第1部 ~零の魔導士~ エピソード3
『虚と真の果て』
セリスは静かに語り始めた。
その声には、悔いと哀しみを偲ばせていた。
幼い頃、彼はこの世界に突如現れたひとりの魔導士に命を救われた。
その魔導士の術は想像を遥かに超え、圧倒的な力を秘めていた。
その魔導士の正体――「陰の王」であった。
成長するにつれ、セリスは魔術の探究者として陰の王に魅せられていく。
そしてある日、陰の王から語られた計画の全貌——それは、この世界すべてを覆うような野望だった。
セリスは命の恩人であり師でもある陰の王に背くことはできなかった。
陰の王は表向き、病弱で慈悲深い名君を装っていたが、その実態はソラと同じく4つの魔力を操る魔導士であり、その力はソラを遥かに凌駕していた。
陰の王の目的は陽の世界の征服だけにとどまらなかった。
セリスが策略した分断の戦いで弱体化した真と虚の世界を支配下に置き、さらには未知の世界をも征服し、全世界を我がものとする壮大な野望があった。
陰の王は、インフィニスはこの計画に賛成しないだろうと考え、「魔力の負の力」を理由に見せかけて彼を陽の世界へ侵攻させたのだった。
「魔力の負の力」はセリスの策略の結果で発生したものである為、陰の王には発生を抑えることも増加させることも出来たのであった。
真と虚の世界の弱体化に加担していたセリスだったが、葛藤に悩まされ続けていた。
「私は、陰の王に背くことは出来ない。だがこれ以上、真と虚の世界の崩壊させたくない。私はもう、ルナやアイラに相応しい者ではない・・・。」
追い込まれたセリスは、ルナに真と虚の世界の再統一を託すことにする。セリス自身を超えさせることで・・・。
「彼女なら、両世界の崩壊を阻止することができる。私を超えて・・・。」
ルナに倒されたセリスだったが、セリスとルナの決戦の情報を事前に知った陰の王は、密かに決戦の行方を見守っていた。
そして、ルナを欺いてセリスの命を救っていたのだった。
「なぜ、私を助けたのです・・・。」
「我々はまだ道半ばだ。死ぬにはまだ早い。かつてのお前はもうこの世からいなくなった、と解釈できるのではないか。
これからどうするか、お前自身で決めるがよい。」
(私はもう、ルナやアイラが求めているセリスではない。彼女たちの心に残るセリスを壊したくない。)
セリスは名をヴェルスと変え、情を捨て、陰の王に従う道を選んだ。
セリスがそこまで語り終えると、負の魔力はもう彼の全身に巡って蝕み、飲み込もうとしていた。
彼は意識が遠のく中、陰の王の恩に報いた思いと、ルナやアイラを裏切った痛みを胸に抱きながら、静かにその生涯を閉じた。
『陰の王』
真実は明らかになるが、ソラたちは「真」と「虚」の世界がすでに疲弊しきっており、完全に陰の王の術中に陥っていることを悟った。
もはや一刻の猶予も残されていなかった。
一方、インフィニスも自分の行動が陰の王の計画の一部だったことを知り大きく動揺するが、その過ちを正すべく立ち上がる決意を固める。
真と虚の王たちは事の重大さを理解し、自らの世界を代表する最強の魔導士、ルナとアイラを派遣することを決めた。
その頃、陰の王は高台に立ち、鋭い眼光で夜空を見上げていた。
そこには、星々の中心で動かない、一点の極星が輝いていた。
「セリスよ、安らかに眠れ。後は私が引き継ぐ。」
『先代王』
陽と陰の境界に出たソラたちは、陰の国が圧倒的な勢いで勢力を拡大し、陽の国が滅亡寸前である事実を知る。
陽の王は、苦境の中で戦い続けるべきか、それとも降伏するべきか、深く苦悩していた。
その胸中に浮かぶのは、先代の王――父の最期の言葉だった。
「陰の王を、決して侮るな」
父はかつて、陰の王の評判や表向きの姿に違和感を抱き、その本質を見極めようとしていた節があった。
父の存命中に王位を継承し、その後見を受けていた彼だったが、若さゆえに事あるごとに父に反発し、陰の王についても過小評価してきた。
いま、自らの未熟を深く悔いていた。
やがてソラたちは陽の王と合流を果たし、王都を守り抜く戦いの中で一時的に敵軍を退けることに成功する。
インフィニスの寝返りを知った敵軍は動揺し、侵攻に混乱を生じさせるが、もはや劣勢は如何ともし難かった。
ソラ、インフィニス、ルナ、アイラ、陽の王の5人は、状況を打開すべく、陰の世界へと潜入する決断を下す。
インフィニスがその先導を務め、5人は陰の王との直接対決に挑む。
陰の世界にて、彼らは陰の四天王と激闘を繰り広げる。
死闘の末、四天王を打ち破るが、最後の四天王から「陰の王はもはやこの地にはいない。」と告げられる。
陰の王はすでに4つの魔力で超越した存在となっており、新たな世界の扉を開くために因果の結晶の元へと向かっている。
もう彼の後を追うすべはなく、手遅れなのだと。
そのとき陽の王の脳裏に、父の時代の記憶がよぎる。陽と陰の境界付近で発見された古代遺跡のことを。
父はそこに因果の結晶が眠っていると信じ、発掘調査を進めた。
しかし因果の結晶を発見することは出来ず、父の死後、陽の王はそれを無意味として中断していた。
ソラたちは希望を求め、その古代遺跡へと向かう。
遺跡内部で、ソラは故郷の村を出発して以来ずっと大切に持っていた古文書の文字と、酷似した文字の壁版を発見する。
二つを組み合わせたことで、文字の意味が徐々に解き明かされていく。
解読が進む中で、彼ら5人が持つ対極の4つの魔力がその均衡点―――中心座標を示し始める。
それは遺跡の奥底へと続く、因果の結晶への道だった。
だがその頃、因果の結晶の前に立つ陰の王は、その力と向き合い続けて、ついに新たな世界の扉を開こうとしていた。
その瞬間、陰の王の前に巨大な魔力が降り注いできた。それは陽の先代王が生前に古代遺跡に残した、残像魔力だった。
「……友よ。死してなお、我が前に立ち塞がるか。」
「友として、お前がその道を歩むのを止めねばならぬ。何もせぬまま死んだとでも思っていたのか。」
「なるほど、あのソラという少女・・・。私と同じ存在がいるのは、あなたの仕業か。あの古文書がまだ残っていたとはな・・・。」
二人の因縁の戦いが、ここに始まった。
因果の結晶に辿り着いたソラたちは、異次元の戦いが繰り広げられているのを目の当たりにする。
「あの人は・・。」
ソラの記憶に浮かんだのは、かつて旅立ちの村で古文書を託してくれた旅の魔導士の姿だった。
「父上!」
陽の王の叫びに、残像はわずかに微笑み、静かにその姿を消した――。
『探求者』
陰の王とソラたちの壮絶な戦いが始まった。
その力は圧倒的で、5人は幾度となく絶望の淵に立たされる。
それでも、彼らはそれぞれの力と信念を結集し、ついに陰の王を打ち破ることに成功した。
息を耐えようする陰の王にインフィニスが問いかける。
「……なぜ、こんなことを?」
陰の王は、静かに答えた。
「私の望みは、支配ではなかった。ただ知りたかった…。この世界とは一体何なのかを。」
陰の王は全世界の征服のその先に、全ての真実の解明を見ていた。
彼にとって全世界の征服は、「世界とは何か」という問いの答えに到達するための手段にすぎなかったのだ。
陰の王もまた、ソラと同じ問いを抱え続けていたのであった。
かつて、陰の王も魔力を持たずに生まれた。
その事実は、先王と后によって隠され、他に知る者はいなかった。
両親は彼の魔力を発現させるために、あらゆる努力を尽くした。そしてその代償として命を落とす。
しかし、彼に芽生えた魔力は、「陰」のみならず、「陽」「真」「虚」までもが混在していた。
両親の死後、王位を継いだ彼は陰以外の魔力が発動していることは誰にも言わず、自問し続けていた。
「私は何者なのだ。陰の世界のものではないのか。これらの魔力は一体、知りたい…。
いや、知らなければならない。これらは一体何なのかを。」
彼は単なる支配者ではなく、果てしなく真実を追い求める存在だったのである。その告白を前に、ソラたちは言葉を失った。
戦いの代償は大きかった。世界の「因果の結晶」が崩れ始め、全ての世界が不安定な状態に陥ってしまったのだ。
『究極魔術』
ソラたち5人は、「因果の結晶」を元に戻すために挑む。だが、その復元は予想を超える困難さを伴っていた。
混乱の中、ソラは四つの魔力にわずかな繋がりを感じた。
直感が告げる――これらの魔力は、決して独立して存在するものではないと。
その瞬間、5人の魔力はソラの周囲で結びつき、未知なる魔力の出現の連鎖が始まった。
未知なる魔力の出現連鎖は無限に続き、それはソラを円形に取り囲み、「究極魔術」を昇華させる。
ソラにはなぜかその無限の種類の魔力たちが1つのように見えていた。
それは認識と論理を超え、因果を超えたビジョンで、何か深い真実を示唆しているように思えた。
「あらゆるものが違って見えているのは、私がただ区別しているだけではないのか。
一つのものとして見ることができないのは、ただ私の枠が狭いだけではないのか。」
「私は異端……本当にそうなのか。
枠を外せば、すべては等しく、“同じ”なのではないか……。」
「究極魔術」の力は、「因果の結晶」を崩壊から再生へと流れを向かわせる。
5人が見守る中、崩壊寸前だった世界は再び調和を取り戻していった。
『新たな旅立ち』
激しい戦いはついに終わりを迎えた。
それによって、4つの世界に新たな希望が生まれ、和平への道が開かれた。
だが、世界のバランスが完全に安定したわけではなかった。
そんな中、陽の王はこれまでのように、自らの国や魔術だけに固執する在り方を改める決意を固めていた。
各世界は互いに目を向け、協力し合う重要性を学び始めていた。
「究極魔術」や「未知なる魔力」は、あの最後の戦い以降、再現されることはなかった。
ソラにはまだ問いが残っていた。戦いの最中に見たあのビジョン、あれは「世界とは何か」を示していたのだろうか。
「今、目に見えているものは、すべてのほんの一片に過ぎない。」
そんな示唆が、ソラの胸に深く刻まれていた。 まだ多くの知らないことが、この世界にはある。それを知りたい。
そして、ビジョンで垣間見た未知なる魔力と世界の存在を信じ、新たな旅立ちを決意する。
「自分は何者なのか。そして、この世界は一体何なのか。」を求めて
インフィニスもまた、同じビジョンを見ていた。陰の王の計画を見抜けなかったことなど、過去の自身の視野の狭さを振り返っていた。
彼も未知の世界への旅を望んでいるが、彼には王族として世界の修復を見届けるという使命があった。旅に出るのはその後と決める。
陽の王は、かつての独善的な在り方を改め、各世界に目を向けた新たな国づくりを誓う。その誓いを、父王の墓前で静かに捧げていた。
陽の王はその実現にソラも共に協力してほしいと願うのだが、彼女の意思を尊重し、可能な限りの旅の援助を約束する。
ソラの旅立ちを知ったルナとアイラも、ソラのもとへ遥々駆け付けた。
彼女らは別れを惜しむが、その決断をソラらしいものと受け止めており、旅の成功を祈るのであった。
ルナとアイラはかつての友情を取り戻しており、その関係には絆の深さが感じられた。
ソラとインフィニスは、互いに再会を誓いながら、それぞれの道へと進んでいく。
その背中を見送る人々は、かつて「無力者」と嘲笑していた彼女を「世界の交差を成した者」として称えた。