞でさらに地獄の予感しかしねぇんだけど」
「でも、あなたなら事故で生き残るかも」
「信頼ゼロの前提やめろ!!」
ミルとエリス、クラリスも緊張の面持ち。
「……カズトさんと一緒なら、頑張れる気がする」
「危険でも、あなたの隣なら構わない」
「お前ら、完全にハーレムフラグ立てんのやめろ!!!」
◇ ◇ ◇
迷宮内部は、まるで異次元だった。
歪んだ空間、浮かぶ岩、重力がめちゃくちゃ。
「これ、普通の迷宮じゃねぇな……」
「だから“混沌”なのよ。空間が不安定、常識は通用しない」
「俺の人生そのものじゃねぇか」
そんな中、運−∞が炸裂。
足元の岩が突然崩れ、俺はミルとエリスとクラリスを巻き込んで転倒。
ラッキースケベ・三重発動。
「きゃっ!?///」
「ちょ、どこ触って……///」
「ふむ、これが運命……」
耳、尻尾、太もも、胸、すべてに手がめり込む事故連鎖。
「ほんとふざけんな俺の体質!!!」
そして、また不幸連鎖。
天井から結晶が落ち、壁が崩れ、敵の魔物が大量に現れる。
「……終わった」
「でも、あの魔物たち、なんか変」
リリスが指差す。
魔物同士が、なぜか事故連鎖でぶつかり合い、勝手に自滅。
岩が転がり、壁が崩れ、罠が暴発し、迷宮内部が自壊。
「これ、まさか……」
「運−∞と混沌の迷宮、相性最悪ね」
結果――
迷宮崩壊。
だが俺たちは、偶然崩れた通路から外に吹き飛ばされる。
「うわああああああ!!!」
気づけば、迷宮外の草原に投げ出されていた。
「生還、しちゃった……」
「また事故で……」
「さすが私の運命の人」
ギルド記録を塗り替えた地獄の迷宮攻略(事故)だった。
混沌の迷宮(事故)から生還し、俺たちは王都ギルドに戻った。
ギルド内は大騒ぎ。
「カズトって奴、また事故で迷宮クリアしたってよ」
「伝説級のポンコツなのに、生還率100%……」
「いや、ラッキースケベ率100%もヤバいだろ」
周囲の視線が痛い。
ミルとエリスは顔を赤らめ、クラリスは無言で距離を詰めてくる。
「な、なんか人増えてね?」
「当然よ、あなたのせいで有名人だもの」
リリスの冷静な指摘の最中――
「ふふっ、あなたが噂のカミヤ・カズトさん?」
鈴のような声が響く。
振り向くと、そこに立っていたのは――
まるで人形のような美少女……いや、よく見ると男の娘。
銀髪、華奢な体、フリルのついた白い服、完璧な美少女フェイス。
ただ、微妙に胸が平坦で、声もやや中性的。
「え、まさか……男?」
「失礼ね、ちゃんと男の娘ってジャンルよ」
「そこは自信満々に言うとこか!?」
周囲がざわつく。
「彼は……《シオン・ルフェール》。王都でも有名な男の娘……そして毒舌系美少女系トリックスター」
「情報量多すぎだろ!!!」
シオンはにっこり微笑む。
「私、あなたに興味あるの。だって“運−∞”で“ハーレム体質”って、最高のオモチャだもの」
「表現やべぇなお前!!」
運−∞がまたも暴走。
シオンの足元の石が転がり、バランスを崩し――
「わ、きゃっ!?」
見事に俺の上にダイブ。
そして、お約束のラッキースケベポジションへ。
「や、やだ……こんな格好で……///」
「いや、男だよな!?なにこの状況!!?」
リリスは冷静に言い捨てる。
「諦めなさい、あなたの人生、もうハーレム(性別問わず)から逃れられないわ」
こうして、俺の地獄ハーレムに、最強の男の娘・シオンが加わった。
だが、運−∞の暴走は、まだまだ終わらない。