表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

レベル1 神様、仕事適当すぎ問題

目が覚めたら、真っ白な空間に立っていた。


いや、正確には目を開けた瞬間、トラックが目の前に迫ってたから、その次って考えると──ここ、つまり、死後の世界ってやつか?


「よう、起きたか?」


俺の目の前に、半袖Tシャツにジャージ姿の、どう見てもそこらのニートみたいなオッサンが立っていた。


「……誰っすか」


「神様だよ」


即答かよ。そして雑すぎだろ。


「で、お前死んだからさ、次どうする?」


「え、いやいやいや、もうちょっと丁寧な説明とか、ほら、あるじゃん?」


「ないねー。日頃の行いでポイント貯まってたから、二度目の人生やらせてやるってだけ」


「ポイントって何……」


「善行とか悪行の累計スコア? まあ、ぶっちゃけお前クズ寄りだけど」


神様はやれやれって顔をして指をパチンと鳴らした。

空中に、俺の"行動履歴"みたいなウィンドウが浮かぶ。


──【遅刻 58日連続】

──【妹のパンを奪う(未完食)】

──【困ってる老婆スルー】

──【信号無視 死亡】


「……いや、こう見ると俺、終わってんな」


「だろ? でもまあ、気まぐれで転生は許可するわ。なりたい職業とか決めとけ。その間にステータス割り振っとく」


そう言って、神様は何やらスマホっぽい端末を操作し始めた。

俺は俺で、考える。大賢者? いや、魔法戦士? でも戦士系も良いよな……。


「おい、クソッ、操作性悪すぎ……このシステム誰作ったんだよ……割り振り反映されねぇ……めんどくせ……もうこれでいいか」


聞こえる範囲で適当すぎるセリフが飛んでくる。不安しかない。

そして神様はニヤニヤしながら俺にステータス画面を突きつけた。


【名前】ナシ(転生後に決定)

【年齢】18

【職業】転生者

【レベル】∞(固定)

【体力】250,000

【魔力】25

【力】300

【防御】400

【運】−∞


「……運がマイナス無限って何だよ!!!」


「まぁ、気にすんな。ほら、送るぞ」


「ちょっ、いやいや待て!これどう見ても詰んでるだろ!?なんで運だけマイナス無限なんだよ!!」


「たまたまボタン押し間違えた、てへぺろ」


「お前、神様失格だろ!!!」


ツッコむ暇もなく、視界がぐにゃりと歪む。

次の瞬間、眩しさに目を瞑った。


──だが。


「……熱っ、いや、これ痛ぇ!!」


慌てて目を開けると、そこは──溶岩の海の真ん中。

人ひとりがやっと立てる程度の小さな岩の上に、俺は立っていた。


「ふざけんなああああああ!!!」


「……いってぇ……熱いってレベルじゃねぇ……」


俺は今、直径一メートルほどの岩の上に立っていた。

その周囲は、どこまでも広がる真っ赤な溶岩の海。


しかもだ──


【状態異常】

・《火傷(極大)》

・《痛覚鈍化(Lv.1)》

・《熱耐性(Lv.1)》

・《痛み耐性(Lv.1)》

・《精神汚染(軽度)》


「いや耐性って言うほど耐えてねぇからなコレ!!!」


全身がジュウジュウ焦げる音がする。肌は焼け、喉は乾き、目は涙で滲む。

だけど、レベル∞のおかげで死なない──いや、生き地獄じゃねぇか。


「神様、ふざけんなよマジで……」


その時だった。俺の後ろで、ボコボコと不穏な音がする。

振り向けば、溶岩の中から巨大な気泡が膨らんで──


「え、うそ、やめ──」


ドッカァァァァァン!!!


溶岩が噴き上がり、俺ごと岩が吹き飛ばされた。


「うわああああああああ!!!!」


灼熱の空中を、無様に飛ぶ俺。

でも、ここからが《運−∞》の本領発揮だった。


俺の飛んだ先に──

偶然通りかかった、巨大な火竜(見た目はクソ強そう)がいた。


その火竜の真上に、俺と岩が降ってきた。


「いや、マジかよおおおおお!!?」


だが、まるで計算されたように、岩が火竜の後頭部にクリーンヒット。

火竜はバランスを崩し、真下の溶岩に顔面から突っ込んだ。


ズボォオッ!!


溶岩に顔を埋めた火竜が、もがく。その動きで周囲の溶岩が大きく波打ち──

遠くにいた巨大な溶岩ゴーレムの足元が崩れ、ゴーレムはバランスを崩す。


倒れたゴーレムが、崖の上にあった奇妙な魔石を直撃。

魔石が砕け、眩しい光が弾け飛ぶ。


その光が空中の魔法陣に干渉し、偶然発動した転移魔法が俺を包み──


「ちょ、え、なんだこれ──」


バシュゥウウ!!!


次の瞬間、俺は再び空間を飛び越えて、地面に転がり落ちた。


「いてぇ……」


転がった先は、広大な草原。

そこには、魔物に追われている、一人の銀髪の美少女がいた。


服は破れ、今にも危ない状況。


「おいおい……いや、これ……」


偶然の極み、だが絶望的な状況。


そしてその美少女の胸元に、俺はダイブする形で倒れ込んだ。


「きゃっ……」


ふわっと柔らかい感触。


「ラッキースケベとか……マジか」


だが次の瞬間、背後から雷が落ちて俺だけが黒焦げになった。


「運−∞、やっぱふざけんなあああああ!!!」


「う、うぅ……」


俺は全身から焦げ臭い煙を上げながら、銀髪の美少女の胸元に突っ伏していた。

ついさっきまで、地獄の溶岩地帯にいたはずなのに、今は草原。

視界いっぱいの、まるで夢みたいな柔らかさ。


「ちょ、ちょっと!どこに顔埋めてるんですかあなた!!」


美少女は顔を真っ赤にしながら、俺を突き飛ばす。


「いてっ……いや、違うんだ、これは事故だ、不可抗力だ」


「言い訳は聞きません!!」


銀髪の美少女が、怒り顔で杖を構えたその瞬間。


バサッ――。


後ろの茂みが不穏に揺れた。

見ると、そこから這い出してきたのは、デカい、牙むき出しの狼――いや、正確にはモンスターだ。


「……やっべ」


俺がそう呟くと同時に、美少女が鋭い声を上げた。


「危ない、下がってて!《フレイム・ランス》!」


魔法詠唱が終わる前に、狼は突進してくる。


「うおおおおおおっ!?」


咄嗟に身を捻って避けようとする――が、ここで運−∞が発動した。


俺の足元の石がタイミングよく(悪く)転がり、体勢を崩す。

そのまま、転倒。


でも――


「わぷっ!?」


崩れた俺の体が偶然にも美少女を押し倒す形に。

さらに、俺の頭が、魔法詠唱中の彼女の唇に誤爆した。


「んっ!?///」


フレイム・ランスの詠唱は中断。

魔法は空中で暴発し、思いきり後ろに飛んだ。


そこには偶然――大岩があり、反射した炎が狼に直撃。


「ガウッ!?」


狼は顔面を焼かれ、もんどり打って倒れ込む。


さらに、その狼が転がった拍子に、近くにあった巨大な蜂の巣を破壊。

怒り狂った蜂の群れが周囲に放たれ、パニック状態。


結果――


「ちょ、マジか……」


蜂の群れが狼たちを襲い、敵同士が潰し合う地獄絵図が完成。

誰一人として、俺が狙ったわけではない。


「これが運−∞……」


ツッコむ暇もなく、押し倒したままの美少女が真っ赤な顔で俺を見る。


「な、な、なにするんですか、あなたっ!///」


「いや、違うんだこれは、事故っていうか、俺の運のせいで……」


「う、運……? 何言って――あ、痛たたた……」


美少女は急に肩を押さえて顔をしかめた。

よく見ると、腕に浅い傷と火傷の跡。


「あー……さっきの魔法の暴発、かも」


「……原因、あなたですよね」


「ぐうの音も出ねぇ……」


とりあえず、この場は落ち着いたようだ。


少女は痛みを我慢しつつ、杖を突き立てて立ち上がる。


「……あなた、名前は?」


「ああ、俺は――」


そう言いかけた瞬間。


ズシャァアアアア!!!


空から、さっき転送されたときに俺が巻き込んだ、あの巨大な火竜の死体が落ちてきた。


「いやいやいや、マジで!?またかよおおおおおお!!!」


運−∞、発動継続中。


果たして、俺の異世界生活、生き延びられるのか――?


「……ふぅ、死ぬかと思った」


目の前に落ちてきた火竜の死体をなんとか避け、俺は草原にへたり込んだ。

美少女も呆れ顔で隣に腰を下ろす。


「あなた、さっきから何者なんですか……」


「んー……自己紹介がまだだったな。俺はカズト。カミヤ・カズト。まぁ、訳あって異世界転生組だ」


「いせかいてんせい……ああ、異界から来た人。希少種ですね」


美少女は、ふむ、と頷く。


「私はリリス・エルフェリア。この近くの王都から来ました。見ての通り、魔法使いです」


銀髪に赤い瞳、整った顔立ち、スタイルも良い。

まるでテンプレみたいなヒロイン属性。


「よろしくな、リリス」


「……よろしく……って、簡単に言えない状況でしょ」


リリスが視線を向ける。火竜の死体が蒸気を上げている横で、蜂たちがまだ騒いでいるし、狼の群れも奥にいる。


「このままじゃ危険だわ。……あなた、さっきの偶然の連鎖、全部意図的にやったわけじゃないのよね?」


「俺にそんな器用なことできるかよ」


「じゃあ、まさか――」


俺はため息混じりにステータス画面を見せた。


【名前】カミヤ・カズト

【職業】転生者

【レベル】∞(固定)

【体力】250,000

【魔力】25

【力】300

【防御】400

【運】−∞


リリスの顔が固まる。


「う、運が……マイナス無限って、何……?」


「神様の割り振りミスらしい」


「……それ、存在してるだけで周囲に影響出るレベルの呪いよ」


「マジかよ……」


そんな俺を見て、リリスはしばらく考えたあと、ポンと俺の肩を叩いた。


「いいわ、あなたと行動する。運が悪いのは大問題だけど、そのせいで敵が倒れるなら逆に利用できる」


「おお、前向きだな。普通はドン引きされる流れだと思った」


「だって……さっき、火竜を倒したの、結果的にはあなたのおかげよ。しかもレベル∞なら、しぶとさも保証済み」


「いや、しぶとさだけで生き延びる自信はねぇけどな……」


リリスが立ち上がり、杖をくるくると回す。


「王都に戻る途中だったの。あそこならあなたの情報も調べられるし、安全な場所もあるはず」


「お、ちょうどいい。俺もこの世界のこと全然わからんし、頼りにしてるぞ」


「ただし……私の命令は絶対ね」


「え、なんかブラック企業感……」


「文句あるなら、また火竜の死体落とすわよ?」


「すんません、全力でついて行きます!!」


こうして、俺とリリスの、地獄の旅路が始まった。


だがこの時、まだ知らなかった。

俺の運−∞が、これからどれだけのカオスとラッキースケベと災厄を呼び込むのかを――。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ