第3部 交差の魔導士 ep.3 最果ての王都
『最果ての王都』
シルトは思っていた。時空の支配者ニースを最初は「神」のような存在だと思っていた。
だが彼女は、次第にニースも人間であり完璧ではなかったこと、迷いや葛藤も持っていたことを知るに至っていた。
レイはやがて時空の支配者ニースがかつて、ここに来ていたことや、己の運命に気付き新たな "時空の支配者" となるだろう。
その前にレイの強さ、弱さを知ったソラが彼を倒し、彼が持つ魔力の粒石を手に入れ、次のこの世界の因果の結晶に据え置き、この世界の消滅を防ぐのだと。
エレオスに代わる、"交差の魔導士" として。
シルトは、レイが持つ粒石がこの世界の因果の結晶と同質のものだという。
シルトは因果の結晶の実物を見ており、レイが持つ粒石を見た瞬間に気付いていた。
シルトはそれを奪って次の因果の結晶にすれば、この世界は消滅しないと考えている。
動揺しながらもソラとインフィニスは、傷ついたシルトを王都まで運んだ。
王都。
そこはかつて、あのニースが主城として構えた場所。
かつて時空の支配者が支配していた面影を僅かに忍ばせている。
ソラは揺れていた。
レイと戦わずに済む道はないのか。奪い合いではなく、共に守る道は──。
その夜、ソラは再び予知夢を見る。
夢の中。
「戦わなかった場合、両方の世界は静かに崩壊する」
「戦った場合──何かが残る。命か、記憶か、希望か……それはわからない」
けれどその“何か”は確かに、次の可能性へと繋がっている。
『運命』
ソラとインフィニスの安否を気にかけながらも、レイたちは反乱軍と共に王都を目指していた。
そして、ついに反乱軍が王都へと突入する。
ヴァルタスは敵軍を引きつける役目を担い、レイとネイピアに王城への突破口を開く。
「君たちの手で、この戦いに終止符を。」
レイとネイピアは玉座の間を目指す──。
そこに立ちはだかっていたのは、重傷で動けぬ女王シルトに代わり、前に立つソラとインフィニスだった。
「ソラ……なぜ君が?」
ソラの目には悲しみが宿っていた。
「私たちは……戦わなければならないの。」
運命に引き裂かれた者同士の、悲壮な戦いが始まる。
まだ傷の癒えていないレイを、魔力は小さいが冴えを取り戻したソラが追い詰めていく。
そしてソラがレイの魔力の粒石を奪う。だがそのとき──
玉座の隅にひっそりと佇んでいた一体の石像が、光を放つ。
それは、かつてニースが残した精霊。レイの世界の中央大地の塔神殿を守っていた精霊の女王。
ニースが陰の国へ向かう際、最果ての地の守りを託した存在だった。
ニースがこの世界を去ったあと、精霊は力を失い石化していた。
だが今、レイの魔力とその危機に呼応して目を覚ます。
「時空の支配者、帰還せり――。我が主の為、我目覚める――。」
精霊の女王はレイにかつてのニースとエレオスの戦いの記憶を見せつける。
そしてレイに言う。
「あの交差の魔導士を倒し、因果の結晶を手に入れよ。かつての戦いでは何かが足りなかった。
もう一度因果の結晶を奪取して時空の結晶と合体させるのだ。でなければ世界は崩壊する。」
レイは意識を精霊の女王に乗っ取られる。精霊の女王の暴走をレイは制御できない。精霊の女王も自らの信念の為、レイに同化し、レイを突き動かす。
「レイ、精霊に取り込まれないで!」
ネイピアは戦うことを止めて、レイに叫ぶ。
レイにこの先の未来が見え始める。自分がソラを倒して戦いに勝利し、その後、この世界を火の海に包み恐怖の存在となり、因果の結晶を奪取する未来が。
世界の消滅が始まりつつあった。
負の魔力が至る所で溢れ始めている。
時空と因果の結晶は消滅しつつあり、その中間点──最果ての地に、大亀裂が走る。
ソラを追い詰め、止めの一撃を振り上げるレイ。
だが、ソラにはレイの心の声が聞こえていた。
「ソラ・・・、どうか、僕を止めてくれ。」
「レイ・・・。」
ソラは涙を振り切り、未来の全ての攻撃を受け流す。
ソラの思いに呼応すかのように魔力の粒石は魔力を解放、ソラに究極魔力を昇華させる。
レイを負の魔力へ追い落とされる。
全てを諦めたレイ。そのとき、かつての父とニースの会話が脳裏に響く。
「……一つ教えてほしい。これが我々の運命なのか。」
レイは精霊の女王の支配から脱し、何か方法はないかと必死で考え始める。
その時ソラにも、かつてのエレオスとトランセスの最後の会話の記憶が脳裏に走っていた。
「選択肢は、限られてはいないと……私はそう思う」
ソラは負の魔力の中へ飛び込む。
「どうしてここへ?」
「戦いの結果だけが答えじゃない。選択肢はきっと、他にもある」
「……ああ。あらゆる可能性は無限に存在してる。
ただ、僕たちは枠がちっぽけで、見えてないだけなんだ。」
両世界の因果の結晶の消滅は、二人を引き離そうとする。
二人はそれを必死に食い止めようとする。
極限状態とそれまでに高まっていた二人の魔力で
レイの魔力の粒石が拡大し、2人が引き裂かれようとするのを守るかのように2人を包む。
だが、その粒石に、亀裂が走る。
「──!」
次の瞬間、── 大爆発が起きた。
ネイピアとインフィニスは、爆発に吹き飛ばされ、立ち尽くす。
辺りには、崩壊を免れた世界の姿があった。
「……二人が死んだことで、世界は救われたの?」
涙ぐむネイピア。
「泣くでない……あの二人が、簡単に死ぬものか」
インフィニスはソラの形見である古文書を取り出し、それを見つめながら言う。
ネイピアのもとに、傷が癒えてないながらもスカイドラゴンが舞い降りてくる。
スカイドラゴンは、その古文書を見つめ続けるのであった・・・。
『創造と終焉に至る者』
レイとソラは、見知らぬ草原に倒れていた。
目を覚まし、互いに無事を確認しながら、ゆっくりと立ち上がる。
風は穏やかに吹き抜け、空にはどこか懐かしさを感じさせる光があった。
「……世界は、救われたみたいだね」
レイがぽつりと呟く。
彼の手の中には、二つに割れた「魔力の粒石」があった。
それは、あの爆発のときに二人を包み込んだ“希望”の残響だった。
だが周りの風景は以前と少し違うようだ。いくら探しても、王宮も、仲間たちの姿も見当たらない。
遠くに魔力壁が見えている。
ソラは自身が旅の途中であることを思い出す。
「自分は何者なのか。そして、この世界は一体何なのか。」
その答えを、未知なる世界へに向けての旅だと言う。
レイの世界に行ってみたいという。
「僕の通ってきた道を通ると良い。魔力壁も弱まっていると思う。君なら通ることが出来るだろう。
僕の魔力は随分傷付いてしまった。傷が癒えるまでは戻ることは出来ないと思う。
この粒石は父の形見だが、魔力壁を超えるのに必要になるから持っていくと良い。
小さくなってしまったけど──君の手で、育てていってほしい」
といって割れた片方の魔力の粒石を渡す。
精霊の女王は力を失くし、小さな風の妖精になっていた。
レイはその風の妖精にソラの道案内をするよう託し、別れる。互いの再開を誓い。
「ありがとう、レイ。きっとまた会えるよね」
「もちろんさ。僕たちは“交差”する運命にあると思う。きっと。」
レイがソラと分かれ、歩を進めていた。ネイピアやインフィニスに会えると思っていたが、やはりどうも周りの風景がおかしい。
混沌としている。
風の精霊が呟く。
「どうやら数千年、相当古い過去にいるようだ。」
「ならソラも・・・」
「多分・・・」
見開けた高台に出た。混沌とした世界が広がっていた。
「・・・物語は、ここから始まるのか。」
ソラと僕が、互いを高め合わなければ、
それぞれの魔力は究極に達することはなく、遠い過去に遡ることも、粒石を2つに分けることも出来なかった。
時空と因果の結晶はもともとは1つの粒石で、それが別れたものだった。
全ては、一つのものだった。
―――終焉は創造だった。
そして、ソラと僕が、お互いを理解し合えてなければ、
両世界は始まることはなかった・・・。
―――かつて、ソラの過去―――
ソラがかつて肌身離さず持っていた古文書に記載のある ”中心で渦を巻く交差の刻印”。それはレイの故郷、風の王国の ”風の紋章” だった・・・。
――数年後、幾つかの旅路を経て、ソラはレイの世界に辿り着く。魔力の粒石は大きくなっており、時空の結晶へと育ちつつある。
周りの様子がレイに聞いていた様子と違うことを感じ始めながら歩を進めていた。随分と荒廃している。
精霊の女王は、魔力の施しを周りに与えながらソラを後に続く。
やがてソラは理解した。
「私がここに辿り着く、それでないと、全ては始まらず、消えてしまうということなのね。私もこの世界線の成立条件の1つ。」
彼女の脳裏にはこの世界に存在した数多のものたちの決断や選択が、走馬灯のように脳裏に巡っていた。
共に戦うもの。
袂を分かつもの。
愛を選ぶもの
愛を捨てるもの
全てを失ったもの
それでも前に進もうとするもの・・・
「無意味なもの、特別なものなんてなかった。全ての条件は等しく意味があり、一つ掛けても、成立しない。それが私の世界線・・・。
そして私も、時を創る旅人。時を創り続けて、歩むのね・・・。
真実を求めて―――」
―――かつて、レイの過去―――
レイの父は、幼いレイに「風の魔術」の伝承を聞かせていた。
「・・・そして最後まで残っていた少年に、その魔導士は風の魔術を伝えた。
・・・当時は風の魔術とは呼ばれておらず、空間そのものを操るかのような、その魔術は、
―― 空の魔術 ―― と呼ばれていた。」




