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交差の魔導士  作者: オズ
22/29

第3部 交差の魔導士 外伝(存在を超えて) ep.1 非存在の世界

― 虚の魔導士 ( 存在を超えて) ―



『非存在の世界』

セリスは、ソラ、インフィニス、ルナ、アイラたちとの戦いの果てに、その存在は負の魔力によって消し去られていた。

だが、それは全てが無になったということではなかった。


セリスは、自分が「存在の外」――"非存在" とも呼ぶべき世界に立っていることを理解する。


ルナやアイラへの後悔。罪悪感が胸を締めつける。



――― 私は、存在するに値しない。 ―――



セリスは過去の自分自身を「消す」決心をする。


非存在となったセリスは時間の存在を消し始め、過去にさかのぼり始める。

過ちの根源、かつての陰の王、エレオスとの再会が約束された日――それを目指して。




「消された自分」

陰の王エレオスとの約束の日。

セリスはその日に到着し、過去の自分の存在を消すことに成功する。

それ以降、"影のセリス" として、過去のセリスに取り付く。


過去のセリスは約束の場所に到着する。だが、"影のセリス" によって自身の存在は消されており、エレオスの目には映らない。

長い時間、エレオスは待っていたが、セリスが来ないと判断し、ついにその場を去る。


必至に自分の存在を訴えるセリス。

両親はすでに他界し、エレオスとのつながりも絶たれたかのように思え、自らの存在意義が揺らぎ始める。

セリスの真と虚の魔力は消え去り、また負の魔力を帯びる存在となってしまった。


こうして、セリスの孤独な流浪の旅が始まった。


―― お前は存在するに値しない ――


心の奥底で、誰かが常に囁く。

「……私自身の声なのか?」


だが、"影のセリス" はセリスの存在を完全にかき消すまでには至っていなかった。

時間を消し続け、過去にさかのぼってきたことで"影のセリス" の力は残り僅かであった。


セリスは"影のセリス" との心の葛藤に苦しみながらも、かつてエレオスが残した言葉を思い出す。


「私はかつて、人のためだけに生きていた。人のために生きることは尊い。

だが、自分のために生きることは、自分にしか出来ない、掛け替えもなく奥深いことなのだ。

人のために生きれないとしても、自分のために生きるのであれば、生きる意味はあるのではないか。

生きて、自分がやりたいことをすればいい。――― 決めるのは他人ではなく、自分自身なのだから。」




「修道女」

心の葛藤に疲れ果てたセリスは、道端で力尽きるように倒れていた。

その姿はまるで世界から消えたかのようで、誰も見向きもしない。

そのとき、一人の修道女が静かに足を止め、セリスの傍らに膝をついた。

彼女は彼を抱き起こし、街の片隅にある小さな寺院へと連れて行き、傷を癒す。

彼女の名は――クリスティナ。

「大丈夫。あなたはここにいます。ここにいていいのです。」


その言葉は、初めてセリスが受け取った無償の優しさだった。

寺院での日々が始まる。

セリスは日々、クリスティナが世間から見捨てられた人々に救いの手を差し伸べる姿を目にする。

やがて少しずつ元気を取り戻し、彼女を手伝うようになった。

だが、報われないことも多く、彼女の善意を裏切る人間も少なくはなかった。

そんな時、クリスティナはふと呟く。


「……彼らにも、人には言えない事情があるのよ。きっと……」


クリスティナは魔力を持っていないようだった。


セリスはクリスティナに尋ねる。


「シスター、教えてください。捧げるだけの人生で、あなたには何が残るのですか。」


「そうね・・・。私に残るものは少ないわね・・・。

でも、私が愛を捧げることで、人生を取り戻せる人がいるのなら

―― 私もその人の影で生きていると言えるの。・・・こんな言い方、おこがましいわね・・・。」


彼女も、何か人には言えないものを背負っているように思えた。


その時――“影のセリス”は、クリスティナの視線が自分に向けられているのに気づく。

慌てて目をそらし、立ち去る "影のセリス"。

その後ろ姿を、クリスティナは悲しげに見守っていた。


やがてセリスも、修道士として寺院に身を置くようになる。


前を向いて生きようとするセリスの姿を見て、"影のセリス" の心境にも変化が生まれる。

彼を完全に消し去ることはやめ、しばらく見守ろうと決める。




「真の王」

―――真の国の王都


真の王は、先王の代に筆頭魔導士を務めていた男であった。

彼は、かつての大動乱の折、真王ナシルと虚王シエンナを世界の扉へ送り出した後、"敵中突破" を敢行し、生き延びていた。

その後、内なる炎を胸に秘め、先王が退位すると実力で王位に上り詰め、更なる高みを目指し続けている。

王位についたのち筆頭魔導士を辞したのは、己の目的に密かに専念するためであった。


真の王は、生前の陽王トランセスから「陰王エレオスが真と虚の両国を狙っている」との忠告を受けていた。

真の王は十数年前の大動乱の折、陰王エレオスと時空の魔女の強さを目の当たりにしている。

彼の脳裏に焼き尽くものは、大動乱の折にエレオスが彼の世界へ帰ったあと、

同士討ちで時空の魔女に大敗北を喫する真と虚の両軍とその戦場、倒れた仲間たちだった。


当時、エレオスや時空の魔女に及んでいなかった自分を恥じている。

「私は井の中の蛙だった・・・。」

一方で、あのときのエレオスが炎と闇の魔導士たちの消息を確認しないまま、彼の世界へ帰ってしまったことを心の中で強く非難していた。

それと同時に、時空の魔女に対する復讐を深く誓っていた。

それ以来、真の王は臥薪嘗胆し、力を蓄え、陰王エレオス、時空の魔女は彼が超えるべき目標となっていた。それが眠っていた彼の野望に火をつける。


彼が考える構想は、地の底深くに沈んだ「因果の結晶」を陰王に先んじて引き上げ、我がものとし、その力で陰王を凌駕する。


十数年前の動乱で「因果の結晶」が地底深く沈んだ折、真と虚の国の境界に地の底深くに繫がる大きな亀裂が出来ていた。

真の王はその亀裂を密かに調査し、その亀裂が「因果の結晶」に繋がっているとの確信を得る。

そして自らは、密かに王務を抜け出しては亀裂の地底深くに赴き、その遥か深部に眠る因果の結晶の"真"の力を引き出し、操る術を身に付けるに至った。

だが、「因果の結晶」を引き上げるには、虚の国を含めた両国の膨大な魔力を注ぎ込まねばならない。

真王の野望の趨勢は、いかに虚の国を素早く征服するかに掛かっていた。

「陰王を超えて、誰よりも先に全世界を征服し、そして "時空の魔女" を倒す。」


「望むところだ――。私が過去の復讐を、果たしてみせる」


真王の内に秘めた野望と復讐の炎は、まさに爆発する寸前だったのであった。




「動乱の悲劇」

数年の時が流れた。

やがて真と虚の両世界の対立は激しさを増し、戦火は街々にまで及んでいた。


セリスが身を寄せていた寺院も、ついにその炎に飲み込まれる。


混乱の中、セリスは「謎の魔力を宿す者」として敵の魔導士に狙われた。

傷を負い、地に伏すセリス。


そこに立ちはだかったのは、負傷者の救済に奔走していた修道女クリスティナだった。


「シスター、そこをどけ。」


「いいえ、どきません。」


「ならば――、死ね」


魔力の剣が振り下ろされ、クリスティナの胸を貫いた。

彼女のロザリオが切れ、地に落ちる。


倒れたクリスティナはロザリオを必死で拾う。

セリスは彼女を抱きかかえる。

クリスティナはセリスに静かに言う。


「……私は、あなたに眠るその力を信じています。

でも、まず――あなたが、あなた自身を信じなくてはなりません。

どうか……信じてください……そして、その力で、この悲劇から人々を救ってください……。」


そう言い残し、セリスにロザリオを託し、息を引き取った。

クリスティナは、セリスに秘められていた真と虚の魔力と、彼にまとわる「非存在」の力の可能性を信じていた。

セリスは絶望の中にあったが、その光景は何かの追体験のようでもあった。


脳裏に一瞬過ぎったものは、かつてルナとの決戦の後、彼女に何かを託し、彼女の腕の中で力尽きようとしていた「もう一人の自分」の姿だった。

それはセリスの奥底に眠る啓示であるかのように思えた。


「……私は……。」


背後から迫る敵の魔導士。

「哀れだな。すぐにお前もあの世に――」


その瞬間、セリスの内奥で眠っていた真と虚の魔力が共鳴し、迸るように覚醒する。

覚醒した力は一瞬で敵を薙ぎ払う。

立ち尽くすセリス。


寺院で静かに生きようとした日々は、もはや過去となった。

クリスティナの死と願いを背負い、セリスは戦場へ歩み出す。


修道士セリスは、この日を境に義勇軍――レジスタンスのリーダーへと変わった。

クリスティナのロザリオを胸に着け。




「戦いの趨勢」

一方、戦局の趨勢は両国の筆頭魔導士同士の決戦により決した。

筆頭魔導士ルナとアイラ――旧友同士の一騎打ちは、ルナの勝利に終わった。

だが彼女は、友に最後の止めを刺すことはできず、アイラは密かに九死に一生を得ていた。


大勢を決する勝機と見た真の王は、怒涛のごとく虚の国に侵攻。

虚の国は王都を残すのみとなり、その陥落は時間の問題であった。

真の国の支配下に落ちた地域では、容赦ない統治と魔力の搾取が始まっていた。


「これで陰王より先に “因果の結晶” を手に入れられる。勝機は我にあり。」

真王は不敵に嗤った。


深手を負ったアイラは、あてもなく彷徨っていた。

アイラにはルナ戦う前からルナに気持ちで負けていたと感じていた。過去に一度もルナに勝ることが出来ていなかったのであった。

その不安と重圧に押しつぶされそうになりながら、それに抗う戦いであったが、ルナを乗り越えることは遥か遠くに感じていた。

自身の敗北によって虚の国の命運を決してしまったという重責に押し潰され、王都へ戻ることもできない。

自分に残された道が見えず、ただ彷徨うしかなかった。


やがて、真の国の精鋭魔導士たちに包囲され、追い詰められる瀕死のアイラ。

その身を襲う魔術の刃を阻んだのは、世界の扉を越えて現れた陰の魔導士――インフィニスだった。

彼はアイラを安全な場所へと運び、手当てを施す。

「あなたは勇敢に立ち向かわれた。もう動かないほうがいい。今のあなたには手当てが必要だ。」

友に敗れ、己の無力に打ちのめされながらも、彼の言葉と献身的な介抱は、アイラの心を静かに救っていった。


インフィニスは虚の国を覆う惨状を目の当たりにし、確信する。

――この魔力搾取が続けば、負の魔力の奔流がさらに陰の国を蝕む。必ず止めなければならない。


彼はアイラに、裏社会で影響力を持つレジスタンスへの合流を提案する。

そこには、真と虚、両方の魔術を操ると噂される謎のリーダーがいるという。

彼と連携してもう一度平和な世界を取り戻すべきだと。


インフィニスの真摯な想いに背を押され、アイラは次第に立ち直っていく。

やがて、彼女は再び立ち上がる決意を固めた。


「私は……まだ終わってはいない」


数々の困難を乗り越える中で、二人の絆は深まり、やがて互いの心を支え合うものとなっていった。




「罠」

一方、ソラは世界の扉をくぐり抜け、真の国に現れていた。

彼女は行方不明のインフィニスを探すと同時に、この世界で際限なく消費される魔力を止める術を探していた。

しかし、旅の途中でソラの「虚」の魔力が露見し、虚の国の間者として「真」の魔導士たちから追われる身となってしまう。

その窮地を救ったのは、レジスタンスのリーダー、セリスだった。


ソラが自分と同じく複数の魔力を操る存在であり、また純粋に「自分自身への問い」と「世界への問い」に向き合っている姿を見て、セリスは共鳴を覚える。

セリスはかつて自分もその問いに思いを馳せていたことを思い出す。久しく忘れていたその問いに思いを巡らすセリス。

一方のソラもまた、なぜかセリスに尋ねたいことが数多くあるように感じていた。その理由は分からぬままに。



戦争は終結に向かいつつあったが、真の国では魔力搾取の圧政が続いていた。

ソラはレジスタンスに加わる決意を固める。


レジスタンスの内部でも不満が高まり、大規模な反抗を起こすべきだという声が上がる。

虚の国はまだ完全には陥落していない。今、決起すれば、真の王を退け、世界を元に戻せるのではないか――。


セリスはついに決起を決める。

だがその動きは、すでに真の王に読まれていた。

彼の真の狙いは、裏の世界で暗躍して存在感を高めているセリスを炙り出し、抹殺することだった。


そして反乱分子が集結したところを周到に包囲し、捕虜としたものを奴隷化して魔力摂取に従事させる魂胆であった。

レジスタンスの中に真の王の間者が幾人も潜んでおり、彼らは知らぬ間にその罠へと誘導されていたのである。

情報はすべて筒抜けだった。

疑念を抱いたセリスたちは間者を捕らえ、真の狙いが自分自身の抹殺にあると知り愕然とする。


すでに真の魔導軍による包囲網は迫っていた。


最初から仕組まれた戦いであり、敗北は明らかであった。

セリスは敗北を悟り、静かに言った。


「……済まない。これは、すべて私の責任だ。どうか皆、逃げてくれ。」


彼は自らの命を賭して敵の軍勢を食い止めようとする。しかし、ソラは強く言い放つ。


「セリス、諦めないで。あなたがこの世界の最後の望みなの。再起を図ってください。ここは私が食い止めます。」


その言葉に、セリスははっとし、彼女を見つめる。

さらに、かつてクリスティナと共に救った寺院の孤児や老人たちまでもが「あなたを逃がすために戦う」と誓う。

ソラを含むレジスタンスの仲間たちは皆、命を懸けて敵軍へと立ち向かった。


セリスは皆の意志を受け取り、無念を嚙みしめながらも、次の希望へと生き延びることを誓い、戦場を後にした。


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