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交差の魔導士  作者: オズ
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第2部 ~時空の魔導士~ エピソード4

『闇の世界』

レイは異界の扉を越え、なんとか別の世界に辿り着いた。

だが、深手を負った身体はもはや限界で、その場に倒れこみ、意識を手放す。


目を覚ましたとき、そこは牢の中だった。

どうやら不審者として捕えられたらしい。しかも、彼が通ってきた「結界」が壊れた痕跡が見つかったことで、「外の世界からの侵入者」として警戒されていた。


闇の国は、炎の国からの脅威を回避するために結界を張って闇に沈んだ国なので、特に炎の魔術を使う者は見つかれば打ち首は免れない。

──絶対に気づかれるわけにはいかない。


闇の国では国の魔力消費量がなぜか激しい状態に陥っている。

国の魔力中枢を支える、闇の王が持つ"闇の粒石"をうまく活用して何とか国政を凌いでいる状態。


しかしその代償として、粒石から排出される負の魔力が近くの湖を汚染し始めていた。


湖と森には水の魔導士が住んでおり、自然の守護者として人々と距離を保って住んでいた。

湖の汚染に怒った水の魔導士は、森と水の使用を全面的に禁止し、侵入者を追い返すようになる。

それにより、物資調達や魔力循環が滞り、王都は混乱に陥る。


「……いい加減、頭にくるわね。ちょっと懲らしめてやらなきゃ」


 そう言って立ち上がったのは、この国の王女イレーナだった。彼女は闇の王の孫にあたる人物で、両親を早くに亡くし、王に甘やかされて育った。

 わがままで気が強い一面を持つが、その裏には人知れぬ孤独を抱えており、魔術研究に没頭することで心を保っていた。


「やるなら徹底的にね。念のため、あの“異界の魔導士”も連れて行きましょう。」


 こうして、王女は自ら魔導士騎士団を率い、問題の水の魔導士を鎮めるべく進軍を開始する。

 レイもまた、その行動に巻き込まれることとなった。



『水の魔導士』

イレーナは魔導士騎士団とレイを引き連れて湖へと向かった。

そこに強力な水魔法を伴って一人の女性魔導士が現れた。この湖と森を守る水の魔導士で、その能力は天位魔導士であった。

「まさか、水の天位魔導士が……こんな場所に……」

レイはその圧倒的な魔力にたじろぐ。

イレーナの部隊はあっという間に水の波に蹴散らされ、レイと水の天位魔導士の一騎打ちとなる。


水の天位魔導士はレイの肩に刻まれた炎の国の奴隷の刻印を目にして、目を見開いた。


「……なぜ、炎の国の奴隷がここにいるの?」


「お前こそ、どうしてそんなことを知っている?」


驚くレイ。さらに、風や光の魔術を自在に操る彼に、水の天位魔導士は一瞬たじろぐ。


しかし、実力差は歴然だった。

レイは次第に追い詰められていく。周囲にイレーナたちの姿はない。

意を決したレイは、禁じていた炎の魔術を解放する。


すると、水の天位魔導士は炎の魔術に圧倒的な弱さを見せた。

攻撃を受け、気を失って倒れる。


レイは彼女の意識が戻る前に、「光の拘束」で魔力を封じた。


やがて、イレーナが遅れて追いついてくる。

戦いのあとを見て驚きつつも、レイが勝ったことに対し無言で頷いた。

そして、レイは牢から解放される。

牢から出ていく途中、レイは気になっていた水の天位魔導士と話をする。

捕らえられた水の天位魔導士は牢で目を覚ましていた。

レイは彼女の名を尋ねる。「ノクティア」と言った。そしてレイはここまでの経緯を語った。

ノクティアは自分の過去についてはあまり語ろうとしない。


「水の魔術を教えてほしい。その代わり、僕が知っている魔術も教える」


レイからその提案の承認を求められた、王女イレーナは渋々ながらも提案を認めた。

ただし、「監視役」として彼女自身も訓練に加わるという条件つきで。


こうして、奇妙な三人の共同訓練が始まった。


レイはノクティアから《水の魔術》を、イレーナから《闇の魔術》を学び、

二人にはレイの持つ魔術を教える。


最初はぎこちなかった三人の関係にも、やがて静かな変化が訪れる。


森の中での訓練の日々。

イレーナは、誰かと並んで笑う自分に戸惑い、

ノクティアもまた、長い孤独のなかで眠っていた感情に触れはじめていた。


そしてレイも――失ったものを思い出すように、二人との絆を少しずつ深めていく。


不思議な調和のもと、三人は確かに心を通わせ始めていた――。




『奪われた粒石』

そんな折、闇の国の結界が再び侵され、闇の粒石が、炎の国の間者によって奪われる事件が発生した。

結界の力が弱まっていたのは、レイが結界を越えてやって来たことが一因だった。


イレーナは闇の粒石の奪還のため、一団を率いて炎の国へと向かう。

しかし、逆に炎の国の手に落ち、捕らわれてしまう。


この知らせを受け、闇の王――イレーナの祖父――は深い嘆息をついた。

実は、闇の王は水の天位魔導士ノクティアとも前々から面識があり、イレーナが湖へ向かう際にはひそかに「できればお手柔らかに」とノクティアに伝えていた。

まさか、ノクティアが敗れ、レイに捕らえられるとは思っていなかったのだ。


「私は両親を早くに亡くしたイレーナを、孫として甘やかしすぎたのかもしれん。

あの子には才能はある。だが、あなたやノクティアのような苦労を知らない。……どうか、助けてやってほしい。」


結界の要である闇の粒石が失われた今、結界そのものが崩壊するのは時間の問題だった。

崩れれば、炎の国の軍勢がいつ侵攻してきても不思議ではない。

闇の国の魔導士や騎士たちは結界の修復で手一杯の状態だった。

レイは、自身が結界を弱める原因となった責任を感じ、イレーナの救出を引き受ける。

だが――彼は思い出していた。

かつて、炎の王に敗北した記憶を。

今の自分で、果たして敵うのか。


旅立ちの朝、レイの前に現れたのは、ノクティアだった。


「闇の王から、あなたを手助けするように言われたの」


「……君が?」


「ええ。はっきり言って、今のあなたが一人で救出に行くのは、無謀よ。勝てない相手にまた挑むつもり?」


レイはわずかに顔を背けて呟く。


「君には関係ないだろ」


ノクティアは、ほんの少し眉を上げて言った。


「そうでもないの。……その前に、“光の拘束”を外してもらえるかしら?」


レイは少しだけ驚いたように彼女を見る。


「……君なら、とっくに外せるはずだろ。なぜ逃げなかった?」


ノクティアは、しばらく沈黙したあと、静かに言った。


「あなたの “許し” を得るべきでしょ?」


レイは、目を細めて、微かに微笑んだ。


「君は……案外、いい人なんだな」


その瞬間、水のように冷静で少し距離のあったノクティアの表情が――

わずかに、熱を帯びたように見えた。




『炎の王都』

レイは、かつての因縁の地――炎の国の王都に迫っていた。

レイは王都の東門に辿り着く。

重厚な城壁の門の前では、かつての騎士養成所で共に学んだ仲間たちが、守りの騎士として立ちはだかっていた。

中には、密かに思いを寄せていた相手クラリスと、その恋人の姿もあった。


レイの姿を認めた彼らは驚き、そして困惑する。


「まさか……あいつは奴隷のレイなのか。」


守りの騎士たちは、レイを軽く見ていた。

しかし、レイの風の魔術で簡単にあしらわれる。レイに魔剣を抜かせることも出来ず、次々と地に伏していく。


「……すべてにおいて劣っていた奴隷のお前が、なぜ……!」


「そんな考えでいる限り、僕には勝てない。」


レイは静かに言い放つ。


「"すべてにおいて優れているものなど存在しない"、のだから――。」


レイは父の言葉を思い出していた。


唇を噛みしめ、倒れ伏す騎士たち。だが、誰一人、再び立ち上がれる者はいなかった。


そして、城門の前に立ちはだかるのは、かつての騎士の師範だった。


「通してくれ。無駄な戦いは避けたい。」

「強くなったな・・・。だが城門は魔導士の魔力で破れるものではない。」

師範はそう言って、レイを見据える。


レイは静かに、風の魔剣を地に突き立てた。

剣の柄にはめ込まれた〈風の粒石〉に魔力が流れ込む。


突如、師範が飛びかかる。だが、風の精霊が応えるように、巨大な風の手が現れ、師範を払い飛ばした。


次の瞬間、レイは〈炎の魔術〉を発動。

風の精霊が暴風となって炎に混ざり合い、その温度は極限まで高められる――炎は蒼く燃え上がった。


城門を守っていた騎士の一人がつぶやく。


「……あいつが……『創造と終焉に至る者』……」


蒼炎が城門を焼き尽くさんとするなか、炎の王は緊急命令を下す。


「すべての魔導士を城門へ向かわせよ――!」


だが、次なる報告が割って入る。


「西の門が……氷の刃で破られかけています! 西の門に水の天位魔導士が出現!」


ノクティアが、城の反対側から門を突破しようとしていたのだ。

二つの門が同時に破られようとしている。炎の王の顔に焦りが浮かぶ。


レイとノクティアは城内へ突入し、敵をなぎ倒しながら、王都の中心広場の“火刑の舞台”を目指す。

その中心には、磔にされたイレーナの姿があった。


彼女は公衆の面前で火炙りにされようとしていた――

刻一刻と、処刑の火が近づいていた。




『炎の対決』

中心広場一面に、薪木が不気味なほど整然と積まれていた。

そこは処刑のために設えられた舞台であり、火刑のための準備はすでに整っていた。


レイとノクティアは、戦いをかいくぐりながらついに広場に到達する。だが、炎の魔導士たちは精鋭揃い。二人は困難な戦いを強いられていた。


薪木の山にイレーナが磔にされたまま、処刑の刻が迫る。

炎の王は二人の接近を見て、処刑の予定を早め、自ら魔力を込めた炎を放った。


「しまった!」

ノクティアはすかさず魔力を解放し、雨を呼び寄せる。だが、時すでに遅く、広場全体は炎に包まれた。


「間に合わなかった……!」

レイは膝をつき、苦悶の声を漏らす。


ノクティアの雨が炎を消し去るも、そこに残ったのは焦土だけだった。誰もが、手遅れだと思った。


だが、煙と熱気が渦巻く中、ひとつの人影が現れる。

イレーナを肩に担いだその男は、炎の魔剣を携えながら、静かに歩いてきた。


「……エイデン……?」


レイの呟きに、男は口角を上げて答える。


「待ちくたびれたぞ、レイ。」


かつて奴隷だった頃、レイと同じ境遇にあった炎の魔戦士――エイデン。

彼は奴隷の身を脱し、王都に潜伏しながら、この戦いの行方を見守っていたのだ。

炎の王が放った火刑の魔力に同化し、その身を炎と一体化させることで、イレーナを包み込み、救い出したのだった。

「助けに行けず、すまなかった……だが、逆に助けられるとは……ありがとう、エイデン。」


「いいてことよ。」


彼の肩の上で、イレーナがもぞもぞと動く。


「……誰か知らないけど、助かったわ。ありがとう。でも、もう降ろして。……まったく、びしょ濡れじゃない。」


束の間の再会に、四人は微笑みを交わす。


だが余韻は短い。戦況はなお激しく、炎の魔導士、騎士たちが迫りくる。ノクティア、エイデン、イレーナは敵を食い止め、レイに炎の王への道を切り開く。


ついに、レイと炎の王が対峙――一騎打ちとなった。


突出した天位魔導士である炎の王の魔力は圧倒的。

対するレイは未だ天位には至らず、風、炎、水、光、闇――

あらゆる魔術を駆使しながらも、次第に押されていく。

戦いの中、レイは光・闇・炎・水が、風の中にあるものではないかと感じ始める。

かつて、父との会話が脳裏に浮かぶ。

「風なんて、目に見えないじゃないか。本当にあるのかもわからない。」

「目には見えないが、今でも私とレイとの間に、それは確かに存在している。」

それは"風"ではなく――"空間"だった。

光・闇・炎・水は空間に存在する力、"風" なのだと。

レイは風の魔術の真髄に気づき始める。

父が最後の戦いで見せた、秘奥――空間魔術。


レイの身体が空間に拡散し、四つの分身が同時に蒼き炎を放つ。

その圧倒的な連撃に、炎の王はついに膝をついた。

水の粒石による回復すら、間に合わない。


だが、倒れようとするその前に、それまで冷静に見えたノクティアが怒りに燃える表情で立ちはだかる。


彼女は、目覚めさせることの出来なかった炎の魔術が、今ここに覚醒していた。


「よくも……父上と、ナディア姉さんを……!」


その名を聞いた瞬間、レイの表情が凍りつく。


「……ノクティア……君は、ナディアの妹だったのか。」


彼女の炎がわずかに揺らぐ。


「よすんだ、ノクティア。彼は……君の姉さん、ナディアを愛していた。」


「……なぜ、そんな……」


戸惑いの中、ノクティアの魔力がぶれ、放たれた炎はわずかに逸れる。

炎の王は、命をつなぐ。




『炎の夢』


レイは炎の王に尋ねる。

「なぜ、世界の征服を……?」

レイの問いに、炎の王はうなだれたように小さく呟いた。


「……それは、この世界には“創造者”と呼ばれる"神"の存在があるからだ。」


レイは目を細める。

「創造者……?」


炎の王はうなずき、ゆっくりと語り始めた。


「奴は慈悲深い存在ではない。創造者はあらゆる魔力を操り、不可能を可能とする存在だ。――そして世界から、際限のない魔力を吸い上げている。」

魔力は各世界の守護竜たちを介して、創造者が従える神龍”ゴット・ドラゴン”が魔力を取り纏め、創造者へ送っているのだと言う。


レイは息を呑む。

「なぜ……?」


「わからん。創造者は何も語ろうとはしない。ただ確かなのは、ここ数年、その“要求量”が急激に増しているということだ。」


炎の王の語る内容は、国家の根幹を揺るがすものだった。


「だが、この事実を知る者は、各国のごく一部の首脳陣だけ。もし公になれば、民は恐慌を起こし、国は崩壊する。“神” 自身からも、口外を禁じられている。」


炎の王の声に、かすかな怒りと無力感が滲む。


「だから各国は争い始めた。神の要求を拒絶することは出来ない。――魔力の粒石を巡る戦争が始まった。」


「……光の国との戦争も……」


「そうだ……。あれもすべて、魔力の粒石を巡る“争奪”だった。」


レイの表情が暗くなる。


「闇の国の魔力の減少……あれも創造者のせいなのか?」


炎の王は、苦笑する。


「多分、歴代の闇の王は民から直接徴収するのを避け、秘密裡に魔力を掠め取って、神に献上していたのであろう。闇の魔術は、証拠を隠すのに適しているからな。」


そして、炎の王は空を見上げる。


「ナディアは、“和平”を望んでいた。私は、彼女の願いを形にしようとした。だが、和平とは理想だ。理想を実現するには、まず力が要る。」


「……それで、世界を征服しようと?」


「そうだ。4つの属性――光、闇、炎、水――の粒石が揃えば、“中心大地”へ通じる門が開く。そこに創造者がいる。私は神に会い、要求を止めさせようと考えた。」


炎の王は地面を睨みながら言う。


「……だが、神は、我々のことなど“相手”にさえしていない。祈っても叫んでも届かない。だから私は……力を持って、奴の前に立とうとした。」


レイは目を伏せる。


「創造者が魔力の収奪を止めれば……争いは減り、和平の可能性も見えてくる。そう思ったのですね。」


「そうだ。だが、俺はお前に力で負けた。力が足りなかった。今はそれを潔く受け入れるしかないようだ・・・。」


「……ナディア……すまなかった……」


そのまま、静かに目を閉じ、息を引き取る。

彼の胸には、ナディアへの想いと、叶わぬ夢が静かに宿っていた。


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