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交差の魔導士  作者: オズ
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第1部 ~零の魔導士~ エピソード2

『新たな世界』

新たな世界へと踏み出した瞬間、ソラはインフィニスとはぐれてしまった。

「世界の扉」をくぐった影響により、彼女の魔力は著しく低下していた。

見渡す限り、これまでとはまったく異なる風景が広がっている。

見知らぬ空、重たい空気、聞いたことのない風の音。ソラの胸には、静かに新たな問いが芽生えた。


――まだ見ぬ世界が、他にもどれだけ存在しているのだろうか。私という存在も、世界というものも、一体何なんだろう。


その問いを抱えたまま、ソラは一歩ずつ、足を前へと運びはじめる。


やがて明らかになったのは、この世界が「真」と「虚」という二つの魔力の勢力によって、分断されているという事実だった。

互いの勢力は強い敵意を抱き、各地で熾烈な魔力の消耗戦を繰り返している。

「真」の勢力は筆頭魔導士ルナを中心に、「虚」は筆頭魔導士アイラを筆頭に、それぞれが相手を凌駕しようと争い続けていた。

その果てなき戦いは、膨大な魔力の浪費を招き、やがては世界そのものを蝕む危機へと至っていた。


ソラはやがて、自分が「真」の勢力に支配された地域にいることを知る。

インフィニスの行方を探す傍ら、胸に抱いた問いへの答えを求めて、この終わりなき戦いを止めるために動き出す。

しかし、旅の途中でソラの「虚」の魔力が露見し、敵の間者として「真」の魔導士たちから追われる身となってしまう。

その窮地を救ったのは、一人の「虚」の魔導士――義勇軍のリーダー、ヴェルスだった。


ヴェルスは、この世界の戦いが間違っていると気づき、それを終わらせるために行動していた。

彼は「真」の勢力の内部に潜入し、戦争を拒む意思を持つ者たち――出自に関係なく、

「真」と「虚」の双方から集めた同志たちをまとめ、秘密裏に「一斉蜂起」の計画を進めていた。


義勇軍の数は多くはない。しかし、彼らは各地に散らばり、同時多発的な反戦運動によって、世界に変革の波を起こそうとしていた。

成功の可能性は高いとは言えない。反乱は容易に鎮圧されるかもしれない。

それでもヴェルスは信じていた――人々はその動きを通じて、かつての心を思い出し、戦争を終わらせる道へと歩むはずだと。

ソラは、その信念と献身に心を打たれ、彼と共に行動することを決意する。


決行の日。各地で反戦運動が勃発し、世界は一時的に混乱に包まれる。

しかし、事態は思うようには進まなかった。

各地の運動は次第に鎮圧され、ヴェルスは信じていたものが崩れ去るのを目の当たりにし、愕然とする。


そしてついに、義勇軍のアジトが「真」の魔導軍に突き止められ、総攻撃が開始される。

戦いの最中、ヴェルスは敗北を悟り、静かに言った。


「……済まない。これは、すべて私の責任だ。どうか皆、逃げてくれ。」


彼は自らの命を賭して敵の軍勢を食い止めようとする。しかし、ソラは強く言い放つ。


「ヴェルス、諦めてはいけません。あなたは間違っていない。あなたが信念を曲げては、誰も報われません。

再起を図ってください。ここは私が食い止めます。」


その言葉に、ヴェルスははっとし、ソラを見つめる。

そして、ソラを含む義勇軍の仲間たちは彼を逃すために敵軍へと立ち向かう。


ヴェルスは皆の意志を受け取り、無念を嚙みしめながらも、次の希望へと生き延びることを誓い、撤退する。


乱戦が続く中、ソラ以外の義勇軍はすべて倒されてしまう。


疲弊しきったソラの前に、ついに「真」の筆頭魔導士ルナが現れる。

ソラはもはや満身創痍。魔力も回復しきっておらず、立っているのがやっとだった。


一方のルナは、ソラが「真」と「虚」の両方の魔力を操るばかりか、未知の魔力さえ扱うことに驚愕する。

孤立無援のソラは多勢に囲まれ、ついには敗北し、捕らえられる。


投獄されたソラは、直接尋問に現れたルナに、これまでの経緯を正直に語る。

ルナも形は違えど、戦争を終わらせたい気持ちは同じであった。

ルナは、しばし沈黙した後、自身の抱える苦悩とこの世界の因縁を語りはじめた。

そこに隠された因縁と苦悩は、解決の糸口すら掴めないほどに複雑で困難なものであった。




『分断の追憶』

「真」と「虚」の世界は数年前までは、それほど大きく分断してはいなかった。


ルナ、アイラ、セリス――三人の若き魔導士は、互いに友情と信頼を育みながら、共に魔術を学び、高め合っていた。

よく三人で街外れに広がる森や泉を散策したり、魔術訓練などをしていた。

魔石に三人の友情の誓いを込めて、泉に投じる三人。


特にルナとアイラは魔術の探求にひたむきなセリスに恋心を寄せていた。

セリスは当時の「虚」の筆頭魔導士であった。

一方、アイラもまた優れた魔導士であったが、セリスやルナには及んでおらず、2人を憧れの目で見ていた。


時が経つにつれ、「真」と「虚」の間で小さな狂い生じ始め、世界の分断が急速に広がっていった。


混乱が深まる中、ルナはセリスに駆け落ちしようと願う。

このままではお互いが戦うことになる、と。

だが、セリスはアイラを愛していると言い、アイラと共に「虚」の世界に身を置く道を選ぶ。


しかし、それはセリスの本心ではなかった。

ルナに未練を断ち切らせ、彼女を「真」の筆頭魔導士として使命を全うさせるための、苦渋の決断だった。


運命の戦場でセリスとルナは相対する。

悲壮な戦いの末、ルナがセリスを打ち倒した。 息絶える寸前、セリスはルナに静かに告げた。


「君なら私を超えられると信じていた。その力で、この分断された世界を一つに戻してほしい。」


セリスの真意を知ったルナは、深い悲しみとともに、自身が背負う使命を悟る。

しかし、セリスの真意を知らないアイラは、セリスを奪われた失意と、魔術でルナに劣っていたことから、その心に強い火が灯る。

ルナを必ず超えてみせる、と。


こうして、かつての友情は失われ、2人の対立は「真」と「虚」の世界の抗争を象徴するものへと姿を変えていった。




『交錯する視線』

膠着状態に陥ったアイラとの戦いを終わらせるため、ルナはソラに協力を求めた。


「あなたがこの戦いに加われば、この世界の統一が成り、終わりのない戦いも終結する」と。


ソラの本心は、戦いそのものを止めることだった。

しかし、具体的な解決策が見つからない以上、戦いの実態を体験し、新たな糸口を掴む必要があると感じていた。


「インフィニスに会える可能性もある・・・。」


ルナの申し出を受け入れることにした。

こうして、ルナとアイラを中心とする両陣営の魔導士たちによる戦いが再開される。


ルナはソラの協力を得たこの一戦で、全ての決着を付けるつもりでいた。

だが、アイラも全力で抗い一歩も引かない。

戦いは必然的にこれまで以上に激化し、大地は焦土と化し、魔導士たちは次々と傷ついていく。

出口の見えない絶望が戦場を泥沼のように覆い始めていた。


その惨状を目の当たりにし、ソラはついに声を上げる。


「周りを見て。これが本当に2人が望む世界なの。」

その言葉に、ルナとアイラは一瞬動きを止める。そして周囲に広がる瓦礫と、傷ついた仲間たちの姿が、ふたりの目にも映る。

うつむくルナとアイラ。


その微妙な変化の中、ソラは戦場全体を包む、薄く広がる不自然な魔力の存在に気づいた。

それは目立たないが確実に戦場に漂い、戦いが決着するのを巧妙に妨げているかのようだった。


「これは…、何かがいる。」


ソラは、その魔力の発生源を探るべく、戦場を見渡す。

そして戦場の端に、戦いを傍観するかのように佇む一人の魔導士の姿を見つける。

その魔導士は戦況を見守るだけで、戦いが収束しそうになると足早に姿を消した。


ソラはこの魔導士が何か鍵を握っていると確信し、追跡を開始した。




『真実への序章』

幾多の困難を乗り越え、ソラはついに戦場の裏で暗躍していた魔導士の正体を突き止める。

それは、かつて「戦争を止めたい」と訴えていた義勇軍のリーダー──ヴェルスだった。

しかも、ヴェルスは虚の魔術だけでなく、真の魔術をも操っている。

驚愕するソラにヴェルスは冷たく語る。


「義勇軍は、両世界を衰弱させるための手段の1つに過ぎなかった。役目を終えた今、消し去ったのだ。」


彼は両世界の征服を企んでいる。両世界は更に弱体化して、もう手に入れる目前であると。


「私も君と同じく複数の魔力を操る存在なのだ。

私に協力すれば、君が抱くすべての問いに答えが得られるだろう。君には私と一緒に来てほしい。」


この誘いにソラは一瞬、動揺する。しかし、動揺を振り切り、ヴェルスに戦いを挑む。


だが相手は、世界征服を目論むほどの実力を持つ魔導士。ヴェルスの操る「真」と「虚」の魔術はあまりに強大で、ソラは瞬く間に追い詰められていく。


その瞬間、強力な陰の魔術がソラを救った。


──現れたのは、インフィニスだった。

彼もまた、この世界の戦いの真相を探る中でヴェルスの影を辿り、この場に辿り着いたのだ。

インフィニスは傷ついたソラの救出を優先し、ヴェルスと直接の戦闘を避ける形で撤退する。

安全な場所で体勢を立て直した後、インフィニスは語った。


「ヴェルスは各地で両世界の戦いを煽り、決着を意図的に引き延ばしている。

彼が何を狙っているのかは不明だが、放っておけば世界そのものが崩壊しかねない。」


ソラとインフィニスは、互いに葛藤を抱え戦い続けるルナとアイラのもとを訪れ、ヴェルスの正体とその野望を明かす。


「ヴェルスを倒さない限り、戦争を決着させることは出来ない。それどころか、いずれ両世界とも彼の手に落ちる。」


ルナとアイラは衝撃を受けつつも、一時的に戦いを止め、真実を確かめるため、二人と共にヴェルスの捜索へ向かう。


やがて四人は、ヴェルスと対峙する。

その姿を見て、ルナとアイラは言葉を失った。


「……あなたは──」

「セリス……!」


髪の色や風貌こそ異なっていたが、かつて親友だったセリスであることに、彼女たちはすぐに気づいた。

混乱と動揺に揺れるルナとアイラとは裏腹に、セリスは4人に戦いを仕掛ける。


壮絶な戦いが繰り広げられる中、ルナとアイラはかつての友情を取り戻し、世界を守るためにセリスを倒す覚悟を決める。

彼女たちの決意と4人の力が重なり、ついにセリスを打ち破ることに成功する。


戦いに敗れたセリスにルナとアイラは「どうしてなの」と問いかけた。

セリスの魔力は崩壊し始め、負の魔力がセリスの体を蝕み始めている。

死を悟ったセリスは、ようやくその口を開き始めた。


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