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交差の魔導士  作者: オズ
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第3部 交差の魔導士 外伝(無限と共に) ep.2 虚飾の都

『虚飾の都』

――異変の前、虚飾の都

そこは驚くほど華やかで、夢のような都だった。

咲くはずのない季節外れの花が、街路樹のように咲き乱れ、空には無数の幻光が漂い、夜昼の区別さえ曖昧になっている。

人々は競うように魔法を使い捨て、誰がより豪奢な光を放てるか、誰がより多くの視線を集められるかに執着している。


広場の中央では、華美な衣装に身を包んだ――人々から“ カリスマ" と呼ばれる存在が、声高に叫んでいた。


「見てください! この粒石で、私はこんなにも幸せ!」

「あなたも祈れば、同じ光が手に入るわ!」


その一言ごとに、周囲の魔鏡が輝き、市民たちは思考を止めて反射的に祈りを捧げる。


「いいね!」


この都では、他者より目立つこと、他者より認められていると示すこと――それだけが価値だった。

票を得るため、支持を得るため、人々は嘘の魔法で着飾り、互いに競い合う。

笑顔の裏で、「自分より下」を探す視線が交差している。

誰もが何かを必死に掴もうとしながら、同時に、何か大切なものを見失っているようだった。


だが、その狂宴は、この異変を境に、狂乱へと変わる。

豪奢だった衣装の価値が、一瞬で反転した。


「……待って。これ、今の流行じゃない……?」

「似合うかどうかじゃない。“遅れてる”って思われたら終わりよ……!」


称賛の声は罵声へと変わり、称賛の嵐は、非難へと反転する。

承認が剥がれ落ちた瞬間、自分自身の空虚さと向き合わされた人々は、怒り、泣き、互いを責め始めた。

都のあちこちで "炎上裁判" が行われていた。

"炎上裁判" に引きずり出され、恐れ慄くかつての "カリスマ" たち。


そんな混乱のさなか、ソラは虚飾の都に辿り着く。


虚飾の王もまた、その例外ではなかった。

王の支持率は急落し、民衆は王宮を取り囲み、王を炎上裁判に引きずり出そうとしている。


王は震える声で、ソラに縋りついた。

「魔導士様、お願いです……! 私が間違っていました!

 アグネウスを倒してくれれば、次こそは……もっと誠実な都を築くと誓います!

 だから、今は……この混乱を、お静めください!」


ソラは複雑な思いを抱えながらも、混乱を鎮めるため、負の災魔の討伐と、アグネウスの捜索に向かう。


やがて、ソラはアグネウスを見つけ、戦闘となった。

激しく魔力が交錯するが、アグネウスの動きはどこか抑えられている。

――アウグネスの魔力はまだ、完全には戻っていない。

アグネウスは深追いをせず、距離を保ち、隙を見つけては姿を消した。


ソラは感じていた。

(回復されたら……今の私では、止められない。その前に止めないと)


ソラはアグネウスの後を追う。


その先は、解脱の都へと繫がっていた。




『解脱の都』

解脱の都は、虚飾の都とはまるで別世界だった。

派手な装飾はなく、石畳は磨かれ、建物は簡素で均整が取れている。

色彩は抑えられ、音も少ない。

人々は必要以上に語らず、必要以上に求めない。

負の魔力も一切感じられなかった。


ここには「足るを知る」空気が、確かにあった。


王もまた、その象徴だった。

王冠は戴かず、玉座にも座らない。

彼は民と同じ麻の衣を纏い、朝は自ら井戸を汲み、夕には街路を掃く。

王はその教えで民を導き、静かで慎ましい生活を自ら実践し、民にも奨励していた。

民は王を尊敬し、慎ましやかに穏やかに暮らしていた。


ソラは解脱の王と面会する。

王は他の都でのソラの活躍を伝え聞いていた。ソラに旅の労を労う。

「あなたは、重荷を背負いすぎているように思えます。一度ここで、その重荷を降ろしてみては如何でしょうか。答えが見つかるかもしれません。

 全てからの真の解脱などあり得ません。ですが、必要以上にものを得ること、感情に流されることは必要ありません。あるがまま、自然を受け入れれば良いのです。」


ソラは、この都に入って初めて、胸の奥の張り詰めていたものが、ほんのわずか緩むのを感じる。

虚飾の都では、立ち止まれば沈む。だがここでは、立ち止まることが許されているように思えた。


ソラは、消えたアウグネスの痕跡を求め、解脱の都の外縁を歩いていた。


王の言葉が、胸の奥に重く沈んでいる。

都の外に広がる自然は、あまりに穏やかだった。

古い寺院。人の祈りが幾重にも染み込んだ聖堂。

霊験あらたかと伝えられる山頂と、風ひとつで水面の色を変える神秘の湖。

それらは確かに「清められた世界」の象徴だった。


そらは大分都から離れた場所に辿り着いていた。

そこには "解脱の谷" という霊験あらたかな谷があった。それ故に、そこは人の立ち入りが厳しかった。

わずかだが、確かに――負の魔力が漂っているのを感じるソラ。

谷を進むソラの視界に、見覚えのある物が入る。

「あれは、メビウスの外套……!」

ソラは迷わずに谷の奥へと踏み込んだ。


そこでソラは、この谷の正体を知る。

他の華やかな三つの都で生じた魔力の残滓。

それらすべてが、負の魔力となって、この谷に集められていた。


そこでそれらの魔力の残骸を丹念に調べている者を見つけ、ソラは叫ぶ。

「メビウス!」

「ソラ、まさか、君にここで会えるなんて」

メビウスはこの谷を何とか出来ないかとずっと思案していたという。

「ソラ、見てくれ。この負の魔力は、死んだものではない。

我々が『不要』と決め付けているだけで、正しく処理すれば、世界を救う新しい魔力になる可能性があるんだ……」

そんなメビウスの純粋さに、ソラは口を紡ぐ。


各都の異変はこの谷が満ち始めたため、災厄は、外へと溢れ出しているようであった。


ソラとメビウスは、解脱の谷を後にした。

二人は王のもとを訪れ、谷で見たすべてを伝えた。

話を聞き終えた王は、しばし沈黙した後、静かに話し始めた。

「実は、以前からあの付近で魔導士アグネウスの姿を見たという噂が絶えない。

 各都で起きている異変が、もし彼女の仕業だとするなら……解脱の谷は、彼女の潜伏先、あるいは拠点なのかもしれぬ。」


「アグネウス……」

その名を聞き、メビウスが静かに頷いた。




『解脱の前夜』

アグネウスの探索のため、解脱の谷へ向かう道すがら、メビウスは歩みを緩め、ソラに静かに語りかけた。

「……彼女は、敵ではないと思う。

 アグネウスは巨大な魔力を求めている。だけど、悪いことに使おうとはしていないと思う。

 忘却の都で、彼女が都の魔力を解いた後……私は、瀕死の彼女を助けた。

 彼女は寡黙であまり話をしなかったが、怒りや憎しみいったものは感じなかった。

 己の野心のためだけに、命を削るような真似は出来ないと思うんだ。」


ソラは足を止め、振り返る。

「忘却の都を、夢から覚まさせるための……荒療治だったというの?」

ソラも、あの都で見たアグネウスの姿を思い出していた。

「取り押さえて、真意を聞きましょう。それが違っていたなら……その時は、その時です」


メビウスは、短く頷いた。

「分かった。君の判断を尊重しよう」


二人は解脱の谷の奥でアグネウスを発見、戦いに挑む。


「メビウスか……あの時は世話になった。お前だけは、巻き込みたくなかったが。」

アグネウスはソラを見てメビウスに言う。

「ほう、その魔女はお前の知り合いだったか……

 いいだろう。礼代わりと言っては何だが、少し手加減してやるとしよう。お前の命だけは取らないでおいてやる。」


戦いが始まった。

アグネウスの魔力は圧倒的だった。ソラとメビウスは必死に食らいつくが、次第に押されていく。


その様子を、遠くから見下ろしていた者たちがいた。

各都の王たちだった。

「この戦いの先は見えている。・・・どうする?」


王たちは心を決め、魔力を放った。

狙いは――ソラ。


「なっ……危ない、ソラ!」

咄嗟にメビウスが間に割って入る。

彼は、防御の魔法を展開しようとしたが――間に合わなかった。

崩れ落ちるメビウスの身体を、ソラが抱き留める。

「メビウス……!」

彼は、薄く笑った。

「……ごめん。間に合うと思ったんだが、どじってしまった……。」

その言葉を最後に、メビウスは目を閉じた。


「どうして・・・。」


「あなたも……私を、騙していたのですか」

ソラは解脱の王に問いただす。


解脱の王は視線を伏せ、静かに語る。

「許してほしい、ソラ。私は――私の都を、解脱の極楽浄土へ導きたかった。

 だが、解脱にも魔力が要る。

 私は、他の都の負の魔力を谷に引き受けることで、その代価を得ていました。

 すべての都を、すべての人を救うことなど、最初から叶わぬことなのです・・・。」


都の王たちは全ての事情を知っていたのだった。


ソラは拳を強く握りしめる。

「私が……彼の言葉を信じきれず、真実に気づけなかったせいで、彼を……!」


ソラはメビウスを抱え、失意のうちに戦場を離脱する。


王たちはアグネウスへと向き直る。

「あの魔女は、この世界の新たな脅威です。この世界の異変はあの魔女によるものだと思い、監視を続けていました。ここは協力してあの魔女を排除すべきかと。」


メビウスの死に、気分を害していたアグネウスだったが、感情に溺れることはなかった。

「……分かった。今は、あの魔女を見逃す理由もない。」




『思惑』

メビウスを埋葬するソラ。

メビウスの外套を纏い、彼の魔力の粒石を見つめるソラ。

かつての彼の言葉を思い出していた。


「アグネウスは巨大な魔力を欲しがっている。だけど悪いことに使おうとはしていないと思う。」


その直後だった。

地鳴りのような足音が、谷に響き渡る。

王たちの軍勢、そしてアグネウス。


戦いが始まり、ソラとアグネウスは死闘を繰り広げる。

アグネウスは王たちとともにソラを追い込む。

極限の状況の中、アグネウスは王たちに告げる。


「王たちよ、今がこの魔女を仕留める絶好のチャンスだ。だが、私の魔力はもう底を尽きている。お前たちの "魔の結晶" の力を私に集めてくれ。

そうすれば、あの魔女を仕留められる。私に力を貸してくれ!」


王たちは互いに視線を交わし、ほくそ笑む。

「アグネウスに力を貸しても、術が終われば彼女は空っぽだ。その瞬間に、我々の軍勢で彼女を刺せばいい」

彼らは即座に、自らの "魔力の結晶" をアグネウスへと繋いだ。

アグネウスは王たちの結晶の力を集約し、大きく手を振りかざし、渾身の一撃を放とうとする。

アグネウスは王たちに告げる。

「これで、チェックメイトだ。お前たち!」

アグネウスはソラではなく、王たちを魔力で捕縛する。

魔力結晶が、王たちの手から引き剥がされる。

結晶はアグネウスのもとへ吸い寄せられ、彼女の掌に収まる。

「どういうことだ!貴様、裏切ったな」

アグネウスは王たちに見向きもせず、ソラに手を差し伸べ、言う。

「わざと、追い詰められたように見せたな……。この状況になれば、私がこう動くと……分かっていたのか。」

ソラは、静かに頷く。

「ええ、アグネウス。あなたなら、きっとそうすると思っていた。」


アグネウスは目を細め――優しい声で言った。

「メビウスのことは残念だった……。私も心からそう思う。

 これからは“アグネス”と呼んでくれ。“アグネウス”は、どうにも堅苦しくてな。」


ソラはアグネスに尋ねた。

ソラ「アグネス。あなたはなぜ、いくつもの都で魔力の効力を解こうとしているの。」

アグネウスは少し怪訝な表情を浮かべ答えた。

「確かに、忘却の都では、私が魔力の効力を解いた。あの都は……人の心が壊れかけていた。見過ごすことができなかった。

 だが、それ以外は違う。豊作の都や虚飾の都で起きた魔力の消滅は、私ではない。」

ソラは眉をひそめる。

「では、何が――」

アグネウスは王たちに視線を向けて言う。

「私もそれを探っていたのだが、どうやら王たちが知っているようだな。」


王たちは、観念したように語り始めた。

「この四つの世界の中心には、大きな大地があると言われている。

 その地は“中央大地”と呼ばれ、そこに、この世界のすべてを司る存在――“創造者”がいると伝えられている

 中央大地へ至る門を開くには、強力な魔力の結晶、そして――自らも魔力を宿す者でなければならない、と言われている。

 我々が、あなたたちを警戒していた理由は、“門に近づきすぎた存在”で、今の秩序を乱す存在ではないかと恐れたからだ。」


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