第3部 交差の魔導士 外伝(無限と共に) ep.4 交差の円環
『交差の円環』
ソラはメビウスの子を宿していた。
やがて、ソラは五つ子を産んだ。
成長した四人は、やがて荒野を離れた。
世界の各地へ魔力を伝え、光・闇・火・水―― それぞれの世界の礎となっていった。
残る一人は、荒野に留まった。
レイ、メビウスの面影を残す彼。
ソラは、荒野の未来を彼に託す。
そして、再び旅立つことを選ぶ。答えを探すために。終わりなき問いの、その先へ向かうために。
別れのとき、ソラは一つの粒石を差し出した。それは、かつてメビウスが持っていた粒石だった。
「もし、私が必要になったなら――この粒石に願いなさい。
そうすれば私は、風と共に帰ってきます。
あの岩肌のドラゴンの壁画へ――」
――そして、数千年の時は流れ、
ソラは、メビウスの外套を纏い、なお旅を続けていた。
ふと、ソラは、自らの奥底に眠るドラゴンの声を聞く。
それは、ニースを救うべく、ドラゴンの覚醒を願う、風の王――カイラスの祈りだった。
ソラは、立ち止まり、振り返る。
次の瞬間、彼女の身体は一陣の風となり、空へと舞い上がった。
――風の国。
恋人も家族も失い、ニースは、後悔、悲しみ、憎しみを超え、心は崩壊していた。ニースはすべてを放棄するかのように、戦場の真ん中で立ち尽くしていた。
復讐心に満ちた魔導士たちが殺到して、ニースを目掛けて迫ってくる。
そのとき――
崖の岩肌に刻まれたドラゴンの壁画に、激しい暴風が叩きつけられた。
ドラゴンの目に、光が灯る。
岩から離れ、翼を広げ、ドラゴンは羽ばたいた。
そして、ニースの元へと舞い降り、その身で包み込むと、迫りくる魔導士たちを烈風とともに吹き飛ばす。
その羽ばたき一つで戦場の空気を一変し、ドラゴンはニースを抱え、空へと舞い上がった。
その飛び立つ暴風は、光の魔導軍を一掃していた。
――ドラゴンが飛び立った崖は崩れ、巨大な穴が口を開けていた。
その底に残されていたのは、ソラが着ていたメビウスの外套――
そして、その上に落ちていた、ソラの、テセウスのネックレス。
ネックレスから衝撃で外れた一粒の粒石が、静かに転がっていた。
――そして、数百年後。
洞窟で迷った少年レイは、その粒石に心を奪われる。
落ちていた外套を纏い、粒石を懐に収め、彼は洞窟を後にする。
因果は閉じ、時空は輪となった。
その数年後、最果ての地にて ――
世界の崩壊が迫る中、ソラとレイは、必死に抗っていた。
次の瞬間、── 大爆発が起きた。
ネイピアとインフィニスは、爆発に吹き飛ばされ、立ち尽くす。
辺りには、崩壊を免れた世界の姿があった。
「……二人が死んだことで、世界は救われたの?」
涙ぐむネイピア。
「泣くでない……あの二人が、簡単に死ぬものか」
インフィニスはソラの形見である古文書を取り出し、それを見つめながら言う。
ネイピアのもとに、傷が癒えてないながらもスカイドラゴンが舞い降りてくる。
スカイドラゴンは、その古文書を見つめ続けるのであった・・・。
――ネイピアとインフィニスは、しばらく大爆発の跡を離れられずにいた。
まだ傷の癒えないスカイドラゴンは、傷だらけの顔でインフィニスの手にある古文書を、なぜか愛おしむように見つめ続けていた。
やがておもむろに古文書に呼び掛ける。
「やっと会えたわね。レイ・・・。」
古文書の中で眠っていた精霊は、静かに目を覚ます。
そして、その声はスカイドラゴンにだけ届いた。
「ああ、ソラ・・・。言っただろう。僕たちは、“交差”する運命、いや・・・
―― ずっと一緒だったんだね ――




